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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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夜間訪問

アクセスありがとうございます!



「すっかり遅くなってしまったね」

「お疲れさまでした」


 馬車内で嘆息するアドリアの正面に控えるガイラルドは労いの言葉をかける。

 今日はアドリアを中心とした貴族当主が集い行われる定期集会の日、いつものように商業区にある貴族御用達の料理店で国の未来について語り合われた。

 ただこの定期集会は先々代のスフィラナ家当主が始めたもので、集まるのも派閥に属する者ばかり。

 当主間での情報交換の場なだけあってガイラルドを始めとした護衛や従者は同席できないが、集会の内容もスフィラナ家が公国の実権を取り戻すための話し合いが主だろう。

 もちろん公国の未来には変わりなく、本家のスフィラナ家が中心として公国を導くべきと幼少期から教わっていたガイラルドもそれが筋と考えていた。


 しかしアドリアの息子、ラストがヒフィラナ家のクアーラやミフィラナ家のサーシャと派閥関係なく親睦を深めている様子や、以前語ってくれた三人の思想。

 またダイチから引き継いだ改革を進めるシゼルを指示する民衆の声を聞く度に古い仕来りに囚われず、新しい道を模索するのも必要ではないかとも思い始めた。

 もちろん前元首のダイチのように強引な改革よりも、良い仕来りは残しつつ出来る限り反発を買わないよう進めるべき。民衆の声も大事、しかし長く国を支えてきた貴族にも配慮は必要だ。

 ただラスト、クアーラ、サーシャと次世代の公国を導く若き可能性の為にも現世代が道筋を用意するのも必要。

 要は過去の確執よりも未来の可能性を見据えて、それぞれが役割を全うして転換期を迎えるのが公国にとって最良の道ではないか。

 その為には派閥に拘るよりもダイチやシゼルを交えた三大公爵家での会合を呼びかけるのも一つの手ではないか――


「どうかしたのかい」


 定期集会の在り方について思いを巡らせていたガイラルドだったがアドリアの声によって現実に引き戻される。


「少々考え事をしておりました。アドリアさまの前で心在らずな態度を取ってしまい、申し訳ありません」


 お付きとしての失態とガイラルドは正直に告げた後に謝罪。対するアドリアは堅物な返答に苦笑を漏らす。


「謝罪はいいよ。それに暗くなったとは言え、君がいる馬車を襲うような輩もいないだろうからね。だから私も安心して考え事に集中できるんだ」

「ありがたきお言葉」


 お褒めの言葉を受けたガイラルドは深く頭を下げつつ内心安堵を。

 と言うのも表面上は柔和な笑みを崩さないが、今のアドリアはあまり機嫌が良くない。

 正確には口数が減り始めた夕刻頃から、使用人にも気さくに声をかけるアドリアの口数が少なくなるのは苛立ちからくるものなのは付き合いの長さからガイラルドも察している。

 ただ先ほどの集会にも参加したブライトン子爵を呼び出した今朝方は上機嫌だった分、何が主を煩わせているのか見当が付かない。

 まあ昨年の一件から三大公爵家の勢力図が更に傾いただけに、定期集会が近づくにつれて神経質になっても仕方はない。

 なにより感情を抑制し、周囲に不当な怒りをぶつけないのは先代当主にはないアドリアの美点。故にガイラルドも主を信じて仕えているわけで。


「それにしても商業区の路面は揺れるね」

「補修の整っていない区間が多いですから」


 こうした着工の遅れも昨年の出来事による損害の一つと嘆きつつ、時折大きく揺れる馬車内で目を閉じ物思いにふけるアドリアを邪魔しないよう、ガイラルドも口を閉じた。


「……妙ですね」

「? なにが妙なんだい」


 しかし数分後、懐中時計を確認したガイラルドの言葉に目を開けアドリアは首を傾げる。


「もう内壁を潜っても良いはずですが一度も停車していません」

「言われてみれば……」


 何度も往復している道筋なので体感でも既に貴族区と隔てる内壁に到着しているとアドリアも疑問視。

 夜中なだけに人通りもなく大きなズレもないはずと、ガイラルドは窓を覆う布を避けて外を確認すれば真っ暗で、商業区を走っているようにも思えない。


「それに景色が……おい、今どこを走っている」


 不可解な状況に背後の小窓を叩きながら御者に確認するも返答はなく。


「……停まったね。でもここは……?」

「私が様子を確認してきます。アドリアさま、しばしお待ち下さい」


 ゆっくりと馬車が停車するに合わせてガイラルドは外へ。

 万が一に備えて精霊力を解放すれば、暗闇に馴れてなくともある程度は周囲を確認できるようになった。


「……なぜだ?」


 だからこそ疑問が拭えない。

 何故なら自分の記憶が確かなら、今居るのは貴族区とは真逆の工業区の一角にある雑木林付近。

 この時間だと既に一日の業務を終え、最低限の警備を残しているだけに周囲は静かなもので。


「なぜお前はこんな場所に馬車を走らせ……っ」


 とにかく御者を問い詰めようとしたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()ガイラルドの言葉は続かない。


 ()()


「――――っ!?」


 代わりに背後から聞こえた呟きに合わせて衝撃を受け、更に身体が浮遊する感覚にさすがのガイラルドも目を白黒させる。


「きさま……っ!」


 それでも気を奮い立たせ自身にしがみつく何者かを力任せに引きはがす。

 思いの外も抵抗なく腰に回されていた両腕が解かれ、勢いのまま地面を転がるガイラルドと十メルほど距離を空けて着地。

 すかさずガイラルドも体勢を整え、襲撃者を見据えれば黒い外套を纏ったエメラルドよりも澄んだ翠色の髪がフードの隙間から確認できた。

 髪色やこちらを見据える左瞳の色から風の精霊術士。先ほどの浮遊感は飛翔術で自分を馬車から遠ざけたのか。

 また左目のみ露わにした奇妙な白い仮面を被っているので顔までは確認できないが、御者の状態や馬車から遠ざける目的から狙いはアドリアだろう。

 ならば今すぐ馬車に戻る必要があるも襲撃者の体格や所作、仕草からガイラルドの脳裏にある人物が過ぎり、怒りを露わに叫んだ。


「いったいなんの真似だ……()()()()()()()()()()()()っ」



 ・

 ・

 ・



 一方、馬車の外から感じた精霊力の高まりにアドリアも警戒から精霊力を解放していた。

 そのままガイラルドの報告を待っていたが不意にコンコンと響く小刻みな音と――


「邪魔するぞ」


 ドアが開かれ、黒い外套を纏い白い仮面を被った人物が馬車内に侵入。

 いかにも怪しげな人物、しかし顔を隠せても左目のみ露わにした奇妙な仮面や髪色が隠せなければ意味がない。

 加えて仮面越しだろうと聞き覚えのある声で正体を見破れる。


「……なぜ君がここに居るのかな? ()()()()()()()()()()


 状況が状況なだけに警戒心を解かず批判するアドリアを他所に、フードと仮面を外したアヤトは悪気もなくほくそ笑んだ。


「ま、気づいて当然か」




本格的にやんちゃを始めたアヤトくんと保護者のフロッツが訪問したのはアドリアさまの馬車。

訪問方法からして結構ヤバイ企みですがフロッツがガイラルドを引き離した理由、アヤトくんがアドリアさまと接触した理由などは次回から明かされていくのでお楽しみに!



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