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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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聖女の決心

アクセスありがとうございます!



 スフィアに到着して最初の夜――


「細かな心情を把握できたのは感謝するが、お前は気にせず旅を楽しめばいい」


 ヒフィラナ家について意見交換を終えたアヤトの結論は様子見、しかしミューズには傍観を指示。

 ミューズは精霊力の輝きで感情を読み取れるだけで、相手の心までは読めない。つまりそれぞれの感情が今後に及ぼす影響、行き着く先まで予測できない。

 また特異な能力がなくとも、ほぼ同じ感情を読み取っていたアヤトでも不可能。情報が少ない内は下手に触れず相手の出方を窺う結論も理解できる。


「レムアが心配する。そろそろ戻れ」

「……はい」


 故にその場では素直に従うも、ミューズの心内はもやもやしていた。

 それぞれが抱く複雑な感情からアヤトが危険な目に遭うわけでもない。ただ生き別れの親族が抱く感情としては受け入れがたいのは確か。

 なにより完全とまではいかなくともアヤトは相手側の狙いをある程度予測しているだろう。

 現に入学式の一件でファルシアンやレイティ、イルビナが抱いていた葛藤を読み取っていた自分に対し、アヤトはレクリエーションという形で三人だけでなく学院生も導いてしまった。あのレクリエーションにアヤトが関わっていることはイルビナを始め、レガートやユース、エレノアが彼と接している感情から何となくでも察していた。

 なら少なくともアヤトは三人の感情を元に最善策まで導き出し、必要な人材に必要な指示を出していたことになる。


 もちろん読み解いた感情だけでなく様々な方法で情報を集め、最善手を打てた結果だ。しかし僅かな違和感、情報を元に先の先を見据えた行動に移せるのがアヤト。

 対し自分は感情を読み取れる優位性があるのに何もできない。今まで自身の能力から目を反らし、最低限の活用に留めていたので当然。

 恐ろしい能力なのは重々承知。ただリースとの訓練時に助言されたよう、どんな理由でも手に入れた力ならもっと磨くべきだった。

 悪用ではなく自分以上に不可思議な力を持つアヤトのように、誰かを最善の道に導けるように、守れるように強くなれたのだ。

 なのにしなかった。だから関わるなと暗に告げられても仕方はない。

 アヤトは自身の領域や問題に踏み込まれるのを良しとせず、相手を信頼しているかよほど必要を感じなければ関わらせない。

 つまり特異な能力を持っていようと関わらせないのは信頼されていないからこそ。ある程度でも予測した相手側の狙いに、感情が読める程度の優位性なら必要ないと判断されたのだ。


 考えすぎかもしれない。アヤトも現段階では判断できず、本当に様子見しているのかもしれない。

 ただもし自分と同じ優位性を彼女が持っていたら、同じ判断をするだろうか。

 例え同じ判断をされたとしてもあの不可解で、不穏な感情を読み取った彼女が素直に引き下がるだろうか。


 同じ人を愛し、同じようにいつか守れる存在になりたいと望む彼女が。


「……そんなはずありません」


 そんな結論にならないからこそのもやもやとミューズも自覚している。

 

 ならどうすれば良いか。

 それは既に教わっている。

 

 なら自分は何をすればいいか。


「考えるまでもありません」


 故にミューズは決意した。



 ◇



「アヤトさまについて、わたしは知らないことばかりです」


 翌日の朝食後、書庫に案内してくれたミナモが立ち去り運良くアヤトと二人きりになれた時間を逃さず切り出した。


「かもな」


 対するアヤトは適当な相槌を返しながら本棚を物色し始める。


「ですがアーメリさまやカナリアさん、ツクヨさん、リースさん、ユースさん、エニシさんもでしょうか。そして……ロロベリアさんもご存じなのですね」


 それでも構わずミューズは思いを紡ぐ。


「大聖堂で見せた白銀の変化、教皇猊下を治療した方法……他にもアヤトさまが起こした奇跡の数々、その秘密を」


 先ほど述べた面々が少なからずアヤトの秘密を知る者なのは把握していた。

 教国で起きた不可思議な事件を解決した際に立ち合ったアヤトに近しいという理由以外に、ロロベリア以外はなぜかマヤと接する時に恐怖や警戒心を抱いている。

 マヤもまた不思議な存在とは不可解な精霊力から予想するのは容易い。大人びてはいるが十五才の少女に向ける感情にしては違和感があるなら、義妹として側に居るアヤトの秘密に何か関係しているはずで。


 また違和感と言えばエレノア、レイド、カイルはアヤトと接する時、常に罪悪感を抱いている。マヤには他と変わらず好意的なら、何か別の秘密を知っているのだろう。

 しかし敢えて言及しなかった。

 アヤトが秘密にするなら踏み込まない方が良いと配慮していたからだ。


「どのような経緯で知ることになったのかは分かりません。偶然か、アヤトさまがお話しになったのか、さすがに感情だけでは予想もできませんから」


 だがミューズは踏み込むと決めた。

 告白した時に知ったのだ。

 元より相手の感情など読み取れることなど不可能なら、言葉にして知るだけと。

 そして告白で満足するだけでなく、振り向かせるよう頑張ると誓ったのなら。


 自分から踏み込まなければ一線を引き続けるアヤトとの距離はいつまでも縮まらない。


 結局のところ、今の自分に必要だったのは一歩を踏み出す勇気。


 今は信頼されなくて構わない。しかし必要ないと判断されて諦めるよりも、信頼される自分になる為に行動しなければ何も得られない。

 彼女も諦めず、繰り返して少しずつ距離を縮めてきたから今があるはず。

 そんな特別を羨むだけの自分が振り向かせるなど不可能。

 なら羨むのではなく、踏み込んだ上で――


「見返りにアヤトさまの秘密を教えて欲しいとは言いません。むしろわたしが役だったとの理由で話さないでください。なので必要であれば()()()()()()()()使()()()()()()


 信頼されるまで突き進む決意を胸に告げた。

 なのにアヤトは本棚から取り出した書物に目を通すのみで見向きもしない。変わらず一線を引き続ける。

 故にミューズはちょっとだけ彼女のやり方を真似ることに。


「それともあなたに恋をしたわたしの想いを利用するようで気が引けますか? 捻くれた物言いばかりですが、アヤトさまはお優しいですから」


 恐らく彼女なら敢えて挑発する方法を選ぶと真似したものの、失礼な物言いに内心ドキドキで。

 ただ変に遠慮するよりこの手のやり取りをアヤトが好むのは、今まで過ごした時間で察している。

 というよりアヤトとこうしたやり取りを楽しむ彼女が羨ましかっただけで、要は羨むくらいなら自分もやればいいとの理由だったりする。

 そして今でこそお淑やかなミューズだが根は冒険に憧れるお転婆娘なのだ。


「言うようになったもんだ」


 ミューズの挑発に変わらず書物に目を通しつつ、しかし愉快気にアヤトは肩を竦める。


「つーか俺は優しかねえよ。妙な勘違いは止めろ」

「ならば勘違いしないようわたしの能力を利用してください。少しは役に立つはずです」

「そもそも使うや利用なんざ口にするな。テメェを安売りしすぎだ」

「ではなにか協力させて下さい。なんでも良いんです」


 なにより使用人すら困らせる頑固な一面がある。


「カリを作るのは趣味じゃないんだがな」

「借りと思わなければ良いだけです」

「たく……そうもいかねぇんだよ」


 引く気配のないミューズに根負けしたのか、それとも面倒になったのか。


「必要ならば手を貸せ。むろん借りるからには必ず返す」

「アヤトさまらしいです。ではご褒美の為に今後わたしが気づいたことは全て報告します」


 とにかく今は求めていた言葉を引き出せたことが誇らしく、ミューズはいそいそとアヤトの隣りに並んで。


「ところでアヤトさまは何を読んでいるんですか?」

「料理関係のものだ……つーかお前まで構ってちゃんになる必要もないだろう」

「ロロベリアさんと同じ扱いなら、それもまた良いかもしれません」

「白いのは白いの、お前はお前だ」

「はい。わたしはわたしなりの方法でアヤトさまを振り向かせるよう頑張りますから」

「たく……これだからやんちゃな聖女さまはよく分からん。だがま、好きにしろ」

「好きにします」


 後にロロベリアが表れるまで羨ましかったやり取りを楽しんでいた。


 もちろんロロベリアに向けるクアーラの感情をどう思っているのか。


 それはご褒美として聞く必要の無いアヤトの心情だと除外して、同日の夜――


「このままでは時間を無駄に消費するだけか」


 シゼルの感情も含めて気づいたことを報告した際、アヤトはため息一つ。


「とりあえず茶でも飲みながら直接聞いてみるか。それ次第では手を借りるかもしれん、上手く話を合わせろよ」

「わかりました」


 アヤトなりに何やら思いついたようでも多くを語ってくれず、それでもミューズは了承。


 更に翌日もアドリアやガイラルドから読み取った感情も訓練の合間を縫って報告を続けたのだが、その結果が約束していたデートを利用して協力するとは思いも寄らなかった。

 純粋にデートを楽しみにしていたミューズに一切の配慮がない協力要請。

 しかし自分が配慮を控えたように、配慮のないアヤトの姿勢は少しだけ距離が縮まった気がして。


「無理なら遠慮なく断っても構わんぞ」

「アヤトさまからお誘いしてくれたデートを断る理由はありません」


 笑顔で受け入れたのは言うまでもない。



 ・

 ・

 ・

 


「ではアヤトさまが貸し借りに拘るのはワカバさまの教えが影響されているのですね」

「恩義だろうとケンカだろうと関係なくな。つーか構ってちゃんになる必要はないと言ったはずだが」

「わたしが構ってちゃんになるのはアヤトさまと二人きりの時だけですからご安心を」

「俺だけが被害受ける状況を安心しろと言われてもな。マジで言うようになったもんだ」


 なので予定通り、早朝の内に屋敷を後にしたミューズは早速デートを楽しんでいた。

 もちろん純粋に楽しんでもいられない。

 昨夜の予定決めと称した打ち合わせで聞いたアヤトの目的。

 可能性は五分でも想定通りの事態が起きるのなら()()()()()()()()()()()()()


 ただそれはそれ。


「とりあえずその調子で楽しめ。聖女さま」

「再びわたしの騎士としてアヤトさまが守ってくれるので当然です」


 どれだけ危険な役割だろうとアヤトが側に居る限り何も心配はない。



 

アヤトサイドと言いながら、デートに行き着くまでのミューズサイドの過程でしたね……。

ですが今回の公国行きでも感じたように、ロロに対する嫉妬や立ち位置を羨ましいと思うだけでは何も変わりません。なんせ相手は警戒心の強い捻くれた野良猫、待ちの姿勢では懐きませんからね(笑)。

なので初恋を成就するには自ら踏み込むべで、感情を読み取る能力を切っ掛けに変わる決心をしました。

結果ところ構わず構ってちゃんなロロとは違い、二人の時だけ構ってちゃんになってしまいましたが、これもまたミューズらしく思います。


とにかくまだアヤトくんの目的や裏の行動は伏せたまま、次回から二人の不穏なデートの模様をお楽しみに!




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読んでいただき、ありがとうございました!



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