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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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うち解けと横やり

アクセスありがとうございます!



「わたしの……髪や瞳の色……どう思いますか」


 ロロベリアの気持ちに応えるよう勇気を出して告げたのは質問で。

 ホノカの髪や瞳は東国の血筋がアヤトより薄く感じられる黒寄りの灰色と珍しい色合い。

 加えてホノカは客人の中でも特に自分やアヤトを気にしていたと打ち明けてくれたなら、同じく珍しい髪色をしているロロベリアも意図を察することが出来てしまう。


「……なにか言われたの?」


 初対面の相手はまず髪色に触れてくる。街を歩けば好奇な目を向けられる。

 他とは違うからこそ注目されるのはロロベリアもいやというほど経験した。

 大半は神秘的な乳白色が美しいと好意的に捉えてくれるが、からかわれたり笑われたのは一度や二度ではない。また変に悪目立ちするのでじろじろ見られるのも落ち着かないと、それなりに苦労もしてきたからこそ共感できる。


「はい……」


 予想通りホノカは目を伏せたままこくんと頷く。

 しかし生まれた環境からホノカはより辛い目に遭っていた。

 今でこそ老いから僅かに黒が混じった白髪をしているダイチも若かりし頃はホノカと同じ黒髪黒目、更に亡くなられた祖父も病弱ではあったが保有量に恵まれた優秀な精霊術士だったらしい。

 なにより廃嫡されたワカバ。持たぬ者で気難しい性格をしていても頭脳面では恐ろしいほどの才覚の持ち主だった。


 つまり元首として公国を立て直したダイチと同じ東国の特徴を持って産まれた者はみな何かしらの才能に秀でた人物ばかり。にも関わらずホノカは持たぬ者として産まれ、特に目立った才能も見出されないままクアーラがサーシャやラストと出会ったように、ホノカも五歳で社交会デビューを果たした。


「だから……わたしは髪や瞳の色と同じで……半端者……だって……」


 その際、周囲から黒寄りの灰色をした髪や瞳からダイチや祖父、ワカバと違って半端な才能を受け継いだと嘲笑され、同い年の子息子女からは変な色だと笑われた。

 子どもというのは自分や周囲と違うを面白がり、心無い言葉を投げかけることもある。その言葉がどれほど相手を傷つけるとも知らずに。

 嘲笑した者は恐らくヒフィラナ家を目の敵にしているスフィラナ家の派閥貴族だろう。いくら敵対しているとはいえ幼い子にそのような言葉を投げかけるとは憤りしかない。


 ただホノカが普段から伏し目がちなのもその出来事から瞳の色を気にしているからで、頭脳に関しては兄と同等の才があると聞いたが、才と言うより過去の出来事に負けず勉強をした成果なのか。

 自信を無くしても、自分に出来ることを懸命に頑張っていたのかもしれない。


 そして臆測になるがホノカに自信を無くさせた原因は他にもあるとロロベリアも察していた。

 クアーラが精霊力を持って産まれたからこそ生粋の公国貴族として育ったミリアナの関心は自然と兄に向けられる。

 更にクアーラが嘆いていたようにリョクアはヒフィラナ家を第一に考えている上に確執のあった姉と同じ東国の特長をしているからか、ホノカに対する関心はやはり薄いと感じていた。


 思い返せば夕食の席で二人は自分たち以外ではクアーラに話題を振るのみで、ホノカに一度も声をかけていない。

 昨日の夕食の席もだ。クアーラが同世代の交流を提案した際、ミリアナはミューズに彼の相手を願っても、ホノカの同席や仲良くして欲しいなど提言しなかった。同世代ならホノカも含まれていると考えているにしても、母として娘もよろしくと口にしてもいいはず。娘が内気な性格をしているなら尚更だ。

 リョクアもミリアナの対応が母として間違っているなら咎めてもいいし、代わりに父として娘を気にかけてもいい。


 些細な違和感、しかし社交会で半端者とのレッテルを張られたホノカからすれば両親の関心が薄く感じられれば不安にもなる。

 もちろんダイチやクアーラ、セルファを始めとした使用人は気にかけているだろう。ただ内気な性格に加えて両親の関心が薄く、トラウマから自信を無くしたホノカにとって、近しい存在の優しさは才能のない自分に同情した嘘の励ましに感じられるかもしれない。クアーラに対して変に余所余所しくしていた様子から考えすぎでもないはずで。

 同時にホノカが自分やアヤトを気にしていたのも分かる。

 アヤトは当然、ロロベリアも珍しい髪色から同じような辛さを経験したかもと気にしていた。辛い過去を話してくれたのも同じ境遇を持つ者同士の安心があったはず。


(でも……ダイチさまが何も言わないのが引っかかる)


 ただホノカの過去、秘めていた苦しさを知ったロロベリアは憤りと同じく違和感を抱いていた。

 社交会の出来事を知らなくともリョクアやミリアナのホノカに対する対応をダイチも気づいているはず。クアーラと違って当主として、また曾祖父として注意なり現状を変えるよう動いてもいい。

 それとも何かしらの考えから静観しているのか――


「あの……今のお話し、秘密にしてもらえますか?」


 考え込むロロベリアに申し訳なさそうにホノカがおずおずと口を開く。


「社交会の出来事……だよね」

「曾お爺さまや……お父さまやお母さまが……知ったら、悲しむかもしれない……し」

「悲しむ?」

「だって……この髪や瞳の色で産んでくれたお父さまやお母さまは悪くない……曾お爺さまだって……わたしがダメなだけなのに……心配されるから……」


 ただ秘密にする理由にロロベリアは言葉がない。

 秘密にしたいのは原因の貴族との関係を拗らせない為と予想していたのに、辛い出来事の切っ掛けは髪と瞳の色だから産んでくれた両親が、東国の血を受け継いだ特長からダイチが気に病むと危惧している。

 正直なところ一人で抱えすぎで心配になるが、秘密を望むならロロベリアは尊重するまで。


「もちろん。ならゆびきりする?」

「ゆびきり……?」

「ホノカさん知らないんだ……えっと、まず小指を立てて」


 故に秘密を約束する儀式を提案するも、ホノカは知らないようでまずやり方を説明。


「絶対の約束って東国のおまじないみたいなものかな? はりせんぼんじゃなくても良くて、好きに決めてもいいみたいだからホノカさんが決めて」

「えっと……色々を禁止?」

「……絶対に破らないから良いけど」


 説明下手から口癖になっていると自覚しているが、ホノカにはりせんぼんよりも厳しい制約と捉えられて複雑な気持ちに。

 それはさておき、お互いの小指を絡めて儀式を終えたところで改めて。


「これで秘密にするって安心してもらえたところで、最初の質問に答えるね」


 まだホノカの質問に答えてないと姿勢を正す。

 先に話の腰を折ったのはロロベリアだが、お陰で答えを間違わずに済んだと安堵しつつ怯えるホノカに構わず告げた。


「ホノカさんはその髪や瞳の色で辛い思いをした。でもその髪と瞳の色で産んでくれたご両親に辛い思いをさせたくない、比べられたダイチさまが辛い思いをしないようにって今まで一人で我慢した」


 初めて見た時は東国の血を引いた髪や瞳の色、くらいの印象だった。

 しかし今は全く違う印象になっている。


「その我慢が良いのか悪いのかは……私からは言えない。それでも私はその髪や瞳の色を通じてホノカさんを知ることができた」


 髪や瞳の色が原因の辛い思いを知り、後の生き方を知った。


「大切な人に辛い思いをさせたくない優しい子で、辛い思いをしても立ち止まらず自分に出来ることを一生懸命に頑張れる強い子なんだって」


 ロロベリアにはホノカの髪も、瞳の色も、内面を映し出していると知れたからこそ。


「ホノカさんの髪と瞳の色は優しさと強さの象徴。以上が私の正直な感想でした」

「そんな、わたしなんて――」

「ホノカさんがどれだけ否定しても私の尊敬は変わらない。もし変わったとすれば、仲良くしたい気持ちかな?」

「ふえ……?」


 まあ自信をなくしてるからこそホノカは否定するも、続けられた気持ちに驚きから伏せていた顔を上げてしまう。

 お陰で目が合わせられたとロロベリアは笑顔で。


「だってホノカさんを少し知っただけで、最初よりももっともっと仲良くなりたい気持ちが強くなったから。後はホノカさんに私と仲良くなりたいなって思ってもらえれば良いんだけど……」


「…………?」


 かと思えば突然ぶつぶつと悩み出すのでホノカはキョトン。

 まあここまでロロベリアは仲良くしたいと口にしていても、ホノカは仲良くしたいとは口にしていない。

 しかしロロベリアの気持ちが嬉しいと伝えているなら、同じ気持ちを抱いていると捉えるてもいい。そもそも知って欲しいからこそ自身のコンプレックスに触れたのだ。

 にも関わらず真剣に悩む姿が申し訳なくとも可笑しくて。

 コンプレックスだった髪や瞳の色に対する感想、感情のままコロコロと変わる表情、物事の妙な捉え方と、ロロベリアは分かりやすいのに理解するのが難しい。

 ただ一つだけハッキリしたのは、ホノカも同じ気持ちになっていること。


 少しでもロロベリアを知れたからこそ、最初よりももっともっと仲良くなりたい気持ちが強くなった。


「わたしは……ホノカ=ラグズ=ヒフィラナです」


 故に仲良くなりたいとの気持ちを込めて、ホノカも自己紹介をやり直す。


「ロロベリアさま、これから仲良くしてくれると……嬉しいです」


 照れくさくても正直な思いを伝えれば、キョトンとしていたロロベリアはやっぱり笑顔を返してくる。


「こちらこそよろしくね!」


 言葉以上に喜びを伝えてくれて、これからどんなお喋りをしようとワクワクさせる魅力を感じさせた。

 そのままホノカよりもロロベリアが無邪気にティータイムを楽しんでいたが、不意に響くノックの音が二人の時間を中断させた。


「ホノカさま、ロロベリアさま。お楽しみのところ失礼します。恐縮ですが今すぐ食堂までお越し下さい」


 入室の確認もない登場に訝しむ二人を他所に、ミナモは矢継ぎ早に用件を告げた。


「なにかあったんですか?」

「もうすぐアヤトさま、ミューズさまもお戻りになるのですが……詳しくは移動中に。また無理かも知れませんがどうか焦らず、冷静にお聞き頂ければと」


対応や表情から伝わる焦燥感にロロベリアは嫌な予感を覚えるも、忠告するミナモこそ困惑している。

 そして外出中の二人が戻ってくるのをミナモが知っているのは、使用人の誰かに呼び戻させる事態が起きたのか、それとも何らかの理由で戻ってくるとの通達があったのか。

 どちらにせよデートを中断するほどの事態なら思い当たるのは一つだけ。


「…………アヤトはいったいなにをしたんですか」


 外出先で()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、ロロベリアは確認せずにはいられなかった。




社交会の一件で疑心に陥り自信を無くしたホノカさん。

ですがロロは考えていることが丸わかりですからね。コンプレックスの髪や瞳も褒めたり慰めたりせず、内面の象徴として、更に仲良くなりたい理由に捉えたのはホノカさんの心を少しでも癒やせたと思います。

にも関わらずここからうち解けて仲良くなってくはずが、ラストで無粋な横やりが。

つまり次回からもう一人の主人公、アヤトサイドのストーリーが始まります。

ロロが同世代と交流している間、アヤトくんとミューズがどんなデートをしていたのかお楽しみに!



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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