偽りない
アクセスありがとうございます!
「ではご用があればいつでもお呼び下さい」
「ありがとうございます」
一礼して客間を退室するミナモにロロベリアもペコリ。
ミナモが食堂から去ってそう間も空けず向かったのにホノカと一緒に入室した時には既にティータイムの準備が整っていた。
さすが公爵家従者の手際と感心する反面、向かいに座るホノカが俯いたまま少し怯えているようでロロベリアは反省を。
「ちょっと強引だったね。ごめんなさい」
「あ……そんな……」
「でも、私の手を取ってくれてありがとう」
なので謝罪と、それでも付き合ってくれた感謝を笑顔で伝えてまずは紅茶を一口。
対するホノカは変わらず俯いたままカップに手を伸ばそうともしない。
いくら了承したとは言え内気な性格なら断れず、仕方なく付き合っている可能性もあるわけで、ほぼ面識のない自分といきなり二人きりになれば居心地も悪いだろう。
また内気な性格だからこそと、まずは誘った側としても自分から切り出すべきとロロベリアは口を開いた。
「改めて、私はロロベリア=リーズベルトです。よろしくね、ホノカさん」
「……ふえ?」
ただその切り出しが今さらながらの自己紹介、ホノカも面を食らったように顔を上げてしまう。
「どうして今さら自己紹介? なんて変に思うよね。でも私は神父さまから挨拶や自己紹介は『人と人が仲良しになるための最初のおまじない』って教えられたの」
しかしロロベリアは構わず自分の思っていることを伝えていく。
「あ、神父さまは私を拾ってくださって、私に名前を与えてくださった人で……ホノカさんもダイチさまから聞いてるかもだけど、私は教会の前に捨てられてた元孤児で、色々とあってニコレスカ家に養子として迎え入れてもらった。今でもリーズベルトを名乗ってるのは亡くなった神父さま、シスター、お姉ちゃんやお兄ちゃん達って大切な家族を忘れないようにってお義母さまが特別に名乗らせてくれてるの」
「…………」
「だからニコレスカ家に引き取られたばかりの頃は、お義父さまを小父さま、お義母さまを小母さまって呼んでて……教会で暮らしていたみんなは家族でも、私には父や母が居ないからよく分からなくて……照れくさい気持ちがあったと思う。でもね、これも色々あって亡くなった家族の姓を名乗らなくても、私の心には今でもみんなの顔が、笑顔が刻まれてる。これから先なにがあっても忘れない。忘れるはずがない」
「…………」
「なによりお義父さまもお義母さまもとっても素敵な方で、優しくて……私をね、本当の娘のように愛してくれてる。リースやユースさんと同じような愛情を注いでくれてるの。あ、リースとユースさんは私と同い年でニコレスカ家の正統な子息子女、私にとっては家族であり親友みたいな存在」
「…………」
「とにかく教会のみんなを忘れることはないし、私もお義父さまやお義母さまが大好きで……本当の両親に思ってるから、もうリーズベルトを名乗らなくても良いかなって。ただ学院に在籍している間はややこしいかもだから、卒業したら私もニコレスカを名乗って良い……ううん、名乗りたいってお願いするつもり」
「…………」
「それでね……えっと……関係ない話ばかりしちゃったけど、神父さまから教わったおまじないをやり直そうかなって。私たちはもう済ませてるけど、あの時はリョクアさまがして下さったし、食事前の流れって感じだったから。こうして二人で向き合ってるならせっかくだし」
まあ思うままなので会話の脈絡はメチャクチャで、そもそもロロベリアは弁舌が苦手なタイプ。加えて面識のほとんどないホノカに話す内容ではない。
故にいきなりこのような話をされても困らせると分かっていても。
「私はホノカさんと仲良くなりたい、そんな気持ちを込めてやり直したいと思ったの。それといきなり色々と話したのも……教会で暮らしてたマリアお姉ちゃんから仲良くなるにはたくさんお喋りして、お互いに知ってもらう、知る努力をするんだよって教わったの。まあ……自分が仲良くしたいからって相手に押しつけるのはダメってシスターに注意されてもいるんだけど」
それでも本心を伝える努力は大事だとロロベリアは知っている。
いま思えば子ども過ぎて、結果押しつけた形でも、あの時努力をしたからこそクロと仲良くなれた。
再会した時もこの努力をし続けたからこそ、記憶を失い気難しい捻くれ者になっていたアヤトと……仲良くかは微妙でも、少なくとも距離は近づけた。
ならホノカと仲良くなりたいのならまずは自分を知ってもらう努力をする。それにもしかしたらホノカも同じ気持ちを抱いてくれている可能性もある。
「でもホノカさんは私の言伝を聞いて会おうとしてくれた。今も私が強引にお願いして断れなかっただけかもしれないけど、こうして向き合ってくれてる。ならもしかしてホノカさんも私と仲良くしたいってちょっとだけでも思ってくれたのかな? だとすれば押しつけじゃないし、誘ったのは私だからまずは私を知ってもらう努力をしようって決めたの」
自分の言伝にホノカは少なからず応えてくれようとしたなら、ホノカも仲良くしたい気持ちがあると思い立ち、言伝通りお茶の席に誘ったわけで。
「もちろん私が努力してるからってホノカさんがする必要はない。神父さまやマリアお姉ちゃんの教えを私が正しいと思っても、ホノカさんが正しいと思わなければ違うし、無理して合わせなくてもいいからね。それと……本当に今さらだけど私の気持ちや考えを知って、この人と仲良くなるのはちょっと……て思い返したなら遠慮なく言って。そもそもホノカさんが仲良くしたいのかなって気持ちが私の思い込みかもだし……」
また自分の考えを押しつけないよう伝えつつ、だからといってホノカが本心で無理だと思っていても伝えられるようなタイプでもないと今さらながら思い付きロロベリアは実に無理な注文だと尻すぼみ。
むしろ迷惑ではないだろうかと言葉が続かず室内が微妙な空気に包まれていく中、今まで呆然としていたホノカは意を決したように両拳をキュッと握った。
「あの……どうして……ロロベリアさま、は……わたしと仲良くなりたいんですか」
俯き、声音を振るわせながらの質問。
「わたし……なんかと、仲良くしたい……理由が分からなくて……その……」
しかし質問をするならもしかしてホノカは自分を知る努力をしてくれたのかと捉えたロロベリアは満面の笑みで。
「切っ掛けはアヤトの親族だから、かな?」
「……ふえ?」
元より思うまま言葉にするタイプだからこそ嬉しさの余りバカ正直な返答。
自分に興味が、ではなくアヤトの親族だからと知ればホノカも困惑して当然。
「そもそもアヤトが生き別れの曾祖父……親族に会うからって、関係ない私がこうして同行してるのって変でしょう? ただ……その、色々な感情から私はアヤトの親族と会ってみたくて……特に肖像画でも良いからワカバさまを一目見たかったの」
しかし元より駆け引き下手で、嘘が苦手なロロベリア。
「それでアヤトの親族だからできることなら仲良くしたいし、アヤトにもせっかく会えた親族なら仲良くして欲しいなって思ってた」
この場をお互いを知る為に用意したのなら、本心を伝えるのが第一と。
「でね、クアーラさんが同世代で交流しましょうって提案して、ホノカさんは参加しないって知って、残念だけどそれはホノカさんの自由。でも食事の席で少なくともホノカさんはアヤトを気にしてたみたいだし、私たちにもちょっとだけ興味がありそうだったから、なら来て欲しいなってセルファさんに言伝を頼んだの」
なにより感情が表に出やすいからこそ伝わるわけで。
「その言伝を聞いたホノカさんが私に会おうとしてくれたのを知って、どんな理由か分からなくても私はそれが嬉しかった。もしかしたら私と仲良くしたいって気持ちがあるのかな、だとすれば嬉しいなって」
言葉以上に向ける笑顔がロロベリアの本心をホノカに伝えていた。
「切っ掛けはアヤトの親族だから。でもホノカさんが私に会おうとしてくれた時に感じた嬉しい気持ちに、アヤトの親族だからって考えは全然なかった。言葉で説明するのは難しいけど……この気持ちがホノカさんと仲良くしたいって理由で……その気持ちのまま行動に移したからちょっとどころじゃない強引な形になったんだけど……色々とごめんね」
そして急に曇る表情から、ホノカに迷惑をかけて申し訳ない気持ちも伝わって。
「ロロベリアさま……色々、ばかりです」
「……ガイラルドさまにも色々が好きって呆れられた」
こんなに裏表のない無邪気な人は初めてで、張っていたホノカの気持ちも自然と緩んでしまう。
また正直な気持ちを伝えてくれるロロベリアに、ホノカも正直な気持ちを伝えたくなった。
「ロロベリアさまが……こんなわたしとお話ししたいって言ってくれたのも、仲良くしたいなって言ってくれたのも……嬉しいです」
セルファにわざわざ言伝を残してくれたこと、食堂で誘ってくれたことや仲良くなろうと一生懸命伝えてくれる気持ちは本当に嬉しいからこそ。
「それと、わたしがアヤトさま……や、ロロベリアさまを気にしてたのは……間違ってません。あ、もちろんミューズさまやフロッツさま、レムアさまともお話ししたいんです……けど、えっと……」
ホノカもロロベリアに知って欲しいと勇気を出して。
「わたしの……髪や瞳の色……どう思いますか」
自分のコンプレックスに触れた。
シロの頃よりは考えられるようになってもやっぱりロロはロロですね(笑)。
ただ一歩間違えれば拗れる歩み寄りでも、ロロのような駆け引きもせず不器用なほど正直なタイプはホノカも安心できるかもしれません。
次回はそんなホノカさんをロロと一緒に知って頂ければと。
ちなみに今さらですがホノカは『穂花』ミナモは『水萌』と書きます。
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