難しい現状
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サーシャの悪ふざけもあったが休憩中の交流は順調に、訓練も一通りのタッグ戦を行い親睦も深めることができた。
合間にラストが懲りずロロベリアに再戦を挑むも最後まで手も足も出ず敗北したり、フロッツやレムアも訓練や談笑に付き合ったりと三時間。
正午過ぎ、サーシャとラストの帰宅に合わせて合同訓練も終了。ロロベリアは昼食も一緒と思っていたが、手順を省いた訪問から昼食まで用意してもらうのはさすがに迷惑とサーシャが遠慮したらしい。
「本日は急な訪問にも関わらずお付き合いしてくれてありがとうございました」
「……それと出会い頭に不躾な態度を取ってしまい、済まなかった」
また帰宅間際、改めてロロベリアに頭を下げるよう、ラストも迷惑をかけた反省から遠慮したようで。
ロロベリアとしては全く気にしてないが、客人の自分が昼食くらい一緒にしてもと言えるはずもなく素直に謝罪を受け入れるに留めた。
「ロロベリア、帰国前にまた会いましょう」
「必ずね、サーシャ」
続いてサーシャの差し出す手を握り替えし再会の約束を。
同性の同い年だけあって今回の交流で二人の中が最も深まったこともあり、気づけば敬称を省くまでの関係になっていた。
「それと、ミューズさんやアヤトさんにロロベリアからも手合わせをお願いしてね」
「……善処します」
故に遠慮なく仲介も頼まれてロロベリアは葛藤しつつも受け入れるしかなかった。
ちなみにアヤトの実力の真意については『言葉で説明するのは難しい』と曖昧な表現で交わしきっている。この対応にサーシャたちがなら実際に立ち合えば分かると引いてくれたが、ロロベリアとしてはアヤトが面倒と避けてくれることを願うばかりだ。
とにかく心労もあったが公国に友人が出来たのは純粋に嬉しく、ロロベリアにとって充実した時間で。
「みなさま、昼食の用意は出来ております。ですがクアーラさま、ロロベリアさまは一度お着替えになった方が宜しいかと」
午後の時間をどう過ごすかよりもまずは昼食。ただ少しだけ参加したフロッツやレムアはともかく、何度も休憩を挟んだとはいえ三時間も訓練をしていればミナモが進言するのも無理はない。
「じゃあそうさせてもらうよ」
「すぐに着替えてくるので」
「ゆっくりでいいぜ」
「私たちに遠慮なく、シャワーも浴びて下さい」
なので先に食堂へ向かうフロッツやレムア、自室に戻るクアーラと一端別行動。付き添いを申し出るミナモに断りを入れてロロベリアも客室に。
お言葉に甘えてシャワーで軽く汗を流し、私服に着替えて手早く身なりを整えて足早に食堂へ向かった。
「……クアーラさん?」
しかし客室を出てすぐクアーラと鉢合わせ。もちろん着替えを済ませているが、偶然と言うより待っていたようで。
「どうかなさいましたか?」
「食事の前に僕から改めて謝罪をと思いまして」
とりあえず声をかけてみれば、やはり準備が終えるのを待っていたらしく、用件も幼なじみの無礼を謝りたいらしい。
「そんな、ラストさんからも謝罪してもらっていますし、私は本当に気にしていないので必要ありません」
律義だと思いつつわたわたと返答するロロベリアにクアーラは安堵、しかし少しだけ不満そうに眉根を潜める。
「先ほどのように自然体で良いですよ」
「ですが……」
「それにロロベリアさんと親睦を深めたのはサーシャさんだけでしょうか?」
「なら……クアーラさんも気にせずどうぞ」
「と言いましてもロロベリアさんは先輩ですし、そもそも僕は今も先ほども変わりはないかと」
「……そういえば」
思い返せばクアーラは幼なじみの前でも口調は柔らかく、対応も落ち着いたものだった。
つまり普段から自然体で過ごしていると納得、また相手が望むならロロベリアとしても気が楽なので気持ち的にユースと接する感覚に切り替えた。
「でも先輩とかいいので。一歳差ですし」
「では気持ちだけ敬意を払わせてもらいます」
ロロベリアの対応に満足したのかクアーラも微笑で答え、そのまま二人で食堂に向かった。
「でも改めて謝罪とか、ラストさんと仲良いですね」
「仲が良いのは否定しませんが、昔からの癖でしょうか。ご存じのようにラストは少々向こう見ずな行動が多く、サーシャさんと一緒に叱ったり、相手側に謝罪をしたりしていましたから」
ただ無言のままなのも落ち着かないのでロロベリアから話題を切り出す。
謝罪の件もだがラストやサーシャと一緒に居るクアーラは夕食時に顔を合わせていた時よりも肩の力が抜けていた。
幼なじみだからこその安心感があってこそ。ただダイチから聞いた三家の関係を考えれば、少なくとも三人にとって家の確執は関係ないように思える。
そう言えばサーシャの悪ふざけの際、誓いや同志という言葉が出ていた。なら三人は幼なじみ以前に、なにかを誓い合った同志としての間柄に関係があるのか。
ただ同世代とはいえ公爵家の問題に踏み込んで良いものか――
「……失礼ですが、ロロベリアさんは本当に分かりやすい」
「へ?」
……などと悩んでいれば笑いを堪えつつクアーラが指摘を。
「なぜヒフィラナ家やミフィラナ家と確執があるスフィラナ家のラストと僕たちが良好な関係を築けているのか、気になっていますか?」
「……気になってます」
ほぼ言い当てられてロロベリアは素直に認める。感情や考えていることが表に出やすい自覚はあるも、こうも簡単に見透かされては実に恥ずかしい。
「そして正直な人だ。ロロベリアさんに話しても問題はないので遠慮なくどうぞ」
「……サーシャが誓いとか同志とか口にしてたけど、やっぱりそれが関係してる?」
それはさておき見透かされたなら開き直るのもロロベリア、本当に遠慮なく踏み込めば何故かクアーラは楽しげに。
「関係していますよ。ロロベリアさんもご存じの通り、過去の確執で現在はヒフィラナ家とミフィラナ家はスフィラナ家と微妙な関係になっています。現に出会った当時のラストは僕に当たりが強かったんですよ」
「……そうなの?」
「ただこちらもご存じの通り、サーシャさんとの出会いからラストが大きく変わりまして」
簡潔でもロロベリアは大いに納得。要はラストがサーシャに好意を抱いたのを切っ掛けにクアーラとの関係も変わったのだろう。
予想通り……むしろ予想以上に早く三人の関係が変わる切っ掛けが訪れたのはクアーラが五歳の頃、社交会デビューで初めて顔を合わせた際のこと。
クアーラが話してくれたようにその場で顔を合わせたラストは当たりが強く、どこか毛嫌いしていたように感じていたらしい。
しかし遅れて表れたサーシャを見るなりラストは一変、相手がミフィラナ家の子女だろうと関係なく懸命にアピールを始めた……つまり一目惚れだった。
「こう言っては誤解を生むかも知れませんが……僕は曾祖父の、サーシャさんはシゼルさまの影響から身分や精霊力の有無による差別を良しとしていませんでした。ですがスフィラナ家は……ご存じですね」
「……ご存じです」
「また曾祖父やシゼルさまの代では確執を軟化させるのが難しく、ならば僕たちの代でと考えていたところ、どんな理由でもラストが歩み寄ってくれたので」
「この機会に公国の意識を変えられるよう誓いを立てたから同志と」
「もちろんサーシャさんはラストの気持ちに全く気づいていませんし、ラストも三家が……特にミフィラナ家とスフィラナ家が啀み合っていればサーシャさんを婚約者にするのが難しいとの理由ではありますが、サーシャさんの思想に同調してくれました」
「……その誓いをダイチさま方は知ってるんですか?」
「曾祖父やシゼルさまには伝えています。ただ父や母、それと母が嫁がれた際に加わった使用人には控えています」
「ヒフィラナ家の中でダイチさまやクアーラさまの思想を受け入れてもらえない人たちだから?」
「少なくとも母は……ですね。父はヒフィラナ家を第一に考えているようなので控えざる得ない感じでしょうか」
確かに夕食の席でもミリアナの思想はある意味公国貴族のそれで、ダイチの影響が薄い使用人も同じ思想に染まっている。
リョクアもダイチに対する反発か、それともワカバとの確執が影響しているのか視野は狭く感じられた。
「後は先代のスフィラナ家当主、当主となったばかりのアドリアさまにもラストは伝えていません。恐らく気づかれているとは思いますが……それでも表だって僕らを引き離すのは世間体に良くありませんから」
なら最も公国貴族らしいスフィラナ家内ではより厳しい環境、ラストの判断も当然だ。
しかし派閥の貴族はともかく民衆は恐らく三大公爵家が良好な関係を築き、協力して公国を率いるのを望んでいる。そういった兆しが見える三人の仲を面子で引き裂こうものならスフィラナ家はより民衆の印象を悪くするだけと、アドリアも三人の目的を察した上で黙認している可能性は高い。
ロロベリアとしては過去は過去、今は今で良いとは思うがそう単純に考えられないのが過去の確執であり貴族社会。
スフィラナ家の栄光を取り戻す為ならヒフィラナ家の子女を取り込む可能性もあるが、サーシャの気持ち以前にラストの恋は別事情で困難が多い。
「ならガイラルドさまは? あの方ならみなさんの思想に協力してくれると思うけど」
「そうですね。ガイラルドさんは唯一目にかけてくれていますが、スフィラナ家に代々仕える従者の一族としてなにより当主に忠誠を誓っています。アドリアさまの強いスフィラナ家を取り戻す、という思想も全て否定はできませんから」
つまりスフィラナ家に対する忠誠心と次世代の理想の板挟みか。
それともラタニが王国で民衆の支持を受けているように、公国最強の称号からガイラルドも民衆の人気は高いはず。アドリアにとっても必要な人材として上手く立ち回っているのかもしれないが……アヤトではないが貴族というのは実に面倒とロロベリアは内心ため息一つ。
同時にいくらアヤトの過去や能力を知ろうと平民との関係を進んで応援してくれるのはサーヴェルやクローネくらいだ。思えばニコレスカ家に引き取られた自分は本当に恵まれていると改めて実感。
もちろんただ甘えるだけではなく、今後はもっと子爵家子女としての自覚も持ち、ニコレスカ家に恩返しできるよう成長……せめて貴族としての振るまいがまともに出来るくらいにと、今回の公国滞在はロロベリアにとっても良い切っ掛けになったかもしれない。
とにかくラストだけでなく、クアーラやサーシャも誓いを叶える為に今も色々と苦労しているはずで。
三人の思想に共感できるロロベリアとしても、友人としてなにか協力できないか。もちろんサーシャの婚約者がアヤトとか抜きで――
「…………僕からも質問を良いですか?」
「…………?」
などと思考を巡らせるロロベリアを見据え、クアーラは意を決した面持ちで問いかけた。
ただ別の理由でロロベリアは足を止め、視線を前へ向けたまま動こうともしない。
「……ロロベリアさん?」
「静かに」
奇妙な対応にクアーラが再び問いかければ小声で注意、ゆっくりと振り返るなり早足で廊下を戻れば――
「……ふえ」
「ホノカさん……?」
曲がり角で身体を縮こまらせていたホノカと目が合った。
前話で少しだけ触れたクアーラさまたち三人の関係や誓い、三大公爵家の現状について詳しいお話でした。
貴族家の養子となった頃は貴族としては変わり者のニコレスカ家、学院に入学してからはニコレスカ姉弟やアヤトくんが居たからか、ある意味で正しい貴族社会に深く触れる機会のなかったロロが改めて面倒……もとい、大変だと痛感しました。同時にサーヴェルやクローネの有り難みを知りましたね。
そしてクアーラさまからの質問よりも先に、これまで全く交流のなかったホノカさまと接触したことで別行動中の主人公二人、ロロサイドも残り僅かとなります。
なのでアヤトサイド、ミューズとのデート模様はもう少々お待ちを。
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