一筋縄でいかないのは
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サーシャがアヤトに興味を抱く理由、実力よりも婚約者という発言にラストとロロベリアは驚愕。
「待てサーシャ! アヤト=カルヴァシアが婚約者など俺は聞いてないぞ!」
「言ってないから当然でしょう。それに私もこの話をお婆さまから持ちかけられたのは昨日だもの」
からのラストが慌てふためき追求するもサーシャは平然と。
「で、でもシゼルさまにはアヤトは断ったはずです! どうしてアヤトの返答を無視して話が進んでるんですか!」
「彼は貴族に加わるのが面倒だから断ったそうね。なら貴族に加わらなければいい、つまり私がアヤトさんに嫁げば解決よ」
更にロロベリアがわたわたと否定するもやはりサーシャは平然と。ただ内容はかなりぶっ飛んだもので。
「出来れば私が嫁いでも公国で暮らしてもらいたいけど、もし彼が王国に拘るなら私も王国に行く覚悟はあるわ」
「「そんな簡単に!?」」
「簡単なんて言わないで。これでも結構悩んだけど……貴族家に産まれた以上政略結婚なんて当たり前だし、私を平民にしてでもアヤトさんとは繋がりを作りたいとお婆さまが仰っているわ」
二人の同時突っこみにもサーシャはぶっ飛んではいるが正論を返す。
貴族家に産まれた以上、国や家の為に婚約相手を決めるのは義務でもある。特にシゼルは平民のアースラと恋仲になったワカバを追放したダイチを責めたと聞く。相手が平民だろうと優秀な人材なら孫娘を嫁がせても構わないとの価値観を持っていそうだ。
あの時は半分冗談と口にしていたが、内心かなり本気でアヤトを引き抜くつもりか。
「お婆さまにそこまで言わせるのなら私も興味があるし……それに、いくらラタニ=アーメリが師事したとはいえ、持たぬ者が持つ者を超える、序列入りするほどの実力を身に付けるのはそれこそ簡単ではなかったと思うの」
絶句するラスト、内心焦りまくるロロベリアを他所に、サーシャは柔らかな笑みを浮かべる。
「人としての強さがあるからこそ不可能を可能にした、本物の強さ。少なくとも私は彼のそういった強さを高く評価しているの」
それはロロベリアにとってぐうの音も出ない評価。まだ会ってもいないのにアヤトの強さをとても理解してくれている。
ミューズの宣戦布告でも返したようにアヤトの良さを理解し、好きになってくれる人がいてくれるのはロロベリアも嬉しい。しかしそれはそれともやもやが沸き上がり葛藤していた。
「私がミフィラナ家を出ることになっても、兄や弟が居るから後継ぎは問題ない」
「そうじゃない! 俺が心配しているのは…………とにかくダメだ!」
代わってラストが必死に訴えるが、私情が私情なだけに端的な反論にしかならず。
「これは私の、延いてはミフィラナ家の問題。どうしてラストが口を出すの? それに例え私が王国に嫁ぐことになっても、あなたたちとの誓いは忘れない」
「ぐぬぬぬ……っ」
「もちろんアヤトさんには出来るだけ公国に来てもらうようお願いするつもり。だから安心して」
「……サーシャさんの言うとおりだ」
今度は真っ当な正論を返され表情を歪ませるラストの肩を、これまで静観していたクアーラが優しく叩く。
「君の気持ちも分かるけど……サーシャさんの覚悟を無下に否定はできないだろう?」
「しかしな……」
「だから僕らも今はサーシャさんと離れる覚悟を固めていこう。それが志を共にする同志だ」
「…………くっ」
クアーラの励ましにラストも複雑ながら受け入れようと必死で。
ただロロベリアは変わらずもやもや。室内の空気が重くなって――
「まあ、今の話は半分冗談んだけど」
「「半分冗談だったの!?」」
……いたが、重い空気を振り払うようにサーシャはしれっと。これにはロロベリアとラストは再び驚愕。
「そもそもアヤトさんが私を受け入れるかどうかが未確定。婚約なんて大事な話をこちらの都合で決められないでしょう? それにアヤトさんの人としての強さは高く評価しているけど……それも仮定の話。私は彼を知らないし……持たぬ者が持つ者を超えるなんてやっぱり信じられないもの」
「確かに……そうですね」
再び正論を返されるが、先ほどまで見せていたサーシャの表情が真剣味を帯びていただけに勘違いしたとクアーラも苦笑い。
「ただお婆さまが半分冗談と笑ってたのに、実際に会えば私も乗り気になるからどうって勧めてきたから少しだけ興味が湧いたの」
だから今の話もあくまで仮定とサーシャは締めくくり。
「でもそれとは別に興味も湧いたけど」
ラスト以上に安堵していたロロベリアの心情を見透かすようにサーシャは顔を近づける。
「もしかしなくても、ロロベリアさんはそうなんでしょう?」
「……そう、とは?」
「私の発言に対する反応が面白くてつい意地悪をしたと言えば伝わるかな?」
「…………」
「つまり、模擬戦のお返しです」
片目を閉じて微笑むサーシャにロロベリアは力が抜けていく。
さすがシゼルの孫娘というべきか、サーシャも一筋縄ではいかない性格らしい。
要はロロベリアの反応からアヤトに好意を寄せていると気づいたからこそ、勘違いさせるような言い回しをしただけ。
理由も負けず嫌いだから、本当に良い性格をしている。
「やり過ぎましたか?」
「騙された私が悪いので……つまり、私の負けです」
「なら良かった」
しかしサーシャのようなタイプは好感が持てるとロロベリアは笑顔で敗北宣言。
また模擬戦以上に互いの為人を知れて、良い関係を築ける予感がしていたのはロロベリアやサーシャだけではない。
「……妙な話になってたけど、サーシャさまもやるねぇ」
「そのようです」
同世代の交流を見守っていたフロッツやレムアも同じ気持ちで――
「それにアヤトさまと添い遂げるのはミューズさま。サーシャさまが傷つかず安心しました」
「旦那は苦悩しまくってるけどな……というかアヤトくんの条件だとミューズちゃんも難しいんじゃないか」
「アヤトさまと添い遂げるのならミューズさまも平民になる覚悟はあるかと」
「ありそうだけど……イディルツ家にはミューズちゃんしかいないし、旦那が――」
「私ども従者一同で説得してみせます。むろんミューズさまが平民になろうと私ども従者一同はどこまでも付いていく覚悟ですがなにか?」
「……なんでもありません」
……居たはずなのにレムアの圧にフロッツは恐怖していた。
「あなたたちも勘違いさせてごめんなさい」
「お気になさらず」
「俺はサーシャが本気でないのなら構わん」
それはさておきクアーラやラストもサーシャの悪ふざけを笑顔で許せるなら、ロロベリアにとっても痼りのない有益な時間とになった。
「あら? もしアヤトさんが本当に強いのなら私の覚悟も本気だけど?」
「はあ!?」
……はずなのにサーシャの新たな爆弾発言にラストのみ三度驚愕。
「でもガイラルドさまくらい強くなければ私も靡きません……なんて、さすがにハードルが高いわね。だから半分冗談なのよ」
「そう言えばサーシャさんは昔から婚約者はガイラルドさんより強い人が良いと仰っていましたね」
「故に俺も……いや、今はサーシャがアヤト=カルヴァシアの婚約者にならないと分かって安心しておく」
ただサーシャが口にしていた冗談半分の真意にクアーラは納得、ラストも心底安堵するのは当然。
持たぬ者が持つ者を凌駕する強さ事態が信じがたい中で、公国最強以上を求めていればまずあり得ないと思うだろう。
現にサーシャも視線でロロベリアに『今のも冗談だから許して』と伝えているなら、笑い話として捉えるべき。
「…………はは」
しかしロロベリアはから笑いを返すのが精一杯。
ガイラルドに完敗したとはいえ、実際に立ち合ったからこそアヤトの方が圧倒的に上だと断言できる。
加えてサーシャはアヤトの良さも理解している。もし三人が冗談と捉えている基準が現実だと知ればどうなるか想像に難くない。
そしてダイチに勝利したと知るシゼルが、強い男性を好む孫娘に冗談半分と濁しながら話を持ちかけたのなら。
(話が違います……シゼルさま)
かなり、ではなく本気で引き抜くつもりと確信したロロベリアからため息が漏れた。
「……これ、サーシャさまマジで惚れるんじゃないか?」
「お可哀想に……私もミューズさまの従者として、失恋されるサーシャさまの為になにか出来ることがあれば良いのですが……」
「……レムアさんの中ではミューズちゃんとアヤトくんのカップルは確定なのね」
ちなみにサーシャの未来を想像しつつ本気で憂い悩むレムアにフロッツはただ呆れていた。
一筋縄ではいかないのはサーシャさまではなくシゼルさまでした。それとレムアの思考ですかね。
とにかくもしサーシャさまがアヤトの実力を知ったら一波乱あるでしょう……どうなることやら。
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