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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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「ふっ」


 開始直後、距離を詰めるロロベリアが間合いに入るなりサーシャは槍を突き出す。

 対するロロベリアは部分集約で強化した脚力を活かして更に突進、サーシャが槍を引くより先に瑠璃姫を一閃。


「ぐう!」


 柄を弾かれ槍こそ手放さないが衝撃にサーシャは苦悶の表情。また柄を握る手元を狙われたことで両手に痺れが走り堪らず後方に跳躍。


『朱の旋律よ!』


 同時に追撃をかけられまいと連続して火矢を放つも、左右に回避しながらロロベリアは止まらない。


『朱き花よ!』


 ならばと周囲を囲うよう火の花弁を顕現。


『舞え!』


 ロロベリアの僅かな怯みも見逃さず、顕現した火の花弁を四方に放つが――



『は!』


『パチン』


「うそ!?」


 指鳴らしで目前に顕現した氷の塊を利用してロロベリアは跳躍、更に言霊を使わない発動でサーシャの頭上にも顕現していた氷の塊を蹴りつけた。


「勝負あり、ですね?」

「ありですけど……今のはなんですか」


 あっという間に背後を取られたサーシャは突きつけられた瑠璃姫の気配を感じながら肩を落とす。

 ロロベリアがガイラルドと同じ言霊を使わず発動できることも、音による発動も可能なのはクアーラとの模擬戦で確認している。ただ顕現のタイムラグを利用した氷の塊による三角跳びの回避、水の精霊術が補助に特化しているとはいえデタラメな発想。


「なにって言われても……サーシャさんの槍術を考えればただ精霊術を回避するだけじゃ危険だからちょっと虚を衝いてみようかなって」

「ちょっとって……そんなレベルではないと思います」


 そんな発想を当たり前のように思い付き、しれっと成功させられてはサーシャが嘆くのも無理はない。

 そもそも槍の攻撃や精霊術にも臆さない判断、精霊力を部分的に集約した強化、異常な発動速度や近接戦の技量と全てにおいてレベルが違う。しかも今ので二戦目のサーシャに対しロロベリアはクアーラとも二戦、ラストとは四戦と計八戦。いくら全て一分以内とはいえ休まずの連戦なのに息一つ乱していない。

 サーシャが上回っているのはせいぜい保有量、三倍近い差があるのに精霊力の扱いも上回れては立つ瀬がないだろう。


「相手が普通の学院生だとロロちゃんの強さが際立つなぁ……」


 故にここまで観戦していたフロッツも素直に感心。

 スファーナ学院序列五位のサーシャは当然、有望株とされているクアーラやラストも決して弱くない。フロッツの母校ニルーナ学院でも充分序列入り出来るだけの実力はある。

 しかしロロベリアは学院生どころか既に中位精霊術士と互角に戦えるだけのポテンシャルを秘めている。つまり学院の上位程度では相手にならない。


 そしてミューズも含めてマイレーヌ学院の序列保持者が他国の学院生と実力差が開いた理由も察していた。

 一昨日、アヤトの訓練を初めて見学したがフロッツから見ても常軌を逸する内容。なんせ怪我をしようと骨が折れようと関係なく模擬戦を続けるのだ。しかも相手は学院生どころかバケモノクラスのアヤト、そんな相手と実戦さながらの模擬戦を続けていれば技能以上に心身が強くなる。なにより一昨日の訓練ですら軽くらしい。

 精霊術士や精霊士は年々減少傾向にある。故に学院側も慎重になるがアヤトの訓練は真逆、むしろ密度で言えば見習い精霊術士が受ける訓練以上。学院生に課す訓練として危険すぎるが乗り切れば得るものも大きい。

 そんな恐ろしい訓練をロロベリアは他の序列保持者よりも長く続けている。よく心が折れずに一年も続けたと称賛を通り越して呆れたものだ。


 加えて相手の実力が劣っていようと傲らず、先ほどのような発想も含めて様々な戦術を模索する貪欲さ。

 本人の資質も含め、乗り切れるだけ得られるデタラメな訓練が合わさってこその実力。まだまだ課題は多くあるが、それでもこのまま何戦続けようとロロベリアの精霊力より先に三人の気力か体力が尽きるだけ。

 ただサーシャたちの心配よりもこの場の趣旨を考えれば保護者としてそろそろ止めるべき。


「……もう一戦頼む」

「もちろ――」


「ダメよ」


 しかしラストの再戦をロロベリアが受け入れるより先にサーシャが却下。ならばとフロッツも静観を続けることに。


「そもそもラストはもう五戦目、ロロベリアさんに至っては九戦目。二回も挑んだ私が言うのも何だけどロロベリアさんにも休息が必要」

「あの、私はぜんぜん――」

「それに今は訓練を兼ねた交流の場、模擬戦だけでなく会話も楽しみましょう。違う?」


「「違わない……」」


 そう、今は同年代の交流を兼ねた場。訓練ばかりで交流にならないので線引きは必要。

 さすが同じ公爵家といえど一歳上、まとめ役が様になっていると感心する反面、同い年なのにラストと共にしょんぼりするロロベリアが可笑しくて。


「フロッツさん、レムアさんもすみません」

「俺たちは気にせず若い者同士でごゆっくりと」

「まずはみなさまの時間を優先して下さい」


 実力はロロベリアに軍配は上がるも、精神の成熟面ではサーシャが何歩も先にいるなとフロッツは笑いを堪えた。



 ◇



 サーシャの提案にラストとロロベリアはしぶしぶと、クアーラはどこか安堵したように了承。セルファやミナモから水筒を受け取った四人は練武館の隅に腰を下ろす。

 公爵家の子息子女にしてはラフな状況、しかし訓練中という理由より三人ともそういった形式美に拘りはないらしい。そういった対応もロロベリアとしては好感が持てる。

 ちなみにフロッツやレムアは告げたように同年代の交流を優先して少し離れた場所で見守る中、会話の切り出しとして公国の訓練法を質問しようとする辺りがロロベリア。


「ところで――」


「ところでラストから聞きましたが、ロロベリアさんはあのラタニ=アーメリの後継者だそうですね」


「…………」


 しかしサーシャに先手を取られて別の理由から言葉が続かない。


「私と同い年なのに王国最強から後継者と認められるなんて……私もガイラルドさまに認められたい……」

「……ガイラルドはいいだろう。それよりもガイラルドが認めるだけある……悔しいが全く太刀打ちできなかった」

「僕も少しは良いところを見せられると思っていたけど、甘い考えと痛感しました。音の発動も師から直々に教わったのでしょうか」

「部分集約もだけど剣技もラタニ=アーメリの師事を受けているの? よければ普段どのような訓練を受けているのか教えてもらいたいわ」


 三人から予想通りの追及を受けてロロベリアは返答に窮していた。

 確かに言霊習得の際、ラタニの師事を受けたことはある。以降も時間が合えば、アヤトと同居を始めてから何度か受けているがその程度で、ロロベリアがメインで師事してもらっているのはアヤトなのだ。

 その内容もひたすら模擬戦の繰り返し、特種なものといえば目や耳を塞いだ模擬戦。怪我や骨折が日常茶飯事で毎回限界ギリギリまで追い込まれる厳しい内容を説明する躊躇いよりも、精霊術士の自分がアヤトに訓練をしてもらっていると詳しい実力を知らない三人に話せば更なる追求が待っているのは明らか。

 そうなれば上手く交わせる自信がなく、下手にアヤトの名前を出せばなにかやらかしてしまいそうな自信が代わりにあるわけで。


 また相手の興味を向けさせる為にアヤトが口にしただけで、実際は後継者でも何でもないと否定することも出来ない。もし否定すればなぜアヤトはそのような嘘をアドリアやガイラルドに吐いたのかとの追求が待っている。そうなればやはり上手く交わせる自信がなく、やはりやらかす自信だけは無駄にある。


「おね……アーメリさまからは基礎を徹底的に追求するよう教わってるかな?」


 現に今も癖でラタニをお姉ちゃん呼びしかけた自分が情けないはさておいて、ロロベリアは無難な返答。

 まあアヤトは基本罵倒だが両者に共通するのは基礎を重視して教えているので嘘ではない。また制御などの基礎を自分なりに見合うようラタニが模索してるよう、アヤトが度々口にする頭を使う重要性も話すことに。


「後は相手の強さを精霊力で判断するのは精霊士や精霊術士の悪い癖……みたいな注意をされてる」


 そして両者の口癖も踏まえた簡潔な説明が精一杯なロロベリアを他所に、真剣に耳を傾けていた三人は神妙な面持ちで頷いた。


「最後の教えはロロベリアさんに当てはまりますね。失礼ながら、僕やサーシャさんの方が保有量は多いのに圧倒されましたから」

「基礎の重要性やただ課せられた訓練を受けるのではなく、自身でも考えるようにとガイラルドも良く口にしている」

「国は違えど、強者には通じるものがあるのね……」


 どうやらガイラルドから同じような教えを聞いているようで、納得してもらえたロロベリアも安堵を。


「……ただ持たぬ者の弟子がラタニ=アーメリからどのような訓練を受けているのか興味深いな」


 ……していたが、ラストの呟きにロロベリアは肩を振るわせる。


「同じ精霊術士のロロベリア嬢とは違う持たぬ者なら、また違う訓練や教えを受けているのだろう。そもそも序列入りした持たぬ者の実力が本物かどうか確かめたかった」

「……僕も同じだよ。でもアヤトさんにも予定がある、無理強いは出来ないからね」

「ミューズ嬢とデートをしているのだろう? 教国の伯爵令嬢と交際しているのにも驚いたが、それだけ目をかけるだけの人物なのか」

「僕も詳しくは知らないけど、ずいぶん前から外出の約束をしていただけで、二人は交際していないから勘違いしないで欲しい」


 ……からの、アヤトとミューズのデートの話題が始まりもやもやを抑制するのに必死だったはさておいて。

 不在だろうと三人の興味はどうしてもアヤトに向けられる。もし色々と追求されたらどう誤魔化そうかとやらかし常習犯のロロベリアが焦る中、サーシャもまた肩を落とす。


「アヤトさんか……私も会えないのは残念です」

「サーシャもどれほどの強さか気になるか」

「でもミューズさんも次の機会を約束してくれたから、アヤトさんにはその時にでもお願いすればいいよ」


 ラストやクアーラが言葉をかけるも、何故かサーシャは首を振りつつ頬を僅かに染めて――


「もちろん彼の実力に興味はあるけど、私の()()()()()()()()()()()()()()


「「な――!?」」


 その爆弾発言にラストだけでなくロロベリアも真っ先に反応したのは言うまでもない。




フロッツの分析通り、サーシャとの模擬戦だとロロの強さが際立ちますね。

ちなみにクアーラやラストはファルたち新入生と良い勝負、サーシャはジュードやルイに僅か劣るレベル。それだけ他の序列保持者(もちろんアヤトくんは除く)は他国よりレベルが高いです。

ただ情けない自信があるようにロロはこちらの成長が全くですけどそれよりも。

サーシャさまの発言についてはもちろん次回で。



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