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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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気迫の完敗

アクセスありがとうございます!



 ガイラルドがロロベリアを強者と認めてから戦況は一転した。


『パチン』


「ふっ」


 突進と共に指鳴らしで発動させた精霊術をガイラルドは精霊術で迎撃せず体捌きで回避、遅れて斬りかかるロロベリアに突きを繰り出す。

 ロロベリアも負けじと身体を捻り突きを回避、懐に入り込むなり瑠璃姫を振り上げた。


「づう……っ」


 しかし振り上げるより先に黒槍を手放したガイラルドの右拳が肩に直撃。更に左手に握られた黒槍の一閃が襲いかかる。


「ごは――っ」


 身をかがめて黒槍を回避した瞬間、見計らったようにガイラルドが腹部を蹴り上げロロベリアの身体が吹き飛んだ。

 それでもロロベリアは倒れることなく左手を地面に付けて反転、勢いに逆らわず着地。


「しっ」


「くっ」


 だが呼吸を整える間もなくガイラルドは瞬時に間合いを詰めて突きを放つ。咄嗟に身体を反らすが左肩を掠めて鮮血が舞った。


「よくぞ躱した!」


 躱されても称賛する余裕を見せるガイラルドに対しロロベリアには余裕がない。

 以前リースが槍術を扱っていたので槍使いとの戦いには馴れている。しかしガイラルドの槍術はリースよりも上、部分集約で視力を強化することで見切れてはいるが躱しきれずに身体の所々に切り傷が刻まれていく。

 ならばと厄介な黒槍を無力化するべく、瑠璃姫に精霊力を纏わせて突きのタイミングに合わせて斬りつけた。


「いま――っ」


 狙い通り黒槍を両断、反撃のチャンスを逃さず間合いを詰め――


『甘い!』


「――!?」


 だがガイラルドは両断された黒槍の先端を遠隔操作で四散。背後で弾けた礫がロロベリアの身体を打ち付けた。

 槍術と精霊術を高レベルで扱えるガイラルドだからこそ可能とする戦術で、不意を突かれたロロベリアは何が起きたのか理解できないだろう。


「う……ああ――!」


 しかし激痛が走ろうとロロベリアは怯まず瑠璃姫を一閃。ただ痛みに耐えた分だけ反撃が遅れたことでガイラルドは悠々と回避。


『黒槍よ』


「は……は……っ」


 両断された黒槍を再び顕現する間を利用してロロベリアも呼吸を整える。

 序盤の精霊術戦こそ一進一退の攻防に持ち込めたが、ガイラルドが強者と認めてからは一方的な展開に。

 いや、認めたからこそと言うべきか。

 相手は王国の子爵令嬢という配慮もなくなり、容赦のない攻撃を繰り出せるのが大きい。

 出来るだけ怪我をさせないよう追い詰めるのではなく、模擬戦だろうと怪我をするのは当然との意識。故に懐に入り込むロロベリアを体術で退けられた。

 ガイラルドの油断が完全に消えたことで地力の差が顕著に表れ、ロロベリアの勝機は完全に失われてしまった。


 それでもガイラルドは手心を加えるつもりはない。


 改めて力の差を見せつけようと、痛めつけようと、ロロベリアの挑戦心は全く揺らがない。

 今もどうやって地力の差を覆そうかと模索しているのが向けられる瞳や表情で伝わってくる。

 もっと感情の抑制が出来れば相手を出し抜けると呆れる反面、勝利を諦めない執念が伝わるからこそ恐怖する。

 優性だろうと侮れば気持ちで負ける。気持ちで負ければ覆される。


「……来るがいい」

「いきます――」


 故にガイラルドはロロベリアを強者と認めたのだ。



 ◇



 この模擬戦でロロベリアを認めたのはガイラルドだけではない。


「ほんに普段からどのような訓練を受けておるのか」


 一方的な展開になろうと止めることなく、審判を務めるダイチはただ感心していた。

 格上を相手に、例え勝機がなかろうと衰えない闘志。なにより痛みに囚われない精神力。

 ロロベリアの年頃なら痛みに意識が囚われ怯み、スキが出来るもの。しかしガイラルドの容赦ない攻撃を受けようと、不意打ちを受けようと思考を止めず次に必要な行動を移せている。

 また安易に治療術を使わず精霊力を温存する判断。いくら保有量が少ないとは言え、痛みから逃げず僅かな可能性を残そうとする執念は見事としか言いようがない。

 そうした対処、判断は学院生が受ける訓練で得られるものではない。常に実戦を見越した濃密な訓練を続けているからこそで。

 恐らくアヤトだけでなくラタニ=アーメリの教育があってこそか。元首の座は退いたとは言え、公国の未来を思えばどのような教育を施しているのか是非とも教授して欲しいとダイチは見守っていた。


「ヒフィラナ卿、もう充分でしょう」


 そんなダイチを他所に焦りを滲ませながらアドリアが意見する。

 お付きのガイラルドが自分の思惑を無視してロロベリアを容赦なく痛め付ける展開になると思っていなかったのか、声音に若干の怒りが秘められていた。


「もしロロベリア嬢に何かあればどうするんですか」

「なに、ガイラルドがそのようなヘマをするはずなかろうて」

「しかし――」

「全責任はワシが持つ、とも言うたじゃろう。ロロベリアちゃんの成長を思うなら、続けさせるべきじゃ」


 だがアドリアの訴えをダイチは一蹴。


「むろんワシも不祥事を起こすつもりもない。故にお主は黙ってみておればええ」

「……どうなっても知りませんよ」


 もし何かあれば責任問題にすればいいと判断したのか、素直に引き下がるアドリアを尻目にダイチはため息一つ。


「やはり、あやつにはもったいないのう」



 ◇



 アドリアがダイチに訴えている合間もロロベリアは果敢に攻め続けていた。


「あああああ――ッ!」


 残りの精霊力を考慮してロロベリアは切り札の一つ、新解放の分配調整を使用。

 部分集約に比べて速度こそ劣るが、分配調整は感覚のズレもなく完全に扱える。


『襲え!』


 故に遠隔操作で四方から飛び交う礫を見切りながら被弾なく間合いを詰めていくが、初見の手札を前にしてもガイラルドは冷静さを失わず、ロロベリアの速度にも翻弄されることなく槍を構えて待ち受ける。


「はあ!」


 対するロロベリアも蒼月の長さを調整したように、武器の間合いを覆すべく瑠璃姫に纏わせた精霊力を引き延ばして間合い外からの奇襲を試みた。


「今さら貴殿が何を仕掛けてこようと驚きはせぬ」


 しかし新解放の分配調整同様、ガイラルドはバックステップで冷静に対処。

 蒼い刃が振り抜かれるなり距離を詰め、ロロベリアの無防備な肩に槍を突き出した。


 キン――ッ


 だが先端は突き刺さることなく固い何かに阻まれたような甲高い音が響くのみ。

 この瞬間こそロロベリアが四方から襲い来る礫を躱すとは別に、新解放の分配調整という手札を切った理由。

 両足に精霊力を集約させる部分集約とは違い、分配調整はほぼ均等に精霊力を纏わせているのでガイラルドがどこを狙おうと瞬時に精霊力を集約させやすい。

 加えて分配調整を使用しても精霊術が扱えるように、部分的に精霊力を集約させる制御も可能。


 つまり精霊力の集約防御でガイラルドの虚を衝くのがロロベリアの狙い。


 そして狙い通り、予想外な手応えに黒槍が大きく弾かれたスキを見逃さずロロベリアは瑠璃姫を振り上げた。


()()()()()と言ったはずだ――っ」


「がは――っ」


 が、弾かれた勢いに逆らわずガイラルドは回転、遠心力を利用した黒槍の一振りがロロベリアの脇腹を直撃。

 メリメリと鈍い音が体内に響く中、振り抜かれるまま身体は宙を舞い練武館の壁に激突した。


 にも関わらず――


「ごほっ! か……はぁ! は……!」


 意識を失うどころか精霊力の解放を維持したままロロベリアは瑠璃姫を杖に立ち上がる。

 手応えから肋骨の何本かは確実に折れたはず。

 壁に打ち付けられて全身が痛むはず。

 なのに治療術で最低限の治療を施し、精霊力の温存に努めるよう未だ勝利を諦めようとしない。

 よろよろとした動作で構えを取るロロベリアの気迫にガイラルドも言葉を失い、気圧されるまま後ずさるも――


「そこまでじゃ」


 両者の間に割って入ったダイチが終了を宣言。


「さすがにこれ以上は続けさせられん。すまんのう、ロロベリアちゃん」


 審判としては妥当な判断、むしろ遅いくらいでもロロベリアに続行の意思があるだけにダイチは謝罪を付け加える。


「……いえ」


 もちろんロロベリアもダイチの判断が正しいと受け入れ、精霊力の解除と共に瑠璃姫を鞘に納めた。

 同時に敗北も受け入れ瞳から零れる涙を拭いつつゆっくりとガイラルドに歩み寄る。

 対するガイラルドは精霊力を解除しながら安堵の息を漏らした。

 終わってみればロロベリアは手も足も出ないままガイラルドに完敗。


 だがそれでも――


「お相手頂き……ありがとうございました」

「こちらこそ、いい戦いが出来て感謝している」


 一礼するロロベリアは敬意を表するに相応しい強者と深く頭を下げた。




結果はロロの完敗でした。アヤトと再会して一年で飛躍的に成長しても、まだまだ他国の強者との差は開いています。

それでもこの一年で得た経験、備わっていた持ち味を十分発揮して気迫だけはガイラルドに負けませんでした。




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