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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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認めた眼差し

アクセスありがとうございます!



 アドリアの思惑を外すついでにアヤトから押しつけられたガイラルドとの模擬戦は序盤から激しい攻防となっていた。


「学院生でありながらこの領域にいるとは『恐ろしい才覚だ』」


「お褒め頂き『光栄です!』」


「『しかし後継者が』習得しているのならばラタニ=アーメリも『この領域にいるということか』」


「この領域というか――お姉ちゃんは『規格外過ぎて』バケモノの領域ですよ!」


「バケモノとは『想像もつかない』領域だ。ところでロロベリア嬢」


「『なんで』――しょう!」


「後継者でありながら『師ではなく姉と』呼んでいるのはなぜかな?」


「…………いろいろあったん――『です!』」


 一見会話を楽しんでいるようでも言葉の随所に精霊力を込めて精霊術を発動している。

 故に両者の間で水鏃と礫が飛び交っているが、足を止めたまま水鏃を礫で迎撃しつつ更なる礫で追い打ちをかけるガイラルドに対し、ロロベリアは館内を駆け回りながら、時には瑠璃姫で礫を叩き落として合間に水鏃を放っていた。

 両者の保有量は五倍以上差があるのでロロベリアは消費を抑える必要がある。また精霊術の物量もガイラルドが上回っていることから近づくこともできない。

 同じ発動法でも精霊力の保有量だけでなく、精霊術戦の経験から戦況はガイラルドの優勢。このままでは精霊力か体力が尽きてロロベリアの敗北は必至。


 しかしロロベリアの手札は他にもある。


「色々あったとは興味深い。師であり姉でもある『ラタニ=アーメリについて教えてもらえぬか』」


「ではこんなのは――『どうですか!』」


『パチン』


「なに――!?」


 襲いかかる礫を瑠璃姫で叩き落とし、反撃の精霊術を放つロロベリアにガイラルドは目を見開く。

 指鳴らしを加えた水鏃と氷鏃の同時発動。さすがのガイラルドも音の発動は習得どころか予想も出来ず迎撃が遅れてしまった。


『守れ!』


 それでも公国最強の精霊術士、すぐさま言霊で岩壁を顕現させて間一髪で防がれるもロロベリアが距離を詰めるには充分な隙で――


「はあ!」


 瑠璃姫に精霊力を纏わせ岩壁を斬り伏せたロロベリアは左手に蒼月を顕現、岩壁の先に見えるガイラルド目がけて振り下ろした。


「くう!」


 だが完全に虚を衝く連戟にもガイラルドは反応、半分残る岩壁を蹴りつけ強引な回避。


『弾けろ!』


「っ――!」


 更に遠隔操作で岩壁を四散、弾ける礫から逃げるようロロベリアも後方へ飛んだ。


「届かなかったか……っ」

「……届いている」


 体勢を立て直し悔しがるロロベリアに苦笑しつつ、ガイラルドは確認するよう右足を踏みしめる。

 岩壁を蹴りつけた右足に蒼月の切っ先が触れたのか裾が開き脛に血が滲み、まさに皮一枚分ギリギリの回避だった。


「音の発動に然り、精霊力を武器に纏わせるだけでなく、剣を象るとは……それもラタニ=アーメリの教えだろうか」


 それはさておき、一連の攻防で見せた様々な技能にガイラルドは称賛の言葉が見つからない。可能にする制御力もだが常識を覆す発想、まさにバケモノ染みていることからラタニの教えによる成果と予想。


「えっと……」


 しかし問われたロロベリアは返答に窮してしまう。

 というのも音の発動はラタニ、しかし蒼月はアヤトの白夜を元に編み出したロロベリアのオリジナル。精霊力を纏わせる技能は自分の知る限りエニシやジンが編み出したもので。


「音の発動はお姉ちゃんのオリジナルですけど蒼月は一応私で……纏わせる技能は……色々ありまして」


 故に自分はラタニはまだしも他は濁すしかなく。


「ロロベリア嬢は色々がお好きなようだ」

「……すみません」


 苦笑いを浮かべるガイラルドに先ほどの勇ましさが嘘のように弱々しい謝罪を返した。



 ◇



 一方、序盤の攻防を観戦していたアヤトはロロベリアの情けない姿よりも別の理由からため息一つ。


「やはり白いのか。毎度のことながら詰めが甘い」

「アヤトくんは厳しいねぇ。でもまあ、甘いのは否めないか」

「……わたしは見事な連携に思えましたが」


 アヤトの意見にフロッツも同意のようだが、ミューズからすると相手が悪いだけでロロベリアの攻撃に問題があるように思えない。

 レムアも同じ意見なのか二人の辛辣な評価に首を傾げる中、フロッツは肩を竦める。


「連携はね。ただ出すのが遅すぎた」

「遅すぎたとは?」

「ガイラルド殿の情報が少ないから慎重に入るのは分かる。でも相手が格上なのは重々承知、ならロロちゃんは開始直後で出し惜しみするべきじゃなかった」

「序列一位さまだろうと白いのは所詮ひよっこに過ぎん。ガイラルドも曾爺さんの言葉で切り替えようと油断はしていた」

「だから油断してる内にたたみ掛ければ勝機はあったかもな。でも変に手の内を明かしたからガイラルド殿は警戒心を強めちまって最後の回避に繋がったわけ」


 アヤトも加わった分析にミューズはなるほどと頷く。

 現に開始直後のガイラルドが気を緩めていたのを精霊力の輝きで確認している。しかし言霊を使わない発動を見せた後、輝きから緩みは消えていた。

 模擬戦なので様々な戦術を試しつつ学んでもいい。ただ相手の心理状況も踏まえた戦術を試すのも後の成長に繋がる。

 特に今は模擬戦、失敗したところで命を取られるわけではない。加えて相手が格上だろうと勝利を求めていたのなら尚さら思い切った戦術を試してもいい。

 相手の情報がない余り、警戒しすぎたことでロロベリアが唯一の勝機を逃したのならこれも戦術ミス。もしかすると開始前にアヤトが勝つつもりでいけと発破を掛けたのも、ガイラルドの油断を逃すなとの意味だったのか。


「ただロロちゃんが後手に回るのも分かるんだよ。保有量が少ないからどうしても消費を躊躇しちゃうし」

「保有量に囚われすぎて勝利に対する嗅覚が鈍くなるのも白いのの改善点だな」


 またロロベリアの初手が半端になるのも見越していたのかもしれない。

 ロロベリアは相手を侮ることも、出し惜しみをするタイプではない。むしろ思い切りは良い方だ。それでも保有量の少なさが意識的な枷となり、相手の情報が少ないからこそ慎重になってしまうと。


「つーかひよっこが格上相手に出し惜しみなんざ自惚れだろ」

「ほんとアヤトくんは厳しいねぇ。それともロロちゃんに期待してるからこその厳しさか?」

「さあな」

「素直じゃないね……とにかく、状況による判断や対応はまだまだ甘いけど……見誤ってたわ。一対一の短期決戦ならロロちゃんは中位精霊術士とも遣り合えるレベルだぞ」

「もっと頭を使えりゃ条件抜きで遣り合えるだろうよ」

「だから素直に褒めてやろうぜ……。それに頭を使えたところでやっぱ相手が悪すぎる。ガイラルド殿の実力はぶっちゃけうちの術士団長でも分が悪い」

「ラタニの部下とも遣り合えそうだしな。ま、これはこれで良いお勉強になりそうだ」


 そして他の序列保持者に比べてアヤトがロロベリアにのみ曖昧な発破や助言しかしないのは自身で考えさせる能力を身に付けさせる為。


 誰よりも厳しく当たるのも期待の表れなら、その厳しさを向けられるロロベリアをミューズは羨ましかった。



 ◇



 序盤の激しい攻防から一転、両者は探り合うよう相手の出方を窺っていた。


(いい目をしている)


 睨み合いが続く中、ロロベリアから向けられる眼差しにガイラルドは評価を改める。

 力の差を見せつけられれば揺らぐもの。しかしロロベリアは揺らがず、勝利を掴もうと模索している。

 学院生どころか正規の精霊術士でさえ習得が困難な技能を身に付けた才覚よりも、折れずに挑み続ける強い意思を持つ者は必ず強くなる。

 序列一位と言えど所詮は学院生と侮っていたが、実際に相対すれば国関係なく楽しみと思える逸材で。


(……このまま続けても充分退けられるが)


 恐ろしいことに音の発動を抜きにしても発動速度はロロベリアが僅かに上回っている。それでも保有量や経験の差から精霊術のみで勝利するのは容易い。

 ただあれほど真っ直ぐな瞳で挑まれてはガイラルドも武人としての血が騒ぐ。


(あのような瞳を向けられ半端なまま相対するのは無礼か……やれやれ)


 学院生と侮っていた謝罪も含めて、後に主のアドリアから叱責を受ける覚悟でガイラルドは全力で受けて立つと決めた。


『黒槍よ!』


 言霊で顕現したのは矛の長い漆黒の槍。

 感触を確かめるよう軽く回して構える姿にロロベリアもまた評価を改める。


「……槍使いでもありましたか」

「槍を常に携帯するのは大変であろう?」


 精霊術の扱いや腰後ろに装備しているダガーから精霊術を主力とする精霊術士と決めつけていたが、反応速度や体捌きの鋭さを考えれば武術の鍛錬を積んでいても不思議ではない。


 つまりガイラルドは近接戦も熟す万能タイプ。


 精霊術戦でも分が悪い相手が近接戦まで織り交ぜれば勝ち筋が絶たれたようなもの。

 なのにロロベリアの挑戦心は揺るがない。


(実に戦い甲斐のあるお嬢さまだ)


 だからこそ()()()()()()()()()()()()とガイラルドは認めたのだ。




受け答えは相変わらずグダグダなロロですが、意志の強さは一級品。

その可能性は公国最強も認めるほど、アヤトくんも素直に認めれば良いんですけど……無理でしょうね。

とにかくガイラルドさんも本領発揮したところで、次回で二人の戦いは決着となります。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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