嗾ける
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スフィラナ家の当主アドリアと護衛兼従者のガイラルドとの面会はシゼルの時と同じ座席位置で始まった。
つまりアヤトは進んで下座を選んだが、ミューズの従者として背後に立つレムアと同じ平民なので二人は当然のように受け入れている。
この反応から事前に注意されたよう、アドリアの関心はアヤトではなく自分たちにあるかもしれないとロロベリアは妙な緊張をしていたりする。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はスフィラナ公爵家当主、アドリア=ラグズ=スフィラナです」
「スフィラナ公爵家に仕えるガイラルド=ハーヴェスと申します」
それはさておき、着席したところで改めてアドリアが名乗り、目配せされたガイラルドも恭しい一礼を。
事前に教えてもらっているので今さらではあるがロロベリアたちも会釈で返答。
「王国、教国から客人が来られたとお聞きした物で是非ともご挨拶したく伺わせて頂きました」
「来るなら来で事前通達しておけば良いものを。お陰でミューズちゃんやロロベリアちゃんは身支度する暇もなかったんじゃぞ。故に身なりについては目を瞑るように」
「…………」
アドリアの揚げ足を取るようにダイチがフォローしてくれるが、どこか批判的に感じるのは両家の関係故か。ロロベリアは当たりの強さに内心ハラハラしてしまう。
「もちろんです。それでお詫びと言うわけではありませんが、お近付きの印にこちらを受け取って下さい」
しかし同じ当主でも年齢の差からダイチを立てているのかアドリアは気にした様子もなく、またガイラルドに指示して持参していた手土産をテーブルに。
「こちらは私が贔屓にしている商店オリジナルのお茶菓子とお茶、それと急な訪問のお詫びとしてヒフィラナ卿には葡萄酒を。お口に合えば良いのですが」
「……ワシが酒を止めたのを知っておるじゃろうて」
「ですが昔は大変お好きだったと父から聞いておりますし、リョクアと一緒に飲みながら語り合う切っ掛けになればと思いまして」
「随分とお節介な土産じゃな。まあリョクアと飲むのは考えておくとして、ありがたく頂戴しておこう」
お土産の受け渡しで妙にピリピリとした空気になるのはやはり両家の関係か。特にお酒を止めたらしいダイチにお酒を用意しているあたりがアドリアのささやかな嫌がらせに思えてしまう。
貴族特有の探り合いを目の当たりにしたロロベリアは既に辟易していたが本番はここからで――
「なるほど。ミューズ嬢にとって王国への留学は良い経験になっていると」
「はい。教国とは違う文化、また物事の捉え方を知ることで視野を広くさせてくれます」
「そうですか。やはり実際に体験されている方のお話は参考になります。私も今後の公国を思うならば、思い切って息子を留学させるべきだったと痛感させられました。ところでロロベリア嬢は二学生でありながらマイレーヌ学院の序列一位になったと聞き及んでいますが、ニコレスカ卿の存在は大きいと思われますか?」
「ですね……お義父さまには良くして頂きました。特に入学前に手解きだけでなく……心構えなどを教わったお陰でもあります……」
身分には疎くとも社交の場に慣れているミューズに対し、アドリアに話題を振られる度にロロベリアは言い淀みを繰り返していた。
学院生という立場を考慮してアドリアも学院の話題を上げてくれるが、今まで大物との面会を熟してきたロロベリアでも基本はアヤトやラタニがメイン。あくまで同席していた側なので積極的に話題を振られるのに慣れていない。
ちなみにそのアヤトは会話に参加することなく我関せず、意外にもダイチは口を挟まず静観するのみ。
なのでアドリアとミューズ、ロロベリアが中心としたお茶会のような状況。もちろんフロッツも会話に参加しているが割合で言えば少なめに感じるならアドリアの目的は予想通り自分たちとの交流かも知れない。
お陰でロロベリアにとっては気疲れが耐えない時間、しかしアヤトが会話に参加しなければやらかす確率も激減。故にフロッツの負担も軽減するならこのまま面会が終わった方が良いかもしれない。
などとロロベリアはいっぱいいっぱいになりながら、フロッツは気を緩めていたが甘かった。
「そうそう……序列と言えば、君は持たぬ者でありながら序列十位とも聞いているよ」
「「…………っ」」
今まで常に前に向けていたアドリアの視線がアヤトに向けられ、ロロベリアとフロッツはビクンと振るえる。
「しかも王国最強と名高いラタニ=アーメリの弟子だそうだね」
「だったらなんだ」
「なに、君以外の持たぬ者も精霊力を持つ者に匹敵する実力者が学院生にいる、とも耳にしている」
顎に手を当てるアドリアは笑みのまま、ただ見据える瞳は興味と疑惑の半々。アヤト以外にも常識を覆した持たぬ者が学院にいるとはいえ、序列入りとなれば信じられないだろう。
「もちろん不正行為など疑っていないよ。ただいくらラタニ=アーメリが師事しているとはいえ、君は持たぬ者だ。さすがにマイレーヌ学院で序列入りとは少々信じがたくてね」
故にアドリアの疑問は当然。特に精霊力の有無に固執する価値観の持ち主なら尚更だ。
もしかすると自分たちとの交流だけでなく、アヤトが噂通りの実力なら引き抜くだけの価値はあるとの見定めもアドリアの目的かもしれない。
「いったいラタニ=アーメリからどのような師事を受けているのか、実に興味深い」
「なんだ、あんたはラタニに興味があるのか」
「もちろん興味はあるよ。自身が若くして王国最強と謳われるほどの精霊術士でありながら、持たぬ者を序列入りさせるほどの教育者となれば持たない方がおかしい」
「故に弟子の実力を知りたいと、わざわざ右腕の精霊術士さまをご同行したわけか」
「ああいや、ガイラルドは常に私が同行させているんだ。ただ……ガイラルドも興味があるだろう?」
「むろんです。私も精霊術士の端くれ、他国にまで名を響かせる王国最強の精霊術士を意識せずにはいられません」
ラタニを話題に上げながらアドリアは遠回しにガイラルドを嗾ける。
「つまり、弟子を通じてでもラタニがどれほどのバケモノかを知りたいと」
「そちらさえ良ければ是が非でも」
「なるほどな」
挑発的に笑うガイラルドに対しアヤトは苦笑で返す。こうなると二人の模擬戦は避けられないだろう。
アヤトの実力が知られたところで真実に行き着くとも思えない。ただこの中で唯一真実を知るロロベリアとしては否が応でも危機感を抱いてしまう。
「なら白いのと遊んでみるか」
「白いの……?」
「へ……?」
……抱いていたのにまさかの指名にキョトン。
「ラタニのお弟子に興味があるんだろう」
「……ロロベリア嬢も弟子なのですか」
「知らなかったのか? 白いのは弟子どころかラタニが後継者として目にかけているほどの精霊術士さまだ」
「それほどまでに……」
白いの呼びで伝わらなかったがロロベリアの反応や髪色で察したのか驚嘆の視線を向けるアドリアやガイラルド。
ただラタニの後継者などロロベリアも初耳な情報に別の意味で驚くもアヤトは止まらない。
「でも私は君の実力にも興味があるんだよ」
「あいにく俺はそこにいる保護者に自重しろと散々クギを刺されている。現に今まで大人しくしていただろ」
「したけどそうじゃないんだよ……」
自重の意味を間違って捉えているアヤトに肩を落とすフロッツも無視。
「故に俺は遠慮させてもらう。代わりと言っては何だが、あんたらが大好きなラタニの手腕がどれほどの物か白いので存分に知ればいい。曾爺さん、練武館を使っても構わんな」
「くっくっく……好きにせい」
今まで静観していたダイチもアドリアの思惑が交わされたのが愉快なのか笑いを堪えて了承。
「決まりだな」
本人の意思を確認することなく、ガイラルドとの模擬戦をアヤトは勝手に決めてしまった。
公爵家当主のアドリアさまでも思い通りにならないのがアヤトくん。
そしてこれまで帝国ではエニシと、教国ではダリヤといった他国の強者と遊んできたアヤトくんですが、ガイラルドとの勝負をロロを嗾けることで回避しました。
ロロの実力は公国最強の精霊術士ガイラルドにどこまで通用するのか。
そもそも本当に二人が勝負するのかはもちろん次回で。
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