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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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不安な内情

アクセスありがとうございます!



 ヒフィラナ家滞在三日目。


 今朝は普段通りの時間に起床したロロベリアだったが朝食はアヤトの部屋で済ませたりする。

 もちろん貴族としての振るまいを要求されるのが嫌ではなく、朝食まで自分たちに合わせるのは気疲れするだろうとダイチが昨日と同じく配慮してくれた結果だった。

 変わりにお茶などに誘われたら付き合って欲しいと頼まれたが、客人として招かれている身としては当然の交流と了承。

 なので今朝はアヤトの部屋に集まり仲間内での気楽な時間を満喫。フロッツは起きる気配がなかったので残念ではあった。


 朝食を済ませるなりアヤトは早速書庫へ、ロロベリアはミューズと一緒に自主学習を始めようとしたところで早速お誘いが。


「――はぁ!」

「なんの!」


 ただお茶ではなく、練武館でロロベリアの瑠璃姫とダイチの柳雪が交わっていたりする。

 昨日の模擬戦をセルファやミナモから報告を受け、二人の実力がどれほどかダイチも試してみたかったらしい。

 強者との立ち合いは望むところとロロベリアだけでなくミューズも快く了承。

 ちなみに練武館にはミューズの他にレムアとミナモが。遅い朝食を済ませたフロッツはアヤトの様子を見に行くと書庫へ、そちらにセルファが付き添っていた。


「そいつがジンの娘が打った瑠璃姫か。見事な一振りよ」


 それはさておき、交わる瑠璃姫の刃の美しさにダイチは称賛。


「またロロベリアちゃんの制御も見事。セルファが負けたのもよう分かるわ」

「お褒め頂き光栄です……っ」

「じゃが剣筋はちーと素直すぎるのう」

「く――っ」


 からの、ダイチが手首を返した瞬間ロロベリアは見えない糸に引かれるよう体勢を崩してしまう。

 精霊力の部分集約で膂力や速度は増さろうとダイチの剣術は剣聖ダリヤに匹敵する。

 近接戦では圧倒的に分が悪いと判断するなり後方に飛んだ。


『パチン』


「セルファから聞いておるが、これまた面妖な術を使う」


 同時に指鳴らしで精霊術を発動、氷鏃を放つがダイチは余裕の回避。


『行け!』

『パチン』

『パチン』


「ほっほ、末恐ろしい娘さんじゃ」


 更に速度重視で水弾、水鏃、水刃の三種同時発動で狙うも捉えられない。

 アヤトやエニシのような瞬発力はないが、アヤトとの手合わせで感じたようにダイチの動きは淀みや間がない。

 まさに手にしている柳雪を体現するかのように雪が積もろうと折れることのない柳のようなしなやかさ、流される感覚が不気味で。


「はぁぁぁ――っ」


 故に自身の実力がどこまで通用するのか知りたいと新解放の部分集約を実行。


「ほんに末恐ろしい娘さんじゃ」


「行きます――」


 アヤトとの訓練で感覚のズレはかなり修正された切り札で、瞬時にダイチとの間合いを詰めた。


「じゃが剣筋同様、ロロベリアちゃんは表情も素直すぎるのう」

「……よく言われます」


 しかし瑠璃姫を振り抜く前に、柳雪の切っ先が首筋に当てられてロロベリアは精霊力を解除。

 初見だろうと完璧に動きを見切ったからこそダイチは数ミリメルというギリギリの位置に柳雪を振るえたのだろう。

 感覚を修正してもまだまだ修正すべき点は多いが、こうも簡単に見切られては立つ瀬がない。


「ありがとうございました」

「ワシこそ面白いものを見せてもろうて感謝しておるよ」


 とにかく勉強させてもらったとロロベリアは一礼、ダイチも満足そうに柳雪を鞘に納める。


「それにしてもミューズちゃんもじゃが、よくぞここまで研鑽を積んだものじゃ」


 ロロベリアより先に模擬戦を行ったミューズも含めてダイチは顎を撫でつつ感心する。

 元の資質に加えてラタニやアヤトから受けている質の高い訓練の成果から二人の実力は既に見習いを通り越して下位精霊術士に匹敵しているので当然の賛辞。

 ただ実力があろうと経験不足は否めない。特に精霊力の視認による優位性から精霊士と相性の良いミューズでも、身体能力で劣るダイチに最後まで翻弄されたのが良い例だ。


「ですがアヤトさまにはまだまだと呆れられてばかりで……」

「……私もです」

「お主らの若さで充分な強さじゃが……あやつは随分とスパルタのようじゃ」


 だからこそ素直に賛辞を受け入れても二人に傲りはない。その心構えもアヤトという存在が大きいようでダイチは苦笑を滲ませる。


「現にワシはいっぱいいっぱいじゃ。故にちょいと休憩しようか」

「では飲み物をお持ちします」

「私もお手伝いさせて下さい」


 なので少しでも力になればと思う反面、さすがに連戦は酷と一休みを提案。ミナモに続きしれっとレムアも加わるが従者としての矜持を尊重して見送った。

 またダイチとの時間を模擬戦にばかり使うのも違うと、ロロベリアやミューズも休憩も兼ねて交流を深めることに。

 ただロロベリアとしてはこの機会に確認したい情報もあるわけで。


「ダイチさま、その……スフィラナ家についてですが……」


 他国の内情なので言い淀んでしまうがシゼルの忠告が頭から離れない。

 スフィラナ家だろうとアヤトが靡くとは思えないが、ダイチやシゼルのように友好的な対応をしてくるとは限らないのだ。

 本当に接触してきた場合に備えて、詳しい情報を知っておきたいのはミューズも同じ。


「まあ分からんでもないが……そうじゃのう」


 二人の心情を察したダイチは簡潔にでも語ってくれた。

 元々スフィリア公国を治めていたスフィラナ家の子孫が独立してヒフィラナ家とミフィラナ家が誕生したのは知るところ。ただ同じ公爵家でもヒフィラナ家やミフィラナ家は分家のような立ち位置らしい。

 なので本家のスフィラナ家が治める公国を両家は陰ながら支える立場でもあったが、王国と帝国の戦争を切っ掛けにパワーバランスが崩れ始めた。

 というのも戦争中に元首を務めていたスフィラナ家当主が急死、後継ぎがまだ若いということから代わって元首として難しい情勢を乗り切ったのがミフィラナ家の当主。

 そして終戦間もなくスフィラナ家の当主が元首に返り咲いたが、疲弊した国を上手く纏められなかった。


「そこでスフィラナ家のクソ当主がワシを指名したんじゃ。なんせワシは亡き妻に見初められて公爵家に加わった元子爵家の若造、体よく使われたんじゃよ」


 ……言い方はさておいて、戦時中以上に厄介な情勢をダイチは元首として丸投げされたらしい。要は失敗も全て押しつけられるとスフィラナ家は逃げた形になる。

 しかし良い意味で公国貴族としてのプライドがないダイチは平民に寄り添った統治に踏み切り、セルファから聞いた未来の人材を育てる活動も始めた。もちろん当時は他貴族家の反発に苦労させれられたが、同じく難しい情勢を任された経験のあるミフィラナ家が協力してくれたこともあり上手く乗り切ったらしい。

 そういった活動が時間をかけて実り、ようやく現在の公国にまで立て直せたのだが――


「こう見えてもワシは民衆から結構人気があるからのう。だからこそスフィラナ家としては面白くないんじゃろうな」


 衰弱した公国を立て直した功績によってヒフィラナ家の発言力が強くなり、協力したミフィラナ家も同じ。

 更に戦時中に元首が急死したのが切っ掛けとは言え、後の大変な時代もダイチに押しつけたスフィラナ家は民衆から逃げたと判断されて支持率も低下。戦時中、戦後の立ち回りによって本家、分家の関係性から現在の拮抗した権力になってしまった。

 そして身分や精霊力の有無に固執する古い考えが抜けきれないスフィラナ家に次を任せるのは危険と、能力も踏まえて同じ志を持つシゼルを無理矢理に元首に立てたらしい。

 表向きは三大公爵家が協力して公国を統治しているも、裏では本家のスフィラナ家、分家のヒフィラナ、ミフィラナ家という構図なわけで。


「まあスフィラナ家といえどお主らにちょっかいをかけるほどバカでもない。それにスフィラナ家じゃろうとワシやシゼルが後ろ盾になる。多少のやんちゃくらいなら処理してやる故、そちらも安心せい」


 ダイチは頼もしい約束をしてくれるが、果たしてアヤトが多少のやんちゃで済ませるだろうか。


「……旦那さま」


 などと心配するロロベリアを更に煽るよう、練武館に戻ってきたミナモがどこか険しい表情で。


「王国、教国の客人にご挨拶をしたいと()()()()()()()()()がお越しになっております」


「…………」


 ミナモの報告にさすがのロロベリアも嫌な予感を拭えなかった。




ダイチから三大公爵家の関係性を聞いたロロが嫌な予感を抱くのも仕方ないでしょう。

そしてシゼルさまと面会したならスフィラナ家を避けられないのも仕方ないでしょう(笑)。



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