二つの密会
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シゼルとの面会後、そのまま夕食の時間となった。
「……やっぱ疲れるわ」
「……私もです」
夕食を終えたフロッツとロロベリアは昨日と同じく貴族としての立場を要求させる時間に辟易していた。
ちなみに一同と言ってもアヤトは欠席。昼間の首都観光やシゼルとの面会で心身共に疲れたらしく、食事も取らずに休むと客室に戻っている。
身体の体力はもちろん神経も図太いアヤトがこの程度で疲れるはずもない。元より他者と関わるのを苦手としているなら、面倒でサボった可能性もある。
ただヒフィラナ家との夕食に同席しなければやらかす心配はない反面、相手側の反応を心配していたフロッツだったが杞憂に終わった。
欠席理由を真に受けたというよりリョクアやミリアナは興味を示さず、昨日と同じくミューズやロロベリア、フロッツと積極的に交流。ホノカはあまり気にした様子もなく、せいぜいクアーラが少し残念がっていた程度。
ワカバと確執のあったらしいリョクアは仕方ないとしても、血縁者といえどダイチ以外には他人としか思えないのか。また身分や精霊力の有無による価値観から、どうもアヤトに対する関心が薄いように感じた。
せっかく会えた血縁者ならもう少し気にかけて欲しく思うが、むしろアヤトの方が無関心なだけに相手側を責める気も起きないわけで。
「許されるなら俺も部屋で飯食いたい……」
「同感です……」
それよりもアヤトが不在なだけ気持ちは楽でも貴族としての立場を要求される時間は疲れるわけで、セルファやミナモが居るにも関わらず本音が表に出てしまう。
「もしお望みならば旦那さまにお伝えしておきますが」
「そんな、わたしたちまで席を外せば相手側に失礼かと」
「ミューズさまの仰るとおりです。お二人もこの機会になれる努力をされては如何でしょうか」
「「……ですね」」
しかしミューズやレムアの言い分は最も。客人として招かれている立場としてもヒフィラナ家との交流を気疲れするからと避けるわけにもいかない。なので平然とサボれるアヤトの神経がおかしいと呆れる反面、少しだけ羨ましくもあった。
ただ出発前クローネにも呆れられたロロベリアとしては貴族の嗜みを学ぶ機会と割り切ることに。
「それよりもアヤトさまは大丈夫でしょうか」
「大丈夫もなにもサボりを心配する必要ないだろ」
それはさておき客室に戻る中、妙な心配をするミューズにフロッツはため息一つ。
まさか本当に疲れて休んでいると思っているのなら、別の意味でミューズが心配になる。
「体調面と言うより食事を抜きにするのは良くありませんから」
「そっちの大丈夫ね。まあ腹減ったとしても自業自得だ」
さすがに別の心配をしていたと知りフロッツも安堵しつつ辛辣な返答。
「てなわけで、セルファさんやミナモさんも放っておくよう頼むぜ。これも良いお灸だ」
「「畏まりました」」
「ミューズちゃんやロロちゃんも、甘やかすの禁止な」
「「……わかりました」」
故にクギを刺されたセルファやミナモは苦笑いで、ミューズやロロベリアもしぶしぶ了承。
「よろしい。てなわけで今日は大人しく過ごすってことで。おやすみ~」
「「おやすみなさい」」
「「「おやすみなさいませ」」」
保護者の立場が板に付いたフロッツと挨拶を済ませてそれぞれ客室に、セルファやミナモも下がっていくが――
「……レムアさん、今からアヤトさまのお部屋に行ってもいいでしょうか」
室内に入ると同時にミューズから思わぬお願いをされたレムアはキョトン。
「先ほどフロッツさまに甘やかさないよう言われたばかりですが」
「少しだけで良いんです。お話がしたいだけなので……」
とりあえず忠告してみるもミューズが引くように感じられない。
正直なところ伯爵令嬢のミューズを夜中に異性と二人きりにさせるのは従者としては止めるべき。しかしその異性がアヤトで、恋路を応援している身としては止めたくない。
そもそも相手はアヤト、二人きりにしたところで何もないと信頼できる……それが良いのか悪いのかはさておいて。
「……仕方ありませんね」
主にしては珍しい積極的な行動、アヤトに対する信頼もあり最終的にレムアは目を瞑ることに。
「少しだけですよ」
「ありがとうございます!」
了承するなり笑顔でアヤトの部屋に向かうミューズが追い返されないようレムアは祈っていた。
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「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ」
約束通りそう時間を空けずミューズは客室に戻ってきた。
ただ祈りは通じたようで戻ってきた表情から相手にはしてもらえたようでレムアも笑顔で出迎えられた。
「アヤトさまとどのようなお話をされたのですか」
「今後について……でしょうか」
「今後とは公国滞在中の予定ですか?」
「はい。アヤトさま次第になるので、今は秘密にさせてください」
どんな予定を話し合ったのかは伏せられたが、後ほど話すつもりがあるなら追求するほどレムアも無粋ではない。
「畏まりました」
少なくともミューズの表情からして良い予定なら尚更と、その時を楽しみに待つに留めた。
ミューズとアヤトの密会からしばらく――
「……お主はそこでなにをしておるんじゃ」
思わぬ来客にダイチは他に言葉が思いつかなかった。
なんせ書斎でセルファやミナモから一通りの報告を受けた後、そろそろ寝室に向かおうと立ち上がるなりドアではなく窓を叩く音と共に声が聞こえ、まさかと思いながらカーテンを開ければ闇夜に紛れるようバルコニーにアヤトが立っていたのだ。
「寝る前に曾爺さんと茶でもと思ってな」
しかも要件はお茶の誘いらしい。
二階の客室から四階の書斎まで警備にも気づかれずどうやって訪れたのか。
真意も含めてまだまだアヤトを過小評価していたと痛感するがとりあえず。
「ならば普通に訪ねて来ればよかろうて……」
予想斜め過ぎる行動にさすがのダイチも呆れ果てていた。
公国に来てから大人しめ(?)だったアヤトくんが徐々にアヤトくんらしくなってきました。
ミューズと、そしてダイチさまとの密会について詳しい事情はもちろん後ほど。
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