気遣えば…
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観光を終えたロロベリアたちが一息付く間もなく、外出先から戻ってきたダイチから応接室に呼ばれた。
理由は現公国元首を務めるミフィラナ家の当主がアヤトとの面会を望んでいるからで。
「なんで向こうから来るんだよ……。確かにアヤトくんはヒフィラナ家の血族だけどわざわざ元首さまが会いに来る必要ないだろ……」
故にフロッツが嘆くのも無理はない。当主のダイチが好意的なこともあり、ヒフィラナ家で多少はやらかそうと親族という免罪符でまだ気持ちにゆとりがあった。
しかし相手は遠い親戚に当たろうと公国のトップ、縁もゆかりもない大物がなぜ足を運んでまでアヤトとの面会を望むのか。
また疑問とは別に元首との不意打ち面会にロロベリアらも緊張から表情が強ばる中、変わらずソファに寝そべり読書をしていたアヤトはため息一つ。
「ブツブツうるせぇんだよ。つーかなぜお前らは俺の部屋に群がってんだ」
「もっと気にすることがあると思うけど……」
その愚痴にロロベリアこそ呆れてしまう。
ちなみに観光から戻ってそのままアヤトの宿泊している部屋に集まっているのは全員が揃った方がセルファたちがお茶の用意を一度に済ませられるのが理由。まあロロベリアやミューズはたんに少しでもアヤトと一緒に居たいだけなのだがそれはさておき。
「ミフィラナ家のご当主はワカバさまと面識があり、廃嫡後も気にかけられていたのでその為かと」
セルファが言うにはワカバの消息を心配している中、ダイチから曾孫の存在を聞いて自分も会ってみたいと訪れたらしい。
そのような事情から面会を望むなら無下に出来るはずもなく、
「またミフィラナ家ご当主も旦那さまと同じく寛容な御方です。なのでアヤトさまが懸念されていた作法についても気にされないかと」
「……どの程度まで寛容なんだろな」
更にミナモの情報から僅かながらフロッツも持ち直す。
そもそも元首側からの面会希望を断るわけにもいかない。
「なのでアヤトさま、宜しければお会いになって頂けないでしょうか」
「別に構わんぞ」
「……やっぱ変なところで聞き分けいいね……君は」
まあ内心断った方がまだ不敬にならないかもと揺れていたが、読書を中断して立ち上がるアヤトにフロッツも開き直るしかない。
もちろん他の三人も同行、セルファに案内されて一階の応接室へ。
「…………君たちか」
「お帰りなさいませ。リョクアさま」
向かっていたが、階段を降りるなりリョクアに出くわしセルファは足を止めて一礼を。
しかしリョクアはセルファに目もくれずアヤトを睨み付ける。
「念のために忠告するがくれぐれも粗相のないように。特にお前はだ」
「へいよ」
「ふん」
注意を受けてもアヤトはどこ吹く風、険しい表情のままリョクアはそのまま二階へ。
「リョクアさまじゃないけど、マジで頼むぜアヤトくん」
「だから、へいよと答えただろう」
面会前に一騒動起きずに済んだものの、改めてフロッツも注意を促すがアヤトは相変わらず。
それでも後には引けず、応接室に到着してまずセルファがノックを。
「旦那さま、みなさまをお連れしました」
『入るがよい』
ダイチの許可を受け、フロッツ、ロロベリア、ミューズ、レムア、最後にアヤトの順で室内に。
「呼び出してすまんのう」
上座で出迎えるダイチと共に左側面のソファに座る老婦人が微笑みかける。
この老婦人こそシゼル=ラグズ=ミフィラナその人で女性ながら公国の元首を勤めるミフィラナ家当主。
三つ編みに結い上げた白髪や涼やかな碧眼、また六〇過ぎにしては若々しさもあり、ロロベリアの第一印象は聞いていた通り優しそうな婦人。
だが元帝国領の名残から実力主義の色が強い公国で元首を担うだけあって、力強い威厳も感じられるがとりあえず。
「お初にお目に掛かります。ミューズ=リム=イディルツと申します」
「ロロベリア=リーズベルトです」
「私はフロッツ=リム=カルティ」
「ミューズさまの従者、レムアと申します」
まずはなによりご挨拶とミューズから順に自己紹介を。
「ワカバの息子、アヤト=カルヴァシアです。本日は私のような若輩者との面会を希望して下さり光栄の極み」
「「「え!?」」」
……したのだが、最後に片膝を突き頭を下げるアヤトの出来た対応にミューズ以外の面々は場も忘れて驚愕の声を上げてしまう。
もちろんダイチもまさかな対応に目を丸くし、事前に為人を聞いていたシゼルも唖然。
「……ダイチさん? 話しとは随分違うような方に見えるのですけど」
「ワシにも別人に見えるが……アヤトよ、なにか悪い物でも食うたのか」
「そちらに居られるフロッツさま、先ほどはリョクアさまにもシゼルさまに対し失礼のないようにとクギを刺されていた故、対応を改めたまででございます」
ダイチの疑問にもアヤトは顔も上げず釈明するも、なぜかシゼルは困ったように眉根を潜めてしまう。
「そう……なの? でもわたしとしては普段通りのあなたとお話ししてみたいのだけど……」
「宜しいのですか?」
「もちろんよ。今は私的の場だから礼儀なんて気になさらないで、楽しくお喋りしましょう?」
「――なら遠慮なく」
『…………』
シゼルが要望するなりアヤトは立ち上がり、先ほどの恭しい姿が嘘のようにふてぶてしくほくそ笑む。
その変貌に周囲は唖然となるもアヤトは止まらない。
「だが俺と話して楽しめるかどうか責任はもたんぞ」
「いや……確かに普段通りのアヤトくんだし、むしろさま付けされた時は鳥肌もんだったけどそれにしては普段通りすぎじゃね?」
「ついでに言っておくが不快と思えば遠慮なく叩き出してくれても構わんぞ」
「それも普段通りすぎるだろ! ていうか俺の話し聞けよ!」
速攻でフロッツが抗議するもアヤトは無視。
対するシゼルと言えばアヤトの忠告に不快どころか楽しげに笑った。
「本当にダイチさんが言っていた通りですね」
「じゃろう? しかしアヤトよ、事前にクギを刺されたくらいで改めるお主でもなかろうて。今のはどんな悪ふざけじゃ」
「悪ふざけじゃねぇよ。母の身を案じてわざわざ来てくれた客人なら敬意の一つも払いたくなるだろ」
ニヤニヤと真意を問うダイチにアヤトはため息一つ、そのまま下座のソファに腰掛け肩を竦める。
「だがま、その客人が普段通りで構わんと言うなら遠慮もいらんだろう。違うか?」
「違わないわね。でもどうせなら向き合ってお喋りがしたいわ」
「ご貴族さまを下座に座らせるのは気が引けるんでな。つーかお喋りなんざどこに座ろうが出来る」
「あなたって変なところで律義なのね」
「かもな」
「許可をもらった途端、絶好調だな……アヤトくん」
「アヤトさまですから」
「何度も言うけどミューズちゃんは全部それで済ませない」
不敬極まりない態度でシゼルに接するアヤトにお腹を押さえるフロッツを他所にミューズは変わらず微笑ましげで。
「ですがシゼルさまも楽しそうにされているなら良いんじゃないですか」
むしろ恭しいアヤトに違和感しかない上に、大物相手にやらかすアヤトにすっかり慣れたロロベリアは当然のように受け入れていた。
アヤトくんもおふざけではなく、言葉通り母を気にかけてくれていたシゼルに敬意を表したんですけどね。
普段の行いが行い、微妙な空気になって当然です……作者も違和感が半端なかったです。
それはさておきシゼルさまとワカバママの関係、また血族以外の評価などは次回で。
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