要望の違い
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ワカバの肖像画を見せてもらった後、ダイチは急用を思い出したと退室。
ただ急用ではなくアヤトからワカバの話を聞いて、心の整理を付ける為に一人になりたかったのかもしれない。
自身の判断で見るに叶わなかったワカバの笑顔に思うところがあったのか。ギーラスに打ち明けたように、やはりダイチは今でもワカバを廃嫡した判断を後悔しているのだろう。 故に夕食の準備ができるまで客室で休むよう言われたアヤトらはセルファの用意してくれたお茶を飲んでから移動することに。
ちなみにヒフィラナ邸は四階建て。最上階は一族がメインに利用するフロア、三階は当主がメインに利用するフロアでタタミの部屋も同階に。二階は主に来客用として使われているフロア、一階に応接室や食堂などが。更に地下室があり、保管庫やワインセラーの他に使用人の控え室としても使われている。
また練武館の他に住み込みの使用人や衛兵が利用する別館、庭園はもちろん温室まであるそうで後ほどセルファが案内してくれるがまずは客室のある二階へ。
「室内はほぼ同じ作りとなっています。また部屋割りは一人一室を用意しておりますがミューズさまとレムアさんは同室でよろしかったでしょうか?」
「ご配慮、ありがとうございます」
客室も充分すぎるほどあるが主従を同室にしてくれた心遣いにレムアは感謝を。
またどの部屋にもシャワールームやトイレは完備、滞在中はセルファともう一人の使用人がお世話係として常に待機してくれると至れり尽くせりな待遇で。
「ミナモと申します。みなさまのお世話係の任、光栄の極みでございます」
荷物を運んでくれた客室の前で、もう一人の使用人が深々と頭を下げてお出迎え。
東国の血を引く女性で肩口で切りそろえた髪や少し垂れ下がった瞳も黒、また精霊士らしく護衛も兼ねいるらしいがそれよりも。
「彼女もアースラの同僚でして、旦那さまが私たちを引き取る切っ掛けとなった者で……私事になりますが私の妻でもあります」
「セルファさん、結婚されていたんですか?」
「息子もいますよ。ですが学院寮に入っているので夫婦共々みなさまのお世話係に任命されても問題ありません」
どうやらセルファと同じく縁のある者として世話係に選ばれただけでなく、男女一名ずつなら夫婦でとの考えがあったのか。
「アヤトさま、ミナモはアースラの妹分でもありました。私たちが孤児だった頃からお兄ちゃんと呼び懐いて――」
「セルファ」
などと納得していればセルファから更なる情報が。
しかし兄として慕っていたアースラの息子に知られるのは恥ずかしかったのか、ミナモはジト目で遮ってしまう。
「アヤトさま、生前の父君には大変お世話になりました」
「俺が言うのも何だがどういたしまして」
「故に滞在中はご遠慮なくわたしにお申し付けを」
改めてアヤトに感謝を伝えるよう、むしろミナモは慕っていたアースラの息子にせめてものお返しとして志願したようだった。
「ですが屋敷内では私がアヤトさま、フロッツさまを。ミナモがミューズさま、ロロベリアさま、レムアさんのお世話係として仕えさせて頂きます」
まあ同性の方が気兼ねなく接することができるとの配慮なので、間接的なお返しになるのだが――
「他にご要望があればなんなりと。できるだけお聞きするよう旦那さまから命を受けていますので」
「なら早速いいだろうか。部屋割りはどうなっている」
「「…………」」
セルファの申し出に早速アヤトから確認が、ロロベリアとレムアは嫌な予感しかない。
というのもこの流れはイディルツ家の滞在初日と同じなのだ。
「みなさまの客室は近くにする方が良いかと思い、奥から順にロロベリアさま、ミューズさまとレムアさん、フロッツさま、アヤトさまの順になっておりますが……」
「なら俺と白いのの部屋を交換で頼む」
予想通りアヤトは角部屋を希望。角部屋なら客室の前を通る者もいないと相変わらずな警戒心で。
「それと先ほど遠慮なく申しつけろと言われたが、俺の世話は必要ない」
「……ですが私どもは旦那さまより――」
「しがない平民でしかない俺が公爵家の使用人さまを使うというのは気が引けるんでな。何かあれば白いの伝手に頼むかもしれんが、俺の扱いはこちらにおられる貴族家のご子息ご息女さまや従者さまのオマケで構わん」
そして使用人と言えど近づけたくない警戒心も相変わらず。いくら父の同僚とはいえそれはそれらしい。
そもそも今回の滞在はあくまでアヤトがメイン。むしろ残り四人がオマケなのだが、教国でも客人として呼ばれたのはアヤトでロロベリアとカナリアが同行者だった。
つまり同じ展開になるのは予想に容易く、レムアからすればアヤトの要望にポカンとなるセルファやミナモの気持ちがとてもよく分かる。
またイディルツ邸の部屋割り決めの際、アヤトが使用人のお世話を拒否したと知らないフロッツも意味不明な要望にポカンとしていたがミューズはおずおずと挙手。
「アヤトさま、何かあればわたしにもご遠慮なく」
「ご息女さまを使いパシリにするわけにはいかんだろう」
「ねえアヤト、私も一応子爵家の息女なんだけど」
「お友だちなのですから持ちつ持たれつですよ。それにお部屋も隣りになりますから」
「確かに一理ある。ならばミューズにも頼むかもしれん」
「はい」
「……もしかして私は犬扱いだから関係ないの?」
「ミューズさま……お気持ちは分かりますがせめて私を使うよう提案してください」
「ロロちゃんも……気にするところはそこじゃないんだよ」
アヤトに頼られ満面の笑みで頷くミューズと扱いの差にもやもやするロロベリア。フロッツやレムアからすれば突っこみどころが満載なやり取りに呆れるしかない。
「……こう言っては何ですが、ワカバさまを彷彿とさせる御方ですね」
「だろう?」
しかしアヤトの要望にポカンとしていたセルファやミナモは目を見合わせ小さく笑う。
ダイチから聞いたように人嫌いのワカバも警戒心から使用人と関わろうとしなかったのか、とにかく二人が不快に感じていないならとフロッツやレムアも内心安堵。
「ロロベリアさま、アヤトさまのお部屋と交換をしても構いませんか?」
「構いませんけど……」
「ではお荷物を移動します」
結果、既に運び入れていたロロベリアの荷物をミナモが運び直して部屋割りも決定。
アヤトの警戒心から部屋割り一つで苦労はさせられたが、それでもイディルツ邸とは違う対応もあった。
「それではみなさま、夕食までごゆっくりと。何かあれば私たちにお申し付けください」
「アヤトさまも。ご要望通り私たちは控えさせて頂きますが何なりとお申し付けください。それと……滞在中、ご両親についてお話し頂ければ幸いです」
「むろん私からも是非に」
「そちらが良ければ今からでも構わんが」
両親の知人ということもあってかミナモやセルファの要望に対し、珍しくアヤトから交流の場を提案。
「世話をしてもらうのは気が引けるが、お話しするのを拒否る理由はないからな」
「ありがとうございます。ではわたしはお茶の用意をしてきます」
「私は旦那さまに一度報告に向かいます。アヤトさま、後ほど失礼させて頂きます」
「へいよ」
「私も一緒にさせてもらっていいよね?」
「できればわたしも同席させてください」
「好きにしろ」
早速行動に移る二人を見送りつつ、ならばとロロベリアやミューズも要望。
最終的にフロッツやレムアも同席して交流を深めることになった。
国関係なくアヤトくんはアヤトくんしてますが、セルファやミナモが両親の知人という理由だけではなく交流の場を提案したのは彼なりの成長でしょう……警戒心は変わらず野生動物ですけど。
またアヤトくんだけでなくロロやミューズにも振り回されている大人組、フロッツやレムアも大変ですね。
そして次回はダイチやリョクア以外の親族、つまりアヤトくんの親戚が登場します。どんな親戚なのかは次回で。
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