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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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知りたい笑顔

アクセスありがとうございます!



 月守や朧月をダイチに披露した後、続いて柳雪をアヤトが手に取らせてもらった。


「なるほど……ジンが魅入られるだけある」


 ジンやツクヨのように精霊力を使用した特種な製法ではない、従来の製法で打たれた刀はアヤトにとって興味深いのかどことなく機嫌がいい。

 ダイチも愛刀を褒められご満悦のようでにやりと笑った。


「朧月ほどではないが柳雪もなかなかの名刀じゃろう?」

「確かに強度や輝きは朧月より劣るが、柳雪は歴史を感じさせる渋みがある」


 アヤトが称賛するよう柳雪は朧月に比べて刀身の白銀や刃文の白い輝きは鈍い。しかし曇っているというより素材の玉鋼が持つ重厚さを感じさせたもの。ジンの祖父が打った一振りなら少なくとも一〇〇年は前の作品のはずなのに刃こぼれすらない。


「それに打ち手の技量はジン以上だろうな。切れ味だけなら朧月と同等かそれ以上かもしれん」

「……マジかよ」


 また素材で劣ろうと刀の特長とも言える切れ味が朧月に匹敵するなら鍛冶師としての技量は祖父に軍配が上がるだろう。

 朧月は聖剣すら斬り伏せた一振り、それ以上の切れ味となれば感嘆から息を呑むフロッツの気持ちもわかる。


「しかしこの強度で月守と切り結べるとは、曾爺さんの技量にも恐れ入る」

「ワシは剣を手にして六〇年、刀に持ち替えて二〇年以上じゃぞ? 当然じゃと言いたいが……お主が手を抜いたお陰じゃろうて」


 そして朧月以上の強度を誇る月守と渡り合えたダイチの技量も見事だがアヤトは剣を手にして五年、刀に持ち替えて三年ほど。にも関わらず勝利したアヤトが称賛すれば嫌味でしかなく。


「純粋な剣技でいやあんたが上だろ」

「立ち合い中にその全てを盗んでおいてよく言うわ」

「たく……褒めてやってんだから素直に喜べばいいものを」

「年取ると素直になれんもんじゃ。つーてもお主は若いくせに捻くれまくっているようじゃが?」

「言いやがる」

「なんせワシはお主の曾ジジィじゃ」


「……ほんと、アヤトくんの曾祖父がダイチさまで良かったぜ」


 互いにほくそ笑む両者に呆れつつフロッツは安堵の息を漏らす。

 いくら血縁者でも相手はヒフィラナ公爵家当主。アヤトの太々しさや上から目線の発言は非礼以外の何でもない。しかしダイチが気にせず接してくれるお陰で問題にならずに済んでいる。


「色んな意味で、ですね」


 ただロロベリアとしてはダイチの度量よりも人柄に感謝していた。

 憎まれ口をたたき合いながらも二人は楽しげで、あの気難しく警戒心の強いアヤトもそこはかとなく打ち解けているようにも見える。

 初対面なのに二人はまさに家族のような雰囲気で、対面のミューズも同じ気持ちなのか微笑ましく二人のやり取りを見守っている。


 ダイチはアヤトの敬愛する両親の仲を認めず一方的に廃嫡しただけに、正直なところ対面した際にどうするか心配はしていた。だがリョクアに正論を返したように、アヤトは元よりダイチの行動に非を感じていなかったのかもしれない。

 故に唯一の確執だったアースラを父と正式に認めた今、蟠りもなくダイチと向き合っているのだろう。


「またワシは年甲斐もなく負けず嫌いな曾ジジィでな。曾孫に負けてあの世に逝くわけにもいかん。滞在中にもう一勝負どうじゃ?」

「別に構わんが、どうせならこいつらとも遊んでやってくれ」

「ロロベリアちゃんとミューズちゃんか?」

「あんたほどの実力者と遊ぶのは良い経験になるからな。お前らも遊んでみたいだろう」

「もちろん。是非ともお相手をお願いします」

「宜しければわたしも勉強させてください」

「ま、無理しない程度で構わんが。なんせ実力者と言えご老体だ」

「……言いよる。じゃがワシもべっぴんさんに頼まれて悪い気はせんからのう、時間を作ろう」

「「ありがとうございます」」


 なので予想に反して和やかな初対面を楽しんでいるとノックの音が。


「入れ」

「失礼します」


 ダイチの許可に合わせてドアが開き、お茶の用意を終えたセルファが一礼を。

 ただタタミの部屋なのでティーワゴンを入れられず、まず靴を脱いでから室内に入り廊下まで引いたティーワゴンでお茶を煎れてカップをテーブルに運んでいく。


「……少し落ち着きませんね」

「こちらに滞在中は我慢してください」


 ちなみに普段は持てなす側で、持てなされ慣れていないレムアは手持ち無沙汰なのかカップを置かれて苦笑い。それをセルファがやんわりと窘めて笑いを誘った。


「最後にこちらを」

「ご苦労」


 しかし全員分のお茶を出し終えたセルファが廊下に待機していたらしい使用人から受け取った物を部屋の隅に立てかけた。

 それはドアの半分ほどのサイズで上等な黒い布に巻かれて何かまでは分からないが、布の内側を予想したロロベリアやミューズは釘付けになってしまう。


「ギーラス殿からお主らにも見せて欲しいと頼まれてのう」


 二人の視線を察してか、腰を上げたダイチは布を解きつつ語り出す。

 廃嫡を言い渡してもダイチにとっては大切な孫娘。私物は処分させたが一つだけ処分するのを躊躇い屋敷の保管庫に残していたらしい。

 以降、二〇年近く放置していたがギーラスに孫娘の話をした際、ふと見たくなり久しぶりに保管庫から出したお陰で孫娘のその後を知り、忘れ形見と会うに叶った。


 そしてギーラスはアヤトだけでなく同行者、特にミューズやロロベリアがそれを見たいはずとダイチにお願いしてくれていた。故にセルファにお茶の用意と共に運んでくるよう伝えていたのは、二人が公国行きを決め手からずっと見てみたいと願っていた物で。


「これを描いてもろうたのはちょうどアヤトと同じ年頃か」


 布を解かれ表れたのは予想通り額に納められた肖像画。

 ロロベリアやミューズは身を乗り出しワカバの姿を目にする。

 窓辺に腰掛ける姿で描かれた肖像画は腰下まで伸びた艶のある黒髪や黒い瞳、衣装も黒いシンプルなドレスを纏っていた。

 そして顔立ちは年頃にしては妖艶な美しさを感じさせるのに、それ以上に強く印象づけるのはワカバの表情で。


「想像とはちょいと違う故にびっくりしたか?」


 念願が叶ったにも関わらず、感動よりも困惑の表情を浮かべる二人にダイチは苦笑。


「……あ、いえ」

「そんなことは……」


 肖像画に描かれる人物は凜々しい表情や微笑みを携えている物が主流。しかし二人が言葉を詰まらせるよう、ワカバの表情は()()()

 これまで聞いてきた情報から想像していた人物像とかけ離れた冷たい印象にどう答えていいか分からなかった。


「無理することはない。なんせワカバは人嫌いというか……この肖像画もワシが無理矢理に描かせたんじゃが、ふて腐れてこの通りよ」

「こう言っては何ですけど……ふて腐れてるってレベルではないと思いますね。本当に一七才かと疑うほど冷めた顔してますけど」


 変わりにフロッツから忌憚のない感想を口にする。

 妖艶な美しさもさることながら肖像画のワカバは一七才にしては全てを達観したように冷めた印象がある。ただ目元や鼻筋が似ているからか、同じく年頃にしては達観したアヤトの雰囲気も踏まえてギーラスが肖像画のワカバから面影を感じらたのも頷けた。


「アヤトよ、若かりし母をどう見る?」


 何とも言えない空気になる中、ワカバ=ラグズ=ヒフィラナではなくワカバ=カルヴァシアを唯一知る者の感想を知りたいと問うダイチに、肖像画のワカバを眺めていたアヤトはため息一つ。


「母は人嫌いと言うより人混みを嫌ってはいたが、そこまでふて腐れた面は見たことねぇよ」


 やはりアヤトの知る母としてのワカバとはまるで印象が違うようで。


「そして俺は母の様々な表情を知っているが、最も印象に残っているのは幸せそうに笑う表情だった。釣られて父や俺も笑ってしまう……そんな笑顔だ」


 母の姿を思い返しアヤトは懐かしむが、残念ながら肖像画の人物からは想像ができない表情。


「母の行いは貴族としての責務を放棄し、周囲に迷惑をかけたんだろうよ。だがま、公爵家に残ったままの母が同じ笑顔を見せてくれたかは疑問だな」


 最後は嘲笑気味に締めくくるもアヤトは肯定も否定もしない。

 ワカバとアースラの恋仲は公爵家に迷惑をかけた。故に残された家族の心情を察して安易に肯定できない。

 しかし二人が恋仲となり、夫婦になったからこそアヤトが生まれた。息子として暮らした幸せな時間は否定もしない。

 なにより公爵令嬢として生きるよりも母として生き、幸せそうに笑っていたと思えるなら否定などしたくない。


「……ワシもワカバの笑顔は見たことはあるも、お主の言うような笑顔かと言えば疑問じゃ」


 祖父として孫娘の姿を思い返したダイチはゆっくりと首を振る。

 もしあの時、アースラとの仲を許していればアヤトの知る笑顔を自分も知ることができたのか。

 しかし今さらやり直しはきかない。既にワカバは会うに叶わない場所へと旅立ってしまったのなら、母として生きた孫娘の笑顔を知ることもできない。


「……ワシもその笑顔を見たかったのう」


「「…………」」


 故に天井を見上げ呟くダイチと同じ願望をロロベリアやミューズも抱いてしまう。


 愛する人が知る母として生きたワカバの笑顔を、一目でもいいから見たかったと。




初対面から意気投合なアヤトくんとダイチさまですが、二人の知るワカバの人物像は全く違うものでした。

なので孫娘を愛していたダイチさまだけでなく、肖像画とはいえワカバの姿を知ったロロやミューズも、幸せそうに笑うワカバを見たかったでしょうね。


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