表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
549/780

回想 ある記念日に

アクセスありがとうございます!




 風精霊の二月。


「「アヤト、七歳のお誕生日おめでとう!」」


 夕食の準備をしていたワカバは仕事を終えたアースラが帰宅するなり二人で声を揃えて息子の誕生日を祝福。

 普段よりも少しだけ豪華な夕食をワカバが用意していた時点でお祝いされるとアヤトも察していたのでサプライズにもならないがそこは言わぬが花。


「ありがとう。父さん、母さん」


 大好きな両親が自身の誕生日を笑顔で祝ってくれる気持ちが純粋に嬉しくてアヤトも笑顔で言葉を返す。


「じゃあ私は料理の仕上げに入るから、あなたたちは大人しく座ってなさいな」


 息子の笑顔に満足しつつキッチンに戻るワカバに二人も素直に従う。いつもなら率先して家事手伝いをするアヤトも、誕生日はワカバから主役は大人しく祝われるよう言われている。逆にワカバの誕生日は二人が協力して家事をするのもお約束となっていた。

 そして料理が運ばれてくるまでにアースラは誕生日プレゼントを渡す役なのもお約束で。


「アヤト、改めて誕生日おめでとう。これは俺たちからのプレゼントだ」

「父さん。ありがとう。母さんもありがとう!」


 プレゼントを受け取り目の前に居る父だけでなく、キッチンに居る母にも聞こえるよう感謝を伝えたアヤトは早速包装を解いていく。


「……神と英雄の物語?」

「最近教国で出版された物とお得意さんから聞いてな」


 表れたのは分厚い書物。ルルベルは教国に近い位置にあることから、まだ王国に出回っていない書物も手に入りやすい。

 ただ手に入りやすいだけで、裕福ではないカルヴァシア家にとっては決して安い買い物ではない。しかし誕生日だからこそ喜ぶ物が良いと、手に入れる為にずいぶん前からアースラは取り引きを進めていた。


「面白そう……読むの楽しみだなぁ」


 ぱらぱらとページをめくりながら目をキラキラと輝かせる息子を見られるなら頑張った甲斐もある。


「気に入ってくれたようで安心したが……面白そうなのか」


 ……あるのだが、御伽噺とはいえアヤトの年頃にはまだ難しい書物を喜ばれてアースラは苦笑い。まあ勉学をワカバが教えているだけあり、同年代に比べてアヤトはかなり出来る方。加えてワカバに似たのか頭も良く、本を読むのが好きなのだ。

 対するアースラは商人と言っても仕入れに関する仕事はほとんどワカバに頼りきり。読書の習慣もないので本の面白さが分からなかった。


「でもま、読書もいいがちゃんと勉強もするように」


 故に本来このような物言いが出来る父ではないと自覚はある。しかし知識の大切さを身に染みて知ったからこそ、息子には同じ苦労をさせたくないとアヤトの頭を撫でつつ忠告しておく。


「父さんや母さんに守られてるぼくが今できることは、お手伝いや勉強だから」

「……アヤト」


 そんなアースラの自虐な心情も知らずアヤトは素直に受け入れてくれる。

 今より幼かった頃のアヤトに話した『何かを守るには、まず己が守られて学ぶ』との理通り、息子は自分たちの姿勢から学び成長しているようで。


「でもいつか剣も教えて欲しいな。父さんと母さんが教えてくれた強さで、ぼくも大切な人を守れる強い男になりたいから」

「もう少し大きくなったら剣の稽古もしてやる。でもなアヤト、本当に強い男ってのは――」

「父さんみたいに無闇に力を誇示しない男、だよね。ちゃんと教わってるよ」

「……俺がそんな男かは分からんが、分かってるなら約束だ」


 ならば息子の憧れとして、模範的な父でいられるようアースラも約束するとの意味合いを込めてアヤトとゆびきりを交わす――


「――あらあら、私を除け者にして二人で内緒話?」


 寸前、いつの間にか二人の背後からワカバが顔を出す。


「男同士の約束に割り込むのは野暮かもだけど、仲間はずれにされるのは寂しいわね。私って可哀想」

「仲間はずれにしたつもりはないんだが……」


 ただ音も立てず背後を取ったワカバにアースラは困惑するも、それが失敗だった。


「そのワリに歯切れが悪いけど? もしかして……何でもないわ」

「なにがもしかしてなのかワカバこそハッキリ言ってくれないか!?」

「だって……ねぇ、アヤト? 父さん、酷いわよね」

「どうしてぼくに振るの!? それに父さんは別に酷くないし!」

「あらアヤトは父さんを庇うんだ。寂しいわ……私はいつでもアヤトの味方なのに」

「ぼくだっていつでも母さんの味方だよ!?」

「だそうよ? アースラ可哀想」

「……確かに今の俺は可哀想に思えてきたな」

「なら後で慰めてあげるわ。さて、そろそろ料理を運びましょうか」


 慌てるアヤトと項垂れるアースラに満足したのか、ワカバは軽やかな足どりでキッチンに戻っていく。

 僅かでもスキを見せれば手玉に取り楽しむのは捻くれたワカバらしい愛情表現とはアースラも知るところ。故に不満よりも嬉しさが勝るがそれよりも。


「……強くなりたいなら母さんを参考にするのが一番かもしれないぞ」

「……大丈夫だよ。ぼくにとっては父さんも強い父さんだから……」


 アヤトは慰めてくれるが、歯切れの悪さからカルヴァシア家で一番強いのは誰かを見抜いているようで。


「……ありがとうな、アヤト」


 それでも尚、憧れてくれる息子の為にも今以上に父として成長しようとアースラは心に誓った。




アヤトがアースラから多くを学んで成長したように、アースラもアヤトにとって憧れの父になろうと成長していました。だからこそ現在のアヤトくんにとっても勝てない強い男なのかもしれませんね。

まあ一番勝てないと感じているのはワカバでしょうけど。


ちなみにこれまでクロ時代も含めてちょいちょい過去の出来事を書いてますが素直アヤトくんだけは未だ違和感があります……。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ