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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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縁と拘り

アクセスありがとうございます!



 練武場に到着早々、アヤトを襲撃したのはヒフィラナ家の当主であり曾祖父のダイチ=ラグズ=ヒフィラナ。

 曾祖父と曾孫の初対面でいきなり手合わせが始まるとは予想外すぎて思考が追いつかない。


「しかしワシの一撃をよくぞ防いだものよ」

「あれだけやる気満々な感情だしまくっていれば造作もねぇよ」

「ならばマグレではないか今一度試してやろう」

「そりゃどうも」


 しかし練武館では仕切り直しと言わんばかりに二人は斬り結びを始めてしまう。

 曾孫を襲撃したダイチもダイチなら、曾祖父の襲撃を平然と受け入れるアヤトもアヤト。リョクア以外の一族はまだ面識はないがフロッツが嘆くようにヒフィラナ家の血筋は突拍子もない行動を好むのか。


「……もしかしてミューズさんは気づいてました?」


 遅れて練武館に入ったロロベリアは精霊力を解放しつつ、同じく精霊力を解放して二人の立ち合いを見守るミューズに耳打ちを。

 練武館に到着した際、不思議そうに首を傾げていたのは室内のダイチが精霊力を解放したか、解放して待機していたのを感知したのか。精霊力の視認を可能とするツクヨと同等の感知力を持つミューズなら、建物内でダイチが精霊力を抑えていようと感知するのは容易いはずで。


「わたしたちが到着してすぐ精霊力を解放された方が居たので。ただアヤトさまとの顔合わせで解放する理由が分からず気になっていたのですが……驚きました」

「…………」


 やはり気づいていたらしいが、驚いていたのにロロベリアこそ驚きだった。

 なんせダイチが襲撃した時もミューズは全く動揺の素振りを見せていない。ロロベリアはすぐ態度や顔に出るのでその精神力が羨ましいはさておいて。


「小僧、なかなかにやりおるではないか!」

「あんたこそご老体のワリには良い動きするじゃねぇか」


「ダイチさま……強いですね」


 改めて二人の立ち合いに注目するロロベリアは感嘆の声を漏らす。

 楽しげに斬り結んでいる両者の攻防はエニシやダリヤのように室内を駆け巡るような激しさはなく、演舞のように流麗で静かなもの。

 アヤトは今さらとしても、ダイチも動きの一つ一つが流水のように美しく淀みや間が一切ない。膂力や脚力よりもとにかく体の使い方が巧く、身体能力の衰えを技能で補っているようで。

 まあ八〇過ぎの御老人とは思えない体付きや動きをしているが、積み重ねた鍛錬の成果か。今まで見てきた強者の誰よりも攻防の一つ一つに重みが感じられる。


「わたしも同意見です。それにロロベリアさんは気づいてますか?」

「ダイチさまの武器、ですよね」


 更にミューズが指摘するよう注目すべきはダイチの武器。

 アヤトを襲撃した際に見えた白銀の煌めきでもしやと思っていたが、やはり刀を手にしていた。

 しかも以前エニシが使用していた製法を真似た刀ではなく、刀身は朧月のような白銀の輝きを放っている。

 ロロベリアの知る限り現在刀を打てるのはツクヨのみ。もしかして公国には刀を打てる鍛冶師が居るのか、手に入れた経緯に興味がある。


「アヤトさまが刀を使われているのなら、お二人も刀をご存じなのですね」


 二人の興味を察したのか、セルファがさり気なく話題に参加。


「セルファさん、公国には刀を打てる鍛冶師がいるんですか?」

「残念ながら公国の職人ではありません。あの『柳雪(りゅうせつ)』は謝礼として旦那さまが譲り受けた物です」


 今から二〇年以上前、路銀が尽きて行き倒れになっていた男をダイチが保護したのが切っ掛け。

 黒髪黒目の同じ東国の血筋ということもあり、屋敷に招いて共に食事をしながら事情を聞いたらしいが、その男は元刀鍛冶の生業とする一族の生まれで、幼少期に魅入られた刀の可能性を証明するべく各国を巡る旅に出たそうだ。

 その熱意や亡き祖国の刀の復活に感銘を受けたダイチは当初公国で援助をしようとしたが男は貴族の庇護に入るのを好まず、ならばせめて旅を続ける資金を出すことで応援させて欲しいと申し出た。そのお礼として家から持ち出した祖父の刀、柳雪を男が渡したという。

 ダイチは夢の始まりとなった祖父の形見を受け取れないと断るも、ダイチの技量なら巧く扱えると男も期待したのか是非と譲らず、最後は根負けした形で受け入れたのだが――


「――以降、旦那さまはその御方との約束を守るべく、柳雪での鍛錬を……ロロベリアさま、どうかされましたか?」

「……えっと……」


 徐々に表情が強ばっているのに気づいたのかセルファが心配そうにするも、ロロベリアは戸惑いを隠せない。

 なんせロロベリアは柳雪を渡した男に思い当たる人物が居るわけで。


「もしかしてその旅人の名前はジン=ヤナギ……ではないですか?」

「なぜロロベリアさまがその名を……もしやアヤトさまの刀はジンさまが打たれた物でしょうか」


 希少な刀鍛冶だからこそセルファは言い当てるがロロベリアは返す言葉が見つからない。

 ジンにとって始まりの柳雪を曾祖父のダイチが、そしてジンの遺作となった朧月を曾孫のアヤトが所持しているとは何という巡り合わせか。

 ただ夢を叶えた後ジンは他界している。月守や朧月の入手経緯も含めて、援助をしたダイチには話しておくべきか。


「その話は後ほどで……お願いします」

「畏まりました」


 とりあえずアヤトに相談するまで伏せておくと決め、セルファも心情を察してか受け入れてくれて一安心。


「ミューズちゃんもだけどロロちゃんもさ……もっと気にすることがあると思うなぁ」


 したところで今まで静観していたフロッツから指摘が入る。


「……確かに。強者同士の立ち合いは勉強になりますし、しっかり見学しないと」

「ですね。ダイチさまの深みある立ち振る舞い、わたしも学ばせてもらいます」


「違うんだよ……お兄さんが指摘したのはそこじゃないんだよ……」


 故に改めてアヤトとダイチの模擬戦に注目するが、見当違いな受け取りをされてフロッツは肩を落とす。そもそも二人はこの模擬戦をすんなり受け入れすぎではないだろうか。

 いくらダイチから仕掛けた模擬戦でも公爵家当主に怪我をさせたらと思えばフロッツとしては気が気ではない。


「フロッツさま、その心配は杞憂かと」

「……それもそうか」


 しかしレムアの意見にフロッツも開き直れた。 

 年の功か、それとも持って産まれた才能か。フロッツの見立てでもダイチの剣技は剣聖と謳われるダリヤと比べても遜色ない。

 加えて年齢を感じさせない体捌きの鋭さ、ダイチと互角に立ち回れる精霊騎士は教国にも僅かだろう。

 だが相対しているアヤトはダリヤでさえ分の悪い実力者。それこそ勝利できる精霊騎士などフロッツは知らない。

 つまり一見互角に渡り合っている両者だが、アヤトは明らかに手を抜いているわけで。


「試しとやらはもう充分か」

「生意気な小僧め……っ」


 予想通り体力差よりも実力差からダイチが徐々に押し負けていく。


「ならここいらで終いにするか」

「ぬぅ――っ」


 そしてダイチの薙ぎ払いに合わせてアヤトの姿が消えた。


「あんたの客人は俺だけではないだろう」


 背後から月守の切っ先を突きつけたダイチは柳雪を振り払った状態のまま硬直。


「満足したならあいつらも構ってやれ」

「…………最後まで生意気な小僧じゃ」


 苦笑しつつアヤトは月守の刀身で肩を叩き、ダイチも柳雪の切っ先を下ろしたことで突然始まった模擬戦も勝負あり。


「しかしそれもまた良し」


 そのまま柳雪を鞘に納めつつ振り返るダイチはアヤトに向けて不敵に笑った。


「見事なり。さすがワカバの息子と言ったところか」

「たく……動きは若々しくとも頭は年相応か。なにボケてんだか」


 対するアヤトは月守を鞘に納めつつ一蹴。


「俺は父と母の息子だ。間違えるな」

「……生意気なだけでなく細かい小僧じゃ」


 訂正を求めるアヤトに呆れつつ、不快よりも感心からダイチは目を細める。

 ワカバとアースラの仲を最後まで認めず、廃嫡を言い渡したのは他でもないダイチ。その過去を悔いているならアースラを父として正式に認めろと訴えているのだろう。

 僅かな蟠りすら許さない姿勢はアヤトの両親に向ける親愛の表れ。

 ならばとダイチも誠意で返すべく手を差し出した。


「歓迎するぞ。ワカバとアースラの息子、そして()()()()()()

「愉快な歓迎どうも。()()()()


 アヤトも満足げに手を伸ばし、互いを家族と認め合う握手を交わした。




ジンとダイチの繋がりは後ほど触れるとして、些細な拘りですがアヤトにとっては譲れない訂正でしょう。

例え今さらでもワカバとアースラの仲をダイチが認めることに意味がありますからね。

なのでダイチがアヤトをワカバとアースラの息子と口にした瞬間、二人も正式に曾祖父と曾孫としての対面になりました。


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読んでいただき、ありがとうございました!



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