最初の対面は―
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スフィアに到着した一同はヒフィラナ家の従者セルファと合流。
出会い頭からアヤトが軽くやらかすも、ワカバやアースラを知るセルファは不快や呆れよりも微笑ましく流してくれた。
ならばとヒフィラナ家の馬車に乗り込んだ一同……というより主にロロベリアがセルファにカルヴァシア夫妻について尋ねるのも自然な流れで。
「じゃあセルファさんとアースラさまは孤児だったんですか?」
改めてセルファから話を聞いたロロベリアは面食らっていた。
セルファやアースラだけでなく現在屋敷で働く数名の従者や衛兵はストリートチルドレン出身で幼少期に当主に保護された身。
ストリートリルチルドレンとして共に生きていた仲間の中に東国の血筋がいたこともあり、同胞を見過ごせないと当主はその人物を含めた仲間を全て引き取ったらしい。
「未来の公国を担う人材を一人でも多く育てると、旦那さまは元首を勤めていた頃から慈善活動に尽力されていましたので。私たちのみならず旦那さまに救われた者は公国に多くいますよ」
王国と帝国の戦争で多くの人材が流出した影響から、国を立て直す為に未来の投資として人材育成に目を付けたのだろう。
また全ての孤児が救われたわけでもない。財源は有限、未来の投資ならばやはり精霊力持ちが優先されたはず。
「素晴らしい思想をお持ちなのですね」
「ですね」
しかし打算的な方針だろうと弱き者に救いの手を差し伸べた当主にミューズが感銘を受けるのも無理はなく、同じく孤児だったロロベリアも当主に対する印象は良くなった。
「そういった縁もあり、私は現在旦那さま直属の従者を任されております。そしてアースラも教育機関を出た後、ヒフィラナ家の衛兵として雇われたのですが……」
ただセルファが言葉を詰まらせるよう、同じく当主に救われたアースラは公爵家に雇われた後にワカバと出会い、最後は共に追放されている。
言い方は悪いが救った子の一人に孫娘を奪われたなら当主にとっては皮肉なもので。
「私も当時は従者見習いとして屋敷に滞在していましたが、何故覚えることが多くアースラとあまり話す機会もありませんでした」
「ならお二人の出会いや……その、恋仲になった経緯までは知らないんですね」
「ワカバさまとの関係は屋敷内に噂もなく、廃嫡されたのも当然のことだったので……申し訳ありません」
「……あんたが謝罪する必要はねぇだろ」
また肝心な部分を語れず謝罪を口にするセルファだが、話を聞いていたアヤトはため息一つ。
「むしろどこぞの白いのが構ってちゃんですまんな」
「……白いの?」
「つーか白いの、初対面の相手に根掘り葉掘り聞きすぎだ」
「……ごめんなさい」
白いの呼びにキョトンとなるセルファを他所に、いくら興味深くとも踏み込みすぎたとロロベリアこそ謝罪する。
ただロロベリアの謝罪から誰かを理解したセルファはクスリと笑った。
「失礼……それとアヤトさま、お気になさらず。旦那さまもワカバさまやアースラの話が聞きたいだろうと、縁ある私をお迎えに寄こしたのでしょうから」
「それはまたサービス精神が旺盛な旦那さまだ」
「でしょう? ですがアヤトさまは何もお聞きにならないのですね。ワカバさまについては何も知らないと伺っていますが」
「むろん興味はあるが元より詮索するつもりはなかったからな。ただ父は騎士と聞いていたが衛兵だったのか」
「元より騎士として訓練を積んでいたので間違ってはいないかと。アースラは幼き頃から腕っ節が強く、孤児だった頃は私たちを守るんだとよく言ってくれていました」
「ガキの頃から変わってないようだ。なんせ俺に何かを守る理を説いたのも父だからな」
「ただ……勉学はあまり向いてないようで、教育機関に身を置いている時も忙しない子だと叱られていました」
「俺に知識の大切さを説いたのも父だ。もしかすると自身が苦労したからこそかもしれんな」
「かもしれません。ただアースラは心優しい男でした。私の知る限り、みなも頼りにしていましたよ」
「なんとも父らしい話だ」
「…………」
白いの呼びを笑われてロロベリアは微妙な気持ちになるも、アヤトやセルファからアースラの話が始まり静かに耳を傾けていた。
◇
移動中ではワカバやアースラだけでなく、ヒフィラナ家についてもセルファは教えてくれた。
現在屋敷には当主の他に次期当主の孫、つまりワカバの弟でアヤトにとっては叔父に当たる人物と妻、二人の子どもの五人で暮らしているらしい。ワカバの祖母や父はセルファがヒフィラナ家に雇われた頃には既に他界していたそうで、母は一年ほど前に実家の伯爵領で余生を過ごしている。
この辺りは事前に確認済み、ロロベリアもクローネから聞いているヒフィラナ家の現状。
「……事前にお伝えしておきますが、リョクアさまはワカバさまと不仲であったので……恐らくアヤトさまを歓迎されていません」
「ほう?」
「「「「…………」」」」
しかし内部の事情までは知らず、叔父のリョクア=ラグズ=ヒフィラナには要注意と聞かされてアヤトはなぜかほくそ笑み、他の面々は眉根を潜める。
なんでも生前のワカバをリョクアは一方的に嫌っていたらしく、今回の招待も良い顔をしなかったそうだ。
二人の間にどのような確執があったのかは伏せられたが、ワカバの息子のアヤトを快く思っていないだろう。
「ですがアヤトさまをお招きしたのは旦那さまの意向、なのでご遠慮なく滞在して下さい。もちろん私共も出来るだけ配慮しますのでご了承願えればと」
それでも今回の招待は当主の決定、謂わば客人扱いなのでリョクアも無下にできない。加えてセルファを始めとした使用人は歓迎しているので何かあれば協力を惜しまないと約束してくれた。
アヤトの公国行きが決まってからある程度は覚悟していたが、懸念材料を打ち明けられてフロッツは落胆。
「だそうだ、アヤトくん。ケンカ売られてもセルファさんたちにお任せしようぜ」
「へいよ」
「……ほんと分かってんのかね」
更にアヤトが読めないだけに不安しかない。
ただ姉弟の複雑な仲にロロベリアだけでなくミューズも沈痛な面持ちに。
なぜ姉を嫌うのか?
なにが切っ掛けなのか?
気になるもさすがに質問するわけにもいかず、様々な思いを秘める中、馬車はヒフィラナ家の屋敷に到着。
さすが公国でも大貴族なだけあって広く立派な屋敷に若干の及び腰なのは元平民のロロベリアのみ。他は平然と屋敷を見上げている間、衛兵とやり取りしていたセルファが表情を曇らせて戻ってきた。
「……申し訳ございません。旦那さまは急用の為、外出されたようです。なのでみなさま、旦那さまがお帰りになるまで応接室でお待ち下さい」
謝罪されるも当主が多忙なのは当然、誰も不満に感じることなく受け入れ、一階の応接室で待機することになった。
応接室も立派な内装で中央のテーブルを囲むようにソファが四台あり、上座は当主用に空けて下座は勧められる前にアヤトが着席したのでロロベリアとフロッツが左側面、右側面に着席するミューズの背後にレムアが待機。
お茶を用意する為に一端下がるセルファにお礼を告げて五人はとりあえず一息つく。
「……感動のご対面はお預けになったけど」
「どうかしましたか?」
「いや、さっきのお話。アヤトくんの叔父がどうも気になってな」
「……ですね」
同時に表情を歪めるフロッツにロロベリアも同意する。
姉弟の確執は気になるが、アヤトはワカバをとても慕っている。もしリョクアと接触すれば一波乱ありそうでどうしても警戒してしまう。
「……たしかに、姉弟なのに不仲なのは寂しいです」
「それよりも嫌な予感しかしないんだって。頼むから大人しくしてろよ」
「それは俺に言ってんのか」
「どっちにもだよ」
故に別の意味で目を伏せるミューズを慰める余裕すらなく、とにかく二人が接触する前に当主が帰宅するのを心から願っていた。
「どうやら、少なくともあちらさんは大人しくするつもりはないらしいな」
「は? なに言って――」
――ガチャ
のだが、不意に肩を竦めるアヤトに反応するより先に応接室のドアが開いた。
気配で誰かが来るのを察したようだが、感心するよりも言葉を失うフロッツたちを無視して入室したのは見知らぬ男性で。
年はセルファと同じほど、しかし客人のいる応接室にノックも無しで入ってくる使用人などいるはずもなく。
「…………お前が不肖の姉が残した子とやらか」
なによりアヤトを視界に入れるなり隠そうともしない侮蔑の発言。
「なんで大人しくしてくれないんだよ……」
願い通じずリョクアとアヤトが対面してフロッツは天を仰いだ。
セルファとの出会いでアースラや公爵家当主、また血縁者について少しずつ明かされてきましたが、最初に出会った血縁者はワカバの弟リョクアさん。
フロッツが嘆くのも当然な最悪なご対面については次回で。
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