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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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到着早々

アクセスありがとうございます!



 公国に到着して二日目。


 宿泊部屋はアヤトとフロッツが同室、ロロベリアはミューズとレムアが同室で手配されていたが、ミューズはそのままギーラスの部屋に宿泊することに。

 というのも夕食時に合わせてレムアがミューズにギーラスとの同室を勧めたからで、せっかくだからと二人も遠慮なく受け入れ存分に水入らずを楽しんだ。


 ちなみにアヤトと同室のフロッツといえば――


「旅を楽しむんじゃなかったのかよ……」


 アヤトは終始ソファであやとりに夢中でろくに会話もなく、就寝時もベッドすら使わず一夜を過ごしてとても居心地が悪かったらしい。

 元よりアヤトは野生動物並みの警戒心から宿や他人の家ではベッドを使わず、主にソファで就寝するのを知っているロロベリアとしては予想通り。

 ただ手配されたとはいえ、警戒心が強いからこそ他者との同室も好まないアヤトがフロッツとの同室を了承したなら歩み寄ろうとしている証拠でもある。

 なら今回の旅で二人の仲もそれなりに深まると思われるも、とりあえずフロッツを労ったのは言うまでもない。


 それはさておき、翌朝はミューズとギーラスも交えて六人で朝食を。


「ミューズから色々と聞きました。二学生ながら序列一位となっただけでなく、神業のような技法を次々と習得されるとはロロベリア殿には感服します」

「そんな……私なんてまだまだですから」


 二人の表情から蟠りが解けたと感じられてロロベリアも一安心だが、褒められるのは未だ気恥ずかしい。


「アヤト殿もミューズが随分とお世話になっているようで。改めて感謝を……すればまた呆れられてしまいますか」

「世話した覚えはないからな」

「ですが今後ともミューズをよろしくお願いします」

「暇があればな」


 対するアヤトは相変わらずな対応。まあギーラスも楽しんでいるなら今さらと注意する者は誰も居なかった。

 そして朝食後、スフィア行きの寄り合い馬車の出発時間に合わせてギーラスとは宿泊施設でお別れとなり。


「ミューズ、みなさんにご迷惑をかけないように。次の帰省に合わせて私も教都に戻る、その時はリヴァイと三人でゆっくりと語り合おう」

「はい。ラナクスに戻ったらまたお手紙を書きます……お爺さま」

「楽しみにしているよ。レムアも道中みなさんのお世話をしっかりと頼む」

「畏まりました」


 抱擁を交わす二人は元の仲の良い祖父と孫娘で、感慨深い気持ちでレムアは一礼。


「アヤト殿、ヒフィラナ卿はワカバ殿の忘れ形見と会うのをとても楽しみにされていた。あなたが懸念されていた礼儀作法も気にされないと言われていたので、実家に顔を出す気分でお会いください」

「それはなによりだ」

「でも少しは気にしてくれよ……」


 また当主から言質を得たことでアヤトはほくそ笑むも、それはそれとフロッツが変わりにクギを刺す。


「それと昨日仰っていた借りについてですが、本当にお返ししてもらってよろしいのですか?」

「俺に二言はねぇよ。ま、俺に出来る範囲だがな」

「では次お会いした際、お茶でも飲みながら語らう時間を所望します。ミューズから話を聞いて、私もあなたと腰を据えて話してみたくなりましたからね」


 本来は恩を返す側でもアヤトがそう言うなら遠慮なく希望する方がいいとミューズから聞いたギーラスが思いついたのは些細な時間。

 思い返せば教国でも、今回も水入らずを優先してもらってアヤトとあまり会話ができていない。祖父として孫娘を夢中にさせる男がどのような人物か改めて見定めたいのもあるが、僅かな時間でもアヤトの為人を知れたからこそギーラスは純粋に興味がある。


「その程度で良いのか」

「充分です。ならばその日を楽しみにしていますよ」

「俺と話して何が楽しいのか知らんが約束しよう」


 故に握手を交わすギーラスは満足しつつ、最後にもう一度ミューズと抱擁を交わす。


「みなさまに神のご加護があらんことを」

「お爺さまもお気を付けてください」


 教国に戻るギーラスを見送り、五人も寄り合い馬車乗り場に向かった。



 ◇



 五人を乗せた寄り合い馬車は順調に道中の町を通過。


「アヤトくんは武者修行で色んな国を回ってたんだよな。ならスフィアにも立ち寄ってたりする?」


 予定通り正午過ぎには首都スフィアの外壁を目視する距離まで近づいたところで、フロッツは隣りで黙々とあやとりに興じるアヤトに声をかけた。


「ねぇよ」

「そうなん?」

「人混みは嫌いなんだよ。故に教国でも教都には立ち寄ってねぇ」

「でも帝都には立ち寄ったんでしょ」

「エニシの爺さんの噂を聞いて興味があったからな。ま、さすがに会うに叶わなかったが滞在したのも二日ほどだ」

「とりあえず強い奴がいそうな場所を巡ってたわけね。でもよ、だったらダリーの噂も聞いてたはずだろ。なんで教都には寄らなかったんだ」

「爺さんが皇女さまお付きの従者と知ったのは帝都に着いてからだ。剣聖さまなんざ元より会えんと分かりきってるだろ」

「そういうことね」

「そもそも武者修行と言っても諸国を巡り知見を広めるのも目的の一つだ。国を知れるならどこでも良かったんだよ」

「ですが諸国を巡る旅も良いですね。憧れます」

「なんせ冒険が大好きなやんちゃな聖女さまだからな」


 などとあやとりを続けながらもそれなりにアヤトも会話に参加をしつつ、馬車はスフィアに到着。

 公国の首都だけあってここまで立ち寄った街よりも栄えているせいか、人の行き来が多く検問を抜けるまでそれなりに時間が掛かった。

 また元帝国領の名残か街並みも帝都に近い雰囲気があり、元首官邸を中心に貴族区と平民区に広がり、両区間の間に内壁も設置されている。

 そして元帝国領の名残から公国は実力主義の一面があり、身分の区別も王国に比べて緩くない。だからこそアヤトがやらかすのではないかとエレノアやフロッツが危惧しているのだが、そこは当主の言葉を信じるしかない。


 とにかく期待や不安を抱く中、一同を乗せた馬車は商業区の寄り合い馬車乗り場に到着。


「やれやれ、ようやく着いたか」

「とうとう着いたなぁ……」


 馬車から降りるなり身体を解すアヤトを他所にフロッツは未だ開き直れていないようでどことなく足どりが重い。


「辛気くさい面するな」

「……誰のせいだと思ってんだよ」

「まあまあ。それよりもフロッツさん、ここでお迎えの馬車と合流する予定ですよね」


 そんなフロッツを労りつつロロベリアが今後の予定を再確認。

 さすがに徒歩で公爵邸に行くわけにもいかず、全員がスフィアに来たのは初めてなので勝手が分からないのもあり、当主が馬車を用意すると聞いている。


「ギーラスさまにそう聞いてるけど、この中でどう探せばいいんだ」


 なので家紋付きの馬車を探そうとするも商業区だけあって人通りが多く、他の馬車も行き来しているので見つけるのも困難。


「探す手間が省けたな」

「よくよく考えりゃ、君やロロちゃんの見目ならすぐ見つかるか」


 そう思われていたがこちらに近づく執事服を纏う男性に苦笑を漏らす。

 相手側は少なくともギーラスからアヤトや同行者の情報を確認している。ただでさえ珍しい黒髪黒目の少年と更に珍しい乳白色の髪色の少女となれば遠目からでも相手側が気づくだろう。

 予想通り優美な身の熟しで人混みをくぐり抜けた執事はアヤトの前で立ち止まるも、顔を確認するなり僅かに目を見開き、続いて懐かしむように微笑んだ。


「……なるほど。ワカバさまの面影があられます」

「母を知ってるのか」

「あなた様の父君、アースラも存じています」


 どうやらワカバだけでなくアースラとも面識があるらしく、執事もギーラスのようにアヤトからワカバの面影を感じたらしい。

 赤みがかった金髪を短く切りそろえ、垂れ下がった赤瞳は優しげな印象と見た目から年はクローネとそう変わらない。精霊力を感じ取れるなら精霊士か精霊術士と思われるが執事とアヤトの両親はどんな関係だったのかロロベリアは興味が湧く。


「失礼しました。私はヒフィラナ家の従者、名をセルファと申します」

「俺はフロッツ=リム=カルティ」

「ロロベリア=リーズベルトです」

「ミューズ=リム=イディルツと申します」

「私はミューズさまの従者、名をレムアと申します」


 だがその前に執事改めセルファの一礼に続いてそれぞれは自己紹介を。


「アヤト=カルヴァシアだ。一応な」

「みなさまについてはギーラスさまより伺っております。ようこそお越し下さいました」


 最後にとりあえず程度にアヤトも名乗ればセルファは歓迎の言葉を口にする。


「旦那さまの命によりお迎えにまいりました。あちらに馬車を用意しておりますので、どうぞこちらへ。アヤトさま、お荷物を――」

「必要ねぇよ」


 からの従者として荷物を預かろうと手を伸ばすもアヤトは即座に拒否。


「それよりも馬車は向こうでいいんだな」

「……アヤトくんさぁ」


 更にセルファの示した方向に一人さっさと向かう始末。

 人混み嫌い故か、早々にこの場から立ち去りたいのか。なんにせよ早速横柄な態度を取られればフロッツが嘆くのも無理はない。


「フロッツさま、お気になさらず。ワカバさまのご子息ならばむしろらしいと思えますから」


 しかしアヤトの態度を微笑ましく感じているセルファの様子からワカバの為人がとても気になった。

 というのもロロベリアが知るカルヴァシア夫妻はクロから聞いた情報のみ。それも優しいや厳しい、笑顔が温かいなど抽象的な言葉でしか知らない。

 アヤトからは最も尊敬できる人、とも聞いているが詳しい話などしてくれるはずもなく。

 ロロベリア以上に情報の少ない面々はより興味深いのか、セルファの言葉に様々な想像が膨らむも、ミューズのみ純粋にわくわくしていた。


「ですが私も従者としての矜持があります。なのでフロッツさま、ロロベリアさまはどうかご遠慮なく」

「じゃあ遠慮なく」

「お願いします」


 それはさておきミューズの荷物は従者の矜持としてレムアが持ち運んでいるので、セルファの申し出を拒まず二人が手渡したのは言うまでもない。




ミューズとギーラスの関係も修復されて憂いなく首都スフィアに到着。

今回は大人しめなアヤトくんが早速アヤトくんしてますが特に珍しくないのでさらりと流して、セルファの反応からワカバの人物像が少しずつ明かされてきました。

そして次回、いよいよヒフィラナ家にアヤトくんが乗り込みます。



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