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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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面会の目的

アクセスありがとうございます!



 教国にいるはずのギーラスがエスナルの街に居るのは、公国行きの打ち合わせをフロッツに一任する際、どこかで会えないか交渉して欲しいとアヤトが要望したもの。

 その要望に他の面々は疑問を抱くも理由は本人に直接話すと一蹴されたが、公国行きの条件にされてはフロッツも断れず了承。ギーラスも忙しい中でも時間を作り、首都よりは配属された教会から近いこともあってエスナルで落ち合うことになった。


 ただロロベリアが気遣ったようにミューズがギーラスと顔を合わせたのは大聖堂の聖域内が最後。以降は降臨祭や王国に戻ったりと互いに時間が作れずすれ違ったまま。

 つまり謎の存在に操られていたギーラスが正気を取り戻し、アヤトに気絶させられてから二人はなにも話していない。それどころかお互いに手紙も送っていないらしい。


 操られていたとはいえミューズは信頼していた祖父に裏切られた。

 同じく操られていたとはいえギーラスは大切な孫娘を利用しようとした。


 故に双方とも複雑な思いを抱えている。手紙を書こうにも何を綴ればいいか悩んだまま時間だけが過ぎていた。

 それでもアヤトの要望は良い切っ掛け、少なくともミューズは複雑な思いよりも祖父と会える喜びが勝っている。後はギーラスが吹っ切れてくれればと願うばかりだが――


「お久しぶりです……お爺さま」

「……そうだね、久しぶりだ」

「……はい」


 ミューズの一礼にギーラスは室内中央にあるソファから立ち上がることなく僅かに間を置き微笑み返す。しかしその微笑みは固く、どこか余所余所しささえ感じて、ミューズも言葉を続けられず目を伏せてしまう。

 教国で顔を合わせた時は嬉しさのあまり抱きつくミューズを愛おしげに受け入れていたギーラスを知るだけにロロベリアは胸が締め付けられる思いで。


「よう」


「「「…………」」」


 ……いたのだが、そんな重い空気なんぞ知ったことかとアヤトは相変わらずの対応。相手がギーラス以前にもっと気遣えとフロッツやレムアまでも突っこみたかった。

 しかしそこはアヤト。ミューズやギーラスの心情、三人の視線も無視。


「とりあえず座っても構わんか」

「……もちろんです」

「では失礼する」


「「「…………」」」


 確認する辺り一応気遣っているようでも何かが違うと三人が呆れる中、アヤトは一人さっさとギーラスの対面に着席。


「わざわざ来てもらってすまんな」

「いえいえ、私もアヤト殿にはお会いしたかったのでお気になさらず」

「それは結構。なら早速だが話がある」


 更にロロベリアらが後に続くのを待たずに切り出すも注意するより息を呑む。

 というのも聖域での対面以降、ギーラスと顔を合わせていないのはアヤトも同じ。

 ギーラスが意識を取り戻してから白銀として教会派と接触したのは教皇のみ。他の問題はリヴァイやフロッツに任せていたので会う理由がなかったからだ。

 そして教国の一件で唯一ギーラスのみ記憶が鮮明に残っていたので教会派の陰謀を暴き、平和的解決に導いた白銀がアヤトだと知っている。

 つまりギーラスにとってアヤトは恩人であり、最も迷惑をかけた相手。


「……まずは感謝をさせてください」


 故にアヤトが本題に入るより先にギーラスは深く頭を下げた。


「アヤト殿のお陰で教皇猊下も、ミューズも救われました。また取り返しの付かない過ちを犯す前に、我らを止めてくださりありがとうございました」


 アヤトが居なければ教皇は死に、ミューズは神の器として使われていた。加えて今も大陸に平和が続いているのは教会派の陰謀を阻止してくれたお陰だ。


「そして……申し訳ありませんでした。アヤト殿に謂われのない罪を与え、異端者として殺害するよう命を出したのは他でもない私です」


 続けてアヤトを牢に入れ、殺害を企てた罪を打ち明け再び深く頭を下げる。

 部下に指示したのはギーラス、記憶が残っているからこそ罪悪感はあるだろう。

 例え操られていようと自身の罪として受け止め、誠心誠意の謝罪をするギーラスに対しアヤトと言えばため息一つ。


「さすがミューズの祖父と言うべきか。感謝や謝罪が好きだな」

「…………」


 予想外の言い分に自然とギーラスの顔が上がるもアヤトは苦笑を返す。


「俺は売られたケンカを買っただけだ。ミューズに関してもカリを返したに過ぎん」

「で、ですが――」

「ま、教皇さまの救出は俺の都合と関係ないが、報酬はあんたの息子から既にもらっている。要は俺の都合で勝手に動いた結果だ、あんたに感謝も謝罪もされる謂われはねぇよ」

「…………」


 相変わらずのアヤト節に反論の言葉が続かないギーラスを他所にアヤトは姿勢を正した。


「むしろ感謝するのは俺の方だ」

「……アヤト殿が私に?」

「俺は父と母の意思を尊重して今まで詮索しなかった。しかし偶然にも知ったお陰で親孝行が出来そうだ」


 そう前置きしたアヤトは深く頭を下げた。


「謂われのない罪を貴殿が受け入れ、贖罪の巡礼をしたからこそ知れた……感謝する」

「……もしやアヤト殿は私に感謝を伝える為にこの場を?」

「他にどんな理由がある」


 しれっと返されたギーラスは茫然自失。

 多大な貢献の感謝も冤罪や殺害未遂の謝罪も自身の都合と一蹴されて、逆に母の情報を伝えた感謝を伝える為にこの場を設けたとは予想外で。


「むろん今回のカリは必ず返す」

「借りだなどと……そもそも恩があるのは私です」


 更に恩返しまで考えているようだが受け入れられないとギーラスは首を振る。


「だがこれ以上あんたを独占するのは違うな」


 しかしアヤトは聞く耳持たずで席を立ち、一方的に話を切り上げた。


「なんせ隠居したとはいえ忙しい身だ。後は孫娘との水入らずを楽しめ」

「……まさかアヤト殿は最初から私とミューズを――」

「勘違いするんじゃねぇよ」


 切り上げた理由からこの場を設けた意図を察するも、やはり自身の都合と否定。


「言うまでもないがお前たちも気遣ってやれよ」

「もちろん」

「なんせ久しぶりの水入らずだ。残る方が野暮ってもんだろ」

「ミューズさま、ギーラスさま、失礼します」


 ただアヤトの捻くれ具合を知るだけに、ロロベリアたちも苦笑いで従った。

 感謝を伝えるのが目的なのは嘘ではない。ただミューズとギーラスを強引に引き合わせる狙いもあったはず。

 いつまでも寂しいすれ違いを続けると危惧して、荒療治だろうと二人は顔を合わせて話すべきと。


「アヤトさま……ありがとうございます」

「主が主なら従者も従者か。あんたに感謝される謂われはねぇよ」


 故に廊下に出るなりレムアは否定されようと感謝せずにはいられなかった。



 ◇



 室内に残されたミューズも当然アヤトの意図を察していた。

 精霊力の輝きで感情は読めなくても分かる。

 自身の都合と言い張りながら周囲への心配りを忘れない人なのだ。

 祖父の罪をアヤトが否定しようと完全に消えない。それでも少しは気持ちを軽くしてくれた。

 現にアヤトと向き合う前は曇っていた精霊力の輝きが今は柔らかくなっている。

 なら自分がすべきことは一つとミューズはゆっくりと息を吐く。

 せっかく用意してくれた場を無駄にせず、祖父と正面から向き合うと。


「お爺さま……わたしにも謝罪は必要ありません」


 まずはギーラスが抱いているであろう自分への罪悪感を取り除く。

 複雑な気持ちから避けていたが、祖父に対する気持ちは何も変わっていないのだ。


「それよりもお話を聞いてください。お爺さまにお話ししたいことがたくさんあるんです」


 完全に元通りとはいかなくても以前のように話がしたい。

 祖父を大好きな気持ちは何も変わってないと、まだ堅さは残るも笑顔でミューズは向き合う。


「……私もミューズの話が聞きたかった」


 ミューズの望みが伝わったのか、ギーラスも弱々しい笑みを返してくれて。


「アヤト殿には感謝してもしきれないね」

「ですが感謝を伝えればまたアヤトさまに呆れられてしまいます」

「それは何とも難しい……だがせっかくのご厚意だ。みなさんには申し訳ないが、遠慮なく語らおう」

「……はい」


 すれ違っていた分を埋めるように二人は久方ぶりの時間を楽しんだ。




感謝の気持ちは本心ですが、別の理由からギーラスとの面会を求めていようと素直に認めるはずありません。なんせアヤトくんですからね。

ただアヤトの捻くれ配慮でミューズとギーラスの関係が修復されたのは確か。ある意味、教国で起きた事件からようやく二人は解放されたと思います。

……まだまだ問題は残ってますけど、そちらは追々ということで。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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