表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
542/779

初日の対面

アクセスありがとうございます!



 王都から陸路で公国に入国するのに最短でも六日ほどかかるも、海路を利用すれば夜の航海でも半日と大幅に時間を短縮できる。

 なので今回は夕刻から王都で船を利用、翌朝公国の港で下船して北東に馬車で一日半の移動と二日で公国の首都スフィアに到着予定。遠征訓練の参加は無理でも学院の通常講習再開までには帰国できるスケジュールだ。


「フロッツさんが居てくれたお陰ですね」


 船内での夕食中、改めてスケジュールを確認したロロベリアはフロッツを称賛。

 王都から最短ルートでも公国の首都まで約二日。またアヤトの意思を伝えるべく地方の教会に移動したギーラスや、ミューズの同行許可を得る為に教都にいるリヴァイと手紙でやり取りをすれば十数日はかかる。

 最終的にヒフィラナ公爵家にはギーラス自ら面会の打診をしてくれたので公国に立ち寄る必要はなくなったが、王国と教国の距離を考えれば入れ替え戦後の出立は不可能。

 しかし替え戦までの数日で纏めてしまった。しかも手紙ではなくフロッツが直接顔を合わせて話し合えたのも大きい、アヤトの要望も彼がいなければ叶わなかっただろう。


「だろ? 遠慮なく褒めてくれていいんだぜ」

「本当にフロッツさんには感謝しています」


 ロロベリアの称賛にフロッツは得意げに胸を張るよう、充分誇れる仕事ぶりなのでミューズでなくとも素直に称えるわけで。


「そうだろうそうだろう。つっても今回はこいつのお陰もあるけどな」


 ただ今回の功績には策もあったようで、右袖をめくれば精霊石が埋め込まれた白金色の腕輪が露わになる。


「これは精霊器なんだけど、物体の重さを軽減する効果があるんだぜ」

「教国ではそんな精霊器が開発されてたんですか?」

「まだ実験段階だけどな。腕輪型なのは俺が使いやすいよう改良してもらったんだけど――」


 苦笑しつつフロッツが説明するよう、本来は荷物の重さを軽減することで運搬作業を楽にしたり、荷馬車を引く馬の負担を減らす為に開発された精霊器らしい。また実験段階と表現したように、現在ではひと一人分の重さを抑える程度で可動時間も二時間が精々らしく、再可動まで半日は必要とのこと。


 そしてフロッツが数日で王国や教国内を行き来したのはこの精霊器を上手く利用したからこそ。自身の重さを無くせば飛翔術に必要な精霊力の消費も抑えられるので、最短ルートを精霊力を解放した脚力と飛翔術を駆使して移動を繰り返した。

 特に危険な霊獣地帯や山岳部では精霊器を利用した飛翔術が活躍したらしいが、可動時間を考慮に入れた使いどころや長時間の飛翔術を可能にした保有量、なにより長距離を走れる体力があってこそだ。


「飛翔術にも使えるかもって旦那に実験の協力を頼まれてたけど運がよかったぜ。お陰でダリーとデートできたしな」


 故に普段通り軽薄な発言をするもフロッツの非凡さが窺えた。


「ちなみに飛翔術どころか持たぬ者なのに、ラナクスから王都までを二時間程度で走れるアヤトくんはどんな精霊器を使ってんだ?」

「なにも使ってねぇよ」

「…………やっぱ精霊器無しかよ」

「別におかしくねぇだろ。ラタニやカナリアらも余裕で走れる距離だ」

「キミらの感覚が色々とおかしいね……」


 窺えるのだが普段から移動も体力作りの一環として馬車を使わない面々と比べれば相手が悪く、フロッツに対するロロベリアの評価が変わらなかったのは言うまでもない。



 ◇



 そして翌朝、一同を乗せた船は予定通りに公国の港に到着。


「さすがにここから走って移動、とか言わないよな?」


 昨日の話が強く印象に残っているのか、下船するなり恐る恐る確認をしてきたフロッツにアヤトはため息一つ。

 

「旅ってのは移動も含めて楽しむもんだろ」

「……おお。まあ、そうだな」

「故にまずは腹ごしらでもするか」


 思わぬ返しに言葉を詰まらせながら同意するフロッツを無視して港街に向かった。

 同行者の意見も聞かない奔放ぶりでも、今の発言や現地の料理を楽しむ様子は普段の印象と違う。


「……ロロちゃん、実はアヤトくんって旅好き?」

「各国を巡る武者修行の旅をしていたとは聞いてますけど……」


 後を追いながら質問されたロロベリアも若干の戸惑いはあった。

 料理好きなので現地の料理に興味を持つのはアヤトらしい。しかし気のせいか、昨日の合流からどことなく機嫌が良さそうに感じていた。

 昨日も夕食後、サロンに顔を出してあやとり大会に参加したり、口数は少なくともそれなりに会話にも参加していた。

 教国行きの際はカナリアに散々忠告を受け、ミューズやレムアに配慮していたが今回はそういった忠告を受けず自主的な参加。加えて自分たちの公国行きもすんなり受け入れてくれた。

 挙げ句、移動も含めた今回の公国行きを楽しむ発言。今まで帝国や教国と共に行動していたロロベリアも初めてアヤトから楽しむ意思を聞いたのだ。

 もしかして敬愛する両親のルーツを知るのを喜んでいるのか。父と母の仲を認めず廃嫡した当主だろうとアヤトは価値があると口にしたならあり得るかもしれない。

 ただ無意識でも浮かれるとは想像し辛く、普段以上にアヤトの心情が読めない。


「でもアヤトが楽しんでるのは良いことです」

「はい。無理なお願いと思いましたが、わたしも安心しました」


 ミューズも同じ気持ちなのか自然と笑顔が浮かぶ。

 心情が読めなくても自分たちの同行も含めてアヤトの姿勢は嬉しいもの。


「……それもそうか。なら遠慮なく楽しもうぜ」


 なにより変にギスギスした時間よりは余程いいとフロッツも切り替えたのか、先を歩くアヤトの隣りに並んだ。


「そんなに旅を楽しみたいなら帰路は陸路でのんびりいくか? 早く帰っても遠征訓練で学院も休みだろ」

「俺は学食の仕事がある。つーか愛しの剣聖さまに早く会いたくないのか」

「ばっか、敢えてだよ。俺と一緒にいられない時間が長ければ長いからこそダリーも寂しくなって俺の大切さが分かるってもんだろ。大手を振って軍務サボるれるし、まさに一石二鳥、完璧な提案じゃね?」

「ボロだらけにしか聞こえん」


 調子に乗ったフロッツを鬱陶しげに対応しつつも、アヤトは苦笑交じりに振り返る。


「だがま、お前らが構わんなら好きにしろ」

「アヤトも一緒でしょ?」

「ケーリッヒにもノンビリしてこいと言われてるからな」

「じゃあフロッツさんの提案に一票で」

「わたしも一票です。レムアさんも構いませんか?」

「どこまでもお供します」


 まさか受け入れると思わなかったが、拒む理由はないと三人も了承。


「ならバカのバカな提案で少々帰りが遅くなると家に手紙を送れよ」

「もちろん」

「わかりました」

「いやいやバカな提案じゃなくて、これも恋愛におけるテクニックだって」


 予定変更も含めて、ロロベリアやミューズは今からワクワクと心躍らせていた。



 ◇



 港街で新鮮な魚貝料理を味わった一同は移動を開始。

 ギーラスからは公国内での移動用に馬車を用意すると提案されていたが、事前にアヤトから寄り合い馬車を利用すると伝えていた。普段は家の馬車を利用するミューズだがこれも旅の醍醐味と受け入れたのは言うまでもなく、フロッツやレムアだけでなくアヤトがいるなら安心とギーラスも了承したらしい。


「貴重な体験でしたね」

「ですね。色んな方々とお話しもできて楽しかったです」

「ならいいけど……でもまあ同乗してた連中もまさか他国の貴族令嬢が二人もいたとは思わなかっただろうな」

「フロッツさんも男爵家ですけど」

「俺に専用の馬車とかないって。なんせ実家とは疎遠の三男坊だ」


 故に寄り合い馬車を乗り継ぎ夕刻には無事、初日の目的地エスナルの街に入った。

 ここで一泊して翌朝、再び乗り合い馬車で移動。スフィアには昼過ぎに到着予定となっている。

 移動こそ乗り合い馬車を利用したが、さすがにミューズが泊まるなら平民用の宿屋を利用するわけにもいかない。故に宿泊場所はギーラスに手配を任せていた。

 また公国に来たのはヒフィラナ公爵家当主との面会が目的、しかしこの街で別の面会も予定している。


「だから俺もこんな場所を利用するのは何気に初めてなんだよなぁ……」


 案内されるまま到着した宿泊施設を前に、及び腰になるフロッツの気持ちをロロベリアも大いに理解できる。

 なんせロロベリアも貴族専用の宿泊施設は初めてで、帝国で滞在した迎賓館と遜色ない外観から既に緊張していた。


「無駄に突っ立っているのはそれこそ時間の無駄だろ。あまり待たせるのもな」

「君は無駄が嫌いだね……でもまあ、一理あるか」


 ただ緊張という二文字を知らないアヤトは平然と催促。

 肩を竦めながらフロッツも従い宿泊手続きを済ませた。

 後はそれぞれの宿泊部屋に案内してもらい、夕食の時間までは自由に過ごすがその前に。


「ミューズさん……緊張してます?」

「……少しだけ」


 カウンターで目的の宿泊部屋を確認したフロッツに案内される中、ロロベリアは僅かに表情を強ばらせているミューズを気遣う。


「ですが緊張だけでなく……この日を待ち望んでいました」

「なら良かったですね」


 しかしミューズの気持ちを汲み取りロロベリアも切り替える。

 複雑な気持ちがあろうとミューズにとって大切な家族、なら友人として素直に喜ぼうと笑顔で。


「みなさん、お久しぶりです」

「お久しぶりです……お爺さま」


 教国の一件からすれ違っていたギーラスとミューズの再会を見守っていた。




微妙にテンション高めなアヤトくんですが、ロロやフロッツからすれば違和感になりますよね。普段の行いが行いなので仕方ないですけど。

それはさておきアヤトと曾祖父の面会を前に、やはりこの二人も向き合っておくべきでしょう。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ