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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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幕間 密かな特権

アクセスありがとうございます!



 入れ替え戦の三日前――


「今日も邪魔するぜ~」


 夜中、アヤトの自主訓練が始まって間もなく訓練場にユースが姿を見せる。

 黙々と朧月を振り続けるアヤトから返答はないがいつものこと、故にユースも夕雲を抜いて型稽古を始めた。


「たく……マジで邪魔だな」


 しばらくして朧月を鞘に納めたアヤトが今さらながらため息一つ。

 今まで五日に一回か二回の参加が公国行きを決めてからは毎夜になれば鬱陶しいのか。


「当分この時間もお預けだから仕方ないじゃん」

「なにが仕方ねぇだ」


 しかし公国行きが決まったからこそとユースは悪気もなく笑う。

 公国にいつまで滞在するかは未定でも移動日程を含めればまず遠征訓練までには戻って来られない。そして遠征訓練は半月、少なくとも一月近くは別行動になるので出来るだけアヤトとの訓練を受けておきたいのだ。

 なんせ予想通りロロベリアは課題だった自分やエレノア、ミューズから二連勝どころか三連勝を達成。やはり音の発動は厄介極まりなく未だユースは勝ち筋を見出せないほど。


 ちなみに課題を達成したロロベリアは元通りアヤトの訓練を毎日受けられると喜んでいたが、次は同じ条件で序列二位から五位、序列六位から九位でどんなペアでも良いので最低三勝する課題を与えられた。

 さすがに一対二ではまだまだ分が悪く、アヤトは自分と訓練するのが嫌なのかと嘆いていたのにはユースも呆れたものだ。

 一対二では高度な立ち回りが要求されるので今まで以上に戦術を練る必要があり、上位と下位の組み合わせから組みやすいペアを選ぶ考察力と経験が必要なロロベリアには不可欠な訓練。だが更に言えばアヤトの見立てでもロロベリアを単独で相手取れる学院生が居なくなったとの意味にもなる。

 つまりそれだけ成長を認めた証拠……にも関わらず構ってもらえないと短絡的に嘆く辺りがロロベリアだった。


 とにかくアヤトに認められた成長に敬意は払えど、ユースもこのまま独走させるつもりはない。故に出来る限りアヤトとの訓練を積んでおきたいのだ。

 それともう一つ、この時間だからこそ話せる話題もあるわけで。


「しかしまあ姫ちゃんやミューズ先輩の許可がもらえて良かったな」


 訓練前の雑談としてユースが持ち出したのは公国行きの話題。

 アヤトとヒフィラナ公爵家当主の面会に関する打ち合わせのため、飛び回っていたフロッツが今日の夕刻に戻ってきた。

 ギーラスだけでなくミューズの意思を伝える為にリヴァイの元へ向かったり、面会の日程決めもしたりと僅か数日で公国や教国を何度も行ったり来たりは大変だっただろう。まあ明日はご褒美としてダリヤとラナクスでデートをするので疲労も感じさせないテンションだったが、本来不可能な打ち合わせを達成したフロッツの能力に恐れ入る。


 それはさておきミューズの申し出をアヤトは認め、ロロベリアはクローネに事情を伝えて家の都合という建て前を手に入れた。しかしミューズの公国行きはギーラスやリヴァイの許可や協力が必要。もし許されなければロロベリアも自粛するつもりでいたが結果はミューズの公国行きも決定。

 故に明日、学院側に表向きの事情で遠征訓練を休む旨を伝え、学院生会や序列保持者、サクラには事実を伝える予定だ。

 もちろんフロッツの朗報に二人が喜んだのは言うまでもないが――


「かもな」

「……全然良さそうに見えねぇ」


 先ほどの報告時と変わらずアヤトは平然としたまま。

 二人の同行に喜ぶタイプでもないが、少なくともロロベリアの同行はアヤトにとっても朗報のハズで。


「とりあえず姫ちゃんが側に居るならお前もお守りしやすいだろ。ならもうちょい安心してもいいんじゃね?」


 なんせ教国の一件で起きた裏の事情を自分に伝えてまでアヤトはロロベリアを守ろうとしている。ミューズの申し出がなくても同行させるつもりでいたのは考えるまでもない。


「今年の遠征訓練はラタニも引率する。別行動になろうとかまわねぇよ」

「さいですか……」


 ……ないのだがアヤトの言い分に肩を落とす。

 それだけラタニを信頼しているのだろうが、だとすると腑に落ちない点もあるわけで。


「そんなにラタニさんを信頼してんなら、ミューズ先輩の申し出を断りそうなものだけど。お前はあんまり自分のことに干渉されたくないタイプだし」

「確かに無駄に干渉されるのは好まんが、俺自身が好きに生きているからな。俺に迷惑かからなけりゃあいつらの好きにしろだ」

「自覚してんなら少しは改めろって突っこみは良いとして、二人が同行するのは迷惑でもないと」

「世話するのは俺じゃねぇからな」


 その言い分にユースも納得。今回の公国行きは帝国や教国のように何らかの問題解決や、アヤト個人の任務でもなく母の実家に行くだけ。加えて旅路や滞在中で二人の面倒を見るのは同伴する者が受け持つ。同時にアヤトの面倒を見るので不憫でしかないが、これもミューズの教国行きの条件なので割り切ってもらうしかない。


「ま、好きにしろだが悪い気はせん」

「……ん?」


 などと同伴者に同情していれば月守を抜いたアヤトから聞き捨てならない感情が。


「それはつまり姫ちゃんやミューズ先輩が一緒に行ってくれるのが嬉しいってことか?」

「誰が嬉しいなんざほざいた。悪い気がせんだけだ」

「似たようなものだろ……」

「全然に似てねぇよ。なんにせよ面倒事は控えているが、たまには賑やかな旅を楽しむのも悪くない、程度のお話だ」


 妙なところは捻くれているが、ユースから見るにアヤトは二人の同行を歓迎しているようだ。本人は無自覚のようでも珍しく自ら心の内をもらしたのがいい証拠。

 ロロベリアを応援するユースとしては複雑ではあるも、二人の存在がアヤトを良い方向に導いているなら純粋に喜ばしい――


「なぜあいつらが遠征訓練サボってまで一緒に来たいのかは知らんがな」

「お前それマジで……言ってそうですね」


 ……考えるまでもない理由をアヤトは訝しむのでディーンと同類かと突っこみたくなった。

 それでも本心を聞けたのは儲けもの。ロロベリアやミューズが知ればとても喜ぶだろうが、この時間で聞いた情報を伝えるのは僅かでも得たアヤトの信頼を失うかもしれない。

 故に悩ましいとユースは精霊力を解放。


「気になるなら本人に聞けばいいだろ」

「毎晩お前の遊び相手をするのも含めて面倒だ」

「でも付き合ってくれるところが、何だかんだでお人好しだよな」

「誰がお人好しだ。つーかいい加減ぼこられにかかってこい」

「んじゃ遠慮なく、ぼこられますか――」


 協力者の特権と割り切って訓練に勤しみ……ぼっこぼこにされたのは言うまでもない。




公国行きを前にロロとミューズが同行するのをアヤトくんがどう感じているかでした。

ミューズの予想に反して実のところアヤトくんはロロを同行させるつもりはなかったのですが、遠征訓練にラタニが引率しなければ……言うまでもありませんね。

それはさておき、二人の同行を何だかんだで喜ばしく感じているなら、周囲の歩み寄りを素直に受け入れつつあるのかもです。

ただ二人以上云々よりもラタニに対する信頼の厚さ、そしてアヤトとの距離を一番縮めているのは何気にユースではないかと感じました。

とにかく次回更新からいよいよ公国に向かいます。ユースも同情していたカナリアの変わりを勤める不運な同伴者は誰になるのかもお楽しみに!


ちなみにディーン並みの無粋発言はガチです(笑)。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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