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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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目的と結果

アクセスありがとうございます!



「――アヤト殿の母君はスフィリア公国の貴族令嬢かもしれない」


「「…………っ」」


 ダリヤの告げたアヤトの母、ワカバの出生にテーブル席で聞き耳を立てていたロロベリアやユースは息を呑む。

 スフィリア公国と言えばファンデル王国とエヴリスト帝国が大陸の覇権を争う数十年前に帝国から独立した小国の一つ。戦争時は中立を宣言、しかし王国とも隣接していることから戦火の影響で教国に逃れた民も多くいる。

 もちろん現在は王国や帝国とも友好関係を築いているが、当時の影響から両国に対する印象はあまり良くない。そこを教会に狙われてヴェルディク=フィン=ディリュアの反逆計画に利用されたのはロロベリアたちの記憶に新しい。

 とにかくアヤトは小国と言えど公国貴族の正統な血筋の可能性がある。この可能性に様々な疑問よりも驚きが勝っていた。


「これはこれは……なんとも興味深いお話ですね」


 対するマヤは好奇心が上回っているが、それよりも気になることが。


「……もしかして知っていたのか」


 ロロベリアたちの疑問を代表するようにダリヤが問いかける。

 当のアヤトは平然とした態度を崩さない。この反応で両親から既に聞かされているのかと疑うのも無理はない。


「初耳だが予想はしていた。ガキながらも母の所作は平民とは思えんほど鮮麗されていたからな」


 だがその問いかけにアヤトは首を振りお茶を一口。


「俺も母から作法を叩き込まれたが公国貴族とは思いも寄らなかった。おおかた独自に改変して推測させんようにしていたんだろうよ」


 礼儀作法の基盤は国によって異なる。子に教える作法でも結びつかないよう配慮していたならワカバは出生を知られたくなかったのか。


「故に俺も詮索するつもりはなかったんだよ。父や母が知られたくないのなら知る必要もねぇし、俺にとって父と母がいればそれで充分だったからな」


 母の意思を優先してアヤトも予想はしても調べなかったらしいが、珍しく本心を語る様子に室内は何とも言えない空気に。

 捻くれた物言いが多く、滅多に本心を口にしないアヤトだからこそ両親に対する想いが窺える。


「しかし公国か……元は貴族と予想はしていたが、まさかヒフィラナ家とはさすがに予想外だ」


「「ヒフィラナ家!?」」


 などとしんみりムードも一変、苦笑するアヤトにロロベリアとユースは絶叫。


「? どうしたの?」

「なんで姉貴は知らないかな!? 姫ちゃんですら知ってんだぞ!」

「そう私でも……だけどユースさん、それってどういう意味ですか!」


 からの首を傾げるリースに突っこむ。先ほどもアヤトと同じくリースの反応も薄かったが、まさかヒフィラナ家を知らないとは予想外すぎた。


「いいか姉貴。ヒフィラナ家っていや先代の元首を任されてたほどの公爵家なんだぞ」


 ユースが熱弁するようヒフィラナ公爵家は公国でも名家中の名家。特に王国と帝国の開戦で衰弱した公国を立て直したのがヒフィラナ公爵の現当主というこもあり、国内でも絶大な影響力を持つほどの大貴族。


「ふーん」

「いやふーんて……もっと驚こうぜ」

「いまいち凄さが分からない」

「……王国とはいえお姉さまも貴族令嬢ですよね」


 なのだが子爵令嬢でもこの手の話にとても疎い姉にユースは違う疑問を抱いてしまう。


「でもアヤト、どうしてヒフィラナ家だって分かったの? 確かに先代の方は東国の血筋だけど……公国貴族には他にもいるはずだし」


 ちなみに貴族社会に疎いロロベリアでもクロの影響で東国関係になれば情報通。

 しかしダリヤは貴族令嬢と口にしただけ。なぜアヤトがヒフィラナ家に辿り着いたのかが分からない。


「敢えて貴族令嬢と濁したからだよ。父や母の名が同じでも濁すほど慎重になるなら大物になる。だから伏せた、違うか?」

「……君はほんとに察しがいいね」


 しれっと返すアヤトの推察力にフロッツは笑うしかない。

 つまりアヤトの推測通りワカバは公国のヒフィラナ公爵令嬢で。


「どうやら要らぬ心配だったようだ」


 慎重を要すると完全に同一人物と分かるまでダリヤは伏せるつもりでいたが、元より名前が一致した時点で確定したも同然。なによりアヤトたちには話しても問題ないとダリヤは開き直った。


「私たちはギーラスさまから確認を取るよう頼まれて王国にやってきた」


 故に情報の出所を包み隠さす打ち明けた。


「タイミング良く俺たちも休暇を取れたしな」

「……私の休暇だ。お前は年中サボりという名の休暇中だろう」

「で、ギーラスの爺さんはなぜ俺の父や母の名を知ったんだ」


 フロッツの軽口にジト目を向けつつ、アヤトに急かされるまま詳しい経緯を話すことに。


「……降臨祭後、枢機卿の座を降りたギーラスさまは教都を離れて地方の教会に移動された。同時に各国のレーバテン教徒が管理する教会を巡礼されていたんだ」


 ただマヤの居る前で話せない事情は伏せている。

 枢機卿を降りたギーラスが各国の教会を巡礼していたのは償いのため。謎の存在に操られていたとはいえ教会派が各国で暗躍していたのは事実、故にギーラスは首謀者の一人として懺悔を告げては巡っていたのだが、教会派の罪はアヤトのお陰で秘密裏に処理されている。

 なら義妹にも話していないと理由を伏せたがダリヤやフロッツだけでなく、ミューズやレムアもマヤの正体を知らないだけに無意味な配慮。

 当然ロロベリアたちも(リースは微妙だが)ギーラスの巡礼理由を察した上でそのまま耳を傾けるのみ。


「その巡礼で公国に立ち寄った際、ヒフィラナ公爵家の当主殿が教会に訪れていたらしい。今はリヴァイさまに家督を譲ってはいるがギーラスさまもイディルツ伯爵家の元当主、また枢機卿も勤められた御方だ」

「当主さまも爺さんを知っているだろうな」

「……ああ。なので当主殿から是非にと屋敷に呼ばれたらしいが、接待と言うよりギーラスさまに話を聞いてもらいたかったんだろう」

「その話が母に結びついたというわけか」

「……自分には平民と恋仲になった孫娘がいたと語ってくれたそうだ」


 アヤトとやり取りをしていたダリアが目を伏せる。


「当主殿は孫娘……ワカバ殿とアースラ殿の関係を認めず、最後は一方的に決別を言い渡した。だが今はワカバ殿の幸せを祈り、教会へ訪れているらしいが……」


 しかし祈りも虚しくワカバもアースラも既にこの世を去っている。

 当主の話にロロベリアの胸がちくりと痛む。なんせロロベリアも毎日のように神さまに祈りを捧げていたが最後は家族を失った。

 ただ皮肉な形でもアヤトと再会できたのが唯一の救い。ならば孫娘の忘れ形見と会うことが当主にとっても唯一の救いになるかもしれない。


 ただ疑問はまだ残る。

 なぜギーラスは当主の話からアヤトを結びつけたのかだ。

 東国の特徴からとりあえず確認してみただけか。


「んで、ギーラスさまがアヤトくんの母親じゃね? って思い当たった理由は二つ。一つは肖像画のワカバ殿にアヤトくんの面影を感じたから」


 重い空気を払拭するようダリアに変わってフロッツが軽い口調で疑問を払拭。


「もう一つはアヤトくんがよく遊んでるあやとりをワカバ殿も大好きだったそうだ」


 東国の特徴だけでなく肖像画の面影、あやとり好きな母息子となればギーラスもアヤトの母親がワカバと推測しても不思議ではない。

 また確認のためだけにギーラスは二人を王国に向かわせたはずもないだろう。


「まあ鋭い君ならもうお気づきだろうし率直にいこうか。アヤトくん、良ければ当主殿と会ってみないか?」

「忘れ形見の貴殿を当主殿に引き合わせたいとギーラスさまは望まれているんだ」


 要はアヤトと懇意にしている二人を説得要因として向かわせた。

 問題は両親を敬愛しているアヤトが頷くかどうか。

 一方的に勘当を言い渡した当主に複雑な感情を抱いているはず。ただでさえ気難しいのだ、むしろ今さら会う理由もないと一蹴する可能性は高い。

 故にダリヤとフロッツはどう説得するか考えていたが――


「今回ばかりは面倒で済ますわけにもいかんか」


「「……あれ?」」


 説得するまでもなく前向きなアヤトに二人から間の抜けた声が漏れた。




ワカバママの思わぬ出生に驚くロロやユースに対し、リースは平常運転でした。

そして良くも悪くも読み切れないのがアヤトくんです。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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