評価される二人、期待される七人
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今期の学院初日――
「リースさん」
「お疲れさまでした」
「……?」
ロロベリアから言伝を訊いて自身の専用訓練所にやって来たリースはミューズとレムアに迎えられてまず首を傾げた。
「師匠は?」
とりあえずアヤトの居場所を尋ねてみればミューズは首を振る。
「まだお越しになっていないようです。わたしやレムアさんもアヤトさまに呼ばれてお待ちしていたのですが……」
「わかった」
ただ訓練場の鍵がないので室内に入れず、外で待機していたと察してリースは訓練場の鍵を開けて招き入れた。
「リースさんはなにか訊いていますか?」
「師匠がここに来いってロロから訊いただけ。ミューズさまは?」
「わたしも学院終了後、レムアさんとここに来るよう言われたのみで理由までは……」
早速リビングルームで情報交換するも目的は訊かされていない。ただ意味もなくアヤトは呼び出さないと素直に従ったのはミューズらしい。
もちろんリースも同じ結論。昨日は選考戦で披露できなかったロロベリアの秘策を真っ向からねじ伏せた上で課題を言い渡し、後は普段通りの模擬戦を繰り返したが明日から本格的な訓練を始めると言われている。なのでアヤトの自主訓練に参加せずワクワクしつつ就寝したものだ。
つまり師弟としての本格的な訓練にミューズやレムアの助力が必要なのだろう。要は言葉足らずなだけ。
ロロベリアに言伝を残した後、先にここへ向かったアヤトがまだ到着していないのが気になるも自分で言い出してサボるような人でもない。
以前のリースなら苛々していたがアヤトに対する憧れを自覚してからは不思議と信頼が上回っていた。
「待たせたな」
「師匠遅い。なにしてたの」
故にレムアの煎れてくれたお茶を飲みつつミューズと待っていたがそれはそれ、十分ほどでやって来たアヤトに苦情を告げる。
「野良猫に絡まれてたんだよ」
「野良猫?」
「ま、そんなことはどうでもいい。ミューズ、レムア、わざわざすまんな」
「お気になさらないでください」
「アヤトさまの分も用意しますので少々お待ちを」
よく分からない理由に疑問視するリースを他所に二人は気にせず恭しい対応。
「茶よりも先に訓練を始めるぞ。レムアも立ち合ってくれ」
そのままリビングルームを通り抜けるアヤトに言われるまま三人も訓練場へ。
「アヤトさま、私はなにをすれば宜しいのでしょう」
「とりあえず審判を頼む。リス、ミューズ、遊んでみろ」
レムアに審判を任せて二人に模擬戦をするよう指示。
「ついでにミューズ、精霊術と攻撃は禁止だ」
「あの、それでは……」
だが縛りを与えられたミューズは困惑。精霊術はまだしも攻撃まで封じられれば一方的に攻められるだけ。
それともこの模擬戦はリースの攻め、自分の守りを強化する意図があるのか。
「むろん互いに勝つつもりで遊べよ。その為にレムアに審判を頼んだからな」
しかしミューズの予想を見透かすようにアヤトは更なる指示を出す。
精霊術も攻撃も封じられて勝利するとはどういうことか。
「分かったならさっさと始めろ」
まったく分からないがアヤトは訓練場の壁にもたれ掛かる。
こうなると質問しても無駄とリースは紅暁を抜く。
ミューズも直刀のサーベルを抜いてレムアに目配せ。
「では……模擬戦、始めて下さい!」
主の命に従う形でレムアは宣言、二人も精霊力を解放。
「いく――」
同時にリースが地を蹴り紅暁を振るう。
対し縛りを与えられたミューズは待ち構えて紅暁の一閃を防いだ。
「まだまだ――」
ただ反撃の心配がないだけに容赦なく攻め立てるリースに当然ながらミューズは防戦一方。サーベルで防ぎ、いなしてもすぐさま斬撃が襲いかかる。
(見ると立ち合うでは大違いですね)
初めて刀を扱うリースと対峙したからこそ感じる脅威。槍に比べてリーチはないが、攻めの速度が格段に上がっている。
また一撃の重みはないが鋭さが増した分だけ捌ききるのが難しい。精霊力の視認による動作の先読みがなければ簡単に敗北しただろう。
(ですが……このままでは……っ)
それでも反撃に転じることができず、一方的に攻められれば別。動作を先読みしようと身体が追いつかなければ意味がなく――
「そこまでです! 勝者、リースさま!」
右手の痺れも相まってついにサーベルが弾かれたところでレムアが勝敗を宣言。
「アヤトさま……これで良いのでしょうか」
そのまま戸惑いながらアヤトに確認するのも無理はない。
精霊術も攻撃も封じられれば最初からミューズに勝機のない模擬戦。いくら縛りありきだろうと主が惨めすぎると批判を込めた視線を向けていた。
「そう怒るな。まずは自分で考えてやらせた方が良いお勉強になるだろう」
レムアの批判を苦笑で交わし、弾かれたサーベルを拾ったアヤトはそのまま肩に乗せたお決まりの構えを取る。
「つーわけでお手本の時間だ。リス、かかってこい」
「むう……どうせなら朧月がいい」
「なに使おうが俺の勝手だ。元より精霊術は使えんが同じ縛りで遊んでやるよ」
頬を膨らませるリースを一蹴しつつ、ミューズと同じく攻撃せず勝利するお手本を見せるらしい。
「……レムアさん」
「畏まりました。模擬戦、始めて下さい!」
「いく――」
「ミューズもよく視ていろよ」
どのように勝利するかを学ぶべく、ミューズはアヤトの動きに集中。
飛び出したリースの一閃を自分以上に悠々と防ぎ、時にはいなす。精霊力の視認に頼らず技能のみでこの防御、しかも手にしているのは初めて手にするサーベルなのだ。
問題は攻撃せずどう勝利するのか。
同じくアヤトは防戦一方の状態。しかし後退だけでなく左右に、時には前へと細かく立ち位置を変えている。
(これは……)
更に立ち位置を変える度にリースの四肢で輝く精霊力に変化が起きていた。
「そろそろか」
「くう――っ」
そして振り下ろし合わせてサーベルでアヤトがいなした瞬間、まるでサーベルに吸い付かれたように紅暁が引っ張られ、リースの体勢が崩れ――
「審判、これは攻撃と見なされるか」
「あ……しょ、勝者アヤトさま……」
膝を突く位置を読んでいたかのようにサーベルの切っ先がリースの首筋に当てられていた。
アヤトはサーベルで紅暁をいなしただけ。防御の内に起きた偶然ならレムアの判断は間違っていない。つまり本当に攻撃せず勝利してしまった。
「とまあ、審判がお決めになったところで早速お勉強の時間だ」
しかし偶然ではなく狙った結果と言わんばかりにアヤトはサーベルをミューズに返してから、悔しげに立ち上がるリースを見据えた。
「ムキになればなるだけ力任せの大振りになってんぞ。つーか選考戦での慎ましいリスはどこにいった」
「……ごめんなさい」
「頭に血が上りやすいのは悪い癖だとも言ったんだがな。攻め意識は良いが、力任せに押し切ろうとせず駆け引きくらいしてみろ」
「わかりました」
確かにリースは大振りを狙われて体勢を崩した。相手が攻撃してこないと単調な攻めになり、引いて間を空けようともしなかったのはリースの悪い癖が出ていたのだろう。
その癖をより痛感させる為の縛りであり。
「相手に合わせすぎとも言ったはずだが」
「……はい」
「どのような状況下だろうと主導権を握ろうとせんから一方的にやられるんだよ」
自分の悪い癖を痛感させる為の縛りでもあったとミューズも悟る。
リースの攻めに遭わせて守りに入りすぎた自分とは違い、アヤトはリースの一振りに合わせて細かく立ち位置を変えていた。またサーベルで防ぎ、いなしながら無理な体勢で振るわせていた。
知らずリースは重心を崩され、最後は紅暁を振るう力を利用されて狙った位置で膝を突いた。
「お前なら俺以上に上手くやれるはずだ。どんな理由だろうと手に入れた力なら遠慮なく活かせるよう磨け」
そして明確な助言は避けたが、精霊力の視認で動きや感情が読めるなら普段から意識的に観察すればアヤトのような対処も不可能ではない。
今までは申し訳ない気持ちから出来るだけ考えないようにしていたが、いざという時に自分や周囲を守れるなら磨くべきかもしれない。
「理解したなら結構。ならついでに面白いお話でもしてやるか」
改めて改善点を突きつけたアヤトは最後にほくそ笑み、まずリースに問いかける。
「リスはとりあえず白いのとユースを超えるのが目標か」
「もちろん」
「ミューズは序列のままならエレノアと白いのか」
「はい」
続いて問われたミューズも迷わず頷く。序列保持者全員の最終目標は打倒アヤト。しかしそれとは別に意識している相手ならやはり上位の二人だ。
「なら敢えて忠告してやる。ミューズ、このままでは白いのを超えるどころか突き放されるぞ」
「…………っ」
だがアヤトの無慈悲な通告は衝撃的で。
「つーか現在の序列は白いの、エレノア、ミューズ、ユースだが地力でいや白いのとユースの二強だ。選考戦でユースが敗北したのも運に過ぎん」
しかしアヤトは構わず更なる追い打ちをかけた。
「むろん精神面のへぼさが原因だ。庇うつもりは微塵もないが、俺の見立てでは白いのとユースは十回遣り合えば六割で白いのが勝つだろうよ。だがお前では白いのと十回やっても十回負ける。ユースが相手でもせいぜい二割程度だ」
序列こそエレノアやミューズは上だが、序列がそのまま強さの順にならない。
ロロベリアだけでなくユースとも既に大きな差が開いているというのがアヤトの見立てで。
思い起こせば選考戦で新解放の分配調整にエレノアやミューズは呆気ない敗北をしたが、ユースは一分近く抵抗していた。
「更に白いのの甘えがマシになればユースでも良くて一割か。ま、あのバカがそう簡単に終わるほど可愛げはないだろうがな」
甘えというのがなにを指しているかは分からないが、今後ロロベリアが成長すれば学院生で唯一対抗できるのはユースのみになる。
「ちなみにエレノアとお前なら五分だ。このまま後輩に突き放されても構わんのなら好きにしろ」
序列二位のエレノアも同じ差が開いているなら、ロロベリアとユースにとって他の序列保持者ではライバルにすらなっていない。
「リスは話にならん。ま、ジュード先輩やルイ先輩は更に話にならん段階だがな」
そしてミューズでもこの状況なら、残念ながらリースは更に差が開いている。
「故に今後は俺とサシで遊ぶ意外では先輩方に手伝ってもらうぞ。むろん他の先輩方にも今の話をするつもりだが、相手してくれるかどうかは運次第か」
「……ロロやユースはどうするの?」
「あいつらには既に課題を出している。要は付きっきりで俺が構ってやる段階を超えてんだよ」
現状ロロベリアやユースはアヤトとの訓練に拘らず様々な経験を積ませる方が効率よく伸びる。
しかし他の序列保持者はアヤトが考えた様々な訓練法で早々に地力を伸ばさなければ目標どころか完全に取り残されてしまう。
故にアヤトはリースの修行を兼ねて、他の面々を鍛える方針を選んだ。
「あの二人に言うんじゃねぇぞ。無駄に自惚れるからな」
前年の序列保持者とは違う、序列保持者同士ですら競え合えない状況を危惧して。
「面白いお話しだっただろう」
「とても為になりました」
「燃えてきた」
なら最高の激励だとミューズやリースは現状に打ちひしがれるどころか高ぶりを抑えきれない。
少なからずアヤトに認められた二人が今後更に飛躍するにはやはり同世代のライバルは必要不可欠で、自ずと自分たちの飛躍にも繋がるならば立ち止まっている暇はない。
そしてこの話を聞いた他の序列保持者も同じ気持ちを抱くはず。
ならば今二人がやるべき事は決まっている。
「リースさん、もう一度お手合わせをお願いします」
「一度と言わず何度でもやる」
「張り切るのはいいが後半は俺と遊ぶ時間に使うのを忘れるなよ」
「「望むところ(です)っ」」
早くロロベリアやユースに追いつく為に、他のライバルに先を越されないよう地力を伸ばすのみ。
これまで以上に苛烈な訓練もまさに望むところと二人は意気揚々と模擬戦を始めた。
「私の役目は治療術で間違いありませんか」
そんな二人を心配しながらも微笑ましく見守りつつレムアはアヤトに確認を。
これまで以上に苛烈な訓練になればミューズは自分で治療術を施す余裕がなくなる。加えてアヤトの訓練を知るだけに学院の医療施設に頼れば訓練法を問題視されてしまう。
「お守りを兼ねてな。張り切りすぎて事故が起きてはかなわん」
「……たしかに」
アヤトが居る限り未然に防げるだろうが、ミューズの個人訓練でも注意する必要がありそうとレムアも納得。
「では学院の施設でリースさまや他の序列保持者のみなさまと訓練をされる際はいつでも私をお呼び下さい。主さまを導いて頂けたのですから、お礼をしなければ従者として立つ瀬がありません」
同時にレムアなりの感謝として提案。エレノア、ジュード、ルイには治療術を扱える従者はいるもランやディーンは平民。リースも従者が同行していないのなら自分が治療役で貢献するつもりだ。
「別に礼をされる謂われはないが、俺のカリとして呼ばせてもらおう」
「アヤトさまは相変わらずでございます」
だが提案を受け入れても自身の借りにする辺りがアヤトで、呆れながらもレムアは遠慮なくお返しを望むことに。
「ならば予定されているミューズさまとのデートで、なにか思い出になるプレゼントをお願いします」
「主が物好きなら従者も物好きなもんだ。そんなに主さまが大切なら俺と出かけるのを止めてやれ」
「主さまが大切だからこそ、ですよ」
「たく……ならそれで貸し借り無しだ」
「畏まりました」
面倒気でも了承を得られたレムアが張り切って治療役に勤しんだのは言うまでもない
アヤトが評価した選考戦終了時点の序列保持者の実力でした。
前序列保持者はレイド、カイル、ティエッタ、フロイスの四強でしたが他の六人も充分対抗できていました。しかし現序列保持者ではロロとユースの二強で次点のエレノアとミューズでも差が開いています。
アヤトに出会ってから最も訓練を積んでいるロロはともかく、リースたちと同レベルの訓練を受けているユースの方が凄いのかもですね。それなりとは言えアヤトが協力者に選ぶだけあります。
また本編ではロロが更に上へ行きましたが、このまま終わる面々ではありません。なのでアヤトも期待して面白い話で発破を掛けたのでしょう。後に同じ話を聞いたエレノア達がどんな反応を見せたのかは言うまでもありませんね。
ちなみにアヤトはすっかり序列保持者の教官ですね。
そして次回でオマケもラスト。内容は最後のやり取りに関わっています。つまりアレもあります!
詳しくは次回で!
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