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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十二章 新世代を導く改革編
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大切な場所に

アクセスありがとうございます!



 土精霊の周季二月に入って二日目――


「イルビナ殿。少し宜しいですか」


 一日の講習が終わり、生会室に向かっていたイルビナを呼び止める声。

 振り返ればファルシアンが相変わらず芝居臭い所作で歩み寄ってくる。


「昨日、レイティくんから訊きました」

「そう」


 端的に告げられてイルビナも理解した。

 サクラ主催のお泊まり会でレイティやエランとアヤトに挑み、ぼっこぼこにされてからファルシアンを含めた三人で毎日のように訓練をしている。

 打倒アヤトを目標に有力な一学生が共に研鑽する切っ掛けになったのは狙い通り。まあ仲良くというより張り合っているようで、レイティから度々二人に対する愚痴を聞いていた。

 ただ同じ目標を抱けどなれ合う必要もない。それに愚痴を零しながらも認め合っているのはイルビナも察しているので微笑ましく見守っている。


 またレイティに自分の状況は伝えていた。

 エランはイルビナの過去を知らないが、ファルシアンはレクリエーションの時にラタニからロロベリアにお説教という形で知ることになったので、事情を知る一人としてレイティは話したのだろう。

 故にイルビナは目配せ、察したファルシアンと共に近くの空き教室に入った。


「心配してくれてありがとう」

「私はなにもしていませんから。ですが上手く落ち着いて安心しました」


 二人になり改めてイルビナは感謝を述べる。

 首を振るファルシアンだが事情を知るからこそ心配してくれて、レイティから結果を訊いてわざわざ会いに来てくれたのだ。


 そしてファルシアンが安堵するように実家の問題は良い形で纏まった。

 レクリエーション終了後、エレノア、レガート、シエンとシーファンス家の対応を話し合い、最終的にイルビナは学院卒業と同時にシーファンス家と縁を切る道を選んだ。

 なんせ両親は持たぬ者として常識を覆した実力の価値を今さら理解し、更に学院生会を通じてエレノアや帝国の皇女サクラと懇意になったと知るなり、わざわざラナクスまで赴きシーファンス家の次期当主にするとまで言い出した。

 この手のひら返しにイルビナも呆れてエレノアに相談。さすがに看過できないとエレノアはイルビナを連れて父に報告する決断を取った。

 その結果、王城に呼び出された両親は子どもへの精霊力の有無による差別意識を厳重注意、シーファンス家が管理する子爵領の今後次第では爵位剥奪も視野に入れると勧告まで受けた。


 ただこの程度の罰で収まったのはイルビナの温情があってこそ。

 両親や兄、使用人に対する恨みはない。蔑ろにされても十七年間育ててもらった恩義がある、兄や使用人も両親の方針に従ったのみ。

 イルビナとしては自分のような持たぬ者が冷遇されないよう領主として、また王国貴族として尽力してくれるなら構わない。


 しかし今さら娘として認められても、家族としてやり直すつもりはない。


 決別の意思に両親は崩れ落ちるも、反省して今後に活かしてくれるのを望むだけ。もし変わらなければ仕方がないと他人事のように感じた。

 後悔する両親の姿にそのような感情しか抱けなかった。

 五年前に両親が娘として認めてくれなかったあの時、両親に対して関心をなくしたのなら自分も薄情なのかもしれないと反省しつつ、両親からせめてもの償いとして卒業までの支援は受け取り、卒業後はシーファンス家の体裁を取り繕う意味も含めてイルビナが望んで独立する形で纏まった。

 つまり卒業後は貴族ではなく平民として生きるがこの決断に後悔はない。


 なにより卒業後の進路は既に決まっている。


「レイティと再会できた。ミンナに出会えた」

「故にあなたはこの学院を選んだのですね」


 ファルシアンの微笑みにイルビナはこくんと頷く。

 娘として認められようと費やした十二年で手に入れた選択肢の中でイルビナは学院講師の道を選び、既に学院長にも伝えている。

 持たぬ者の希望として、騎士クラスの育成に力を貸してくれるならむしろ願ってもない申し出だと認めてもらった。

 もっと実入りの良い道、名誉ある道もあった。

 それでも自分の人生を変えてくれた、大切な仲間と出会えたこの学院に貢献したい。


 これがイルビナの本心で、後輩たちにも大切な場所になってもらえる学院にしていくのが新たな目標だ。


「まだ内緒。ワタシは学院生」

「もちろんです。なのでイルビナ講師と呼ぶのは卒業後からにしましょう」

「ちょっとくすぐったい。でも悪くない。ふふん」


 無表情ながらも得意げに胸を張るイルビナにファルシアンは優美な一礼を。


「では今期は先輩として、来期から講師としてご指導ご鞭撻のほどをお願いします」

「びしびし指導する」

「楽しみにしています。お時間を取らせて申し訳ありません、イルビナ殿」

「気にしなくていい。ファルシアンも訓練頑張れ。レイティと仲良くして」

「畏まりました」


 激励と配慮を告げてファルシアンと別れたイルビナは生会室に向かった。



 ・

 ・

 ・



「……自分の弱さが情けないね」


 対するファルシアンは弱々しい笑みを浮かべていた。

 レイティから近況を訊いて、その決意を応援する気持ちを伝えに訪れたがイルビナとの違いを痛感するばかりだった。

 不遇な扱いを受けても弱音を吐かず、自分を見失わず歩み続けたからこそイルビナは常識を覆し、多くの人に認められた。

 なのにファルシアンは周囲の期待が煩わしくなり、自暴自棄になってしまった。

 ロロベリアに諭されたように向き合おうともせず、周囲が勝手に押しつけたように、なにも変わらないと周囲に失望を押しつけていた。


 それを思い知ったのはレクリエーション終了後、ロロベリアに敗北した結果を踏まえて、自分の苦悩も包み隠さず綴った手紙を実家に送った。呆れられるか、見放されるかとの恐怖はあったが、逃げるよりも良い方向に変わる努力をする覚悟で。

 しかし覚悟とは裏腹に実家から送られてきた手紙には、苦悩に気づいてやれなかった後悔やこれまで重圧を背負わせていた謝罪、今後のクォーリオ家についてファルシアンの考えを知るべく話し合いたいとの思いが綴られていた。

 敗北についても呆れるどころか怪我をしてないか、落ち込んでないかと気遣ってくれた。

 自分が大切に思っていたように、周囲も大切に思っていてくれたと実感してファルシアンは涙が止まらなかった。むしろ勝手に失望していた自分を悔いた。

 イルビナと違って周囲に恵まれていたのに、向き合う努力すらせず逃げようとした自分が恥ずかしい。


 間違いを犯す前にこの学院に来て本当に良かったと今を噛みしめる。


 故にファルシアンにとってもマイレーヌ学院は大切な場所になった。

 尊敬する先輩方、目標とする憧れの強者と出会えた。


 なにより尊敬する先輩方のように同じ目標を胸に競うライバルと出会えたのだ。


「ファル、どこ行ってたんだよ」

「私たちに勝ち越しているからといって遅刻か。良いご身分だな」


 訓練場に到着したファルシアンをエランとレイティが迎え入れる。

 日課となりつつある三人での合同訓練に遅れた自分に呆れや嫌味で批判するも、ファルシアンは心地よく感じる。

 まだまだ互いのことを良く知らない間柄で友情と呼べるほどの繋がりはない。

 それでもいつか尊い存在になると確信している。


「そんなに私に早く会いたかったのかな?」

「好きこのんでお前の顔を見たいわけないだろう」

「俺はアヤト兄ちゃんや先輩方に早く追いつきたいだけだ。要は時間が惜しいんだよ」

「相変わらず君たちは素直じゃないね。さて、今日はどちらが先に負けたいのかな?」

「こいつ絶対に泣かす……っ。レイティ、俺からやらせてもらうぞ」

「勝手に決めるなエラン。私が先だ」

「俺が先だ!」

「私だ!」

「やれやれ……人気者は辛いね」


「「寝言は寝て言え!」」


 だから啀み合ってばかりの今も楽しく感じるのだろう。




イルビナはシーファンス家と縁を切り、学院講師の道を選びました。

自業自得とは言え両親はこれから苦労するでしょうが、関心をなくしたイルビナも薄情というより可哀想なのかもしれません。

また自身の強さを名誉よりも後輩たちの育成に活かす道もイルビナらしく思います。それほど彼女にとって学院は大切な場所になりましたからね。

同時にファルシアンの近況も描きましたが、もちろん拗れる可能性もあったでしょう。ただお互いに大切に思うが故のすれ違いですからね。助言を得て、ちゃんと行動に移して自分の気持ちを伝えたファルシアンの勇気も報われるべきと作者なりにこの結末を描きました。

なので心置きなくエランやレイティと啀み合いつつ成長していくでしょう。次世代の今後も楽しみです。


そして次回のオマケは少し時間を遡り、あの師弟をメインに現世代の現状となっています。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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