表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十二章 新世代を導く改革編
532/780

不毛な時間 改め

まずお詫びを。

前回のオマケ『乙女の秘密 再び』内の男性陣の部屋割りでアヤトとユースになっていましたが、ディーンの名前が抜けていたのでユースはディーンと同室、アヤトは一人で一部屋と変更させて頂きます。

既に修正していますが間違えてしまい申し訳ございません。

そしてディーン、忘れててごめん!


改めてアクセスありがとうございます!



 ロロベリアに続いてエレノアとミューズがサクラの寝室に訪れた頃――


「失礼するぞ」

「待たせたかな」


 男性陣が用意された客室の一室にジュードとルイが訪問。


「気にするな」

「私たちもいま来たところですよ」

「ん、です」


 既に訪問していたディーン、レガート、シエンが迎え入れるが、シエンは読書に夢中でおざなりな返答。なんせここはサクラの住まう屋敷、帝国から持参した書物が豊富にある。特に精霊学の専門書は王国にはない物ばかり、研究バカのシエンが夢中になるのも無理なはい。

 また平民のシエンが伯爵家や子爵家子息に不躾な対応をしてもこの面子なら今さら。同じ学院の理念推進派、と言うのもあるがジュードは王族に対する敬意さえ尊重すれば意外にも寛容だった。


「……随分と豪華だね」


 それはさておきテーブルに並ぶドライフルーツや茶菓子の数々にルイは苦笑い。

 ここに訪れたのは男性陣で集まって夜のティータイムを楽しみつつ親睦を深める為。そして発案者はこれまた意外にもジュードだったりする。

 序列保持者に返り咲いてすぐ、エレノアに自分の知った世界を知って欲しいと説得されたことから、サクラの発案で女性陣が女子会を開くなら、自分たちもするべきと思い立ったらしい。相変わらずの王族バカな理由でも、率先してこうした提案をするのならジュードも良い方向に変わっているのだろう。


「エニシさんを始め、使用人のみなさんが用意してくれたんですよ」


 ちなみにエニシを始めとした使用人が張り切ったのはサクラの友人がお泊まりに来た喜びが暴走した結果だったりする。もちろんエニシは今日の出来事を詳細に手紙に綴り、皇帝に報告するつもりでいた。


「夜のティータイムにしては多すぎじゃないかな」

「かもしれませんが無下にも出来ないでしょう。あなた方は訓練でお疲れでしょうし、甘い物はちょうど良いんじゃないですか?」

「……それにしても多すぎな気もするが」


 とにかくレガートの言うことにも一理あり、遠慮なく相伴に預かろうと二人もテーブルに就く。

 またさすがに女子会のように布団を床敷きにせず、夜のティータイムとしてテーブルで顔を合わせて楽しむつもりだ。

 だが人数が揃っていないので始められず。


「ところで彼はどこに行っているのかな?」


「ああ、ジュード先輩とルイ先輩も来てたんすね」


 ルイが確認すれば同時にドアが開いた。


「噂をすればだ。それで、ユースくんはどこに行っていたんだい?」

「一学生のところっすけど、やっぱ無理そうですね」


 ルイの問いかけにドアを閉めつつユースは首を振る。

 男性陣で親睦を深めるならとファルシアンとエランの部屋に行ったが反応無し、恐らく訓練疲れで眠っているらしい。


「カルヴァシアに散々痛めつけられたなら無理もないか」

「多分レイティちゃんも同じでしょ。にしても、こう言ってはなんですがお二人は元気なんっすね」


 今回は序列保持者とイルビナの強化合宿のような訓練だったが、ジュートとルイは一学生と同じくぼっこぼこにされている。


「期間は短いけど毎日が濃密だからね」

「私もだ」


 ただアヤトの訓練を受け始めて一月足らずでも密度が濃いだけに嫌でも体力はつく。加えて他の序列保持者にこれ以上遅れないよう基礎能力の向上も取り組んでいるお陰で夜のティータイムに参加するくらいの余力は残っていた。

 もちろん実力面も二人の成長は著しい。入学式直後ではエランに敗北すると予想していたが、一月ぶりに立ち合った様子では良い勝負になるとユースは評価を改めたほど。

 要はジュードやルイも序列保持者に並ぶだけの才覚は充分あったのだろうが、これまでの訓練方法や取り組む姿勢が悪かっただけかもしれない。

 しかし親睦を深める夜のティータイム。水を差すのは無粋とユースは空気を読んだ。


「なら面子も揃ったんで楽しいティータイムを始め――」


「逆にいや、それまで薄っぺらい毎日過ごしていたことになるな」


 …………開始しようとする前に、空気を読まない嫌味が。


「つーかお前らはひよっこ共の中でも先輩ひよっこ共と良い勝負できるくらいのポテンシャルはあった。にも関わらず未だエサくれとピヨピヨさえずる一学生のひよっこ程度か、それはそれは随分とのんびり屋なことで」


 発言者はシエンと同じく読書をつつ、ソファに寝そべるアヤト。


「珍しくサボらず参加したと思えば……キサマはケンカを売りに来たのか」

「褒めたんだがな」


 全く褒めているようには思えないが、ジュードの言うようにアヤトも参加の意向を示していた。

 まあ別の部屋にまで足を運ばないと危惧してアヤトに当てられた客間を選んだ結果と思われているが、どの部屋でも参加するつもりでいたとユースは知っている。そもそもどこで開催しようと参加しないのがアヤトだ。

 卒業生から他者との繋がりは大切だと教わったらしく、敗北するほどの意地を見せられれば律義なアヤトは実践する。今回のレクリエーションに備えてレガートに情報収集をさせたように、ユースに伝令を頼んだり意見交換をしたように手を借たのが良い例だ。

 そしてジュードやルイだけでなくレガートやシエンも歩み寄る努力をしているならアヤトもする。故に親睦会も面倒気にしながらも参加しただろう。


 ただユースやレガートは知らないが、アヤトは今回のレクリエーションで学院から追放されるつもりでいた。

 つまり最後だからこそ卒業生の教えを実践しただけ。しかしエレノアに否定されて残る形になったのだが。


「まあまあ、せっかくの時間でギスギスするのは止めましょう」

「それにカルヴァシアがが口悪いのも今さらだろ」

「……ソフラネカの言い分も一理あるか。ならば始めるとしよう。ローエンは本を閉じろ、カルヴァシアも席に就け」

「ですね」

「どこで参加しようが俺の勝手だ」

「それでよくユナイストに協調性を説けたものだな……っ」


 それでも参加しているならアヤトなりの歩み寄り……例え素直に読書を止めるシエンとは違って自由気ままな形だろうと、以前に比べればよほどマシだった。


 とにかくテーブル席にユース、シエン、レガート、ディーン、ジュード、ルイにソファで寝そべるアヤトの七人で男性陣の親睦会を兼ねた夜のティータイムが始まった。


「ところで……なに話します?」


 しかし開始早々ユースが根本的な話題を。

 親善試合前に初めて行われた際はお茶会の経験が皆無なメンバーで挑み、迷走からシャルツの爆弾発言と微妙な時間を過ごした。

 そして平民のシエンにお茶会の経験はなく、交友関係の広いレガートは腹の探り合いを兼ねたお茶会の経験は充分にあれど仲間内で純粋に楽しむ経験はない。ルイも女性ばかりのお茶会は参加すれど同性同士は初めて。そして発案者のジュードも貴族のお茶会は知れど、立場関係ない明け透けな場は初めてだったりする。


「上ではどんな話をしているんでしょうね」


 故に前回同様、早速話題に困ったレガートが天井を見上げる。男性陣と違いこうした場を度々設けている女性陣の会話が気になるらしい。


「レディが集まっているなら、やっぱり恋愛の話かな」

「バカを言うな。エレノアさまがそのような俗物的な話に参加するはずがない。サクラ殿下やイディルツ嬢もいる、やはり三国の未来について語り合っているだろう」


 ルイの微笑みをジュードが即座に否定。しかし残念ながら現在上の階ではジュードが想像しているような時間と真逆、むしろサクラの意向でルイの想像している以上にわちゃわちゃした恋バナが始まっているがそれはさておき。


「君は固いね。ならディーン、ユースくん。レイド殿下たちとはどんな時間を過ごしてたのかな?」

「……それはっすね」


 以前開催したからこそ参考にしようとルイが質問するもユースは返答に困る。シャルツの爆弾発言を思い出したくないのもあるが、なによりあの時の話題をルイとディーンが居る場で上げたくなかった。

 なんせルイの想い人、ランはディーンに好意を寄せている。更にディーンはランの好意に全く気づいていない。もしそれぞれの恋愛観について話してましたと言おうものなら微妙な空気になるのは確定。


「そうだな……まあそれぞれの恋愛観について、みたいな感じか?」


(この先輩マジ空気読めてねぇ……)


 ……なのだが、ルイやランの好意に全く気づいていないからこそディーンはしれっとぶっちゃけ。その鈍感ぶりにさすがのユースも殴りたくなった。


「……へぇ」


「「…………」」


 予想通りルイの目がスッと細くなり、全てを察したシエンとジュードは微妙な表情に。


「恋愛観……ですか。なるほど……」


 しかしレガートは意味深な笑みを浮かべ反すう、ユースは嫌な予感を覚えた。


「なら私たちも先輩方を参考に、それぞれの恋愛観について語り合ってみましょうか。ですがあくまで恋愛観、つまり価値観を語り合う場にしましょう。例えばどのような女性が好みか、という感じで」


(この先輩マジ空気読める!)


 だがその提案に手のひら返し。まあレガートもせっかくの時間をギスギスした空気にしたくないので誘導したくもなる。


「もちろん意中のお相手がいて、私たちに協力を願いたいのであればご遠慮なくどうぞ。出来るかは保証できませんが」

「こん中で好きな奴いるのか?」


(そんでもってディーン先輩! 次の模擬戦で覚えてろよ!)


 なので予防線に全く気づかないお気楽なディーンに恨み節を抱いたのは言うまでもない。


「それは分かりかねますが……ではディーンさんには意中のお相手はいないと?」

「俺か? 別にいないぞ」

「……どうしてランくんはこんな奴を……」

「ルイ、なにか言ったか?」

「なにも。なら君のタイプとはどんなレディかな?」

「タイプねぇ……そんなの考えたこともないからわかんね。そういうルイはどんな子がタイプなんだ?」

「…………」


(それをルイ先輩に訊くのかよ! この先輩マジありえねぇ!)


 更に空気を読めないお気楽発言にユースは内心激怒。他の三人も呆れる中、こめかみをひくつかせていたルイは何とか感情を抑止。


「気は強いけど面倒見が良い、家庭的で笑顔が眩しいレディかな」

「そんな子が居るといいな」

「……そうだね」


「「「「…………」」」」


 お前のすぐ近くに居るだろ――と、五人は突っこむのを必死に耐えた。


「私は出来るだけ価値観の合う方が良いですね」


 とにかくこれ以上ディーンに発言させないよう場の空気を変えるべくレガートは自らの恋愛観を語る。


「自分と価値観が合うかどうか、というのは重要です。でなければ公私関係なく苦労しますし、物事の価値を正しく理解できない無能に足を引っ張られるのは勘弁して欲しいですからね」

「正しい評価をする、というのは同意ですが自分は違った価値観を持つ人がいいですね」

「おや? それは意外ですね」

「自分と違う価値観を持つからこそ、自分には気づけない観点から物事を考えられるです。その結果衝突することもあるですが、意固地にならず話し合えば知見が広がるです」

「そういった考えもあるんですね。勉強になります」


 恋愛観を語っているのに全く甘酸っぱくないやり取りをしているが、価値観などそれぞれなので否定するのはそれこそ無粋。


「ジュードさんはどうですか?」

「私は将来、家督を引き継ぐ身。共に領地の繁栄と王族に対する敬意を抱き、支える者が望ましい」


 なによりどんな内容だろうと会話が成立しているなら趣旨は成立している。


「ニコレスカ弟はどうなんだ」

「そうっすね……具体的にこんな感じってのはないんすけど……姉貴や姫ちゃんとは別のタイプがいいっすね」


 故にジュードのお堅い価値観にも突っこまず、パスを受けたユースは返答。


「それも意外ですね。お二人とも素敵な方だと思うのですが」

「それとも家族だからこそかな?」


 レガートやルイが疑問視するも想定内の反応。

 以前は家族以外に興味が持てないユースが唯一意識していた同年代の女性はリースかロロベリアだった。もちろん向けていたのは親愛や憧れであって異性としては見ていないが、女性として魅力的なのは否定しない。

 ただいまこの場も含めて、ここ最近は特に色々と気疲れが続いている。つまり二人を含めた序列保持者の武闘派やラタニやサクラのように振り回す魅力的な女性よりも趣味は読書やお花鑑賞、みたいな大人しい子に癒やされたかった。


「……まあ、そんなところっす」


 しかしこれまた無粋な価値観、追求される前にユースは先輩方の関心を我関せずで読書を続けるアヤトにパス。


「んで、参加してんのに全然会話に参加しないお前はどうなんだよ」

「あん?」

「あん? じゃなくて、話し聞いてただろ。好みのタイプだよ」


 まあ参加しているだけでも奇跡な状況。質問したところで交わされるのは目に見えているが上手く先輩方の関心を向けるのに成功すればいい。


「理想の女性像ならあるか」


「おおう!」


 ……ハズだったのに、予想外にもアヤトからまともな返答。ユースは思わず声を上げた。

 ユースの反応が決して大げさではないと他の面々も目を見開く中――


「母だ」


「「「「「「…………」」」」」」


「……なんだ」


 肩すかしを受ける六人を鬱陶しく感じたのか、アヤトは本を閉じて立ち上がる。


「母には生涯勝てる気はせん。ま、父にもだがな」


 ただいつも通り退室せず、紅茶を注いだカップとドライフルーツの盛られたお皿を手に再びソファに横たわった。


「とにかく母以上の女性を俺は知らん」


 そのまま読書を再開するも、このまま参加する意思を示す行動にユースは吹いた。


「おいバカ。母が理想の女性像なのがそんなに可笑しいか」

「くく……んなことないぜ。ところでお前のお袋殿や親父殿ってどんな人だったんだ」

「面倒だ」

「そう言わずに。よければ教えて頂けませんか」


 笑いを堪えるユースに続いてレガートも興味を示す。

 アヤトの両親は亡くなっているだけに訊きづらい。しかし本人が話題に上げてるなら変に気遣う方が無粋。


「アヤトくんにそこまで言わせるご両親だからね。僕も訊きたいな」

「二人とも持たぬ者なのですか?」

「前に聞いた時はそうだったらしいぞ。まあリーズベルトからランの又聞きだけど」

「ならソフラネカも詳しくは知らないのか」

「……面倒だと言ったんだがな」


 なので他の面々も遠慮なく興味を示せばアヤトは煩わしげため息を吐くも、やはり退室する気配もなく。


「それなら次のお題は家族自慢にしましょうか」


 輪に入らずとも、それなりにでも歩み寄ろうとしているなら良い傾向とユースは提案。

 自分たちが話せば端的だろうとアヤトも会話に参加すると期待して。


「アヤトも良いよな」

「好きにしろ」


 そのまま男性陣の親睦を深める夜のティータイムは日付が変わるまで続いた。



  

五章のオマケ『不毛な時間』と同じく男子会の様子でした。

アヤトがなぜ今章に限りレガートやユースに協力を要請したのか、その理由に触れるのもありますが、エレノアにあのような提案をしてもアヤトもそれなりに彼らとの時間を楽しんでいると感じて頂ければ。

なので今回の男子会は不毛な時間改め、有益な時間だったと思います。ユースたちにとっても捻くれ者にとっても、ですね。

ちなみにユースたちが興味を示したアヤトの両親については次章で。


そして次回のオマケは本編で予告していた彼女の今後についてとなっています。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ