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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十二章 新世代を導く改革編
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通過儀礼

アクセスありがとうございます!



 レクリエーションの翌日。


 昨日の影響か、学院内は朝からいつもよりやる気に満ちあふれていた。特に騎士クラスの学院生は顕著に受けているようで早朝訓練に励む者が多く見られる。

 意識改革の兆候に講師陣や学院生会は満足しているも、ロロベリアは少々居心地を悪く感じていたりする。

 元より序列一位は学院生の憧れ。加えてファルシアンとの一戦で披露した神業を含め、学院最強の序列一位に相応しい雄志から、特に一学生から羨望の眼差しを向けられるようになった。まあ嫌われるよりはいいとは思うも、この手の扱いにロロベリアはどうしても慣れない。

 ちなみにイルビナもすっかり時の人となったが、マイペースが故にあまり気にせず声をかけられることは多くなっても普段通りに過ごしていた。

 ただ学院が良い方向に向かおうとしているのは歓迎するべき。なのでロロベリアも慣れないながら序列一位として何とか対応していた。


 そしてレクリエーションも終われば次は入れ替え戦に集中。去年ロロベリアが番狂わせを起こしたように、年度最初の入れ替え戦で敗北しては序列保持者としての威厳が落ちてしまう。

 しかし入れ替え戦とは別に、ある種レクリエーションのような行事も控えていた。

 昨日のレクリエーション終了後、サクラが控え室へ来たのが発端。

 ロロベリアやイルビナを労うだけでなく、ある招待を持ちかけるのが目的で。

 今回は協力者として帝国皇女の立場を使わせてもらった学院生会としては断ることも出来ず、サクラの言い分も一理ある。なにより皇女の招待、これも良い機会と学院生会以外の面々も驚きこそすれ了承した。


 その行事は学院生会と序列保持者、そして新入生代表として参加したファルシアンとレイティを招待した、サクラの屋敷で夕食会とお泊まり会。


 今回のレクリエーションに尽力した面々を労うという名目と、この機に同じ新入生とも更なる交流を深めたいらしいが――


「たく……これだから後輩構ってちゃんは」


 学院終了後、珍しく共に帰宅したアヤトは送迎の馬車内でぼやいていた。

 そもそも交流を深めるなら夕食会だけでもいいのにお泊まり会を開くのは完全にサクラの私情が挟んでいる。その証拠にマヤだけでなく同じ一学生の初めての友人としてエランまで招待されていた。

 立場上、帝国では中々同年代と関わることが出来ない分、留学中は友人と気さくな時間を過ごしたいらしい。特に入学してからはファルシアンの暴走で時間を取れたのも一度きり、故に構ってちゃんと呼ばれても仕方はなかった。


「宜しいではありませんか。ボッチな兄様には良い機会ですし、こうした時間も楽しそうです。故にサクラさまには感謝ですね」

「お前は人間の真似事が好きだからな。念のために言っておくが、ボロだすんじゃねぇぞ」

「はーい」


「大丈夫かな……」

「問題ない」

「なるようになるだろ」


 ノリノリなマヤにロロベリアは一抹の不安を覚えるもニコレスカ姉弟のように開き直るしかい。

 などと他愛のない話をしている間に五人を乗せた馬車は屋敷に到着。


「みなさま、お待ちしておりました」

「本日はお世話になります」


 エニシの出迎えに代表してロロベリアが対応。使用人にそれぞれが荷物を預ける中、アヤトのみ拒否したが今さらで。


「他のみなさまは既に到着されておりますよ」

「そうでしたか……遅くなってすみません」

「いえいえ。みなさまのご自宅が一番遠いので仕方ないかと。それよりもお嬢さまにお泊まり会をするほどのご友人がこんなに多く出来るとは……皇帝陛下もお喜びになるでしょう」

「「…………」」


 またサクラ以上にエニシが喜んでいるのか、感動の余り目尻を拭うもその涙がロロベリアやユースにはとても重く感じた。


「失礼しました。みなさま既に室内訓練場でお待ちですが、アヤトさま」

「このまま向かって構わんぞ」

「ではこちらへ」


 それはさておき唯一荷物を預けなかったアヤトに確認する前に了承を得たのでそのまま室内訓練場に。


「待っておったぞ」

「来たか」


 中に入れば談笑していたサクラとエレノアが反応。既に揃っている他の面々も次々と声をかけてくる。

 ただジュードやエラン、レイティは緊張した面持ち。ジュードやエランはまだサクラとの面識が少なく、レイティに至ってはほぼ初対面なので皇女の招待となれば普通の反応。


「先輩方、お待ちしておりました」


 ……レイティと同じくほぼ初対面のはずだが、ファルシアンは相変わらずな芝居口調でお出迎え。まあ彼を普通と考えるだけ無駄、むしろサクラが気に入るタイプなので誰もがスルーする中、ファルシアンはロロベリア達の前に。


「……そちらがアヤト=カルヴァシア殿の妹君でしょうか」

「マヤ=カルヴァシアです」

「これはご丁寧に。ファルシアン=フィン=クォーリオと申します」

「ファルシアンさまですね。今後とも兄様をよしなに」

「こちらこそ、マヤ殿の兄君にはとてもお世話になっております」

「世話した覚えはないんだがな」


 マヤの白々しいやり取りを他所にアヤトは肩を竦める。


「つーか面倒事をさっさと終わらせるぞ」

「珍しく素直に遊んでやるんじゃな」

「食事前の軽い運動にはちょうどいいだろ」


 サクラの軽口も一蹴、荷物をマヤに渡してそのまま訓練場の中央へ。


「むろん望めば、だが」


 ファルシアンとレイティに嘲笑を向けるなり、他の面々は訓練場の隅に移動。

 今回の招待はこの二人にアヤトの実力を知ってもらう場でもあった。

 本来序列保持者は他の学院生との模擬戦は控える立場、しかし絶対ではない。ファルシアンやレイティなら無闇に公言しないと踏んでサクラが場を持ちかけ、その意図を察したエレノアを始めとした学院生会や序列保持者も承諾した。強引な理由でエランを招待したのもその意図があってこそ。


「もちろんですとも! では早速――」

「待て。まずは私からだ」


 ……なのだが、中央に向かうファルシアンをレイティが制す。


「お前は持たぬ者が持つ者を超える実力があるのか興味があるだけだろう」

「以前とは事情が違うのだよ」

「だが私が元よりアヤト=カルヴァシアの実力に異議を唱えていた、なら先手は私に譲れ」

「私が先に戦っても君の疑問は解消されるはずだね」

「良いから譲れ!」

「断固拒否!」


「……あいつら仲悪いなぁ」

「ファルシアンくんは楽しんでるだけみたいっすけど、レイティちゃんは昨日の論破を根に持ってんでしょうね」


 そのままアヤトを無視して言い争う二人にディーンとユースは苦笑い。

 ただ微笑ましいと笑ってもいられない。このまま放置していれば間違いなくアヤトの気が変わる。


「そんなに遊んで欲しけりゃ一緒でいいだろ」


 故に仲裁に入ろうとするもアヤトは二人を同時指名。


「エランも加わって構わんぞ」


 更にエランまで指名、つまり三人同時に相手取る宣言。


「……いいの? アヤト兄ちゃん」

「この二人だけでは軽い運動にもならんからな。ついでだ」

「なら遠慮なく」

「ま、待て! 一緒に遊ぶ? つまりあなたは私たち三人を相手にするつもりか?」

「さすがにそれは……」

「大丈夫だって。相手はアヤト兄ちゃんだぞ」

「理由になっていない!」

「君がアヤト=カルヴァシア殿と親しいのは分かるが、いくらなんでも無謀ではないか? そもそも精霊結界の用意が――」


「ユナイストは既にカルヴァシアの実力を知っているからな」

「でも、二人の気持ちは分かるね」


 嬉々として合流するエランに対し、戸惑うレイティとファルシアン。

 その反応はアヤトを知る通過儀礼のようなものと少しだけ先輩のジュートとルイは苦笑い。


「どうやらカルヴァシアは察しているようだ」

「アヤトなら当然じゃろ」


 また伝えるまでもなく自分たちの意図を察したとエレノアとサクラが感心する中、未だ揉める新入生三人をアヤトは無視。


「爺さん、頼む」

「畏まりました。では模擬戦、開始でございます!」


『水膜纏え――っ』


「待て!」

「エランくん!」


 指定されたエニシの合図と共にエランは精霊力を解放、二人の制止も聞かず水の防具を顕現するなり地を蹴った。


「いくぜアヤト兄ちゃん!」

「……たく」


 対するアヤトは迫るエランの拳を朧月も月守も抜かず見据えていたが――


「うぎゃん!」


「「…………は?」」


 そのままアヤトの後方へエランが吹き飛び、ファルシアンとレイティから間抜けな声が漏れる。


「なに一人で先走ってんだ。お前は協調性というものを知らんのか」


『…………』


 お前こそ知らないだろとミューズを除く面々が内心突っこむがそれはさておき。


「エランさまの背後に回ったアヤトさまが蹴ったのでございます」

「蹴った……?」

「まったく見えませんでしたが……」


 状況の呑み込めない二人にエニシが今の出来事を説明するも信じられないと夢現で。


「精霊力を解放しなければ見えないでしょう。それよりもエランさまは戦闘不能のようですが、お二人は続けられないのですか?」

「続けんのなら終いにするぞ」


「……くそっ」


 アヤトに急き立てられるままレイティも精霊力を解放、長剣を抜いて一足飛びで襲いかかる。


「はぁ!」

「なんだ、続けるのか」


 そのままの勢いで長剣を一閃。しかしアヤトは軽口を叩きながらバックステップで回避。


「くっ!」


 続く連撃も両手をポケットに入れたまま躱されてしまう。

 剣筋を見極め最小限の動きでいなすイルビナとは違い、アヤトは武器も手にせず体捌きのみなのに捉えられる気がしない。


「あああ――っ!」


「もういい」


 恐怖心を振り払うよう一心不乱に長剣を振るうも、呟きと共にアヤトは姿を消した。


「がはっ……!?」


 同時に腹部を蹴り上げられたレイティは目を白黒させる。


「――ごほっ」


「で、お前はなにしてんだ」


 更にファルシアンも腹部から走る衝撃に悶絶、いつの間にか目前に立つアヤトに見下ろされていた。


「ぼけっと突っ立ってる暇あるなら、レイティのフォローくらいしてやれ」

「……させて……はっ……くれなかったのは……あなたでしょう」


 蹲りながらファルシアンはせめてもの苦言を漏らす。

 先に斬りかかったレイティに遅れて精霊力を解放したファルシアンも牽制の精霊術を放とうとした。しかしその度にアヤトがレイティの動きを誘導、同士討ちを狙っていたので放てなかったのだ。


「白いのと遊んでいる動きから、それなりに剣術も使えるんだろう。要は突っ立っているくらいなら、それなりだろうと腰にぶら下げている得物でフォローした方がマシだと言ってんだよ」


 ファルシアンの言い分を見透かすように吐き捨てたアヤトは背を向けた。


「ついでにレイティ。イルビナの剣術を上手く真似ているが、それだけでは不十分だ」

「……なん、だと」

「細剣ではなく長剣を選び精霊術士との間合いを詰める狙いは悪くない。だがイルビナの剣術を元に、精霊士に見合った剣術に昇華せんと隙だらけだ」


 歩きながらミューズの治療術を受けていたレイティを批判。


「先も言ったが先走ってんじゃねぇよ。何度も俺と遊んでいるお前がまず二人に助言なり作戦なり立ててやれ。それとも一人で充分とでも思ってんのか? 自惚れんじゃねぇよ」


 そのまま自分で治療術を施していたエランも批判したアヤトは元居た位置で立ち止まった。


「その結果がこの体たらくだ。これでは軽い運動にすらならん」


 ろくな連携をしなかったとはいえ三人がかりで挑み、武器も手にせず一人一発ずつの蹴りでの秒殺。

 まさに格の違いを思い知らされたと沈黙したままの三人にアヤトはため息一つ。


「仕方ねぇ……爺さん、悪いが遊んでくれんか」

「もうよろしいのですか?」


 エニシの問いにロロベリアの治療術を受けて立ち上がるファルシアン、レイティ、エランと順に視線を向けてアヤトは嘲笑。


「なんせ三人がかりでも得物を抜かせてくれんひよっこ共だ。遊ぶ気も失せる」


「「「…………」」」


「分かったならテメェらは隅でピヨピヨ泣きべそでもかいてろ」


「……二人とも、まだやれるだろ」

「あそこまで言われて引き下がれるか……っ」

「同感だ」


完全に眼中にない宣言に目の色が変わった三人はうなずき合い、集まるなり連携の確認を始める。


「どうやら、上手くいきそうじゃ」

「そのようだ」


 その様子にサクラとエレノアも満足げに笑い合う。

 開始当初にはない結束はまさに狙い通りの成果。

 現序列保持者も、先代の序列保持者も同じ志を抱き、個性的なメンバーが協力し、時には競うことで己を高めてきた。


 故にファルシアン、レイティ、エランの三人をこの場に集わせた。


 アヤトもこの意図を察したからこそ、敢えて三人を同時指名したのだろう。

 新入生の中でも才能以上に高みを目指す気概を認めているのだ。

 でなければ成長を促す助言を与えて、挑発で奮い立たせるようなことはしない。


「今度こそ楽しませてやるからな!」

「先ほどの私たちと思わないで頂きたい!」

「このまま終われるものか……っ」


「なんだ、まだ遊ぶのか」


「「「当然!」」」


 新世代の結束と成長を期待しつつ、現世代は打倒アヤトに燃える三人の挑戦を見守っていた。




サクラさまの招待とはレクリエーションに尽力した面々を労う夕食会とお泊まり会でした。

半分くらいは私情ですが、現在学院を牽引する序列保持者のようにファルシアン、レイティ、エランの後に学院を牽引するであろう新生代の成長を願ってのもの。

エランは既に経験済みですがレイドたち先代、エレノアたち現世代のように同世代の仲間と鎬を削る必要がありますからね。


そして次回のオマケはサクラさまの私情がメイン、つまりお泊まり会の一幕となります。


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読んでいただき、ありがとうございました!



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