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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十二章 新世代を導く改革編
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裏幕 自由の代償 後編

アクセスありがとうございます!



 レクリエーションの学院代表になるようアヤトを改めて説得していたエレノアは耳を疑った。


 レガート伝手で呼び出したのはイルビナの実力を確認させるのが目的ではなく、現在学院に広まっている疑惑を利用してアヤトの序列を剥奪させる為。


「大まかな流れはレクリエーション終了後に、俺が学院代表を断ったのはサクラの事前チェックを避けたのが理由か、とでも追求すればいい」


 その真意に硬直するエレノアを他所にアヤトは一方的に打ち合わせを始める。


「俺は適当にはぐらかすが、選考戦で妙な棄権を繰り返した理由は疑惑の通り、不正に使われた精霊器の使用回数とでもでっち上げればいい。むろん俺は肯定も否定もせんが、他の連中は納得するだろうよ」


 確かにアヤトの序列入りを巡って講師が確認できない精霊器の使用、という臆測も出ている。棄権をしたのも何かの制限が関係しているともだ。

 また選考戦で現序列保持者以外の試合を避けたのも、自身の実力を誇示する為と笑い話にもならない臆測。

 だが講師陣のチェックは受けてもサクラのチェックを避ければ、学院生らは真に受ける可能性は高い。特にアヤトは朧月を始めとした従来の技術では打てない武器を打つ鍛冶師との繋がりを知られている。

 公の場で精霊術を斬ってはないがアヤトの所持する朧月や月守は他のメンバーが所持しているツクヨの武器に比べても完成度が高い。他にもまだ広まっていない技術を持つ職人と繋がっていると思われてもおかしくない。

 なんせ学院生にとってアヤトはラタニの弟子以外の経歴は不明瞭だ。


「なんならサクラのチェックを受けるよう勧めてもいいな。ま、俺は面倒だと拒否するが、こうなれば不正疑惑もより真実味を増すだろう」


 だからこそ持たぬ者が精霊術士や精霊士を純粋な実力で圧倒している、よりも未知の精霊器を使用した結果の方がまだ信憑性が高いと受け入れてしまう。


「後は普段の素行も踏まえて、序列さまに相応しくないと剥奪を訴えればいい。誰も反対せんだろうよ」


 アヤトが否定しない限り、サクラのチェックを受けない限り、少なくとも事情を知らない講師陣や学院生は序列剥奪に賛同する。元より否定的な序列入り、実力ではなく不正行為によるものなら序列に相応しくない。


 しかし事情を知る者からすれば冤罪による剥奪。


「私たちが反対するに決まっているだろう!」


 故に平然と自身を貶める提案を持ちかけるアヤトに、事情を知る者としてエレノアは怒りを露わに反論。


「不正行為でお前の序列を剥奪するなど愚かしい提案をするな! だいたいそのような真似をすればお前は序列どころか特別学院生としても学院に居られなくなるぞ!」

「なら学食の調理師に戻るだけだ」

「戻ったところで軽蔑の眼差しを向けられる! いや、今以上に立場が悪くなるだけだ!」

「別にそんなもの気にせんがな。だが生会長さまが学院の秩序を気にするなら学食はケーリッヒに任せて辞めてもいいぞ」

「……っ」


 怒濤の反論もアヤトはどこ吹く風、むしろ勘違いから更に酷い提案を持ちかける。


「案じなくとも蓄えはそれなりにある。職を無くしても路頭に迷うこともなければ、学院を辞めたからといってお前らと遊ぶのも面倒だが継続してやる。望むなら、だがな」


「お前が学院を去るのを望んでいないと分からないのか!」


 挙げ句自身の心配よりも、フォローまでされたエレノアは怒りのままアヤトの胸ぐらを掴んだ。


「私だけじゃない! ミューズを始めとする序列保持者も、お前を慕う者たちも冤罪をかけて学院を去るのを望んでいない!」

「……冤罪か」

「なにが可笑しい? 未知の精霊器など冤罪もいいところだ!」


 胸ぐらを掴まれ、凄んでも嘲笑を返すアヤトにエレノアは苛立ちのまま叫ぶ。


「そもそもイルビナの実力を知らしめればお前の序列を剥奪することも、冤罪で学院から追放する理由もない! むしろお前の強さも認められるべきなのに……なぜそんな汚名を被ろうとする」


 大本は持たぬ者が持つ者と互角に戦えるか否かという疑惑。アヤト以外にも存在すれば今まで以上の説得力になるとエレノアもイルビナの代表を支持した。

 そして本当に序列保持者に相応しい実力がアヤトにあるか否かが半端なままになると危惧して、もう一人の代表になるよう説得していたのだ。

 なのに自ら汚名を被り、学院を去る道をアヤトは選ぶ。それなら代表としてレクリエーションに参加してサクラの事前チェックを受けた上で、疑惑を完全に払拭する方が良い。


「確かにイルビナがその辺の精霊士さまよりマシと分かれば、それなりに疑惑も晴れるだろうよ。だがイルビナはあくまでマシ程度だ。お前ら序列さまを相手するほどでもねぇ」

「だからこそお前も代表として――」

「だからこそ俺をさっさと追い出せと言ってんだよ」


 しかしアヤトは譲らない。胸ぐらを掴むエレノアの手を押しのけ淡々と説く。


「テメェで言うのも何だが、俺とイルビナとでは差がありすぎる。俺の実力に疑惑を持つ連中が今まで以上に躍起になったところで真実には辿り付けんだろうが、万が一もある。ならお役目終えた俺を不正を行った卑怯者として追い出すのが得策だ」


 イルビナの強さも充分これまでの常識を覆しているがエレノアの見立てでも精霊騎士クラスの中堅レベルが精々。だがアヤトの強さは学院最高位の序列保持者以上と異質すぎる。

 同じ常識を覆した者でも差がありすぎて、イルビナの実力を知らしめればアヤトの異質性がより浮き彫りになってしまう。

 今はラタニの弟子という事実で強引に納得させている状況。しかし両者の差はアヤトの過去にある。


 数年に及ぶ人工的に精霊術士を生み出す非合法な人体実験の生き残り。

 その実験がどんな作用をもたらしたかは不明でも、奇跡的に得た常人を超える神経、身体、脳の異常発達という副作用がアヤトを持たぬ者でありながら精霊士クラスの身体能力と、処理能力を始めとした頭脳を手に入れた。

 故にこの機会に最もらしい理由で汚名を被せろと言っている。

 研究者の暴走だろうと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「事実を知らん連中はそれなりに騒ぐかもしれんが、学院生活が面倒になったと俺が言えば納得するだろうよ」


 アヤトを学院から追放する必要性を知らなければこの提案は理解できない。

 だがエレノアは違う。国を統治する王族の一人として嫌というほど理解してしまう。

 万が一の可能性だろうと排除したい。故にアヤトはこの場で持ちかけた。

 しかし王族だからこそ躊躇ってしまう。

 いくら国の秩序を守る為とはいえ、被害者を貶める方法など選びたくない。


「たく……不正というのも、あながち間違いでもないだろう」


 痺れを切らしたのか、アヤトは更なる理由で背中を押してくるもエレノアは弱々しく首を振る。


「……なにを言っているんだ。お前は不正行為などせず、今の強さを手に入れているだろう」


 副作用の結果としてもアヤトが今の強さを手に入れるまで、想像を絶する訓練を続けたとラタニが教えてくれた。

 平穏な時間を犠牲にして自分を見つめ、相手を見つめ、受け入れ、覆す方法を諦めず模索したからこそ副作用で得た精霊士クラスの実力から王国最強の精霊術士と互角になるまで登り詰めたと。


「クソみたいな実験で頭や身体を弄られたお陰で今の俺がある」

「……お前は、なにを……」

「むろん感謝するつもりは微塵もないが、持たぬ者が持つ者を超える、という疑惑に関して否定するつもりはねぇ」


 にも関わらずアヤトは根本を否定する。

 自分の強さは実験によるものであって、真っ当な方法で手に入れた強さではないと。


「故にイルビナは認められるだけの価値がある。しかし俺は元より()()()()()()()()()()()()()()


 本当の意味で常識を覆したイルビナの強さは周囲に認められるべきで、自分の強さは周囲に認めらなくて当然だと。


「とまあ、完全な冤罪でもないなら構わんだろう。これ以上、危ない橋を渡るくらいなら俺を追い出せ。それが王国にとって最も利のある判断だと理解したか」


 だから今までアヤトは反論せず受け入れていた。

 周囲がどれだけ批判的に捉えようと、認めなくても、副作用という成果があってこその強さだから自ら汚名を被るつもりでいる。

 人体実験という地獄を味わっても尚、純粋な持たぬ者が手に入れた強さではないと誰よりも否定しているから愚かしい提案を持ちかけられる。


 もしかすると父のレグリスがアヤトの好き放題を許しているのは、いざという事態になれば自らを犠牲にしてでも王族にとって利のある選択をしてくれるとの信頼からかもしれない。

 国を代表して謝罪したレグリスに誓わせたように。

 自分も協力するのが筋と陰ながら国民の笑顔を守る為に活動していたアヤトの為人から起爆剤として学院に赴任するのも、選考戦の参加許可も出したのか。


 そしてアヤトを大切に思うラタニも恐らく協力してくれるだろう。

 ラタニは常にアヤトの意思を尊重する姿勢だ。なら王国の罪を隠蔽する為に汚名を被るのがアヤトの意思なら尊重する。

 せめて学院から追放されてもアヤトを慕う者が今後も関わりを持つような根回しを、方法を一緒に考えてくれる。


 ならエレノアが選ぶのはこの愚かしい提案を受け入れた上で、いかにアヤトの被害を最小限で済ませるかを模索すること。

 事実を知るロロベリアやニコレスカ姉弟に必要性を説いて納得してもらい、知らない他の序列保持者や学院生会には噂の完全排除としてアヤトに提案されたと説得する。


「……断る」

「あん?」


 それが王族として選ぶべき選択と理解しても尚、エレノアは選ばなかった。

 このままアヤトを学院に残す危険性があろうと。

 万が一の可能性を排除する機会だろうと。

 王族は国を、民を守る為に存在しているなら――


「お前も王族が守るべき民だ――アヤト=カルヴァシア!」


 アヤトもその一人なのに、守れずしてなにが王族か。


「なら私はお前の名誉を守る道を選ぶ! 今さらと罵れ、呆れろ、それだけの罪を私たち王族は犯した! しかしだからこそ……これ以上恥じ知らずのままいられるものか!」


 甘い理想論と分かっていようと、理想を実現できない王族に国を統治する資格はない。


「不甲斐ない私たちに変わって身を賭して王国の未来を案じ、様々な貢献をしてくれたことには感謝する。学院の未来を考え、色々と策を用意してくれたこともだ」

「別に身を賭した覚えはないんだがな」

「それでもお前の用意した筋書きは却下だ!」


 例えアヤトが否定しようと充分国の為に尽くしてくれた。

 なら今度は自分が王女として全力を尽くすと。


「もう代表になれとは言わない……後は私に任せろ。必ずみなを納得させる」

「なら好きにしろ」


 これ以上甘えないとの覚悟になげやりな態度でもアヤトは従った。


「ま、無理ならいつでも俺を追い出しても構わんぞ。いくらでも調子は合わせてやるからな」

「言っていろ」


 皮肉を残して背を向けるアヤトの背に、エレノアは最後に問いかける。


「お前は……学院での生活を捨ててもいいと本当に思っているのか」


 先ほど事情を知らない者に納得させる方法としてアヤトは告げた。

 普段の彼らしい理由にみんな呆れながらも受け入れるかもしれないが、それは本心だったのか。


「私たちとの時間は簡単に諦められるものだったのか」


 王国の罪を隠蔽する為なら学院生活で得た絆を捨ててもいいと思っているのか。


「さあな」


 エレノアの問いをアヤトは交わして姿を消した。

 だがアヤトが返答を交わすのは現在秘密にするべき内容か、本心を知られたくない場合とエレノアも察している。


 つまり捨てるのが一番の方法と割り切っているだけでしかない。


 自分たちもアヤトと過ごす学院生活を尊く思っているからこそ。 

 ただでさえ王国の罪で大切な時間を失っているなら。


「もう自ら犠牲になろうとするな……カルヴァシア」


 これ以上失う道を選ばないで欲しいとエレノアは願わずにはいられなかった。




アヤトは自分を犠牲にしているつもりはなく、それが得策だから提案しているだけです。周囲にどう思われようと気にしない精神力もありますが、イルビナのように純粋な持たぬ者でもないなら仕方のない処置と考えますからね。

ただイルビナに自分の価値を理解していないと告げる前に、もっと自分に対する周囲の気持ちも理解して欲しく思います。



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