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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十二章 新世代を導く改革編
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裏幕 自由の代償 前編

アクセスありがとうございます!



「――レクリエーションの発表は三日後。明日の序列保持者を交えた会合でアヤトさん以外の代表を決定次第、私とシエンさんで新入生代表に参加の打診をします」


 会議を主導していたレガートはレクリエーションの最終日程を確認。

 本来、学院生会の会議を取り仕切るのは生会長のエレノア。しかしレクリエーションの発案者として今回はレガートが仕切っていた。

 なんせ今朝の内に講師陣にレクリエーションの計画を持ちかけ、開催に向けたスケジュールの確認までしていた。お陰で時間的に厳しくとも、学院内に広まる噂の排除や問題視されているファルシアンやレイティの動向を押さえ込むことができる。

 ただ懸念材料もあるわけで。


「準備等は私とシエンさんで進めるので、みなさんは他の業務をお願いします。ですがそれとは別にエレノアさん、お願いしますね」

「……簡単に言ってくれる」


 その懸念材料を担当されたエレノアは肩を落とす。

 レクリエーションの開催事態は叶うだろう。また成功すれば現在の問題が一気に解決できるが、それ以前にアヤトが素直に協力するかだ。

 つまりアヤトの説得役はエレノアが担当。生会長という立場もあるが、まだ交流を持って日の浅いレガート、シエン、イルビナでは荷が重いとの理由。


「頼んだぜ、生会長さま」

「意地見せて欲しいなー」

「お前たちは……」


 ちなみにディーンとランは『自信ない』と速攻で拒否。代わりに通常業務を多めに担当するも、気楽な二人にエレノアもジト目を向ける。 

 しかしレガートの発案で噂の排除だけでなく、学院生の意識改革まで光明が見えたのは確か。今回は序列保持者としてレクリエーションに直接協力できない分、貢献できることがあるなら全力で担うのも生会長の勤め。


「まあいい。たしか今日はミューズやサクラさ――」

「サクラ」

「……サクラと夕食を共にする約束をしていたな」


 ランの要求でまだ慣れない呼称をしつつ、エレノアは早速実行。

 何気にアヤトの説得にロロベリアやニコレスカ姉弟、ミューズやサクラも巻き込もうと自宅に向かう為に席を立った。


「ついでにエニシさんとの訓練に混ざるつもりでしょ」

「それくらいは許せ。ついでにサクラに事前チェックの担当も頼んでくる」

「よろしくです」

「吉報を期待してるんで」

「いってらっしゃーい」

「…………」


 エレノアをそれぞれが見送る中、遅れてレガートも席を立った。


「私もアーメリ特別講師に審判役をお願いしに行くので、途中までご一緒に」

「それも私が済ませてもいいが」

「そこまで任せるのも忍びないでしょう。シエンさんは講師陣に提出する企画書類をお願いします」

「任せるです」

「なら行くか」


 結局そのままレガートと共に生会室を後にするが――


「エレノアさん、申し訳ないのですが本日はこのまま帰宅してもらえませんか」


 廊下に出るなり耳打ちされたエレノアは怪訝の表情。


「代わりに明朝六時、闘技場の裏に。もちろんお一人で」

「……どういうことだ」


 続く要望に問いただすもレガートは邪気のない笑みを浮かべた。


「詳しくは()()()()()()()()()()()()()()()

「カルヴァシアに?」

「はい」


 ますます疑問が募るエレノアに対してレガートは変わらず笑みを向けるのみ。

 ただその対応や明かされた情報からある程度は察することもできる。


 要はレガートが発案したレクリエーションにアヤトが深く関わっている。


「お前たちはいつの間に仲良くなったんだ」

「私としては仲良くなりたいですが、あちらはまだ信用されていないようでして……詳しい目的は本当に知らないんですよ」

「本当か?」

「国王陛下に誓って。その証拠にレクリエーションの提案はアヤトさんではなくユースさんから訊いてます」

「つまり、ユース以外はなにも知らないから今日は行くな、か」

「それと個人的な話になりますが明朝なら面白いものが見られるから、ですね」


 なぜレガートやユースが協力しているのかは分からなくとも、説得を成功させるよりは簡単な役割で。


「……面白くなければ明日のランチはお前持ちでいいな」

「では面白ければエレノアさん持ちで」

「決まりだ」


 ちょっとした軽口を楽しみ、エレノアは素直に従いそのまま帰宅。


 そして指示通りの時間に闘技場の裏に向かえば――


「――どうして朧月を抜かないの」

「さあな」

「やっぱり意地悪」

「つーか今日は妙に剣筋が鈍っているが、心配事でもあるのか」

「……さあな」

「お返しのつもりか」


「…………」


 話し声や金属音が聞こえて咄嗟に隠れたが、その光景にエレノアは絶句。

 なんせ指定された場所にはアヤトだけでなくイルビナも居た。

 二人は会話をしながら剣を交えているが、それよりも注目すべきはイルビナの動き。いくらアヤトが手を抜いているにしても、明らかに持たぬ者の領域を超えている。

 なぜ二人はこんな時間に模擬戦をしているのか。

 なぜイルビナはこれほどの実力を身に付けているのか。

 予想外な状況にただただ困惑するエレノアだったが、不意にアヤトが距離を取る。


「なんにせよ、意識が散漫だから気づかんのだろ」

「……?」

「出てこい」


 首を傾げるイルビナを他所にアヤトは月守を鞘に納めて視線を向けた。

 指定した以上、エレノアが来るとは知っていても相変わらずの察知能力で、面白いではなく驚愕な光景に少なくとも賭けは自分の負けと気持ちを切り替えた。


「やはり気づいたか」

「どうしてエレノアが居る?」

「……まあ、色々とな」


 姿を見せれば無表情ながらもイルビナは驚いているようで、アヤトの目的が不明な以上エレノアは配慮。


「しかし……お前たちはいつから訓練していたんだ」

「入学式前からな。それよりも用件を言え」


 代わりに素朴な疑問を口にするも面倒げにアヤトが話題変更。


「実は学院生会主催のレクリエーションを開催するんだが――」


 更に視線でも促すので、とりあえず本来の役割を果たすことに。

 レクリエーションの内容や意識改革も考慮に入れた狙いや、その為に代表の一人をアヤトに頼みたいと、昨日の会議で話し合った内容をそのまま伝えて。


「イルビナは知っているだろうが、お前の説得役を私が任されたというわけだ」

「なるほどな」

「それで、お前は代表になってくれるのか」

「噂を排除したいなら俺に拘る必要はねぇよ」


 適当な相槌を返していたアヤトはそのままイルビナに目を向ける。


「騎士クラス代表さまもそう思うだろう?」

「…………お前は最初からそれを狙っていたな」


 苦笑交じりの確認にエレノアも察した。


 代表の一人をイルビナに任せるつもりでアヤトは準備をしていたと。



 ◇



「ワタシはこれで」

「明日も遊ぶんだろう」

「お願いします。エレノア、また後で」

「ああ……頼んだぞ。イルビナ」


 先に立ち去るイルビナを見送ったエレノアは背中が見えなくなるとため息一つ。

 最初こそ戸惑っていたイルビナもアヤトの説得で学院代表の一人に決まった。

 更に序列保持者の会合でエレノアが推薦する形で話は纏まったが、彼女やレイティの過去を知ってやるせない気持ちが溢れてくる。

 だからこそアヤトはこの場で関わらせたとも理解した。


「イルビナの価値を理解してるなら頼んだぞ。王女さま」

「言われるまでもない」


 公の場でイルビナが戦えばシーファンス家は無理矢理にでも実家に引き戻す。それを阻止するにはエレノアが推薦者になればいい。

 要はイルビナの後ろ盾となり、シーファンス家を黙らせる役割をアヤトは求めている。故に秘密訓練の場にエレノアを呼び出し、代表に相応しい実力を確認させたのだろう。


「アランドロスに勝てると思うか」

「さっき言った通りだ。勝ち負けなんざ関係ねぇよ」

「……無粋な確認だった」


 レイティの実力を知らないだけに意見を訊いたが無意味とエレノアも肩を竦める。

 一人で訓練を続けていたイルビナにリースも巻き込み実戦経験を積ませたが、恐らくアヤトの見立てでも届かない。だが今のレイティにとって重要なのは勝敗ではなくイルビナの覚悟。

 その覚悟を抱かせる為、アヤトはイルビナを嗾けこそすれエレノアの役割を伝えなかった。更に言えばイルビナの強さがどれほどの価値があるのかも伏せたまま。

 持たぬ者でありながら精霊士に匹敵する強さ、それこそ望まれれば近衛騎士団の推薦状をしたためても良いほどだ。

 なのに精霊士の子息に執着し、イルビナを蔑ろにしているシーファンス家は愚かとしか言いようがない。


 まあ最終的に実家とどう向き合うか、自身の未来も含めてイルビナの自由にさせるべき。会合でもイルビナは実家の出した条件やレイティとの関係を付せた上で、みんなに過去を明かしてエレノアの推薦を受けると言っていたなら今は静観すればいい。


 とにかくアヤトの話から色々と納得はできたが、まだ疑問は残る。

 アヤトはイルビナだけでなくレイティの過去を知っていた。でなければレイティの現状を持ち出した説得などできないはず。

 レガートやユースに協力を要請して情報収集役や学院生会主導のレクリエーションに持ち込むのが狙いとしても、これまで安易に他者の手を借りなかったアヤトにしてはらしくない。


 そもそもイルビナを代表にするのなら昨日の内に自宅で説明してもいい。少なくとも既に実力を知っているリースは当然、ロロベリアやミューズ、サクラも事情を知れば内密に協力してくれるだろう。わざわざ実力を確認させなくてもエレノアも信じたのに、なぜレガートにここへ来るよう言伝をしたのか。


 なによりイルビナの実力を公の場で知らしめても、持たぬ者が持つ者と互角に戦える疑惑が解消するだけ。

 現在学院に蔓延している疑惑はアヤトが本当に序列保持者に相応しい実力があるか否か。特に敵意を向けている学院生はイルビナの実力を認めてもアヤトの実力は認めないままだ。

 今回はサクラに事前チェックを依頼するなら、アヤトが参加すれば完全に疑惑を解消できる。


「……やはりお前も代表にならないか」


 今ひとつアヤトの真意が掴めないまま、エレノアはまず説得を試みることに。

 もう一人の代表は現在ロロベリアが最有力候補。しかし半端なまま疑惑を残すならアヤトを代表にするべき。


「なると思うか」

「しかしお前の疑惑を晴らす絶好の機会だろう」

「なぜそんな疑惑を晴らす必要がある」

「あるだろう。それとも入れ替え戦まで待つつもりか」


 なのに相変わらずの態度に呆れながらも説得を続けるも――


「待つ必要もねぇよ。つーかお前をここに呼んだのは、その疑惑を利用して()()()()()()()()()()()()()()()()


「な…………っ」


 アヤトの真意を聞いたエレノアが面食らったのは言うまでもない。

 

アヤトがイルビナを代表に推薦した時、実はエレノアも一緒に居ました。つまりエレノアもアヤトが裏で色々やっていたのを知ってたりします。

そしてアヤトが提案したレクリエーションの筋書きは、エレノアが選んだ結末とは別でした。

詳しくは次回で!


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