送る賛辞
アクセスありがとうございます!
精霊術の相殺を説明する為に中断していたロロベリアとファルシアンの序列一位を賭けた戦い。
『朱の彗星よ!』
再開の合図をラタニがするより先にファルシアンは言霊を紡ぐ。
ただ中断したのはあくまで観覧席の疑問を解消する為。元より中断の合図もされなかったので反則を取ることなく、予想していたラタニは先に下がっていた。
『パチン』
『パチン』
そしてロロベリアも既に集中していたので冷静に指鳴らしで相殺。
長い中断に困惑していた観覧席も両者の動きから再開したと注目する中、変わらず相殺されたファルシアンは肩を竦める。
「本気を出しても相殺されますか」
「先ほどよりは難しかったけど」
集中力を維持したままロロベリアが返すように、ファルシアンの発動速度は確実に上がっている。また違和感も消えたことで今度こそ本気を出したとロロベリアも高揚から笑みが浮かんでいた。
相手が本調子になればなるだけ活き活きするのもロロベリアの魅力。加えて傲りもない、真剣な眼差しから挑戦に対する気概がファルシアンにもヒシヒシと伝わってくる。
正直なところ去年の序列戦に比べて入学式で見たロロベリアはどこか頼りなく、言ってしまえば学院最強の序列一位としての風格は微塵もなかった。
しかし開始前から度々感じていた風格、その正体を知ったことで侮っていたのは自分だとファルシアンは反省する。
実際に対峙すれば分かるロロベリアの強さ。
高みを目指す挑戦者としての姿勢が何よりも恐ろしい。
ロロベリアにとって序列一位は通過点でしかないのだろう。
遙か先を行く誰かを追うのに全力を尽くしている。
その誰かはこの試合を見守る王国最強のラタニ=アーメリか。
(本来ならば最も相応しい目標ですが……違うのでしょう)
別の存在と察してファルシアンは苦笑する。
苦悩を看破した上で、ロロベリアと向き合わせてくれた。
(もし敗北を望まねば、今度こそ遊んでもらえるのでしょうか)
自身の目標、ロロベリアが目標とするアヤト=カルヴァシアに挑戦したい気持ちがわき起こる。
しかし今という時間を大切にと気持ちを切り替え。
「つまり私の本気が伝わったのですね」
「少なくとも違和感は無くなったかな」
「それはなにより! では本気で序列一位を奪わせていただきます――っ」
勝利を望みファルシアンは後方に飛んだ。
『朱き星々よ!』
同時に言霊を紡ぎ、顕現した十の火球が順を追って飛び立った。
『水弾よ!』
不規則に襲いかかる火球をロロベリアは弧を描くように駆けて回避しつつ言霊で応戦。
距離が出来た分だけ回避も容易く、しかしロロベリアの動きを警戒しながらファルシアンも回避した。
「読み通りでしたね」
「……なにが?」
再び足を止めたファルシアンに合わせてロロベリアも立ち止まる。
「言霊を使わない発動も、音による発動も二〇メル以上離れては狙いが散漫になるのでしょう? また集中力を必要とする為に動きながらでは精霊術の相殺も不可能」
「さすが新入生代表さんの分析力……正解よ」
序盤の攻防と違い言霊を使用したことで見破られたとロロベリアは捉えたようだが、実際は単純明快。
「私の分析と言うよりも、先ほどロロベリア殿が教えて下さったからですが」
「…………」
中断した際、ラタニに問いかけられたロロベリア自ら弱点を明かしただけ。
まあ明かしたのは精霊術の相殺に関する弱点のみ。脅威の発動法はあくまで予測、つまりロロベリアは再び墓穴を掘ったわけで。
「あなたは鋭いのか抜けているのか判断に悩みますね」
「…………」
冷ややかな視線にロロベリアは何も言い返せなかった。
◇
「……心理戦では完全に姫ちゃんの敗北だな」
「白いのだからな」
来賓席でやり取りを通訳していたユースの含み笑いに、通訳無しで理解していたアヤトも苦笑を漏らす。
「こうなるとロロベリアさんが不利になりますね。いくら回避能力で上回っていても、保有量に差がある分だけ手数に差が出ます」
「精霊術の相殺も回避しながら出来ないですからね。この勝負は先に集中力が切れた方が負けですか」
それはさておき、思わぬ弱点にレガートとシエンは難しい表情。
言霊の発動速度も充分速いが、音の発動に比べれば精霊力の集約も感知しやすい。また精霊術戦に不慣れなロロベリアに対してファルシアンは主力なだけに慣れている。
その経験差、保有量を補う発動法や相殺を封じられればロロベリアは不利と判断。万が一敗北となれば序列を賭けた試合を許したラタニの風当たりが悪くなってしまう。
いくら本人の自業自得とは言え責任者としては申し訳なく、特にロロベリア側でもないレイティでも状況不利を理解して微妙な表情。
また表情こそ変わらないがイルビナも『むう』と唸っているなら同じ気持ちか。
ただし序列保持者は別の見解。
自分たちの頂点に敗北はない。
特にエレノア、ユース、ジュードは嫌というほど思い知った。
「心配せず最後まで見守ればいい」
「姫ちゃんだもんなぁ」
「むしろここから本領発揮か」
この程度の不利など簡単に覆すのがロロベリアの怖さだと。
◇
『朱の閃光よ!』
『氷鏃よ!』
ファルシアンの放つ火矢にロロベリアも氷矢で応戦するも、僅か三つの氷矢では足止めにもならない。逆に十を超える火矢を放たれたロロベリアは動きを止めらず近づくのも困難。
また距離を保つファルシアンの位置取りや放つタイミング、精霊術戦に慣れているだけあって巧い。
つまり精霊術戦の縛りで自分自身を追い込んでいる状況。
なのにロロベリアは活き活きとフィールドを駆け巡る。
精霊術戦の経験を積めて、自身の成長を実感しているからか。
不利な挑戦を楽しむ感覚はファルシアンには理解できない。
ただ、それは先ほどまでの自分。
自ら見定めた目標と競うことで。
憧れる強者と本気でぶつかりあうことで。
初めて戦いが楽しいと感じていた。
流されるまま必死に鍛錬を続けていた頃よりも、自身の成長が実感できる喜び。
『連なる朱き帷よ!』
今なら共感できるとファルシアンは本気で勝利を求める。
進路を読み、連続して顕現させた火壁でロロベリアの退路を防ぐ。
『パチン』
『パチン』
対するロロベリアは音の発動で即座に対応。水と氷の礫を速射させて火壁を打ち抜き、僅かに出来た空間を抜けて最小限の被害で回避。
咄嗟の判断力といい、発想力といい、やはり一筋縄ではいかない。
(だからこそ挑戦のし甲斐があります!)
『朱の星々よ!』
ロロベリアを捉える為の連続発動で精神がすり切れそうになろうと夢中で挑み続けていた。
「…………っ」
不意にファルシアンの背筋にゾクリとした感覚が走る。
悪寒の正体はロロベリアの向ける眼差し。
分かりやすいほど感情が表に出るからこそ伝わった。
何かを仕掛けてくる
『朱き流星群よ!』
悟るなりファルシアンは先手必勝とばかりに言霊で可能な最大火力で追撃。
二〇を超える火球を一斉に放つもロロベリアは回避どころか方向転換、距離を詰めるべく突進してきた。
『パチン』
『パチン』
更に指鳴らしの発動で階段のように顕現した氷礫を駆け上り、迫り来る火球を回避。そのまま跳躍して一気に距離を詰める。
音の発動速度だからこそ可能な回避と間合いの詰め方。
(それでは良い的になるだけですよ!)
それでも上空を選んだのは愚策。
風の精霊術士でもなければ空中回避は不可能。
ただロロベリアも承知の上、先ほどの決意も踏まえて警戒を怠らず、連続発動の限界を超えようと精霊術で狙い討つべく空を見上げ――
「な――っ」
左手を鞘に、右手を瑠璃姫の柄に添えるロロベリアの仕草に驚愕の声が漏れた。
加えて右手を包む蒼い輝き。
精霊術戦を諦めて近接戦に持ち込むつもりか。
だが諦めるなどらしくない。
せめぎ合う判断を他所にロロベリアはゆっくりと瑠璃姫を抜く。
『カチン』
しかし数センメル剣身を露わにするなり素早く鞘に納めて鍔音を立てた。
微かに響く鍔音にも関わらずファルシアンの耳にハッキリと届く中、手の平でも覆える小さな水弾が顕現。
被弾したところで大したダメージにならない。
精霊結界で精霊力を対価に軽減できる。
残りの保有量を考慮しても脅威ですらない。
「くっ!?」
それでも虚を衝かれたファルシアンは放たれた水弾を反射的に回避。
バシャリと地面に被弾した水弾に遅れてロロベリアも着地。
体勢を崩したファルシアンに向けて右手を伸ばす。
「ぱちん」
そのまま声で音を表現しつつ、指を鳴らす仕草を見せた。
いたずらが成功した子どものような仕草に釣られて、呆然としていたファルシアンの表情も緩んでいく。
瑠璃姫に手をかけたのは先手を取られないようファルシアンの意識を向けさせる為でしかない。
そして鍔音による精霊術の発動で隙を作り決着をつけた。
「口先だけの私ではいられないって言ったでしょ?」
今さらながら理解が追いつくファルシアンに問うロロベリアは、脅威の技能を披露したとは思えないほど無邪気な笑みを向ける。
その笑みを前にファルシアンは精霊力を解除、両手を挙げて降参の意思表示。
「あなたは学院最強の序列一位に相応しい御方です」
同時にロロベリアが求めていた最大級の賛辞を送った。
ラタニの編み出した音の発動を応用した瑠璃姫を鞘に納める鍔音による発動、まさにロロの意外性が勝敗を分けた結果は如何でしたか。
最後まで挑戦を貫いたロロの姿勢にファルシアンも満足でしょう。
なので悔いなく最高の賛辞を送れました。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!
みなさまの応援が作者の燃料です!
読んでいただき、ありがとうございました!