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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十二章 新世代を導く改革編
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回想 知る為に 後編

アクセスありがとうございます!



「つーか随分と必死のようだが、そんなに期待から逃げたいか」


「…………」


 嘲笑交じりに告げたアヤトの指摘にファルシアンの笑みが固まった。


「……先ほども言いましたが、あなたは何を仰っているのですか」


 しかしそれは一瞬のこと。額に手を当て嘆くようにファルシアンは首を振る。

 これまで避けられていたアヤトに呼び出されたと思えば、望んでいた決闘を急遽受けられ、序列が欲しいなら勝てば譲るとの一方的な要件。

 挙げ句謂われのない中傷となれば当然の疑問だがそこはアヤト。


「入学して間もないがお前も知っての通り、俺は学院の嫌われ者でな」


 ファルシアンの疑問も無視して自虐的な発言を返す。


「まあ俺のような不作法者と関わろうとする奴なんざ相当の物好きだ。加えて持たぬ者が持つ者とマシに遊べるとくれば、精霊力持ちさまからすりゃ面白くない。疑惑を持たれても反論できねぇよ」

「ですから、あなたはなにを……」

「だからこそ悪感情には敏感でな。そいつを向けられているか否かの判別にはそこそこ自信はあるんだが、不思議とお前からはそういった感情が伝わらん」


 ファルシアンが再度問いかけるもやはり無視。


「なら入学式のふざけた申し込みのように、俺が精霊術士さまや精霊士さまとマシに遊べるかに興味があるんだろうよ。しかし興味があるにしても入学式を潰してまで挑む決闘でもないだろ」


 苦笑しつつ自虐発言を続けていたアヤトはそう前置きして、ファルシアンの奇行に対する違和感を指摘する。


「確かにお前はふざけた態度は目立つが愚かなバカでもねぇ。それなりに弁えも出来るのなら、尚更あの入学式でのふざけた真似に違和感がある」


 入学試験の座学でサクラに次いで二位の成績を残した頭脳よりも、謹慎明けにファルシアンが学食で取った行動に注目する。

 再び決闘を申し込みに訪れるもシルヴィやフィーナに礼儀正しく、言伝という対応にも憤ることなく素直に従った。

 アヤトに不平不満を抱く者は身分や精霊力の有無に拘る者ばかり。しかし平民の二人、特にシルヴィは持たぬ者。

 それでも見下さず後輩として振る舞うならファルシアンに身分や精霊力の有無に対する差別意識はなく、場に応じた弁えも出来るはず。また本当にアヤトとの決闘を望むなら、言伝のような対応で素直に引き下がるはずがない。

 ファルシアンの奇行に周囲はただ呆れていたが、彼の事情を知れば別の見方も可能。


「クォーリオ家はロマネクト家に並ぶ名家らしいが近年は精霊力持ちに恵まれず、優秀な騎士や官僚は輩出しても精霊騎士や精霊術士は皆無だった。さぞかし精霊力持ちの子を望んでいただろうよ」


 なんせロマネクト家と並ぶ名家だけあって両家はライバル関係でもある。

 騎士や官僚も王国にとって必要不可欠な人材。しかし帝国に比べて露骨ではないにしても王国にはまだまだ精霊力の有無に拘る者は多くいる。

 故にロマネクト家に押されていたクォーリオ家は過去の栄光を取り戻そうと焦っていた。


 そんな中で待望の精霊力持ち、ファルシアンが産まれた。


「しかもそいつは武芸だけでなく、精霊術士に開花すれば保有量も含めて特出した才を持ち合わせていた。それは大切に大切に育てられただろうが、同時に鬱陶しいほどの期待も向けられただろうよ」


 文武や精霊術士としての才能まで秘めていれば周囲の期待は更に膨らむ。甘やかすだけでなく、立派な精霊術士に育てようとする。


「その天才さまは周囲の期待に応えようともがき成果を出したが、出せば出すほど鬱陶しい期待も増してくる。一族の面子という過度な期待をまだ成人もしてねぇガキに背負わせるとは……考えただけでもゾッとする」


 クォーリオ家の期待を背負い、甘やかされながらも応えようと必死に鍛錬を重ねたからこそ新入生代表に選ばれるだけの能力を備えた。

 だが応えれば応えるだけ周囲は更に期待してしまう。一族の歴史を、未来を年端もいかない子どもに背負わせようとする。

 それでも子どもながら弁え必死に鍛練を重ねてきた中で、ファルシアンは知ってしまった。


「去年の序列戦でどんぐりの背比べだろうとあいつらは充分な成果と実力を示したが故に、その天才さまも実力不足を痛感したんだろうよ。なのに周囲は変わらず期待を押しつける。まったく、押しつけるだけの奴らは気楽なもんだ」


 入学式で褒め称えたように、序列戦で見せた先輩方の雄志が自信を喪失させた。

 実力以上にそれぞれが勇敢に立ち向かう姿勢が。

 強くなろうと、限界を超えようと必死に藻掻く志が。

 押しつけられた自分とは違う、本物の強さに格の違いを思い知った。


 なのに周囲は押しつける。

 序列保持者の雄志を目の当たりにしても尚、無神経に期待する。


 我が家の天才が劣るはずがないと。

 去年は一学生で異例の序列入りを果たした者がいるなら、お前は序列一位になれると。


 これまで期待に応えようと必死に鍛練を重ねたのに、まだまだ押しつける周囲の無慈悲な期待。ただでさえ自信を喪失していたファルシアンは()()()()()()()()


 これ以上期待を押しつけないで欲しい。

 これ以上望まないで欲しい。


 人知れず抱く苦悩が限界に達し、解放される方法を考えた結果が入学式の騒動。


「故に魔が差してもおかしくねぇよ。お誂え向きに入学した序列保持者に持たぬ者がいると分かれば逃げたくもなる。勝てれば序列十位を手に入れてとりあえず面目を保てるとの打算以上に、その天才さまは敗北を望んでいようとだ」


 序列保持者だろうと、持たぬ者に敗北すれば誰も期待しなくなる。


 アヤトに拘ったのは他の序列保持者なら敗北しても期待し続けると危惧して。

 精霊士や精霊術士に敗北するのと、持たぬ者に敗北するのではインパクトが違う。学食の調理師に赴任して間もないアヤトに敗北したロロベリアを周囲が蔑んでいたのが良い例だ。 

 入学式で決闘を申し込み、付け回していたのもあくまで目立つ為でしかない。実家は序列保持者になる気概と捉えて黙認したが実は真逆の狙いだ。


 つまり入れ替え戦でアヤトに挑み、無惨な敗北をより印象づけようとファルシアンは奇行を繰り返した。


 堂々と決闘を申し込み、敗北すればクォーリオ家だけでなく学院の誰もが期待しなくなると。


「とまあ、これがお前の事情と現状を照らし合わせた優秀な先輩さまと天才さまが導き出した結論だが、見当違いと笑い飛ばしても構わんぞ」


 何故か他人事のように締めくくるが、ファルシアンは笑えない。

 突然決闘を受け入れたのも、この真意を決定づける為だったのかもしれない。

 公の場で敗北しなければファルシアンの計画は失敗に終わる。故に秘密裏ではなく公の場での決闘に拘ったのだ。


「……序列入りなんてしたくありません。すれば期待が増していくだけです」


 これまで悟られないよう気丈に振る舞い続けていたが、見破られたならもう我慢する必要はない。

 もう耐える必要はないと、これまで押し留めていた弱音をファルシアンは吐き出す。


「例え蔑まれようと、もう期待に応えることが出来ないんです。最初は周囲の期待に応える自分が誇らしく思えたはずなのに、今は恐怖でしかないんです」


 応えれば応えるだけ膨れあがる期待から。

 際限なく望む周囲の期待から。

 弱音を吐くことも許されなかった異常な日々から。


「あなたの仰る通り……私はクォーリオ家の重圧から解放されたかった」


 逃げ出したいとファルシアンは白状する。

 後先考えない計画からどれだけ思い詰めていたのか。

 普段の芝居臭い仕草も声音もない、年相応の弱さを露わにするファルシアンに対してアヤトと言えば――


「お前の事情に俺を巻き込むんじゃねぇよ」


 同情も寄せずため息交じりに吐き捨てた。


「つーか逃げたけりゃ好きにしろ」

「出来ていたらそうします……簡単に仰らないでください」

「かもな。どちらにせよ、俺には関係のないしがらみだ」


 弱々しい訴えも一蹴、もう用はないとアヤトはファルシアンの横を通り過ぎる。


「だが今後も付きまとわれるのは面倒か。故に一つ良いことを教えてやろう」


 しかし訓練場を立ち去る寸前、思い出したように口を開く。


「今のお前に相応しい序列保持者が一人いる。逃げられるかは知らんが、そいつと遊べば何かが変わるかもしれん。なんせバカみたいに単純な奴だからな」

「……私に相応しい? 単純?」

「遊ぶ機会も用意してやる。それまでは大人しくしてろ」

「それは、どういう……」

「ついでに、大人しく飯食うなら出禁も解除してやってもいいぞ」


 振り返るファルシアンの疑問も苦笑で交わし、最後まで一方的な対応で訓練場を後にした。


 去り際にアヤトが告げた相手、その機会も分からないまま。

 しかし藁にも縋る思いでファルシアンはアヤトの残した言葉を信じて待つことにした。



 ◇



 意外にも翌日、その機会が訪れた。

 学院生会主催の新入生向けレクリエーション。

 学院生の模範となる強者とのエキシビションマッチに新入生代表としてレイティと共にファルシアンも打診された。

 本人が拒んだ以上、学院側の代表にアヤトが選出されても自分の相手としてではない。

 ならもう一人の代表が現状を変えてくれる相手と察するのは難しくない。

 故にレイティが意見しても戦う意思はないと告げて代表になるのも了承したが、その相手がロロベリア=リーズベルトとは予想外だ。


 なんせファルシアンの望みは無様な敗北をすることで期待から逃げること。

 学院最強の序列一位に敗北したところで周囲は当然と受け入れる。実家は落胆するかもしれないが、序列保持者の中では最もインパクトが薄いが故に今後も期待し続ける可能性が高い。


 ただアヤトは逃げられるではなく、()()()()()()と口にした。


 その真意や所々で垣間見た妙な風格も含めてファルシアンは興味を抱き、挑発までして本気を出させようとしたがロロベリアは乗らず、不利な精霊術戦を挑んでくる。

 確かに情報以上の実力には驚かされたが、ギリギリの敗北では実家が無駄に期待するだけ。むしろファルシアンの苦悩や重圧も知らず、侮るような戦法に憤りさえ感じていた。

 それでもロロベリアの意外な感覚やこの一戦にかける理解できない真意を知って。


「だから今の私に相応しい相手なのかもしれませんね……」


 レクリエーションの表の目的、つまりロロベリアの強さを学ばせる機会をアヤトは与えてくれたと思い直す。


「あなたは現在の地位……序列一位を失う恐怖はないのですか」


 故にファルシアンは知る為に問いかける。

 精霊騎士団長のサーヴェルと王国随一の商会長を勤めるクローネの養子として引き取られたロロベリアの戦歴は異例尽くし。

 更に才能も持ち合わせているとなれば、周囲は過度な期待を寄せてくる。また二学生にして学院の歴史を、代々受け継がれる序列一位の重みも背負っているなら、自分以上の重圧を抱えているはず。


「序列一位ともなれば学院のみならず国中からも期待される存在です。その期待を背負っていながら、なぜそんなにも楽しそうに挑戦できるのです」


 なのにロロベリアは理解不能な拘りを貫こうとしている。

 序列一位の座を賭けた戦いで、一歩間違えれば周囲から批判殺到の挑戦を心から楽しんでいる。

 自分は嫌になって逃げ出そうとしているのに、この違いはなんなのか。


「……周囲の期待を重く感じないのですか」


 周囲の寄せる期待、重圧をロロベリアはどう感じているのか。

 そこに今を変えるヒントがあるなら、教えて欲しいと自身の苦悩を吐露するよう問いかけた。


 ファルシアンの切実な思いを察していないのか、当の本人はキョトンとなり。


「むしろ()()()()()


 しかし言葉通りの笑みで、とても単純な感情を教えてくれた。




ファルシアンの真意はイルビナと真逆の、期待という重圧からの逃避です。

関心や期待を向けられないのも辛いですが、過度に向けられるのも息苦しく辛いでしょう。特にクォーリオ家という名家の期待を幼少期から背負わされれば尚更です。

そんな苦悩を抱くファルシアンにロロがどんな答えで導くのか。


長くなりましたがロロVSファルシアンも残り二話、まずはそちらをお楽しみに!


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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