予想を上回る
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激しい精霊術戦から一転、ロロベリアとファルシアンは向き合ったまま動かない。
『――朱き星々よ!』
『パチン』
『パチン』
『朱の彗星よ!』
『パチン』
『パチン』
ただファルシアンの声に合わせて、ロロベリアが指を鳴らす動作が繰り返されるのみでフィールド内に変化はない。
『一滴の朱よ!』
『パチン』
また集中しながらも平然としているロロベリアと違ってファルシアンは苦悶の表情。
「なぜだ……」
それもそのはず、ファルシアンは言霊を紡いでいるのに精霊術が発動しないのだ。
制御ミスもなければ初歩的な火を顕現することもできない状況は、精霊術が本質の精霊術士にとって存在を否定されていると同意。
「なぜ私の精霊術が発動しない!? いったい……っ」
故に焦りや不安からファルシアンから余裕が無くなり、演技臭い態度も消えて感情剥き出しに正面に立つロロベリアを睨み付けた。
「いったいあなたは何をしたんだ!」
精霊術が発動しないのはロロベリアも同じ。しかしこの不可解な状況にも落ち着き払っているなら原因は彼女だと予想するのは容易い。
「私の精霊術が発動しないのはあなたが何かをしているに違いない! いったい何をすれば私の精霊術を封じることが出来るんだ!」
「それは――」
「それはお客さんの台詞さね」
錯乱気味に問い詰められたロロベリアが返すより先にラタニが呆れたように割って入った。
「さすがのラタニさんも驚きびっくりだ。つーかそれよりもさ、観覧席を見てみんさいな」
そのまま向き合う二人の間まで移動して周囲を見るよう促せば、学院生のみならず講師陣までも戸惑いでざわめいていた。
なんせ観覧席からは距離もあって精霊力を感じ取れないので、言霊らしき言葉を紡いでいたファルシアンが急に取り乱したようにしか見えないのだ。
「ロロちゃんの真似っこのせいだよん。まったく、指鳴らしはまだしもいきなりそれやっちゃうとか。これだから天才さまは……」
「……ごめんなさい」
ラタニに攻められ、腑に落ちないもロロベリアはとりあえず謝罪を。
「とにかくだ、このままだと盛り上がりに欠けるからファーちゃんの疑問解消も兼ねて種明かしするよん。今は楽しい楽しいレクリエーションだ、お客さんほったらかしもメッだからねん。ロロちゃんも構わんね?」
「……はい」
今はレクリエーションでも序列一位を賭けた戦い。相手に手の内を明かすのも違うが、ラタニが編み出した技を使わせてもらっている側としては従うしかない。
「よろしい。つっても楽しい楽しいレクリエーションだからこそ、あたしが出しゃばりすぎるのも違うねん」
『パチン』
ファルシアンも原因が分かるならと静観する中、精霊術で声を拡張させたラタニは来賓席に視線を向けた。
「ミューちゃんなら何が起こってるか分かるよねん! よければみんなに説明してくれまいか?」
「あ……はい」
「え? ミューズは分かってたの?」
名指しされて頷くミューズにランは即座に問い詰める。
というのもユースの通訳で二人のやり取りは伝わっても、ファルシアンの精霊術が発動しない理由までは理解できていない。
唯一アヤトは察しているがわざわざ説明するはずもなく、困惑していたところでミューズが理解していれば驚くのも無理はない。
とにかくレガートから渡された精霊器で声を拡張してミューズはまずラタニに確認を。
「これはわたしの予想になりますが、それでも宜しいでしょうか」
「いいよん」
了承を得たことでアヤト以外の注目を集める中、ミューズは予想を口にした。
「恐らくですが、クォーリオさんの精霊術をロロベリアさんの精霊術が打ち消しているかと」
「……どういうこと?」
「先ほどからクォーリオさんが言霊で精霊術を発動しようとしていましたが、集約される精霊力に干渉するよう新たな精霊力が感じられました。ほんの僅かな量ですが、別の精霊力が干渉したことで制御を乱し、顕現することなく霧散しているのでしょう」
ランの相づちに合わせるようミューズは経緯を説明するが、理解が追いつかないのか観覧席も反応に困っていた。
「本来なら相手の精霊術に干渉させる精霊術は不可能。ですがロロベリアさんの発動速度は元より学院生のレベルを超えています。更に音の発動は言霊よりも圧倒的に早く、精霊術の制御を乱すのみならば些細な……それこそ水を生み出す初歩的の精霊術でも問題ありません」
しかしミューズが理解しやすい説明を心がければ徐々に理解し始めていく。
「そして精霊術が発動する前に精霊力が集約されるので、ロロベリアさんはそのポイントを感じ取り干渉させている。両者が発動させる精霊術に必要な精霊力の量や集約速度、また言霊と音の発動速度の差があれば不可能ではありませんが……正直なところわたしも信じられなくて……なので予想になりますが……」
「うんにゃ、大正解さね。てなわけで大正解したミューちゃんにみんなはくすー」
そしてラタニの肯定に闘技場内は拍手に代わり騒然となった。
「……ミューズ、よく分かったね……」
「何とか……ですが」
「……先生も知っているのか」
また唯一この干渉法に行き着いた感知能力にランを始めとした他の面々も敬意を払うが、精霊力を視認できるミューズなら不可能では無いと知るエレノアは苦笑い。
まあ感知能力が高いからといって精霊力の視認、更には感情を読み取れる眼までは辿り着けないので構わないがもう少し配慮をして欲しかった。
それよりも理屈では可能な干渉でも、余りに高次元な方法。それを可能にしたロロベリアの才覚が恐ろしく。
「あたしゃはくすしろって言ったんだけどねぇ。とまあ、ミューちゃんの説明通りだ、ファーちゃんも分かったかい?」
「…………」
ファルシアンも同じようで、理解したからこそ茫然自失。
精霊術戦なら有利と踏んでいたところで精霊術を封じられれば仕方ない。
言霊の精霊術と干渉に必要な精霊術では精霊力の消費量が多いのは前者。保有量の差を考慮してもこのまま続ければ先に枯渇するのはファルシアンになる。
それ以前に発動速度の差から、干渉後ロロベリアが即座に精霊術を放てばファルシアンも回避不能。かといって近接戦に切り替えても精霊術の的になるだけと、宣言通りロロベリアは精霊術のみで勝ち筋を絶ってしまった。
そしてミューズを含めた来賓席の反応から音の発動はまだしも、精霊術の相殺をロロベリアは初めて挑んで成功させたとファルシアンも察したはず。
ラタニから見てもファルシアンは今後が楽しみなほど才能に溢れている。このまま修練を重なれば素晴らしい精霊術士になれるだろう。
しかし上には上がいる。特に学院生の中いえば、最も思い知らされるのはロロベリアだ。
才能以上に思いの強さが他よりも抜きんでている。才能と意思を兼ね備えた者が本物になれる、これがラタニの見解で王国最強の精霊術士を受け継ぐ者として見込んだ理由。
故にファルシアンの今後を思うなら、ロロベリアは一番の対戦相手。
予想通りロロベリアと実際に対峙したことでファルシアンは完全に打ちひしがれた。ここから這い上がれるか否かが今後を左右するだろう。
ただ予想外な状況でもあると、ファルシアンに気持ちの整理を与える目的も兼ねてラタニは個人的な質問をするべく、精霊術を解除してロロベリアに目を向けた。
「カナちゃんから?」
「モーエンさまにも訊いてます」
「でしょうねー。もしロロちゃん自身で思いついてたらあたしも褒めてあげたんだけど、ちょい残念だ」
元より真似っこと表現していたので予想通りの返答。
「にしても、音の発動もだけど良く真似っこしたもんだ」
「お姉ちゃんほど上手くできませんから……。そもそもファルシアンさんの精霊術を事前に確認できましたし、距離も二〇メル以内が限界です。なにより集約ポイントを感知するのに集中しないと無理ですから」
そしてロロベリアの言う通り、ラタニの領域にはまだ達していない。
なんせラタニは初見で、しかもよそ見しながらでも可能にした。加えて当時のスレイが調子を崩していたとはいえ中位精霊術士、いくらファルシアンが新入生代表でも地力の差があればそれだけ干渉も難しい。
「そだねん」
故にロロベリアの見解は正しいとラタニはケラケラと笑うも内心呆れていた。
事前に何度もタイミングを確認できて、距離も相手の地力も違う。感知する為に全神経を集中させる必要もあった。
それでもロロベリアは水の精霊術士、ラタニは風の精霊術士と精霊術の発動速度に大きな差がある。他にも来賓席の反応からロロベリアは音の発動も、干渉もこの試合で初披露している。
なによりロロベリアの感知能力は平凡。集中したからといって瞬時に集約ポイントを感じ取れるものではない。
いくら意識改革が成功したとしても、ここまで伸びるとはラタニですら予想外できなかった。
だがロロベリアは更に驚かせる意外性をみせた。
「それにファルシアンさんの精霊術に違和感というか……」
「違和感?」
精霊術の扱いは精神面が大きく作用する、つまり心理状態が現れやすい。もちろんミューズの特異性には数段劣るも、感知能力が高ければ違和感として捉えるのは可能。
現にラタニも感じ取っていたが、感知能力が平凡なロロベリアにはまだ難しいはずなのに――
「どこか思い詰めているように感じたので、もしかすると本調子じゃないから成功したのかもしれません」
(……なーんでロロちゃんがソレに気づくんだい)
ラタニさんの予想すら超えてしまうロロですが、それは後ほどとして。
次回からロロが感じ取った違和感、ファルシアンの真意について明かされていきます。
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