自信の開花
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アヤトの手厳しい挑発から、学院最強の座に相応しい自分になる為に学院の代表に名乗り出たロロベリアの挑戦。
本来挑戦される側の立場なのに挑戦者としてファルシアンと戦う。故にロロベリアが口にしていたように、彼女の中では序列一位を賭けた対等な立場なのだ。
「単純ね……たしかに序盤の姫ちゃんはちぐはぐしてたもんなぁ」
ただ自分なりに学院最強の風格について考えてしまったのか、堂々としながらも妙に不安定な感じになっていたのは遠目からでも伝わっていた。これはロロベリアの中での最強に相応しい人物像、ラタニとアヤトを参考にした影響か。二人を真似た発言を口にしていたのが良い例だ。
しかしラタニにはラタニの、アヤトにはアヤトの風格がある。参考になる相手から学ぼうとするのも生真面目なロロベリアらしいが、その結果半端な形で現れてしまった。単純なのは否定できない。
それでも二人を参考に模索したお陰で、無意識でもロロベリアの意識改革は上手くいってもいる。
最強の称号に相応しい実力と風格を兼ね備えたラタニとアヤト。普段こそ自信過剰な発言や態度が目立つも、陰では恐ろしいほど謙虚に強さを追求した鍛錬を続けている。そういった陰の努力に裏付けされた自信があるからこそ、いついかなる時でも自身の能力を十全に引き出せる。
対するロロベリアも謙虚に強さを追求した鍛錬を続けている。しかしサーヴェルも含め、最強の称号に相応しい存在が近くにいるだけに、自分はまだまだ弱いと感じて普段から謙虚な発言や態度が目立ち、言ってしまえば自分の努力や能力に自信を持てていない。
故に追い込まれると謙虚よりも挑戦意識が強くなり意外性という強みが出るも、普段は不器用さにも繋がっていた。
もちろん謙虚なのは悪くない。ただ謙虚も過ぎれば自身を卑下していると同意。
精霊術の扱いは精神面が大きく作用するなら、ラタニが指摘した意識改革が出来なければロロベリアの才能も十全に発揮しない。
しかしニコレスカ家に引き取られてからひたすら強さを求めた時間は充分自信を持っていい。更にこの一年は特に敗北した回数、悔し涙を流した回数が最も多いのはロロベリアだ。それでも立ち止まらずに前を見据えて、挑戦を諦めなかった。帝国や教国では本来学院生が経験するはずのない命のやり取りまで経験したのだ。
例え学院という箱庭だろうと、最強の称号を背負う資格は充分ある。
なによりロロベリアが憧れる最強も更に上へ、限界に挑戦し続けている。
だからロロベリアも挑戦を続ければいい。ただし自分の軌跡を卑下せず、力に代えて挑むべき。
つまりロロベリアの意識改革とは、正しく自信を持つこと。
そして根が真っ直ぐだからこそ、最強の称号に相応しい自分をイメージしたことでラタニですら敗北を認めた才能が完全に発揮された。
まあ本人が無自覚の開花なのは何ともロロベリアらしくもあるが、それもまた彼女の在り方なので構わない。
「でもま、今の姫ちゃんは完全に挑戦を楽しんでる」
更に挑戦に集中する余り、参考にしていた最強像も頭から抜けてしまったのか、今は堂々というより活き活きとフィールドを駆け回っている。
「まさに姫ちゃんらしい学院最強だわ」
レイドのような強者の風格、威厳は微塵もない。しかしロロベリアの在り方ならそれでいい。
序列一位の重みも意識した上で自身の可能性を、限界を超える挑戦を心から楽しめる無邪気な序列一位も学院生の模範となる姿勢だ。
想像とは違うが、これもまた意外性が成せる結果か。
とにかくロロベリアの問題が解決したのなら後は――
「ユース、サボってないで通訳して!」
などと今後の展開に期待していたユースにランからお怒りが。
激しい精霊術戦から一転、足を止めて言葉を交わすロロベリアとファルシアンの声は観覧席まで届かない。
なので唯一部分集約で聴覚を強化できるユースがフィールド内のやり取りを伝えなければ、何を話しているのか分からないのだ。
「……お前も少しは協力しろよ」
「面倒だ」
まあアヤトは聞こえているようだが、通訳など引き受けるはずもなく。
「ですよねー。えっと……『ですが精霊術のみで――』」
二人の会話が気になるのも分かるので、ユースは聞き取ったやり取りを伝える役割に専念した。
◇
この一戦がロロベリアの意識改革に繋がっていると知らず、ファルシアンは圧倒されていた。脅威の技能による精霊術は当然、ロロベリアから感じる妙な風格が更に増したからで。
まだその風格が何かは把握できない。ただ一つハッキリしたのはロロベリアに勝てる気がしない。
ただし情報通りのロロベリアの戦法だった場合だ。
「さすがは序列一位殿! まさに精霊術の名手との評価に偽りなし、感服しました!」
故に敢えて煽るべく、ファルシアンは両手を広げて敬意を示す。
「ですが精霊術のみでお相手する、というのは私を侮っているとご理解して頂けましたか?」
「…………」
ロロベリアも付き合うようで警戒こそしつつ足を止めて耳を傾ける。
ファルシアンは精霊術を主力とする精霊術士、それでも剣術の訓練も怠っていない。その証拠に相手との間合いの取り方、攻防の立ち回りが上手く発動速度の差を補っていた。
加えて保有量の少なさから精霊術戦を避けていたこともあって、ロロベリアはこの手の戦いに不慣れ。音の発動を駆使しても捉えきれない。
そしてファルシアンは主力としている分、精霊術戦に慣れている。このまま続けても捉えるか、精霊力が枯渇するかは五分といったところで。
「ご理解なさったなら本来の戦い方に切り替えては如何かな? むろん私の序列一位は揺るがないのでご安心を」
しかし近接戦を織り交ぜれば別、ファルシアンが煽るのは真剣勝負を望むからこそ。
「最初に言った通りよ。私はあなたを侮っていない」
「……ほう?」
それでも意思の変わらないロロベリアにファルシアンの目がスッと細まる。
「だから、あなたこそご安心を」
「……では、安心して序列一位を勝ち取らせて頂きます」
その上で勝利を諦めていないと微笑まれ、ファルシアンは臨戦態勢を取る。
煽っても動揺せず、傲っているようでもないロロベリアの根拠を暴く為に。
なぜ自分に相応しい相手にロロベリアを選んだのか、その真意を知る為に。
『朱き星々よ!』
今は全力で勝利を求めると精霊術を発動。
『パチン』
『パチン』
ロロベリアも僅かに掲げた両手で指を鳴らし、音で精霊術を発動。
先ほど同様、精霊術戦が繰り広げられるハズだった。
「…………な……ぜ」
静かなフィールド内にファルシアンの夢現な呟きが響く。
それもそのはず、言霊を紡いだのに精霊術が発動しないのだ。
更にロロベリアの精霊術も発動せず、何も起きない不可解な状況にさすがのファルシアンも困惑から硬直する。
ただ一つだけ確かなのは、この不可解な状況を作ったのは――
「……ふぅ」
困惑よりも安堵の息を吐くロロベリアに間違いない。
これまで自分自身を過小評価しすぎた結果、今までは窮地に追い込まれると発揮していたロロの才能が完全に開花しました。また限界を超える挑戦を辛く感じず、無邪気に楽しめるのもロロの強さですね。
ちなみにファルシアンの精霊術が発動しなかった理由は、外伝を読まれていれば分かりますよね……読んで頂けてますよね(汗)。
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