幕間 自覚する為に
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新入生に向けたレクリエーションが発表される二日前。
「よう」
「よう、ではない。いったい何をしていた」
生会室に訪れたアヤトをすぐさまジュードが批判。
今日の昼休憩時、会合のため序列保持者は学院が終了次第、生会室に集合するようそれぞれのクラス講師から言伝があった。学院を代表する序列保持者として、学院生会の業務に協力、または意見確認などで招集を受けることは珍しくもない。
なので生会室にはジュード以外の序列保持者に学院生会の三人も既に集合し、アヤトが来るのを待っていた状況。
「何だっていいだろ。つーか時間まで指定された覚えはないが」
「指定されずとも終了次第、速やかに集合するよう言われていただろう」
ただ三〇分以上待たされた上に不遜な態度をされてはジュードも批判の一つもしたくなる。
「まあまあ。こいつがサボらず来ただけでもマシだと思いましょうよ」
「それは己の擁護も兼ねてか、ニコレスカ弟」
「……だから、ダチとの先約があったんですって」
そんなアヤトにフォローを入れるユースも先ほど来たばかり、その際はジュードだけでなくリースやランにも遅いと怒られていたりする。
対してアヤトの遅刻にはジュードのみ批判するのは、二人もユースと同じでサボらなかっただけでも充分と、ある種日頃の行いが物を言った形か。
「もういい……早く座れ」
「座らなくてもお話しは聞けるだろ」
「この男は本当に……っ」
そして選考戦後の交流会同様、ソファに着席せずドア付近の壁にもたれ掛かるアヤトの協調性の無さに苛立つジュード以外が何も言わないのも今さら。
とにかく全員が揃ったならと、円卓テーブルに腰掛けていたレガートとシエンが立ち上がった。
「早速ですがみなさんにお話があります」
まず進行役が板に付いたレガートから収集の理由、学院生会として新入生向けのレクリエーションの開催を勧めている旨を説明。
またこの面々に隠す必要もないので狙いはファルシアンやレイティの暴走で広まった噂の排除、持つ者と対等に渡り合える持たぬ者がいると新入生に知らしめる狙いを伝えた。
「本来序列保持者に挑むのは三ヶ月に一度の入れ替え戦、更に挑戦権を手に入れた者のみ。ですがレクリエーションの一環としてなら入れ替え戦の意義を損なわずに済みます」
「上手い考えだ。なら新入生代表をあの二人にするんだね」
「両者とも精霊術クラス、精霊騎士クラスの実技は主席。代表に指名しても違和感はないでしょう。明日こちらから打診しますが、まあ断るはずもないでしょう」
ルイの確認にレガートが微笑むよう、二人の熱望している対戦が叶うなら断る理由はない。ただ二対二のエキシビジョンならどちらがアヤトと戦うかで揉める可能性もある。
「そちらについてはご安心を。こちらも問題児二人のお陰で迷惑していますからね、鬱憤を晴らすついでに言いくるめてみせましょう」
「……頼もしい限りだ」
その問題も不敵に笑うレガートの怒りを期待してルイも引き下がった。
「ありがとうございます。そしてレクリエーションの発表は明後日、開催はその翌日を予定しています」
「早急に噂を排除したいにしても随分と急だな」
「講師陣に打診したところ、出来るだけ早く開催して欲しいと頼まれたんです。噂云々よりも入れ替え戦後には遠征訓練も控えていますからね、スケジュール的に余裕が無いんですよ」
「……なるほどな」
「後はアーメリ特別講師に審判をお願いする為でしょうか。あの方なら頭の固い講師と違い、実力だけでなく万が一問題児が暴走してもこちらの意図を読み取り上手く対処してくれますから」
「……一緒になって暴走しそうだが」
一抹の不安が過ぎったジュードだが、引き下がるのは少なからずラタニの為人を知ったからか。飄々として不真面目でも学院生を思う気持ちは本物、学院生会の思惑に協力するとの信頼はあった。
「そしてみなさんに集まって頂いたのはレクリエーションの表の目的、つまり学院側の代表を決めてもらいたい。責任者を私とシエンさんが担うのも、その為です」
とにかく趣旨の説明から本題に入る。
精霊祭の序列戦でも公平を期す為に序列保持者が在籍していないクラス代表が責任者を担ったように、現序列保持者が在籍していないクラス代表のレガートとシエンが主導になるので生会長のエレノアが序列側として協力。アヤトが在籍している騎士クラス代表のイルビナも裏方に回るらしい。
「今回は学院生の模範となる強者です。やはり俯瞰ではなく、直接手合わせをした者同士で選ぶべきかと」
「もちろん誰を選んでも自分たちは何も言わないです。なのでここからはみんなに任せるです」
故に代表選出は序列保持者が決める為の招集。レガートとシエンは関与しないと着席。
新入生代表が二名なら学院代表も二名、アヤト以外の代表を誰にするか。
「そういうことだ」
既に今回の招集理由を知るエレノアが引き継ぎ、序列保持者内での話し合いが始まった。
「だが私たちの代表など一人しかいないだろう」
「エレノアの言う通りね」
「この場も議論するってより、情報共有が目的だしな」
しかし話し合う必要もないと断言するエレノアにランとディーンも今さらと同意。
そもそも学院生会でレクリエーションの構想を話し合った際、アヤト以外の代表は議題にすらならなかった。
故に招集も体でしかく、三人の独断でもないのはミューズ、ユース、ジュード、ルイ、リースの視線が物語っていた。
学院を代表する序列保持者の中で、更に代表となれば悩むまでもない。
「……私ですか?」
「なぜ意外そうな顔をする……」
にも関わらず視線を集めたロロベリアの惚け顔にエレノアはため息一つ。
序列保持者が学院の代表なら、序列一位は序列保持者の代表。
だからこそ学院最強と誰もが敬意を払い、模範とする存在。なのに当の本人が無自覚となれば呆れもする。
まあロロベリアは序列一位の座について間もない。そういった自覚を持つには早すぎるかもしれないし、謙虚でもある。
序列一位になろうと傲らず挑戦を続けるのもロロベリアの美徳。しかしいつまでも無自覚なままでは問題がある。
「模範となる強者なら生会長のエレノアさまでも……それに私はまだ二学生ですし……」
そういった意味でも今回の一件は自覚を持たせる良い機会なのに、みなの意思に反してロロベリアは相変わらずの姿勢。
確かに模範となる代表なら生会長でも構わない。だが学年関係なく学院の頂点に立った強者が序列一位なのだ。
いくらアヤトが居るにしても、学院最強としての誇りを持つべき。
「いいか――」
「生会長は学院生のてっぺんであって、強者のてっぺんじゃねぇだろ。なに勘違いしてんだ」
仕方ないとエレノアが意見するも、我関せずと無言を貫いていたアヤトが遮った。
「それとも違いが分からんほどバカなのか」
「え……あの……」
いつも通り面倒げな口調で、あやとりをしつつ嫌味を告げるも、いつもより棘を感じる物言いにロロベリアも戸惑うがアヤトは無視。
「たく……序列一位はそのまま学院最強を意味する。ここまでは分かるな」
やはり面倒げに、改めて序列一位の肩書きを突きつけた上で。
「確かにレイドは俺よりも弱っちい。だが、一度でもあいつがその肩書きに相応しくない振る舞いでもしてたのか」
元序列一位のレイドを引き合いに出し、ロロベリアの振る舞いを批判する。
レイドもアヤトに何度も敗北している。親善試合で帝国に訪れた際、非公式な模擬戦ではベルーザに後れを取った。
それでもレイドは学院最強としての自覚を持ち、学院生の模範となるよう最後まで目標であり続けた。そうあろうと努力を怠らなかった。
「俺はそう思わんがな。故にお前との下克上戦でそのプライドを捨てても尚、ひよっこ共はあいつを目標として最後まで認めた。だから捨てさせたお前をひよっこ共も認めたんだろ」
下克上戦で消耗戦を挑んだレイドに驚きこそすれ、批判の声はあがらなかった。むしろロロベリアに敗北を教える為、最後まで壁として立ち塞がったその尊い覚悟は多くの学院生が感銘を受けた。
レイドが最強の挑戦者と認めたからこそ、ロロベリアを多くの学院生が認めたのだ。
「そんな学院最強さまを中心として他の連中も頼り、信頼し、俺に挑んだ。負けはしたが俺も良いお勉強をさせてもらったと感謝するほどには認められたんだがな」
そして卒業生が挑んだ真の下克上戦でも中心はレイドだった。
不可能と思われた打倒アヤトを達成するために最後の一手をミラーに託し、敢えて陰の尽力を選んでも尚、毅然と振る舞い続けたレイドの姿がどれだけ力になったか。
まさに学院最強の座に相応しい、模範となる存在と言えるからこそアヤトも認めている。
「で、テメェはレイドに捨てさせたプライドを拾うとほざいたはずだが、まさか拾って満足してんのか」
なのロロベリアは序列一位の重みを理解していない。
レイドの覚悟を正当に示す為に引き継いだはずなのに、序列保持者の中心でいる自覚も、学院生の模範となる自覚もない。
「満足してんだろうな。でなければ二学生だから、なんざ甘ったれた勘違いをするはずがねぇ。自覚もなければ背負った物の重みも無視とは、まさに張りぼての序列一位さまだ」
今さらながら自身の立場を、甘えを自覚したロロベリアは何も言えず目を伏せる。
序列一位の重み、学院最強の称号が周囲に与える影響力も考えず、模範となる立場を放棄した。挙げ句、その立場をエレノアに譲ろうとしていた。
プライドのない最強の称号など、まさに肩書きだけにすぎない。
「なら好きにしろ。エレノアを代表にしたけりゃ俺も賛成してやるよ。少なくとも甘ったれな序列一位さまよりはよっぽどひよっこ共の模範になるからな」
ロロベリアを最後まで視界に入れることなく、あやとりの紐をコートのポケットに収めたアヤトは背を向けた。
「……カルヴァシア、まだ代表決めの途中だぞ」
「俺の意思は伝えた。後は好きにしろ」
「お前は好きにしすぎだ……」
用はないと言わんばかりに退室するアヤトにエレノアが苦笑を漏らす。
「ですが今回ばかりはカルヴァシアが正しいでしょう」
だが予想外にもジュードはアヤトの奔放さを批判せず、賛同の声を上げる。
「私もエレノアさまの代表を指示します。自覚のない序列一位に学院生の模範となる資格無し、他の者も異議はないでしょう」
「改めてロロベリアの意思を確認しても良いだろう」
「他者に突きつけられて自覚した重みでは無意味だと思います。リーズベルトには覚悟が足りなかった、それだけのことです」
「ですがロロベリアさんはまだ二学生です。助言から学ぶ自覚があってもよいかと」
「レイド殿下と直接まみえたあの下克上戦が助言であり学ぶ時間だった。だからカルヴァシアも失望したのではないか?」
「失望は言い過ぎじゃない?」
「だね。ただ時間をあげる為に、今回はエレノアさまに任せるのもありかな」
「いきなり背負わせるのも酷か」
「ロロでいい」
「姉貴はもうちょっと考えて発言しようね」
そのまま話し合いが始まるも、ロロベリアの耳には届いていない。
何も成してない、成そうともしない肩書きだけの学院最強に何の意味があるのか。
このままではレイドの覚悟を正当に示すどころか貶めるだけでしかない。
例え学院という箱庭の中だろうと、最強の称号を背負ったのなら。
その重みをようやく知ったのなら。
今は己の不甲斐なさに俯くよりもやるべきことがある。
自問自答を繰り返したロロベリアが出した答えは――
「……お願いがあります」
顔を上げたロロベリアに討論が自然と中断。
ただ本人の意見を訊く為ではなく、声音に変化を感じたからで。
「今さらかもしれませんが、私にやらせて下さい」
そう告げる表情には先ほどの戸惑いも、頼りなさもない。
しかし学院最強の自覚とは真逆の決意が備わっている。
ただ指摘されて学院最強の自覚を持つよりも、ロロベリアらしい自覚の持ち方かもしれない。
「マルケスも、他者に突きつけられた重みでなければ問題ないだろう」
「……その決意が遅い、とは苦言させて頂きます」
レイドから引き継いだ学院最強の座に相応しい自分になる為の挑戦。
これまで挑戦を繰り返し続けて成長した、まさにロロベリアの真価ともいえる決意に誰も異を唱えなかったのは言うまでもない。
周囲に、というよりアヤトに指摘されて自覚を持つより、自身の過ちを反省して、学院最強の座に相応しい自分になると挑戦して手に入れる自覚の方がロロらしい序列一位になれると思います。
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