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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十二章 新世代を導く改革編
512/780

あいまいな風格

アクセスありがとうございます!



「――てなわけで、イルちゃんが退学することはナッシング。安心したかい?」


「……安心しました」


 一方、ロロベリアは本当にラタニからお説教されていたりする。


『まずはロロちゃん、正座』

『え?』

『正座』

『あの……』

『あと二秒以内にしないとロロちゃんの恥ずかしい秘密大暴露するよん♪』

『私の恥ずかしい秘密って――』

『に-、い-ち』

『します!』


 どんな秘密を暴露されるか予想も付かないのでロロベリアは即座に正座。

 からの、イルビナを推薦に王族のエレノアが絡んでいるのを始め、彼女の実力を踏まえれば、実家もおいそれと手出しできなくなると簡潔に説明された。


 状況の呑み込めない観覧席に『学院講師らしくロロちゃんに説教するからちょいお待ち』と声を拡張して伝えているが、イルビナと実家の関係を配慮して以降は精霊術を使用せず。お陰で『なぜロロベリアが説教されているのか?』と困惑するも、フィールドの中央で正座をさせられて公開説教を受ける気恥ずかしさにロロベリアの顔は真っ赤に染まっていた。


「つーかさー、イルちゃんの状況を詳しく知らんあたしでも速攻で理解したのになーんでそれなりに知ってそうなロロちゃんが分からんかね? ファーちゃんでも分かったっしょ?」

「もちろんですとも!」


 そんなロロベリアを他所に、同意を求められたファルシアンは声を高らかに頷く。

 ちなみにファルシアンはロロベリアの隣で自主的に正座している。理由も『共に熱い戦いを観覧した者同士、そしてこれから熱い戦いを繰り広げる者同士、ならば一蓮托生!』と意味不明な持論だったりする。


「もしイルビナ=フィン=シーファンス殿が退学を拒むなら、我がクォーリオ家が援助を申し出ても良いほどです。彼女の強さはそれだけ尊い、他の貴族家も同じように動くかと」

「精霊力の有無に囚われてないお貴族さま、だけどねー。とまあ、あたし以上に知らんファーちゃんでもイルちゃんの可能性は無限大、って分かんのに……だからロロちゃんは構ってちゃんって言われるんよ?」

「……ごめんなさい」


 それはさておき、ラタニのお説教に返す言葉もなくロロベリアは謝罪を述べる。

 退学回避だけでなく、イルビナが望むならニコレスカ家も援助するだろう。既に王国騎士団長を超える実力は当然、イルビナの精神的な強さは義父のサーヴェルや義母のクローネが好むタイプだ。

 なのに――


「なのに『ですが……そんなの……』ってレイちゃんと一緒に絶望しちゃってさ。レイちゃんは仕方ないんよ。なんせアランドロス家だ、恐らく精霊力で評価されるクソみたいな価値観が常に纏わり付いてたんだろうし、イルちゃんも同じ」


 ……反省を代弁されるよう、考えもせず取り乱してしまった。精霊力の有無より精神や人格を重視するニコレスカ家で育てられた自分がだ。


「それをサーヴェルのおっさんやクーちゃんみたいな親御さんに育ててもらったロロちゃんがとか……あの二人が知ったら泣くさね」

「……反省してます」

「ほんとに?」

「……はい」

「なら今後は冷静に対応して、むしろロロちゃんがイルちゃんやレイちゃんを安心させられるようにしましょう。つーわけでお説教もお終い。立っていいよん」

「精進します……」

「ありがとうございます!」


 ラタニの忠告をロロベリアも真摯に受け止め、何故かファルシアンも感謝しつつ立ち上がった。


『パチン』


「てなわけで公開説教楽しんでくれたかガキ共! そんでもっていよいよ序列一位を賭けたケンカが始まるぜい! ほれはくすー」


 パチパチパチ……


 二人が両足に付いた砂を払う間に声を拡張させてラタニが観覧席を煽り、状況が掴めないまま拍手が響く。

 しかしイルビナとレイティの激戦からグダグダな状況が続いた為、学院生らの熱気も落ち着いたのかまばらな拍手で。


「なんだいなんだい、しょっぼいはくす送りやがってよー。テメェらのてっぺん決めるケンカだ、もっと盛り上がれい! でないとラタニさんが特大精霊術をぶっ放して無理矢理にでも盛り上げちゃうぞー!」


「「「「やめろ!」」」」


 パチパチパチ――!


 制止の声を張り上げる講師陣の必死な様子から、ラタニなら本気でやりかねないと悟った学院生も必死に拍手する事態に。


「うんうん。やっぱ盛り上がりは必要さね」


 ただそこはラタニ、脅しで得た大きな拍手に満足しつつ拡張の精霊術を解除。


「二人もこの盛り上がりに答えるような、熱いケンカをよろ」


「はい」

「了解しました!」


 ロロベリアとファルシアンも気持ちを切り替え、フィールド中央で向き合った。


「私の願いを叶えていただき感謝します」

「お気になさらず」


 まずは開始前の儀式としてファルシアンが握手を求め、ロロベリアも手を出しだす。


「そして、序列一位の座まで()()()()()()()()()()()()()()


 両者の手が握られた瞬間、ファルシアンが不敵な笑みで挑発。

 また握られた手から強い意思を感じるも、ロロベリアは平然としたもので。


「お気になさらず」


 柔らかな笑みのまま、強く握り替えすこともせず背を向けた。

 この対応にファルシアンも不気味さを感じたのか、静かに距離を取る。


 そして二〇メルの距離を空けて再び向き合う両者の雰囲気に当てられたのか、観覧席は否が応でも緊張感が増していく。

 注目はファルシアンの実力。入学式の新入生代表挨拶で序列保持者に決闘を申し込んだ問題児の実力は、本当に序列保持者に通用するのか。


 しかしそれ以上に注目するべきはロロベリアの実力。特に今回初めて目の当たりにする新入生はロロベリアが学院最強の相応しい実力を示すのか興味深い。

 一学生で異例の序列入りから始まり、継続戦ではエレノアに、序列戦ではミューズに勝利。更に卒業前の下克上戦で前序列一位のレイドを敗北寸前まで追い込み、選考戦に挑んだ一学生の学院序列一位は歴代三人目の快挙。

 ロロベリアの戦歴は異例尽くしと、まさに学院最強の座に相応しいものばかり。


 問題は序列十位のアヤトに勝利したのは選抜戦の一度のみ。非公式の模擬戦や選考戦では敗北している。

 精霊力持ちと互角に戦える持たぬ者は存在するとイルビナが証明したとはいえ、アヤトの実力は未だ懐疑的が故にロロベリアの実力が計れない。


「つーわけで、ロロちゃんとファーちゃんの学院てっぺん決めるケンカの始まりっと」


 そんな注目を一身に浴びる中、ラタニお約束のゆるっとした宣言に合わせて両者は精霊力を解放。


「…………」

「…………」


 ただイルビナとレイティの試合とは裏腹に、両者は向き合ったまま動かない静かな立ち上がりはロロベリアの試合を知る者は違和感がある。

 精霊術と近接戦を組み合わせるのがロロベリアの戦法。自ら間合いを詰めて果敢に攻めるのが基本の立ち上がりだ。


「構えないのですか」


 故に序列戦を観覧したファルシアンも違和感を指摘。

 天才的な制御力から精霊術の名手と評価されるも、保有量の少なさから近接戦を軸にするのがロロベリア。しかし瑠璃姫を抜く素振りすら見せないのは何故か。


「ファルシアンさんは構えないの?」


 返答の代わりにロロベリアは同じ質問を返す。

 精霊術が主力の精霊術士は基本護身用の短剣を装備するが、ファルシアンは帯剣している。つまり同じタイプなのに剣を抜かない自分に同じ疑問を抱いているのか。

 ただファルシアンの場合は少なからずロロベリアを知るからこその理由がある。


「剣も自信はありますが、ロロベリア殿の近接戦を知るだけにそれなりと言わざる得ないでしょう。なのでより自信のある精霊術でお相手する所存」


 剣術の訓練もしているがファルシアンの主力は精霊術、剣術の腕前は本業の精霊士に比べて見劣りする。

 対するロロベリアは序列戦でも崩せなかったとはいえミューズを相手に見せた剣技、驚異的な速度は生半可な精霊士よりも上。

 近接戦では不利と判断した結果、勝機がある精霊術に集中する為に抜かないだけ。

 決して侮っているわけではないと弁解すれば、ロロベリアはどこか安堵の表情で。


「それが先ほどの答え」


 遠回しにでも瑠璃姫を抜かない理由を教えてくれた。

 その理由を瞬時に呑み込めないファルシアンは確認のため再度質問。


「……敢えて私の得意分野で戦って頂けると?」

「そうなる……かな?」


 妙に自信がなさそうな返答でもロロベリアの理由は他に捉えようがない。

 つまりファルシアンに合わせて精霊術のみで勝負するため瑠璃姫を抜かなかった。


「なるほど……やはり序列一位ともなれば、私のような新入生に慈悲を与えて下さる余裕があるのですね」

「余裕とか全然無くて……どう言えばいいのかな? これも私なりの覚悟というか、挑戦というか……」


 この理由に芝居口調ながらもファルシアンの紅い瞳に冷たい感情が宿るも、ロロベリアはどこ吹く風で言葉を選びつつ。


「とにかく、あなたを侮ってはない。むしろ気持ちとしては序列一位を賭けた対等な立場として向き合ってる。確かに私は序列一位、でも今はただのロロベリア=リーズベルト、みたいな?」

「よく分かりませんね」

「……ごめんなさい」


 最後まで要領の得ない弁解を一蹴すれば弱々しい謝罪を返された。

 それでも否定したように感情が表に出やすいお陰でロロベリアから侮りは感じない。

 要は彼女なりに強い決意の表れとしてファルシアンの土俵、精霊術戦に挑むつもりだ。

 そして決闘を了承したロロベリアに感じた妙な風格、いま感じ取った決意も踏まえて()()()()()()()()()()ファルシアンも興味を持った。


「上手く答えられなかったお詫びに一つ、忠告させて」

「是非とも」


 だからこそ冷ややかな感情は潜み、今度は何を感じさせてくれるとロロベリアの声に高揚するまま耳を傾けるも――


「私たちは試合中なのを『()()()()』」


「――っ」


 忠告途中で突然ロロベリアの周囲に水弾が顕現。

 水弾はたった一つ。精霊術による顕現としても、言霊ですらない発動に絶句するファルシアン目がけて襲いかかる。

 咄嗟に横へ跳んで回避するも追撃はなく、しかし事態が呑み込めないファルシアンにロロベリアは忠告を続けた。


「お喋りもいいけどそろそろ始めましょう……なんてね」


 自分の発言が気恥ずかしいのか、序列一位の威厳もない微笑み。


 なのにゾクリとした何かをファルシアンは感じ取った。




有言実行なラタニさんはしっかりとロロにお説教しました……レクリエーションとはいえ、闘技場でなにしてるんでしょうね。

それはさておき、ロロVSファルシアンはロロらしいようでロロらしくない開始となりました。

ロロだけでなくファルシアンの事情については、もちろん次回から徐々に明かされていきます。



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