徹底した対策
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レクリエーション発表の翌日――
学院の模範となる代表二名と新入生代表二名のエキシビションは昼休憩後、午後の講習時間を使って行われる。
学院生会の急な提案でも開催できたのは学院生会と講師陣の利害が一致しているから。ファルシアンやレイティの暴走に触発されて次々とルールを無視した行動を取る者が増えれば講師陣も対処に困ると、現在学院に広まる噂を早く取り除きたい気持ちは一緒だ。
また審判役をラタニに勤めさせる為。新入生代表の選出から今回のレクリエーションには別の狙いが含まれていると推測されても、これはレクリエーションの一環。公平で安全な判断が可能な実力だけでなく、他の講師陣にはない緩さや砕けた対応はイベント事には向いていると学院生会側が要望。
レイティが学食に訪れた翌日から責任者を務めるレガートとシエンの迅速な行動が実り、ラタニが王都に戻る前に開催が叶った。
「ではこれよりマイレーヌ学院の一員となった新入生の歓迎と、当学院をより知っていただく為のレクリエーションを開始します」
そして昼休憩終了後、闘技場に集まった全学院生や講師陣に向けて来賓席からレガートが開始宣言を。
来賓席にはレガートの他にはシエンのみ。
学院生会主催のイベントでも序列保持者が在籍しているクラス代表は関わらないので指揮を執るのは二人。またギリギリまで学院代表を伏せることで観覧する学院生の楽しみを煽るのも目的。なので他の学院生会は序列保持者と共に別の場所で待機している。
「昨日も説明しましたがこのレクリエーションはあくまで新入生の模範となる、学院を代表する強者を知ることでこれからの学院生活の奮闘を願ってのものです」
「精霊学クラスや仕官クラスに実技はないですが、一つの道を究めんとする者の姿勢から学べる物も多いです。なので関係ないと思わず今回のレクリエーションで何かを学ぶです」
それはさておきレガートとシエンの補足に白々しさを感じつつ、序列保持者の実力を楽しみに待つ新入生もいれば、出てくるであろうアヤトが本当に序列入りするだけの実力があるのかと興味を示す者もいた。
特に未だ不正を疑わない二、三学生は今度こそ暴くと躍起になっているようだが、この問題の対策も考えてたりする。
「そして審判にはラタニ=アーメリ特別講師にお願いしていますがもう一人、今回のレクリエーションに協力してくれた功労者にも登場して頂きましょう」
故にレガートの呼び出し観覧席がキョトンとするも、ラタニと共に東口から現れた思わぬ人物にざわめきが起こる。
注目を浴びながらも平然とフィールド中央でラタニの隣りに立っているのはマイレーヌ学院の制服の上に白衣を纏ったサクラで。
「では皇女さま、やりますかねっと」
「……じゃな」
ラタニに促されたサクラは咳払いを一つ。
「仕官クラス一学生、サクラ=ラグズ=エヴリストじゃ。まあ自己紹介は置いとくとして、本来新入生として学ばせてもらう側なんじゃが、学院生会から両代表に不正行為がないかを確認して欲しいと頼まれてのう」
周囲を見回しながら協力内容の説明を始めた。
「以前から公式戦で精霊器を使用した不正行為が行われている、との噂は妾の耳には入っておる。じゃが学院生会側が王国にそのような不正行為を犯す学院生などおらんと実際に知って欲しいそうじゃ。故に事前チェックを担当して欲しいと……本来は精霊学クラスに協力を仰ぐべき案件なんじゃが」
「そなんですけどサクちゃんは帝国の精霊器開発第一人者の天才皇女さま。ぶっちゃけここで精霊学教えてる講師よりも詳しいでしょ」
続けてラタニが補足するも、学院生とはいえ皇女相手にサクちゃん呼び、更に馴れ馴れしい対応に学院生は戦々恐々。講師陣は呆れから項垂れるも今さら。
「おだてても何も出はせんぞ。しかし褒められると嬉しいもの、妾の功績を買ってくれたのなら協力を惜しまんと先ほど両代表の事前チェックをさせてもらった」
「んで、どうでした?」
「四人とも精霊器、それに関する不正行為はないと、今は帝国第三皇女サクラ=ラグズ=エヴリストの名にかけて約束する」
二人はノリノリなやり取り。しかしサクラの宣言に一部の学院生は表情を青ざめた。
なんせ今回の一戦に出場する四人に不正はないとサクラが断言したのだ。帝国の精霊器開発第一人者すら精霊器を確認できなかったという抑止力以上に、今後も不正を唱えればサクラを否定すると同意。下手をすれば帝国の皇女が不正に関与したとの訴えに捉えられてしまう。
国は違えどサクラは帝国の最上位、皇族の一人。いくら学院内に身分関係ない理念があろうと皇女として交わした約束を否定するわけにもいかない。
「でもまあ? サクちゃんですら確認できない精霊器があったら別だけどねん」
「ほう? それはつまり、王国側は帝国と技術協定を結んでおきながら妾にも隠しておる技術があるとの意味になるが……悲しいものよ。帝国は惜しみなく提供しておるのに……」
「いやいや、あくまでもしものお話。仲良しさんな帝国にも全力誠実に情報共有してますよん。多分だけど」
「……多分なのか」
「だってあたしはそっち系の分野については知らんから断言できんよ。でも王国は誠実をモットーの国なんで大丈夫でしょ」
「確かに王国は技術的に遅れておる帝国にも惜しみない協力をしてくれておるからのう。いらぬ心配じゃったか」
……二人だからこそ悪ノリするが、お陰で強力な抑止力にもなる。事前チェックにサクラが関与したことで学院生は不正行為による否定を封じられた。
「故に妾も持たぬ者が本当に持つ者と互角に戦えるか、楽しみに観覧しつつ先輩方の雄志から学ばせてもらうとしようかのう」
「こらこらサクちゃん、ネタバレしない。お陰で学院の代表に持たぬ者がいるって知られちゃったじゃまいか」
「おっと妾としたことがうっかりじゃ。今の発言は忘れてくれ」
「レクリエーションといえど不正があれば楽しめませんからね。学院生会として全力で準備を進めました」
「なので新入生なのに協力してくれたサクラには感謝です」
最後に若干の笑いを掴んで東口に退場するサクラをレガートとシエンは拍手で見送り、慌てたように観覧席から拍手が起きた。
「いやはや、えぐい準備さね」
対するラタニは皇女の立場を利用したやり口にケラケラと笑う。
しかしだからこそ今回のレクリエーションに賭ける学院生会の本気度も伝わるわけで。
「微弱ながらあたしも協力しようかね」
必要ならフォローをするのも大人の勤めとラタニが見守る中――
「最初に新入生代表の入場です。みなさん、惜しみない拍手を」
レガートの進行に合わせて西口からファルシアンとレイティが入場。
観覧席から再び拍手が起こるも、その意識は東口に向けられていた。
そして新入生代表がラタニの待つ中央に到着、僅かの間を空けて続いてシエンが宣言。
「続いて学院代表の入場です。みんな拍手するです」
やはり進行に合わせて拍手が起こるも、東口から入場してきた二人の姿が見えるなりどっと沸き上がる。
「な……ぜ……」
また東口から向かってくる二人にレイティは上手く言葉を紡げない。
一人は予想されていたロロベリア。
しかしもう一人はアヤトどころか序列保持者でもない。
ただサクラがフライングしたように持たぬ者なのは間違いない。
なんせロロベリアと並んで登場したのは騎士クラス代表、イルビナ=フィン=シーファンス。
誰もが予想していなかったイルビナの登場に驚愕するのは当然。
そんな状況下、同じく知らなかったファルシアンは僅かに目を見開いたのみ。
「……私に相応しい相手が序列一位殿とは光栄だね」
今はイルビナよりも堂々とした足どりで向かってくるロロベリアに注目していた。
後の不満を考慮した対策として学院生会の用意したのがサクラさま。もちろんサクラさまもそんな不正はないと知ってますけどね、学院改革に協力する為に一肌脱いでくれました。
そして学院代表として選ばれたのはロロとイルビナ。学院生はイルビナの登場に驚愕しましたが、読者のみなさまはここまでの流れで予想できたかもですね(笑)。
またラストのファルシアンの意味深な反応は、後ほどのお楽しみに!
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