救いは不穏
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ファルシアンに続いてレイティが公の場でアヤトに勝負を挑んだのは懸念通りの展開に発展した。
本来入れ替え戦以外で序列保持者に挑むのは学院のルールを無視した行為。しかしアヤトの序列入りを快く思わない者、実力そのものに懐疑的な者は関係なく問題視し始めた。
新入生にまで懐疑されるような序列保持者は相応しくない。
このままでは偉大な先人が築き上げた序列保持者の名誉が地に落ちてしまう。
特に選考戦の敗北が全て棄権という不可解な成績がよからぬ臆測を生む要因になった。 棄権したのは何らかの制限が理由ではないか。
序列上位者に白星を上げたのも制限から、または自身の実力を誇示する為に実力者を選んだのではないか
講師陣のチェックは行われていようと未知の精霊器なら確認するのは困難ではないか。
やはり精霊力を持つ者に持たぬ者が対等に渡り合えないとの常識があるからこそ、別の可能性を躍起になって主張する。
こうした主張は選考戦を観覧していない者は当然、アヤトの試合を観覧したことのない新入生らの疑心を更に煽ってしまう。
しかも問題視しているのは学院生だけではない。
選考戦の選出時に、建て前でアヤトの権利を剥奪しようとした一部講師も学院生らの疑心を問題として取り上げ、中にはアヤトを抜きにした選考戦のやり直しを主張する講師もいるらしい。
もちろんやり直しなど認められないがファルシアンから始まった騒動は徐々に大きくなっていた。
「ある程度は予想しておったが、あの入学式で予想以上の問題になっておるのう」
「……ですね」
学院終了後、自宅のリビングでお茶を待つ間、学院の現状を呆れ交じりに嘆くサクラにロロベリアも力なく同意する。
ちなみにサクラの他にエニシは当然として、今日はミューズとレムアも自宅に招いていた。目的はエニシに訓練を付けてもらうのもあるが、久しぶりにアヤトの料理を食べたいとサクラが入学式の後に希望したからで。
サクラもマイレーヌ学院の一員になったなら他の学院生との関係を築く時間も必要。故にアヤトの学食を利用せず、主に身分の近い学院生が利用する学食で共に食事を楽しんでいた。
まあ当初こそ帝国の皇女という身分から気後れしていた平民が多く居たが、サクラの親しみある対応から貴族平民問わず交流を深めているのでその内アヤトの学食にも足を運ぶようになるだろう。
そしてミューズもエニシの訓練を受けたいのもあるが、同じ留学生のサクラと改めて交流を深めたいと望んでいた。人目を気にせずアヤトの料理を楽しむならやはり自宅が一番とロロベリアが誘った形だ。
今日は急用が出来たらしいユースは用事が終わり次第に、学院の専用訓練場でリースの訓練をしているアヤトも早めに帰宅する。
なので大勢での夕食を楽しみにしていたのに学院の問題は大きくなる一方。
サクラの状況が落ち着いたらと約束していたが、未だ学院内は落ち着かない状況。留学しているサクラにもっと王国の良さを知ってもらいたいのに、真逆の状況がロロベリアは恥ずかしくもあった。
「じゃが仕方なしと言えば終いか。そもそも持たぬ者が持つ者を上回るなど本来は信じられんものよ。のう、爺やよ」
ロロベリアの心情を見透かしてかサクラはキッチンでレムアと共にお茶の用意をするエニシに声をかける。
二人も客人ならばロロベリアが用意するべきでも、従者だからこそ任せて欲しいと懇願されたのでこの状況なのはさておいて。
「帝国であれば更に問題視されていたでしょう。実力主義とは言え、王国に比べて持つ者と持たぬ者の差別が激しいですからな」
「教国にはそのような差別はありませんが……別の問題に発展する可能性があるかもしれません」
エニシに続きレムアも苦笑いするように教国、特に教会は一度アヤトを異端者認定している。もちろん不可解な事件が影響した結果、しかし浄化された今の教会なら神の使徒扱いするかもしれない。
それほど精霊力を持つ者には持つ者しか相手取れない、という常識は国関係のない認識。故に問題もそれぞれの形で起きるわけで。
「妾もアヤトの実力をこの目で見ても疑ったほどじゃ。まだ知らぬ者らが疑心暗鬼になっても仕方なかろう。じゃが、未知の精霊器との発想は笑ってしまった。相手を陥れるのに躍起になる連中は時に常識を逸脱するほどに愚かな行動や思考をするものじゃが……そういった発想をもっと別で活かせと呆れもするのう」
「……言い方」
サクラの身も蓋もない言い分にロロベリアは肩を落とすが否定は出来ない。
今回の問題を大きくしているのは精霊力を持つ者を差し置いて序列入りしたアヤトに嫉妬を抱く者や学院の理念を受け入れきれない者が中心。
相手を陥れようとの熱意を自身を磨く方に向ければ良いとロロベリアも思う。
「ミューズ殿はどう思われる?」
「あのね……」
などと考えていればサクラから意地悪な質問がミューズに投げかけられた。
博愛主義のミューズに対してこのような質問など酷でしかないとロロベリアがジト目を向けるも、ミューズは弱々しい笑みを浮かべて同意する。
「サクラさまの仰る通り、そういった思想に囚われてしまう者はいるでしょう。もちろんわたしもです」
「ほう? 聖女と呼ばれるミューズ殿までもそうであると」
「そう呼んで頂けるのは光栄ですが、わたしはまだまだ未熟。アヤトさまのように高潔な精神を持ち合わせていませんから」
「……アヤトが高潔ときたか。いや、あやつは俗物に拘るような男ではないのである意味高潔かもしれんが……」
しかしミューズの言い分にサクラが同意しきれないのも無理はない。
地位や名誉に興味はなく、揺るがない信念の持ち主ではあるが変わりに好き放題やっている。まあ唯我独尊に見えて相手を思いやる気持ちを持ち合わせた行動が出来るのも確かだが……余りに捻くれすぎて素直に認められなかった。
普段はアヤト寄りのロロベリアもサクラと同じ考えに行き着いているようでもミューズは止まらない。
「なので今回の一件もきっとアヤトさまは良き方向に導いてくれるでしょう……わたしが導いて頂けたように」
「えらく信頼しておるのう」
「アヤトさまですから」
相変わらずな発言にサクラも返す言葉を失うも、向けられる笑顔の変化を見逃さなかった。
「そういえばアヤトとロロベリアはミューズ殿の招待で教国に滞在しておったらしいのう」
「正確にはお爺さまが招待されましたが……それが?」
「滞在中になにかあったのか気になっただけじゃ。ところで以前はアヤトに相応しくないと口にしておったが、それは今も変わらずかのう?」
「サクラ!?」
完全に踏み込んだ質問にロロベリアが声を上げるもやはりミューズは止まらない。
「それは……今でも相応しくないとは思いますが……頑張りたいとの気持ちになっています」
「なら滞在中、ミューズ殿の気持ちに変化が起きる出来事があったと」
「……はい」
「やはりのう」
ほんのりと頬を染めつつも肯定するミューズにサクラは読み通りとほくそ笑む。
以前は信仰に近い感情が目立っていたが、先ほどの笑顔は純粋な感情が前面に出ていたからこそミューズのアヤトに向ける感情がなんなのか分かりやすかった。
まあ同じ気持ちを抱いたサクラだからこそ気づけた変化ではあるも、その感情は既に封印している。ただロロベリアの存在を知って尚、その気持ちが実るように頑張ると言い切るミューズには敬意しかなく。
ロロベリアの恋路を応援すると決めていたが、ミューズの立場を知るからこそ悩ましく。
「レムア殿は主の気持ちを知っておるのか」
「むろんでございます。ロロベリアさまには申し訳なく思いますが、私共従者一同はミューズさまの想いが実るよう全身全霊を賭けて応援する覚悟です」
「らしいぞ? ロロベリア、これはうかうかしておられんのう」
「だから私に申し訳ないとかよりも――」
「してミューズ殿はアヤトに伝えておるのか? ロロベリアは信じてもらえんかったと聞いておるが」
「聞いて! ねえサクラ聞いて!?」
「わたしもお伝えしましたが……実は――」
「ミューズさんも素直に答えない!」
とりあえず二人の恋路を楽しく見守ろうと決めたサクラは悪ノリを始め、顔を真っ赤にしてワタワタするロロベリアを早速楽しんでいたが――
「お客さん……? 助かった……じゃなくて誰だろう」
呼び鈴によって中断されたことをロロベリアは安堵しながらも訝しむ。
アヤトやニコレスカ姉弟、ラタニは当然なら呼び鈴を鳴らさない。なら来客になるのだが、ここを訪れるのは今のところジュードやルイを除いた序列保持者くらいなもの。
しかしエレノアやラン、ディーンは学院生会の会議で来る予定もない。他に思い当たるのはツクヨかカナリアになるも、二人が訪れるとも聞いていないだけに予想が付かない。
まあ予想が付かなくとも対応するべくロロベリアは玄関に。
「……どちらさまでしょうか?」
『俺です……ロロ姉さん』
ドア越しに声をかければエランの声が。
「どうしたの?」
「アヤト兄ちゃん帰ってますか……?」
ドアを開けて対応すればエランは今にも泣きそうな表情で問いかける。
「まだだけど……なにかあったの?」
心配するロロベリアに対しエランは申し訳なさそうに顔を伏せた。
「俺……ファルシアンに負けたんです」
お久しぶりのサクラさまですが、ロロとミューズの三人でお茶 (エニシやレムアもいますけど)という構図は同じ人を好きになった者同士になりますね。
まあサクラさまは離脱しているので結果ドロドロの展開にならず、ロロが振り回される形になるんですが、サクラさまが楽しそうで何よりです。
そんなロロを救ったのがエランなわけですが、ファルシアンに敗北してなぜアヤトに会いにきたのか。
二人が戦った経緯も含めてそれは次回で。
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