幕間 変化と相変わらず
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選考戦以降、学院終了後や夕食後の時間は基本リースがアヤトの訓練を受けているので深夜の秘密訓練は無くなり、ロロベリアの訓練も休養日のみとなった。
今まで最もアヤトの訓練を受けていたロロベリアの時間が激減したのは弟子となったリースに時間を割くだけではない。
選考戦後にアヤトは序列保持者それぞれに足りないもの、伸ばすものを助言した。もちろんロロベリアも選考戦で使えなかった切り札を披露し、完全に打ちのめされた上で改めて課題を出された。
その課題とは新解放の部分集約や分配調整を封印してエレノア、ミューズ、ユースの三人からどの組み合わせでも良いので二連勝すること。
アヤトが選んだのは新解放の分配調整だけでなく部分集約を使用しなければロロベリアも分が悪い相手。現に選考戦で使用したのはこの三人のみ。
更に言えば連戦になる選考戦では保有量の少ないロロベリアは不利、故に力業で押し切る作戦しかなかった。
しかしラタニも意見したように今のロロベリアに必要なのは経験。加えて戦術眼も磨く必要があるので力業に頼っては意味がない。
そういった能力を伸ばすならアヤト以外の、尚且つ実力が拮抗している相手との模擬戦を繰り返すべき。二連勝を条件にしたのも保有量の少なさを補う戦術を模索させる狙いがあった。新解放の部分集約や分配調整を封印しようとロロベリアには多くの手札がある、ならその手札を駆使すれば不可能ではない。
この条件を達成するには精霊力の消費量が多く、帰宅後にアヤトとの訓練を受ける余裕も無いので結果休養日のみになった。
ちなみにアヤトがこの課題を言い渡した際――
『とりあえずエレノア、ミューズ、ユースに新解放の部分集約や分配調整抜きで二連勝するまで休養日以外は遊んでやらんからそのつもりでいろ』
『どうして!?』
課題に秘められた必要性や理由も説明せず端的に言い渡したアヤトにロロベリアが速攻で構ってちゃんを発動したのは言うまでもない。
その為、察したユースが変わって懇切丁寧に説明したお陰でロロベリアも納得して受け入れたが……言葉足らずのアヤトもアヤトなら、自身で考えるより先に構ってちゃんを発動するロロベリアもロロベリアとユースは呆れたもで。
少し考えれば大凡でも見当の付く疑問を安易に構ってちゃんをするロロベリアには良い機会かも知れないと内心アヤトの教育法を賛同していたりする。
それはさておき、この課題にロロベリアは予想通り苦戦中。というのもこれまでなり振り構わない戦い方で格上に勝利、またはギリギリまで追い詰めていたロロベリア。次戦を考慮に入れた小器用な戦い方になると考えすぎて萎縮してしまうのか、初戦ですら敗北してしまうのだ。
その為ランやリースとの模擬戦では精霊術を使わず、ディーンとの模擬戦では精霊術のみと自ら縛りを課して技能を磨き、夕食後は走り込みや制御力の基礎訓練を徹底したりと基礎能力の向上に勤めていた。
そして休養日では新解放の部分集約を完全に習得するべくアヤトとの訓練に挑んでいたりとロロベリアも課題達成に必要な方法を模索したりと、今のところ教育法は狙い通りの成果を上げていると言えるだろう。
とにかく進級してからロロベリアたちの生活、主に訓練の内容に変化は起きたが変わっていない時間もある。
「邪魔するぞー」
ロロベリアやリースが寝静まった頃、ユースは自宅の訓練場にやって来た。
リースの秘密訓練は無くなろうとアヤトの自主訓練は毎夜行われている。そして二人は知らないがユースも自主訓練に参加していた。
ただロロベリアに比べて保有量に余裕があるから続けているのではなく、この時間がユースにとって貴重だからで。
力業だろうと実力ではロロベリアが上、今は勝っていようとリースもこれから飛躍する。故に二人に取り残されないようユースも必死なのだ。
また二人が知らないからこそ貴重な時間。
「進展は?」
「ねぇよ」
アヤトの訓練が一区切りつくなり端的な質問をすれば端的な返答が。
教国の一件で残された謎に繋がる不可解な事件がないかは今もラタニや小隊員が他国含めて秘密裏に調べている。ロロベリアやリースを抜きで情報交換をする為にはこの時間が適切なのだ。
「新入生代表に続いて精霊騎士クラスの有望株からも勝負挑まれるとは、人気者は大変だな」
「茶化すんじゃねぇよ。あんな連中に絡まれたら鬱陶しいだけだ」
加えてこの時間だけはアヤトもそれなりだろうと雑談に付き合ってくれるのでユースは何気に楽しんでいたりするのだが、所詮はそれなり。
「んで、ファルシアンくんの対処については聞いたけど、レイティちゃんの対処はどうするおつもりで?」
「変わらねぇよ」
「……ほんと、誰のこと言ってんのかねぇ」
端的ではないが言葉足らずなのは自分の観察力でも試しているのか。
なんせロロベリアやリース抜きで改めてファルシアンについて確認した際も――
『別に遊んでやっても構わんが、あのひよっこには俺よりも相応しい遊び相手がいるだろうよ』
『お前よりも?』
『ま、恐らくだがな。どちらにせよ今は遊ぶつもりはねぇ』
アヤトとしては遊んでも良いが、それとは別に戦わせたい相手が居るらしい。その相手についてや理由も確証がないのか、やはり試されているのか悩むところ。
ただ同じ対処をするのならアヤトにはレイティにも戦わせたい相手がいるのは分かった。しかし誰を希望しているかまでは分からないまま。
実のところユースもただ情報交換や雑談を楽しむ為にこの時間を求めていない。ロロベリアやラタニが言うように、何だかんだでアヤトはお人好しなのだ。
秘密主義の捻くれ者、面倒事を嫌い我関せずでも陰では誰かの為に動けるのもアヤト。現に自分やロロベリアを始め現序列保持者、卒業した先輩方もアヤトが陰で助力を続けて成長している。
なにより姉の迷いを晴らし、新たな道を示してくれたのは感謝しかない。
故に陰でしかそのお人好しを発揮できない捻くれ者とそれなりでも関係を築けているなら、少しでも手助けをしたいわけで。
「でもま、今年の新入生は向こう見ずというか、元気というか……。お陰でお前の実力問題が再浮上してるぞ」
「したきゃ勝手にしてろ。俺にはどうでもいい話だ」
「……お前の好き勝手が学院生会のお仕事増やしてんだけどな」
「かもな」
理解しようと話題を振るもアヤトは相変わらずの態度。
「なんにせよ、このまま学院生会さまが何もしなけりゃ助言くらいはするつもりだ。その為の準備も進んでいるしな」
「……今度は何するつもりだ」
やはり陰ながらアヤトなりに対策するべく動いているらしいが、交わされるのがオチと分かっていても条件反射でユースは質問してしまう。
「…………なんだよ」
しかしお約束のさあなが返ってこず、どこか胡散臭そうに見詰めるアヤトにユースは再度質問。
「……よくよく考えりゃ、なぜ俺が面倒事を引き受けねばならん」
すると一人納得したようにほくそ笑むなりアヤトは更に話題転換。
「お前はイルビナが精霊士さま程度にはマシだと気づいていたか」
「……なに言ってんの」
いきなりな確認に眉根を潜めるユースに対してアヤトはわざとらしいため息一つ。
「お前も少しは手伝えと言ってのが分からんのか」
「…………は?」
まさかの要求にユースは呆気に取られてしまう。
話の流れからするとアヤトが陰で進めている問題の対策に協力しろと言っているのか。
急すぎて理解するのに時間がかかってしまったが、元より協力するつもりなのでそれは構わない。
ただそれよりも先に、これだけは伝える必要がある。
「言ってないから分かるだけないだろ……」
協力を求めるなら言葉足らずをまず直せとユースは項垂れた。
しかしユースの望みは虚しく、翌日の学院終了後――
「師匠……なぜ?」
序列専用の訓練場で待機していたリースはアヤトと共に現れた人物に目を丸くした。
「なぜも何もねぇよ。今日の遊び相手だ」
「わたしの? なぜ?」
理解できず戸惑うリースを他所に、アヤトの背後に居るイルビナもコクンと首を傾げる。
「大丈夫。ワタシも何故だから」
言葉足らずなアヤトにリースとイルビナは早速振り回されていた。
ここまでしれっと出ていたロロの課題もですが、今回はアヤトくんの行動を合間にちょいちょいお見せしています。
お見せしてもよくこの子は分かりませんね……。それでも相変わらずの言葉足らずでも珍しくユースに協力を求める変化もありましたね。
その辺りについては後ほどとして、アヤトくんは言葉足らずな呪いでもかかっているのでしょうか。
ただラタニさんには伝わるんですけどね。さすがは師であり姉でもある似た者同士です。
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