批判と対応
アクセスありがとうございます!
「……まだみたいだね」
学院終了後、噴水広場に到着したルイは周囲を確認してからベンチに腰掛ける。
二学生時の頃までなら学院にいる間、ルイの周囲には常に多くの女性がいた。しかし想い人のランの隣りに並び立つ自分になるとの決意から髪を切り、昼休憩などもエニシから教わった精霊力の基礎訓練に費やすようになってからは一人でいる時間が増えている。
そんなルイの邪魔をしないよう配慮しているのか、それとも付き合いの悪さからか余り近づかなくなってしまった。以前なら一人で居れば誰かしら近づいてきたのに、今は挨拶はすれど素通りしていく。
もちろんこの変化に寂しさもなければ後悔もない。
念願の序列入りを果たしたところで序列内では最弱と自覚したなら、自分は誰よりも必死になる必要がある。並び立ちたい相手は遙か先に居るなら尚更だ。
故に今日の特別訓練も必死に学ぼうと決意するルイの元に待ち人が現れた。
「待たせたな」
「それほどでもないよ」
待ち人のジュードに微笑みかけルイは立ち上がる。
というのも二人はこれからアヤトの訓練を受ける予定。精霊術クラスと精霊騎士クラスの校舎は違うので噴水広場で待ち合わせをしていた。
ちなみに今期の学院が始まって以降、学院終了後は基本リースがアヤトの訓練を受けているも五日に一度ジュードとルイのみで受けていたりする。逆にリースは他の序列保持者と合同訓練、今日は学院生会で時間が取れない三人を除いたロロベリア、ユース、ミューズと自宅で訓練をしているだろう。
そしてアヤトの訓練を二人のみで受ける理由は、他の序列保持者に比べて圧倒的に劣っているからこそ徹底的に行う為。
また訓練を行うのはジュード専用の訓練場。なんせアヤトの訓練には水の精霊術士が必要不可欠。ジュードの訓練場を管理している従者が水の精霊術士なので自然とそこに決まったが……初めての訓練時で従者の表情が青ざめたのは言うまでもない。
同時にこれまで二回受け、他の序列保持者の飛躍的な成長理由を二人は痛感しているのだが――
「口や態度を慎めば、私も素直に敬意を払えるのだがな」
とにかくアヤトは口と態度が悪いのでジュードがぼやくのも無理はない。
「アーメリ殿もだ。あのふざけた態度は目に余るものがある」
そしてラタニに対しても辛辣な評価。まだそれほど面識はないがルイも想像は付く。
まあジュードの気持ちは分からなくもないが、ランが絶賛するだけあってアヤトの近接戦闘の技術から学べる物は多くある。
そして愚痴を零そうとも素直に教わるのならジュードも二人の手腕を認めている証拠。
「でも僕たちはみんなよりも遅れているからね。今はなり振り構っていられないだろう?」
「……だから私も我慢しているだろう」
「変わりに僕には愚痴を零すけどね……と、あれは」
ジュードの頑固さに呆れつつ訓練場に向かっていたルイは前方からやってくる少女に注目する。
「どうした」
「あそこに居る子だよ」
訝しむジュードにルイは苦笑を返す。
視線の先には一つに束ねた金髪を揺らしながら向かってくる少女。背丈はランと同じくらいで腰に長剣を携え、真新しい制服からジュードも一学生と察した。
ただ愛らしい顔立ちなのに赤い瞳は鋭く、遠目からでも分かるほど不機嫌で。
「……レイティ=フィン=アランドロス男爵令嬢だ」
「……ああ」
入学式早々に問題を起こしたファルシアンに続いてアヤトに挑戦状を叩きつけた新入生
と知り、ジュードの眉間にシワが寄るのも無理はない。
加えて訓練区間からやってくるならアヤトを訪ねて序列十位の訓練場に行っていたのか。ただ残念なことに居るとすれば序列八位の訓練場、機嫌が悪いのも徒労に終わったからだろう。
「知り合いか」
「精霊騎士クラスの後輩程度には知り合いさ」
「……新入生の中に良い女が居るか見定めでもして知ったわけか」
「かもしれないね」
実際はアヤトが評価する新入生が気になり、実技講習の様子を窺っている中で知ったりする。そして精霊騎士クラスの新入生の中でもかなりの実力者と目を付け、名前を覚えていただけのこと。
しかし柄でもない意識によるもとの知られるのにまだ抵抗のあるルイはジト目を向けるジュードに微笑むのみで。
「まったく……序列保持者としての自覚が芽生えたと思っていたが、お前は変わってないようだ」
「序列保持者だろう関係ないよ。女性に優しくするのは男の使命だからね」
「優しさと見定めこそ関係ないだろう」
「違いない」
まあルイの本心をジュードも何となくでも察したのか、二人は軽口を交わして笑いつつレイティに関わることなくすれ違う。
ファルシアンに続いて問題を起こした彼女に思うところはある。ただ本人が納得いかなくとも入れ替え戦で現実を知るなら自分たちが言うことは何もない。
対するレイティは違うようで。
「――なぜ笑っていられるのです」
「「…………」」
背後から聞こえる批判の声にジュートとルイの足が止まった。
「今期の序列保持者はみな序列十位、アヤト=カルヴァシアに敗北したと聞いています。精霊士、精霊術士が持たぬ者に敗北していながら恥とは思わないのですか」
確認するまでもなく批判の主はレイティで、振り返ると彼女は背を向けたまま厳しい口調で続ける。
「でなければ笑ってなどいられないはず。それともアヤト=カルヴァシアと何らかの密約を交わされたのでしょうか。でなければ精霊士や精霊術士が持たぬ者に敗北など…………失言、失礼しました」
ただ最後の一線だけは超えず、レイティは身体ごと振り返って二人に頭を下げた。
アヤトに敗北したのはルイやジュードだけでなく序列保持者全員。当然エレノアも含まれている。
いくら学院の理念があろうと、間接的にだろうと王族に対して臆測で不正を犯したと批判すればレイティもただでは済まない。
どうやらアヤトに会えなかった苛立ちや自分たちの態度から頭に血が上りすぎたのか。しかし失言に気づくなり誠心誠意の謝罪ができるなら、レイティも弁えられるようで。
「とにかくお二人も学院を代表する序列保持者であるのなら、もっと模範となる振る舞いをされてはどうでしょうか。どのような理由だろうと持たぬ者に敗北したのです。己の弱さを恥じ、真摯に高みを目指す姿勢を見せて頂きたいものです」
故に言葉を改め、アヤトに対する疑念を隠しつつもジュードとルイの姿勢を批判。
場を選ばずアヤトに挑戦状を叩きつけただけあり、初対面の三学生を相手にも意見する度胸はさすがと言える。
だが批判された二人はレイティの批判に苛立ちもなく、ただ笑っていて。
「……なにが可笑しいのですか」
その反応が癪に障ったのかレイティの瞳が更に鋭くなるが、怯むことなくジュードは口を開く。
「己の弱さなどとうに知った」
「……っ。ならば――」
「そして今の私が序列保持者としての振る舞いを口に出来ぬほどに未熟ともだ」
レイティの反論に言葉を被せながらも最後まで冷静に本心を伝えた上で。
「故にその批判は甘んじて受け入れよう。今の私が言えることはそれだけだ」
もう用はないとジュードは背を向け訓練場に向かう。
「僕は彼以上に未熟だから、それこそ何も言えない。ただ先ほどの失言は僕らの胸にしまっておくと約束するよ」
ルイもまた苛立ちどころか気遣う余裕すら見せて後を追った。
残されたレイティは二人の反応が予想外なのか呆気に取られてしまい、我に返るなりそのまま立ち去った。
「彼女の批判に怒り狂わないか内心ヒヤヒヤしていたよ」
「……お前が私をどう見ているのかよく分かった」
大人しく引き下がったレイティに安堵しつつ、早速からかうルイにジュードは忌々しげにため息一つ。
「エレノアさまに対する侮辱を最後まで口にしたならさすがに許せなかった。だが踏みとどまり謝罪もした。なら私がアランドロスに言えることは他にないだろう」
「王族に敬意を払う君らしいね」
ルイはまだしも以前のジュードならレイティの批判や態度に激昂していただろう。
しかし最後まで冷静に向き合えたのは弱さを受け入れたからこそで。
「なによりカルヴァシアやアーメリ特別講師に比べれば、あの程度の批判など可愛いものだ」
「……それは何よりだ」
その結果妙な耐性ができたとルイは肩を竦めた。
とにかくレイティの批判に思うところはあれど今は言わせておけばいい。
しかしいつまでも言わせっぱなしにするつもりはない。
他の序列保持者よりも圧倒的に遅れているなら言葉ではなく姿勢で、結果で示せるように今は愚直に走り続けるだけだ。
「なら急ごうか。彼が居るかどうかは分からないけど」
「……先に到着していたら間違いなく不快な思いをするからな」
その為に必要な時間を無駄にしないよう二人は歩を早めた。
ちなみに――
「さすがは序列七位さまに八位さま。お勉強をさせてもらう側だろうと十位ごとき待たせて当然か。なら遅かろうと何も言えんな」
「可愛げがあっただろう……っ」
「……だね」
訓練場に入るなり嫌味で出迎えるアヤトに、予想していようと不快感を露わにするジュードにルイが同意したのは言うまでもない。
問題のレイティから痛烈な批判を受けても冷静に対応したジュード。そしてファンが離れようと直向きに強くなろうとするルイ。二人も少しずつ成長していますね。
まあアヤトやラタニと関わったことである意味精神面も成長してますが(特にジュード)、エレノアたちも通った道ですから頑張って絶えましょうよ。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!
みなさまの応援が作者の燃料です!
読んでいただき、ありがとうございました!