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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十二章 新世代を導く改革編
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先に起こす

アクセスありがとうございます!



 マイレーヌ学院の入学式の大まかな流れは以下の通り。


 まず新入生が着席した後、最初に副学院長が国王の祝辞が綴られた手紙を読み上げる。時には国王自ら参列することもあるが今年は残念ながら都合が合わず、新入生に向けられて祝辞が読み上げられた。

 続いて学院長の祝辞、学院生代表として生会長が歓迎の言葉を述べ、新入生の代表挨拶、学院職員の紹介に続いて学院生会の紹介、最後に序列保持者の紹介で終了。

 去年は学院職員の紹介で歌を披露しようとしたラタニを講師陣が止めに入り一騒動起きた。開始前に散々クギを刺されていても心配なのはこのタイミング。


 そして今年はもう一カ所心配なタイミングがある。

 ラタニと同等か、それ以上の問題児のアヤトが関わる序列保持者の紹介時だ。

 基本アヤトは必要なければ無言を貫く。しかし相手が絡んでくれば必要ない言葉まで平然と口にする。本人は正直に返しているだけでも素直すぎるからこそ無意識に神経を逆なでしてしまう。加えて正論なのがより質が悪い。


 入学式で新入生が序列保持者に声をかける機会はないが、序列保持者が新入生に向けて言葉を述べる機会がある。

 そして学院創立以来初の持たぬ者の序列保持者は既に新入生の間でも広まっている。お陰で新入生の間では様々な臆測や疑問、更には不平不満が囁かれているらしい。それだけ持たぬ者の序列保持者というのは異例の事態なので仕方ない。

 故にアヤトが新入生に言葉を述べる時、新入生が妙な反応やささやきをすればどうなるか。


 素直すぎるアヤトのことだ。場も関係なく『新入生』を『ひよっこども』と、『ささやき』を『さえずり』と言い換えて嘲笑する可能性が高い。

 無駄なケンカは売らない、しかし売られたケンカは買う……いや、本人からすればケンカを売られたと捉えていないかもしれないが、新入生が無駄に騒ぐとからかい半分で煽るのもアヤト。

 更にラタニが面白可笑しくアヤトを煽って入学式を楽しむ可能性もある。単にアヤトを少しでも学院生と関わらせたいだけかもしれないが、その手段を選ばないのもラタニだ。

 

 なによりこの師弟は全く行動が読めないからこそ、開始前に両者へクギを刺した。どれだけ効果があるかはまた読めないが、最後までやらかさないと信じるしかない。


 そう願っていたのに――


「――私は去年の精霊祭で行われた序列戦に感動しました! 帝国との親善試合で全勝という素晴らしい功績を残しただけはある、さすがは学院を代表する序列保持者、強さのみならず志も尊敬すべき先輩方だと!」


『…………』


 厳かな入学式をぶち壊す熱弁が始まり講堂内は静まり返っていた。


「しかし今期の序列保持者を知り私は残念でならない! なぜ栄光ある学院序列に騎士クラスに所属している持たぬ者がいるのかと!」


 熱弁しているのは新入生代表のファルシアン=フィン=クォーリオ。

 腰まで届く銀髪や女性のような色香を感じさせる中性的な顔立ちは否が応でも注目を集めるだろう。


「しかもそちらにおられる序列保持者の先輩方は、その騎士クラスの序列保持者に敗北したと聞いております! 私は耳を疑いました……なぜ序列戦でレイド殿下を始めとする素晴らしい卒業生の方々との激戦をなされた先輩方が持たぬ者に敗北するのか……信じられなかった」


 しかしそれ以上に新入生代表の挨拶として立ったはずの壇上で、挨拶もせずいきなり熱弁を始めれば講堂内の注目を集めるわけで。


「もしや何か弱みを握られたのか? それとも何か不正が……しかしそんなハズがないと首を振りました。私が憧れた先輩方がそのような真似をするはずがないと」


 対するファルシアンは注目されても構わず熱弁をふるい続ける。

 時には歓喜を乗せた声を高らかに、時には悲しみに満ちた震える声で、時には葛藤に苛まれた苦悩の声で。


「ならばその持たぬ者が純粋に強いのか? 王国最強の精霊術士と名高いラタニ=アーメリさまの弟子と耳にしただけに、その可能性はあるかもしれない。しかしならばなぜ序列十位に? 戦績では上位の序列保持者以外の先輩方には棄権している……もしや実力を発揮するのに制限があるのか?」


 また声に乗せる感情を表現するように両手を広げ、顔を覆い、膝を折り、首を振る。

 容姿の魅力も相まって舞台演者さながらに多くの視線や関心を集めていた。

 ただ今行われているのは演劇ではなく新入生代表の挨拶。場違いすぎる迫真の演技が注目を集めているのだが。


「私は知りたい。アーメリさまの弟子が本当に精霊術士や精霊士を超える強さを秘めているのか。それとも……いやいや、臆測で物事を口にするのは控えるべき」


 それでもファルシアンは己の想いを芝居臭い口調や仕草で訴える。


「とにかく信じられないからこそ信じるにたる証明が欲しい。それはここにいる新入生みなが同じ気持ちでしょう故に――」


 葛藤の末に導き出した答えをここに居る全員に知らしめるよう、一度言葉を句切り講堂内を見渡して。


「序列十位、アヤト=カルヴァシア殿。私は新入生代表としてあなたに()()()()()()()!」


 序列保持者席で勝ち誇りつつ楽しんでいたアヤトを指さし宣戦布告。

 新入生代表の挨拶が何故このような事態になったのか。

 アヤトではなく新入生代表が挨拶もせず堂々とケンカを売ってくるとは予想外。

 あまりの展開に状況を呑み込めきれない面々を他所に、ファルシアンは優美な笑みでアヤトに問いかける。


「代表の私と戦うことで、あなたを知らない我ら新入生が納得できる実力を示してもらいたいのですが如何ですか?」


「……どうするの? 師匠」


 最後まで芝居臭い仕草で促すファルシアンに代わり、隣りに座るリースが確認すればアヤトはため息一つ。


「ま、別に構わ――」


「いい加減にしなさい!」


 しかしアヤトの返答は司会を務める講師の怒声によってかき消されてしまった。


「序列保持者に挑むには序列入れ替え戦で挑戦権を得る必要がある! それは入学説明会でも伝えただろう!」

「ですが講師殿。私は――」

「そもそも入学式の挨拶で序列保持者に挑戦するなど言語道断! 場を弁えなさい!」

「ふ……天才とは時に理解されないもの、か」


 講師の叱責も虚しくファルシアンは悲しみに嘆く仕草を。


「もういい! 今すぐ席に戻り……いや、私と共に来なさい!」

「その申し出、喜んでお受けいたします」


 火に油を注いだ結果、怒り心頭で詰め寄る講師に引きずられるも何故か良い笑顔でファルシアンは従った。

 司会の講師に遅れて席を立った数名の講師も付き添われながらファルシアンが強制退場されるなり、講堂内は息を吹き返すようざわめき始める。


「……まさか面白い新入生ってあいつもか?」

「面白いけど……意味が違と思う」


 即座にエレノアとレガートが講師陣と今後の進行確認をする中、学院生会席はディーンとランは式典中でも構わず意見交換。

 ファルシアンを見定めるつもりで注目していたのに思わぬ状況。実力よりも別の印象が強すぎて言葉がない。

 ただ一つだけ確かなのは最悪な展開にならなかったことで。

 

「なんにせよ、アヤトがなにか言い返す前に退場してくれて助かった」


 場を読まずに振る舞うのはファルシアンだけでなくアヤトもだ。

 講師が割って入らなければそれこそ入学式どころではなくなるとランは苦笑い。


「これ以上、入学式をぶち壊されたら他の新入生が可哀想だもの」

「もう充分可哀想だけどな……ああ、一人だけめっちゃ楽しんでる新入生が居たわ」

「それと怖い物知らずって呆れてる新入生もいるみたいよ」


 戸惑い一色の新入生の中で二人が目にしたのは言うまでもなくサクラとエランだった。




ラタニやアヤトよりも先に問題を起こしたファルシアンくんでした。

新入生代表挨拶で挑戦状を叩きつければ、新入生代表だろうと強制退場も当然ですね。


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読んでいただき、ありがとうございました!



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― 新着の感想 ―
[一言]  ブチのめされて欲しかった。
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