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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 ふりかえる物語
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もう一つの終章 期待は続く

アクセスありがとうございます!



 月日は流れてマイレーヌ学院卒業式当日――



「信じてたわよミラーちゃん!」


「わぷっ」


 集合場所に到着したシャルツは先に到着していたミラーを見つけるなり歓喜の抱擁。二人の体格差から覆い被さるよう抱きつかれてわたわたと両手を振るミラーにお構いなしでシャルツは頭を撫でまくる。

 普段は冷静なシャルツが感情を露わにするのは昨日秘密裏に行われた真の下克上戦でアヤトに勝利したからで。

 勝利の代償としてシャルツは決着前に意識を失い、後に目を覚ました寮で看病をしてくれていたグリードから結果を教えてもらった。暴発に巻き込む罠はデタラメな回避をされてしまったが、その罠さえも利用した二段構えの策は通じたと。

 アヤト自ら敗北を宣言したとグリードから聞いたシャルツは飲み込むのにしばし時間が掛かり、しかし理解するなり感涙したほど。

 故に自分たちの意地を作戦の要として、代表として見事届かせたミラーを称えていた。


 また秘密裏の一戦なので他の学院生が居ては話題に上げられない為、早い時間帯に集合しているので多少騒いでも問題ない。


「シャルツくん……くるしいよ」

「あらごめんなさい」


 問題ないのだが卒業式に出席する前に窒息すると訴えるミラーをようやくシャルツは解放。


「でも本当によくやったわ。あなた最高に素敵よ」

「ありがとう、シャルツくん」


「シャルツくん嬉しそうだね~」

「それほどの相手だったからな。喜びも一押しなんだろう」


 乱したミラーの髪を手櫛で優しく整えつつもシャルツの称賛は止まらない。

 左腕に付けた僅かな斬り傷。しかもアヤト一人に対して六人がかりの戦い。

 それでも六人にとっては卒業を目前にアヤトという絶対の強者を相手に一歩も引かず、後輩達に示した意地は充分誇れる成果で。

 同じ志を持つ後輩達に残せた、可能性という意味でも大きな置き土産になっただろう。


 決して大げさではない最後の意地。その尊さを知るだけにルビラも微笑ましげに見守り、シャルツと登校してきたグリードもしみじみと呟く。既に集まっていたレイドやカイルも同じ気持ちで、ズークも知略で見事強者を出し抜いた同級生に敬意を向けている。

 ちなみにエレノア、ラン、ディーンの新学院生会やロロベリアやニコレスカ姉弟、ミューズも同じく早めに登校して同席させてもらっていた。またレガート、シエン、イルビナは遠慮して先に卒業式の準備に向かっている。

 そして集合場所は人目の付きにくい学食前なのだがアヤトの姿はない。そもそもどこに居るかも謎だった。


「後はティエッタくんとフロイスくんか」

「大丈夫だとは思うが……まあ、待つしかない」


 それはさておき、シャルツ以上に精霊力を消費させたティエッタと従者のフロイスも登校していない。ラタニやカナリアの見立てでは問題ないとお墨付きはもらっているが、やはり姿を見せるまでは心配で。


「行っているそばから……来たな」


 しかしズークが指さすようにティエッタとフロイスがこちらに向かっているのを目にして一安心――


「ミラーさん!」


「むぎゅむ――」


 ……する前にミラーを視界に入れるなり駆け出したティエッタが飛び付くように抱擁を。

 シャルツと同じくフロイスから結果を教えてもらったので届かせたミラーを真っ先に称えたいのは分かるが、普段は優美な佇まいを心がけるティエッタとは思えないほど無邪気な感情表現。


「フロイスから聞きましたわ! 私たちの想いを託した判断は間違ってはいませんでしたわ!」


「むう――っ! うむううぅっ!」


 ただ体格差からティエッタの豊満な胸に顔を挟まれたミラーはシャルツとは違う意味で窒息しかけていた。


「ぷはぁ! は……は……褒めてくれてありがと。でも……わたしだけの力じゃないから」


 一部男性陣からうらやましがられる視線を浴びていた(ロロベリアは別の理由でへこんでいた)ミラーは何とか抜け出して首を振る。

 最後の最後でアヤトに傷を負わせたのはミラーだが、その道筋を五人が作ってくれたからこそ。

 また様々なアヤト対策もレイドやシャルツが中心にそれぞれが意見を出し合い煮詰めたが、戦術の苦手なミラーは有益な意見を出せずに任された役割を勤めただけ。特に最も危険な役割を担ってくれたティエッタやシャルツこそ称えられるべきと感じるわけで。


「わたしはただ、みんなに引っ張ってもらって……みんなの力で届かせてもらっただけだから……」


 なにより最後まで序列入りが出来なかったこともあり、六人の中で一番弱いと自覚しているからこそ不相応な称賛と受け入れられなかった。


「なにを仰いますの? あなたの想いが私たちを引っ張ってくれたのですわ」


 しかしミラーの葛藤にティエッタは小首を傾げて訂正。


「序列保持者になれなくとも学院生会の一人として、また後輩を導く先輩としてあなたは打倒アヤトさんに挑む一人として名乗りを上げてくれましたわね。その想いが私たちをより熱くさせてたんですもの」

「それにアヤトさんを打倒できた策は一人一人に任された役割の積み重ね。その積み重ねが増えれば増えるだけ重圧になるの」


 続けてシャルツも諭すようにミラーの果たした役割の難しさを述べる。


「つまり最も重圧のかかる戦況でもあなたは押しつぶされることなく、私たちが背負わせた想いを届けてくれたの。だから今回の勝利は私たち六人で掴んだ。でも一番の功労者はミラーちゃんなのよ」


 シャルツの言う通り、ミラーは作戦の要であり最後の一手を任されたからこそ最も重圧がのし掛かる役割だった。それは五人が知らないミラーのみが知る覚悟の重さ。

 それでもミラーは重圧に負けず、まさに五人が託した想いを背負って最後に届けてくれたのだ。

 故に六人で果たした打倒アヤト、しかし一番の功労者といえばミラー以外にいない。

 加えて序列入りを果たせず一番弱いと自覚しても尚、提示された挑戦権を手に入れて共に戦ってくれた。その姿勢がまた五人を奮い立たせてくれた。


「己の弱さを受け入れて、それでも最後まで怯まず仲間の想いを届けてくれた。その強さもまた真の強者に相応しいですわ」

「だからミラーちゃん、ありがとう」

「ティエッタちゃん、シャルツくん……」


 二人の言葉にミラーは目を潤ませる。

 もちろんレイドも、カイルも、フロイスも同じ気持ちで。


「ハイネ、良くやってくれた」

「俺たちの意地を届かせてくれて感謝する」

「だから改めて五人でね」


 昨日叶わなかった時間をやり直すべく、レイドはミラーの手を掴んで掲げた。

 続いてミラーを囲むようにカイル、ティエッタ、フロイス、シャルツも手の添えて。

 一番小柄なミラーに合わせているので窮屈そうに身を屈ませるも、向けられる五人の笑顔に察したミラーも満面の笑顔で。


「わたしたちカルナシアくんに勝ったよー!」


『おー(ですわ)!』


 ミラーの勝ちどきに合わせて、改めて六人で喜びを分かち合う。

 それだけアヤトは学院生にとって大きな壁で、成し遂げられた達成感も一押しなのだろう。

 例え数ミリメルの傷だろうと、届かせるのがどれほど困難かが分かるだけに後輩達も改めて偉大な先輩に敬意を込めて拍手を送った。


「――これだけ喜ばれりゃ、呆れ通り越して光栄だな」


「……お前いつから居たよ」


 ……のだが、いつの間にか現れたアヤトの無粋な呟きにまずユースが突っこんだ。


「いつだって良いだろ。つーかミューズ、そろそろ買い出しに向かいたいんだが」

「そ、そうでした。申し訳ございません……わたしから言い出したことなのに」

「ま、元より俺一人でやるつもりだったからな。謝罪の必要もなければ先輩方の相手してても構わんぞ」

「いえ、わたしもお手伝いさせていただきます」


 しかしそこはアヤト、水を差そうがお構いなしに一人で校門に向かってしまい慌ててミューズが追いかける。


「……私たちも行きましょうか」

「ロロが行くならわたしも行く」

「そんなわけで、こちらは失礼します」

「私たちもそろそろ仕事に戻るか」

「もち」

「先輩方、また後でっす」


 遅れてロロベリアたちも後に続き、エレノアたちも学院生会としての準備に向かいあっという間に卒業生のみが残った。


「カルヴァシアはいつでもぶれないな」

「どのような状況でも己を貫く、まさに真の強者ですわ」

「お嬢さまの仰る通りです」

「……協調性がないとも言うが、それもカルヴァシアらしいか」

「ああ見えてシャイなのよ、彼は」

「わたしたちのお祝いをしてくれる為に頑張ってくれるんだしねー」

「精霊祭でも食したが……彼の料理も楽しみだ」


 そんなアヤトの態度に不快感もなく九人も移動を始める。

 まだ卒業式までは時間があり、ならばと最後に学院を見て回っていた。

 誰がと言うわけではなく、取り決めてもなかったが自然と同じ気持ちで三年間の学院生活を振り返るように。


 一年前に学院生会が発足された際同じ志を秘めてはいれど、これほどまでに公私関係ない関係が築けるとレイドは思ってもいなかった。王族が故に長い付き合いのカイルを除けば卒業後は縁も途絶えるとも覚悟していた。

 また序列保持者の同学年は周囲に関心を持たず自身の興味があるものだけに目を向けていて足並みすら揃っていなかった。

 なのに卒業式では同じ気持ちを共有している。同じ思い出を作りたいと自然な歩みを見せていた。

 これからそれぞれ別の道を歩むことになる。

 それでも最後に過ごした時間は一生の宝物として心に刻まれるだろう。

 そしていつか共に振り返り、それぞれの立場も関係なく笑いあえると確信できる時間で。


「良かったね~」


 感慨深く仲間たちを眺めていたレイドの気持ちを察したようにルビラが微笑みかける。彼女とはクラスは違うも、一学生の頃から優秀な人材の一人として目を付けていた。

 故に生会長に就任して仕官クラス代表候補にルビラの名前があった時、迷わず任命したのを覚えている。

 そしてクラスも身分もバラバラな学院生会の中で、真っ先にレイドの意思を汲み取り率先して立場関係ない振る舞いをしてくれた。


「……そうだね」


 ルビラの能力以上に人柄を知るからこそレイドは頷く。


「生会長としての心残りはあるけど、ボク個人としては満足できる学院生活だったよ」

「わたしもかな~。でもそれは次世代に任せてもいいんだよ~。きっとエレノアちゃんを中心にわたしたちの願いを叶えてくれるよ~」

「アヤトくんやロロベリアくんもいるし……それも心残りかな? エレノアが羨ましいよ」

「レイドくんはまだいいよ~。わたしももっと早く仲良くなってればな~」


 などと心残りを笑顔で口に出来るのも、振り返った学院生活に満足しているからこそで。


「ボクたちの置き土産も含めて、次世代がどんな学院にしてくれるか楽しみだ」

「きっと楽しい学院にしてくれるよ~」


 頼もしい後輩たちに期待しつつ、安心して学院を去れると笑い合った。




本編から少し振り返った卒業生たちのお話でした。

彼らが成し遂げた打倒アヤトの喜びを分かち合う姿や、最初は無関心だった面々が同じ目標を掲げて、また後輩達を思うが故の意地を通じて生まれた絆を描いておくべきかなと。

そして先輩達の示した意地、学院に対する想いを後輩達は受け継いだところで外伝も終了です。


なので次回更新からは新章開始! 学院の中心となるロロたち次世代と、入学してくる新世代の交流がメイン。

ですが学院とは別の、あの問題にも少しだけ触れる予定です。

あの問題とは何なのか、それは読んで頂ければと(笑)。


それでは第十二章『新世代を導く改革編』をお楽しみに!



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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