終章 すれ違いは終わり―
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「たく……お前のせいで無駄な時間を過ごす羽目になった」
学院長室を後にするなりアヤトは苛立っていた。
明日からマイレーヌ学院の学食で働くので役員宿舎の手続きを済ませた後、紹介を兼ねた挨拶をしに学院長室に赴いたのだが、何故か学食の方針よりも昔話に花を咲かせるラタニと学院長に付き合わされてしまった。
学院長はラタニが学院生時代から交流があり、お互いに忙しい立場なので久しぶりにゆっくり話せる機会だったらしい。まあいくら国王の任命とは言え王国最強の精霊術士とはいえ貴族から疎まれているラタニや、その弟子と知られているアヤトを快く学院に迎える学院長だ。ラタニに理解ある人物でなければ受け入れを躊躇うだろう。
故に学院生の成長に繋がるならある程度は好きに動いても構わないと了承を得られたまでは良い。ただ時間を浪費するのを嫌うアヤトが自分に関係のない会話に付き合わされれば苛立つわけで。
「まあまあ、そう怒りなさんな。あの子が学院長のお陰であたしらも好き勝手できるんだからねん」
「なら俺がいない時にでも好き勝手話してろ」
「でもまあ? あんたが無駄に問題起こして迷惑かけるのは忍びないし、出来るだけあたしが責任持つかね」
「俺を問題児みたいに言うんじゃねぇよ」
「どの口が言うさね」
人気のない校舎内にラタニのケラケラとの笑い声が響く。
長話のせいで日も随分と傾いているが最終下校時刻まであと一時間ほどある。
「さてとん。ついでにあたしが学院を案内したげようか。ここは無駄に広いからにゃー。初日から迷子さんになったら良い笑いもんだしねん」
「必要ねぇよ」
なので校舎を出るなり学食を含めて簡単な案内を申し出るもアヤトは拒否。
「敷地の確認くらいテメェでやる」
「でも地図見たくらいじゃ把握できんほど無駄に広いぜ? あたしが案内した方が効率いいんじゃね?」
「もっと効率の良い方法があるだろ」
そう言い残すなりアヤトは姿を消してしまい、残されたラタニはため息一つ。
「……さっそく好き勝手するんね」
◇
ラタニと(強引に)別行動を取ったアヤトは学院の中心にそびえる時計塔の屋根上に立っていた。
広大な学院敷地内を一望できるので、ある意味効率よく確認できる場所で懐から取り出した地図を元に夕日に染まる敷地内の配置を確認していく。
「確かに、無駄に広いな」
「――ならばラタニさまのご厚意に甘えればよろしいのに」
一通り確認を終えて嘆息するアヤトの背後からクスクスとの笑い声が。
マヤまで学院長に会う必要もないので姿を消していたが、人目が付かない場所なら問題ない。
そもそも自由奔放な神に何を言っても無駄とアヤトは動じることなく肩を竦める。
「ラタニは嫌われ者だがひよっこ共にとっては憧れの存在でもあるからな。いくら人が少なかろうと共に居れば無駄に声をかけられ無駄に時間を取られる」
「それはそれは、無駄が嫌いなのか。ただのボッチ気質なのか悩む理由ですね」
「勝手に悩んでいろ。にしても、ひよっこを育成する場にしては大層な学院だ」
嘲笑するなりアヤトは跳躍。建物の屋根伝いに跳躍を繰り返して一〇〇メル先の闘技場フィールド中央に降り立った。
資料では主に序列戦を踏まえた公式戦で使われる闘技場は、観覧席こそ王都の闘技場よりも少ないが学院生の為に造られたのなら充分な規模。
「特にここか。ひよっこ共の突き合いに用意したにしても随分とご立派なものだ」
「王立なのですから当然では?」
アヤトの皮肉に再び顕現したマヤが反論。
「この学院に通う人間は王国の未来を背負うのですから、相応の見栄も必要でしょう」
「神さまにしては言うじゃねぇか。だがま、ラタニが危惧している通りなら見栄というのも一理あるか」
「かもしれませんね。ところで兄様、確認を終えたのであればラタニさまの元に戻られてはどうです」
「明日から学食の改革があるしな」
「学院生の意識改革も、ですよ。ただ一つだけご忠告を。敷地内をぴょんぴょん飛び跳ねての移動は如何なものかと」
「あん?」
「闘技場から少し離れた場所にラタニさまが居るようですが、近くに他の人間も居るので兄様がぴょんぴょん飛び跳ねて現れれば驚かれますから」
「うさぎみたいに言うんじゃねぇよ。だが無駄に目立つのも好まんからな……仕方ねぇ」
忠告を残して姿を消すマヤに一理あるとアヤトも面倒気に徒歩で移動。
闘技場内の構造を知らなくとも気にせずフィールドから暗い通路に入り、そのまま迷うことなく出口に。
「…………たく」
ちょうど西日が差し掛かりアヤトは目を細めるも、不意に奇妙な視線を感じて目を向けた。
視線の主は学院生の少女で、闘技場から出てきた見知らぬ人物に驚いているのか硬直している。
しかしそれよりもアヤトが注目したのは学院生の髪色。夕日に照らされて金色のような煌めきだが、本来は乳白色か。
初めて見る幻想的な髪色が故に目を引いたのもの一つ。
(……なんだ?)
そして少女を目にした瞬間、奇妙な感情がわき起こったからで。
妙な苛立ちを感じずにはいられないような。
同時に胸の奥底がじんわりと温もりを帯びるような違和感を覚えるアヤトを他所に、その少女はゆっくりと近づいてくる。
本来なら警戒するはずなのに、何故かどうでも良いと開き直って少女が近づくのを許してしまう。
自身の感情に振り回されている間に少女は手の届く距離で立ち止まり。
「……クロ」
その呟きを耳にしたアヤトの中で違和感よりも苛立ちが勝った。
「ふん。ずいぶんと安直な感想だ」
黒髪が珍しいとはいえ、真っ白な髪のテメェに言われたくねぇと。
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「……なーんでマヤは姿みせるんかね」
ロロベリアとリースにアヤトの捜索を頼んで間もなく、ラタニの前にマヤが顕現。
周囲に誰も居ないので騒ぎにはならないが、義妹連れで学院に来るのも目立つと姿を消していたはずで。
「兄様が学院の人間と接触したようなのでご挨拶がしたいなと。もしかするとボッチな兄様に初めてのお友だちになるかもしれない人間ですし」
「それはまた随分とお兄ちゃん思いなお話で。まあマヤになに言っても無駄か」
しかし神さまは気まぐれ。自分たちの都合などお構いなしとラタニは早々に諦めた。
「つーか接触したってならロロちゃんかにゃ? ただロロちゃんも妙な反応してたけど……神さまはなにか知ってるかい?」
「わたくしはそのような人間を知らないので」
ラタニの問いに首を振るように嘘偽りなく、マヤはロロちゃんという愛称の人間は知らない。
ただシロの愛称で呼ばれていた人間ならよく知っている。
故にアヤトの妹として自己紹介をした方が面白くなりそうと、敢えてラタニを連れて行こうとしているのだ。
「それよりも兄様がそのロロちゃんという人間に迷惑をかける前に向かった方が宜しいのでは?」
「……それもそっか。ロロちゃんがアヤチンのお友だちになれるといいなー」
「ですね。どうなるか楽しみです」
なんせ何度もすれ違いを続けた二人がついに出会った――
まあ出会った後も二人はしばらくすれ違うんですけど。
どのようなすれ違いだったかは第一章で(笑)。
ちなみにロロを目にするなり何故アヤトが苛立ったかについては第七章を読んで頂ければと。
とにかくアヤトサイドの再会で振り返りも終了……ではなくてですね、次回はもう一つの終章です。
もちろんもう一つの終章も振り返る内容なので、そちらもお楽しみに!
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