訪れの足音
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ジュード戦後、最終的に医療施設で治療やメディカルチェックに追われたロロベリアは残りの入れ替え戦を観覧できなかった。他の序列保持者がどのような試合をするのか楽しみにしていただけに残念だったが、心身共に異常なしで一安心。
まあ異常がないならと帰宅前に訓練をしようとしてお叱りを受けたり、試合終了後とはいえフィールドに乱入したニコレスカ姉弟もお叱りを受けたりと散々なオチが待っていたがそこは自業自得。
また安静の為、今後与えられる序列専用の訓練場を始めとした序列保持者としてのルールや心構えなどについては翌日改めてとなり、早々に帰宅させられたが序列入りのお祝いとしてニコレスカ姉弟と外食を楽しんでから寮に戻った。
そして翌日――
「待っていたよ。ロロベリアくん」
学院終了後、ロロベリアは学院生会室でレイドに歓迎されていたりする。
というのも昨日講師から指示された序列保持者についての説明を学院生会が受け持ったからで。
本来は講師の役割でも序列保持者は学院の代表として学院生会と関わることになる。
学院に入学して間もないロロベリアはまだ面識がなく、もうすぐ遠征訓練も始まるので今の内に顔合わせを済ませておきたいとレイドが講師陣に提案。
また学院生会にはレイド以外にカイルも序列保持者、序列についての説明も問題ないならと決まったらしい。
まあ実際は入れ替え戦でロロベリアに興味を持ったレイドの私情が大きい場ではあるも正論でもあり。
そんな私情も知らないロロベリアは王族との初対面に緊張していた。
「お初にお目にかかります。ロロベリア=リーズベルトです。本日は新参者の私の為にわざわざ学院生会のみなさま方に時間を取らせてしまい申し訳ございません」
なので入室前にニコレスカ家に引き取られてから学んだ作法を思い出して実践するも、レイドを始めとした他五名もキョトン。
「……昨日の入れ替え戦とは大違いだ」
「だな」
からの、レイドとカイルは苦笑を漏らす。
戦いぶりも肝が据わってただけにもっと堂々としていると予想していたのだろう。
「ボクらは同じ学院で学ぶ学院生だ。恭しい対応をせず、もっとリラックスしていいよ」
「……そうですか」
まあ元より肝が据わっているロロベリア、レイドの言葉を素直に受け入れそれなりにでも対応を改めた。
表情から切り替えたと判断したところで改めてレイドが切り出した。
「確かミラーくんとグリードくんは既に自己紹介を済ませているんだったね」
「一応な」
「わたしは入学前からお友だちだよー」
「ならボクから、レイド=フィン=ファンデル。生会長を勤めている」
「精霊術クラス代表のカイル=フィン=アーヴァインだ」
「仕官クラス代表のルビラ=フィン=フレンディだよ~。よろしくねロロベリアちゃん」
「ズーク=フィン=ギャレット……精霊学クラス代表……」
面識はなくとも入学式で紹介されているので顔と名前は一致するも、学院生会側から改めて自己紹介が。
ならばとロロベリアも一礼。
「精霊術クラス一学生、ロロベリア=リーズベルトです。これからご指導ご鞭撻のほどお願いします」
既に名乗ってはいるが昔神父から挨拶は『人と人が仲良しになるための最初のおまじない』と教わっているので、やり直しの自己紹介。
「ではこれからキミが使用する序列専用の訓練所に案内しよう。その道中で詳しい説明もするからね」
「そのまま俺たち以外の序列保持者との面会も済ませるつもりだ。他の連中も自身の専用訓練場にいるだろうからな」
「フロイスくんはティエッタちゃんのところだろうけどねー」
「ソフラネカとレヒドも一緒に居るだろうが……あの二人はどちらの訓練場にいるんだ?」
「分からないなら……一通りの専用訓練場を案内すればいい……」
「それならランちゃんの方だよ~。あの二人は交互に行き来してるからね~」
「ルビラくんは詳しいね。とまあ、こちらで決めさせてもらったけど構わないかな?」
「……構いません。お願いします」
想像よりもわちゃわちゃとした学院生会に戸惑いながらも序列保持者として迎え入れられた一方で。
待ち望んでいた再会がもう間もなく訪れるのをロロベリアはまだ知らない。
◇
入れ替え戦から三日後の昼過ぎ、王都にあるラタニの住居では――
「隊長、私は何度も言いましたよね……っ」
隊長のラタニから内密な話があると住居にお呼ばれした小隊員のカナリア=ルーデウスはこめかみをひくつかせていた。
ちなみにカナリアだけでなく小隊最年長のモーエン=ユナイスト、小隊最年少のジュシカ=ラズリエア、ジュシカの兄で副隊長のスレイ=ラズリエアも一緒にお呼ばれしているがそれはさておき。
訪れて真っ先にカナリアが苛立っているのはリビングの状況。
なんせ衣類だけでなく軍務や学院関係の書類がゴミと共にそこかしこに放置。テーブルは空の酒瓶で埋まり、キッチンにも食器類がやはり放置したまま。半月ほど前に特別講師としてラナクスから帰ってきた時に掃除をしたばかりのはず。
それから入れ替え戦の様子を見に行くと再びラナクスに向かったのが四日前。なら留守中はずっとこの惨状だったのか。
そもそも滞在していたのは十日もないのによくぞここまで汚部屋できたものだともちろん感心するはずもなく。
「毎日の掃除はもう諦めましたがせめて脱いだ衣類は脱衣所のカゴに! 書類などをゴミと一緒に放置せず管理する! そもそもゴミはゴミ箱に捨てる! 飲み終えた酒瓶は水洗いして纏めておく! 使用した食器は洗っておくようにと!」
何度も注意しても改善しない惨状に説教を始めるもそこはラタニ。
「だからお話がてらみんなでやろって言ってんじゃまいか」
「私は話があると聞いて来ているんです! これも毎回言ってますが家の片付けを小隊任務にするのは止めてください!」
「ごめーんちゃい」
カナリアの説教も通じず全く懲りていなかった。
「まあ隊長殿だからな。こんなことだろうと思っていましたよ」
「だからカナリア先輩も無駄なお説教をするよりも諦めてお掃除しながらお話を聞くのだ!」
「むしろゴミクズなぼくに相応しい任務だからね。ぼくのようなゴミクズが隊長のお力になるならいくらでも片付けますよなんならぼくのローブを掃除道具にしてくださいもちろん最後は集めたゴミとぼくを捨てるのも忘れずに」
「……あなたたちが甘やかすから隊長のずぼらが治らないんです」
逆にこの手の任務(掃除)にすっかり慣れた三人はてきぱきと片付けを始めるのでカナリアは裏切られた気持ちになる。
「大丈夫さねカナちゃん。あたしのずぼらは甘やかされなくても治らんから」
「……それで、お話とはなんですか。ああモーエンさんは酒瓶の片付け、スレイさんは食器洗い、ジュシカさんは衣類を脱衣所に、隊長は私と書類整理。終わり次第各々清掃に回って下さい」
「ほいさね」
「了解だ」
「……食器の汚れと一緒にぼくの穢れも落ちればいいな」
「おまかせなのだ!」
突っこみを拒否しつつも的確に指示を出してきぱきと掃除を始めるカナリアが何だかんだで一番甘く、ある種小隊のまとめ役なのはいつものこと。
なので誰も逆らうことなく任された作業に取りかかりながらラタニが切り出した。
「んで、お話なんだけど明後日からあの子を学院の役員にするから」
あの子で四人にも伝わるが故に怪訝な顔になる(スレイはブツブツと洗い物を続けていた)中、代表してモーエンが質問を。
「……それはまた随分と急ですね。確か予定では火精霊の周季くらいになると聞いてますが」
去年の風精霊の周季に武者修行の旅を終えて帰国してすぐ、ラタニがマイレーヌ学院に何度か足を運び情報を集めていたのは四人とも知るところ。
なんせ入学できる年齢や試験も余裕で合格する能力はあるのに本人が拒否。ならば学院生以外で関わらせようと模索した結果が学食の役員として働かせることだった。
ちょうど学食の役員が息子夫婦と暮らす為に退職を考えていたらしく、本人の調理技術も活かせる職場なら怪しまれない理由になる。また学院生の実力低迷を危惧していた国王に相談されていたこともあり、ラタニが特別講師として着任すればお目付役も兼任できると一石二鳥な方法でもあった。
ただ入学式後に聞いた話ではその役員が退職するのはもう少し先になるはず。それに合わせてこの話を持ちかける予定だった。
「学食のおばちゃんの退職が早まったんよ。なんか急に体調が悪くなったみたいでさー」
「そいつは心配ですね……」
「だからラナクスで安静にして、元気になったら一緒に住むらしいよん。そんなわけであたしも驚きびっくりさね」
なので早急に学院で役員交代の手続きを済ませて今朝方王都に戻り、国王に報告して許可をもらったらしい。長く役員が抜ければ学食が回らないので募集をされる前にラタニが推薦したのは理解できるが問題が一つ。
「……明後日からと言っても本人が不在ですよ? そもそも王都に帰ってくるのは早くて半月後と言っていたのは隊長ではないですか」
カナリアが問題視するよう調理師にするにしても本人が不在。
旅を終えた後は国王や懇意にしているクローネ=フィン=ニコレスカの依頼を受けたりと忙しなく国内を飛び回っている。ただ依頼関係なく王都に留まらず、度々義理の妹と共にふらっとどこかに行ってしまうのだ。
そして今もラタニがラナクスに向かう前日から王都を離れている。カナリアは半月ほどで戻るとラタニから聞いていた。
にも関わらずどうやって明後日から役員として働かせるのか。むしろ本人を説得しないとそれ以前の問題。
まあラタニの頼み事ならそれなりに従う子ではあるが、あくまでそれなり。そもそも素直に従うなら役員として学院に関わらせるという回りくどい方法を取らない。
とにかく不在だろうと確定事項で話を進めるラタニに疑問があるわけで。
「ああ、あの子なら夜には帰ってくるから問題ないよん」
「は? ですが以前は半月ほどと――」
「カナちゃんは細かい細かい。あたしの予報が外れたことあるかい?」
「……ないですね」
ただ自信満々に言い切られてはカナリアも信じるしかない。
なんせこれまでも度々ふらっとどこかに行こうとラタニが帰ってくると言えば本当に帰ってくる。そのお陰で不在が多くとも依頼を熟せていたのだがこの師弟は色々と謎が多い。
それでも気にしていれば無駄に気疲れするだけと、師弟を良く知るカナリアを始めとした小隊員は深入りせず受け入れていた。
「とにかく今夜はあの子の料理で就職祝いして、明日には国王さまに会ってからそのままラナクスに行くんで。お留守番よろしく」
「なら久しぶりに坊主の料理で酒が飲めますね」
「楽しみなのだ!」
「ぼくがご相伴に授かってもいんですかねむしろ代わりに料理する方がああでもぼくのようなゴミが料理とか出来ないし結局は――」
「……その前に色々と疑問を持ってください」
そしてお祝いされる側に料理を作らせる気満々の面々に呆れ果てるカナリアだったが、それよりも追求する案件が出来た。
「まさか彼が戻ってくる前に片付けをさせようと話の場をここにしたのですか?」
この程度の話ならわざわざ住居でする必要も無いならラタニの目的は他にない。なんせ彼は無類の綺麗好き、もしこの惨状を見ればまず怒るだろう。
「そだよん。分かったならあの子が帰ってくる前にお片付けお片付け。今までもバレずに済んでたお陰でお姉ちゃんの威厳が保ててるんだからねん」
「……既に威厳など無いでしょう」
「隊員は隊長の為に! あたしはあたしの為に! これがラタニ小隊の規律さね」
「……一度痛い目にあえばいいのに」
故にこの機会に実は小隊任務で片付けていただけで、ラタニは汚部屋にしていたとカナリアは密告の決心を固めた。
しかしその決心は必要なくなった。
「……たく、どうせこんな事だろうと思っていた」
「――!?」
突然聞こえた太々しい声カナリアは心臓が止まりかけた。
何故なら密告相手が既に帰っていたからで。
「坊主……いつの間に帰っていたんだ」
「びっくりしたのだ!」
モーエンやジュシカも気づいていなかったようだが(スレイはブツブツと窓拭きをしていた)無理もない。持たぬ者なので精霊力を感知できず、誰にも悟られず様々な場所に侵入できるからこそ国王は彼に様々な情報収集を依頼しているのだ。
「つい今し方な」
「みなさま、ただいま帰りました」
それはさておき、共に出かけていた義妹のマヤ=カルヴァシアも遅れてリビングに姿を見せるもラタニは平然とお出迎え。
「お帰り。随分と早かったじゃまいか」
「まあな。それよりも汚部屋にしてやがったなら言うことがあるんじゃねぇか?」
「つーかバレてたのかー。じゃあ今後はみんなに手伝わせる必要なくなったにゃー」
「テメェが普段から掃除してりゃ済む話だからな」
「確かに済む話だねん。まあそれよりも、お姉ちゃんの話を聞きなされ」
「誰が姉だ。で、話とはなんだ」
「実はねん――」
冷ややかな視線に意にも介さず話を持ちかけるラタニに、予想外にも怒らず耳を傾けるマイペースな規格外師弟を他所に。
「兄様やラタニさまがいつもお世話になっています。こちらはわたくしからみなさまに日頃の感謝として、どうぞお受け取り下さい」
「あなたは本当に出来た子ですね……ありがとうございます」
マイペースでも気遣いの出来るマヤからお土産を受け取り、カナリアはとても癒やされた。
ロロの知らないところで着々と再会の訪れが近づいていました。
依頼関係なく度々ふらっと居なくなる中、何故ラタニが帰宅するタイミングを予報できるかは……もうご存じですよね。ちなみにここまで気難しい捻くれ者の名前を敢えて出しませんでしたが、次回は普通に出します。
その次回で外伝も終章、本編の前日譚とも言える振り返りを最後までお楽しみに!
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