反応もそれぞれ
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序列保持者に挑戦する権利を巡る選抜戦が行われた翌日。
闘技場前に権利を得た十名と明日の序列入れ替え戦の対戦カードが提示された。
今期最初の入れ替え戦で序列保持者の雄志を見られると、選考戦を観覧できなかった学院生は楽しみにしていただけに朝早くから提示番の前に集まっていた。
「……おはよう」
「あら、ズークじゃない」
人混みから少し距離を空けて対戦相手を確認していた序列八位、シャルツ=ライマークは同じ精霊学クラスの代表、ズーク=フィン=ギャレットに声をかけられ小さく手を振る。
子爵家子息のズークに対してシャルツは平民。しかし互いに幼少期から精霊学に興味を持ち、研究所見学で知り合った仲。学院の理念もあるが普段から良き友人として対等な関係を築いていた。
「おはよう。こんなところ会うなんて奇遇ね」
「奇遇じゃない……君の対戦相手を見に来た」
故にシャルツのフランクな対応もズークは気にせず隣りに並ぶ。
「あら嬉しい。私を心配してくれたの?」
「序列専用の訓練場が使えないと……精霊祭で困る」
「正直者ね」
ズークの返答にシャルツは苦笑。
なんせシャルツが序列入りを果たした際、自身の研究成果を発表するのに序列専用の訓練場は立地や広さも含めて便利だとズークは真っ先に精霊祭の催しで使えると喜んだのだ。友人の序列入りをこのような形で喜ぶのもズークくらいなもの。
序列を失えば使えなくなると心配しているらしいが、こうした裏表のない研究バカな一面をシャルツも気に入っていた。
「なら情報収集に協力してもらおうかしら。学院生会所属のあなたなら私よりも集めやすいでしょうし」
「いいだろう……レイドやカイルにそれとなく確認しておく」
お返しに遠慮なく申し出ればズークは了承。
相手は選考戦に出場していない精霊術クラスの三学生。相手の情報を元に戦術を組むのがシャルツの強み、精霊学クラスだと接点がないだけにズークの協力は助かる。
「ありがとう」
「気にするな……しかし、連中は何を騒いでいる」
故に感謝を伝えるもズークは提示番に集まる学院生に対して訝しげに眉根を潜める。
というのも対戦カードの確認にしては騒がしく、一部の学院生からは不快の感情が伝わってくるからで。
「あれを見れば分かるわよ」
その疑問を察していたシャルツはちょいちょいと提示番を指さし、確認するなり理解したズークからは盛大なため息が漏れた。
「自分たちは何もせず……頭角を現す新人を嫉むだけの無能。……精霊学の発展を妨げる……嘆かわしい」
「挑戦するのは自由なのにね。むしろ頑張りを褒めてあげなくちゃ」
ズークの意見にシャルツも頬に手を当て同意するように、学院生なら誰でも入れ替え戦に挑む権利はある。
それを挑戦しない側が批判的に捉えることはお門違い。
「学院生会として注意する?」
「目に余るのなら……レイドやフレンディが真っ先に動く……」
「あなたは何もしないのね。酷い代表だこと」
「いまここで僕が注意しても無駄という意味だ……。むしろ騒ぎを大きくして……新人に迷惑をかける可能性が高い……」
「そうかもね。さて、そろそろ行きましょうか」
「……そうする」
煩わしい声が聞くに堪えないと二人は早々に立ち去った。
一方、今回の入れ替え戦で最も話題を集めたロロベリアと言えば――
「さてと、行きましょうか」
周囲の反応に一喜一憂することなく一日を過ごしていたりする。
もちろん周囲の視線に落ち着かないとぼやいていたがその程度。今は明日の入れ替え戦に集中している。挑戦を表明した際、こうした反応もある程度覚悟していたのだろう。
一度決めたなら最後まで貫く、真っ直ぐな思考がロロベリアの持ち味だ。
まあその態度が逆にロロベリアの挑戦に反感を抱く一部の学院生から『身の程知らず』『調子に乗っている』等々の誹謗中傷を受けてしまうが我関せず。最後まで序列十位対策をする為に訓練をするつもりで。
「うざったい」
「落ち着けって」
ただロロベリアの中傷を聞く度にリースの機嫌が悪くなり、一緒にいるユースは宥めるのに忙しかった。
そもそも入れ替え戦に参戦する権利は一学生だろうとある。更に選抜戦を勝ち抜いてロロベリアが手に入れた正当な権利。それを批判する権利こそない。
故にリースの苛立ちはもっともだが、本人が気にしていないのなら自分たちも無視を決め込むのが一番だ。
「私は気にしないから」
「……むう」
ロロベリアの笑顔に不承不承ながらもリースが頷き、何よりも訓練と三人で校舎を後に。
「――リーズベルト、どこに行くんだ」
「……訓練場ですが」
だが遅れて校舎から出てきた講師に呼び止められてロロベリアは訝しむも、その反応に講師は呆れたように肩を落とす。
「学院終了後に最終確認をするから来るようにと昨日伝えただろう」
「……あ」
指摘された途端ロロベリアは気まずい表情。
一学生だからこそまだ公式戦について不慣れ。闘技場の構造も詳しく把握していないので明日改めて説明すると選抜戦後に言われたのを忘れていた。
「……気持ちばかり逸っていれば良い結果は残せないぞ」
「申し訳ございません……」
「だがその向上心は褒めるべきか。なるべく早く終わらせるから今は一緒に来なさい」
「畏まりました。……先に行ってて」
「わかった」
「りょーかい」
リースとユースに見送られてロロベリアは講師と闘技場に向かった。
余程明日に集中していたのか、実にらしいミスに微笑ましく感じながら二人は訓練室の予約を取るべく別移動を。
「あれが身の程知らずの一学生か」
「まだ序列の重みも知らない者が挑む意思すら抱くのも腹正しい」
「…………っ」
しかし不意に聞こえた嘲りにリースの足が止まった。
養子といえどロロベリアは子爵家の子女。その手の者は同じ貴族になるのだが、序列云々よりも実力差による僻みでしかなく。
ただ講師の前では口を閉じ、居なくなるなり批判する態度がよりリースを苛立たせる。
「……姉貴、落ち着け」
ユースも不快感を募らせているが、無駄な争いはロロベリアの挑戦に水を差すと宥めつつ訓練場に向かっていたが――
「一学生だろうと序列保持者に挑む権利はある」
まるで自分たちの心情を代弁するような声に二人の足が再び止まる。
先ほどロロベリアを嘲っていた学院生に詰め寄るのは精霊術クラス二学生、序列五位のエレノア=フィン=ファンデルで。
「ならば挑む意思を否定する理由はない。ミューズもそう思うだろう?」
「……ですね」
更に同じ精霊術クラス二学生、序列九位のミューズ=リム=イディルツまでも。
両者は同じ序列保持者であり親友の間柄。一緒に居ても不思議ではない。
「そもそもリーズベルトさんは選抜戦を勝ち抜いたのですから、正当な権利があります。なので批判されるのはどうかと」
「「…………っ」」
ただ王族と教国の令嬢からの反論を受けた学院生は顔面蒼白。
「むしろ一学生だからこそ、勇気を出して挑戦するその意思を高く評価されるべきでしょう」
「私も同意見だが、お前達はそれでも腹正しく思うのか?」
「「も、申し訳ありませんでした!」」
純粋な意見を告げるミューズに続き、意地悪な笑みを向けるエレノアに反論できるはずもなく、謝罪するなり足早に立ち去ってしまった。
「まったく……謝罪をするなら私たちではなくリーズベルトにだろう」
「ですが反省をされていましたから。きっと直接謝罪に向かわれたでしょう」
「……だと良いがな」
立ち去った学院生よりもミューズの捉え方にエレノアは呆れつつ、二人は訓練場の方に足を向ける。恐らく明日の入れ替え戦に備えて共に訓練をするのだろう。
何にせよロロベリアの挑戦を好意的に捉えてくれるとは、序列保持者は器が違う。
「さすがは王女さまと聖女さまか」
「ロロにも伝える。きっと喜ぶ」
一連のやり取りを見守っていたリースとユースが心から感謝したのは言うまでもない。
ロロの挑戦に対する周囲の反応でした。
どちらかと言えば上級生、特に一部貴族からは批判的に捉えられています。そういった意識も学院の問題ですね。
ですがシャルツやズーク、ミューズもですがエレノアは元々ロロの姿勢を評価していましたからね。ただアヤトくんの登場から流れた噂が許せなかっただけです。
そして他の序列保持者や学院生会の面々も同じような反応ですが、挑まれた側のジュードがどう捉えていたかは……もちろん次回で。
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