表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 ふりかえる物語
469/782

落胆と不思議なお話

アクセスありがとうございます!



 入学式から最初の休養日。


「……もう時間過ぎてるけど」


 平民区にある女子寮の前でロロベリアはそわそわと時計を確認。

 父の方針で貴族ながら寮生活をしているので休養日の訓練は学院が開放している自主訓練室を利用しなければならない。

 開放時間は長期休暇を除き午前九時から午後四時まで。にも関わらず男子寮で生活しているユースとの待ち合わせを八時にしているのは自主訓練室も数に限りがあるからだ。


 同じ寮生活をしている学院生は当然、貴族区で生活している学院生だろうと訓練場付きの屋敷がそもそも少ない。学院に通う為だけに購入できる上位貴族なら別だが、とにかく精霊力の開放や精霊術ありきの訓練をするには専用の訓練場を利用しなければならない。

 平日は利用者も少なく余裕で利用できたが、さすがに学院のない休養日は利用者も殺到すると見越して早めに予約しようと約束したのに八時を過ぎてもユースが現れる気配もなく。


「あの愚弟……サボった」

「こらこら。ユースさんも準備が遅れてるだけかもでしょ」

「ロロ、わたしたちだけで行く」

「私たちが予約しておけばユースさんも合流できるし……そうしましょうか」


 苛立ちの限界に達したリースの提案にロロベリアも仕方なく頷いた。



 ◇


「なーんて、姉貴は怒ってるんだろな」


 一方、そのユースと言えば二人の会話を予想しつつ未だ寮にいたりする。

 つまりリースの予想通り訓練をサボっているのだが、ユースなりの理由があるわけで。

 これから三年間暮らすラナクスの街並みを確認しつつ人脈を作るのが目的だ。

 なんせ自分たちの実家は貴族でも変わり者で有名。王都で暮らしていた頃ならまだしも子供の集う学院という箱庭となれば別。

 いくら学院の理念があろうと無視して家の権力でトラブルを引き起こすバカは居る。そういった被害を最小限に抑えるには情報という武器が必要。

 その為にはまず人脈作りとこの手の駆け引きや地道な作業が苦手な二人に変わってユースが担当するつもりだ。

 なんせ家族以外に興味がないので周囲にどう思われようとユースは気にならない。

 故に相手に合わせた会話や愛想笑い、理不尽な対応を迫られても頭を下げるのも容易に出来る。

 要は平穏な学院生活を送るのがユースの最終目的で。


「ま、適材適所ってことで。面倒だけど頑張りますか」


 なにより尊敬する英雄二人をこの程度の労力で守れるなら苦でもないと、ユースはのんびり出かける準備を始めた。



 ◇



 そんなユースの目論見も知らずロロベリアとリースは平民区を抜けて商業区を歩いていたのだが――


「あ、リースちゃんとロロベリアちゃんだ。おーい!」


 もうすぐ学院の正門が見えるところで間延びした声に呼び止められた。

 振り返れば小柄な体格に不釣り合いな大剣を背に抱える学院生が手を振っていて、隣には対照的に大柄な学院生が。

 大柄な学院生は顔と名前は知れどまだ面識はないが小柄な学院生は別。


「ミラーさん。おはようございます」

「ございます」


 なのでトテトテと駆け寄る小柄な学院生、ミラー=ハイネに二人は挨拶を。

 ミラーの父が精霊術士団の副団長と言うことからリースだけでなくロロベリアも王都滞在中に良くしてもらった先輩だ。


「おはよう。良い天気だねー」

「そうですね。ミラーさんも訓練ですか?」


 故に同じ目的で登校していると予想していたロロベリアが確認するも、ミラーはふるふると首を振る。


「わたしは学院生会のお仕事だよ。ね、グリードくん」

「もちろん訓練もする予定だが、まあそういうことだ」


 遅れてやってきた大柄な学院生、グリード=マドリックは苦笑を漏らす。

 二人は精霊騎士クラスと騎士クラスの代表なので別件らしいが、それよりもとロロベリアは姿勢を正す。


「ロロベリア=リーズベルトです」

「リース=フィン=ニコレスカ……です」


 学院生会として入学式で紹介されてはいるが、話すのは初めてなので先に自己紹介をするロロベリアに続いてリースもペコリ。

 その態度にグリードは何故か目を丸くし、続いて感心したように顎を撫でる。


「なるほど……ハイネから聞いた通りだ」

「でしょー? 二人とも良い子だよ」


「「…………?」」


 二人のやり取りに今度はロロベリアとリースが首を傾げるも、グリードが感心するのは無理もない。

 学院生会と言えどグリードは騎士クラス所属の持たぬ者で更に平民。対しリースは当然、養子といえどロロベリアも子爵家の子女で精霊術士となれば、二人のように偏見もなく礼儀正しい対応をする学院生はそういないわけで。


「グリード=マドリックだ。二人やユースのことはハイネから聞いている」


 まあ敢えて話題にする必要もないとグリードは名を告げるのみで留めた。


「ところで二人とも早くから学院になんの用だ?」

「忘れ物でもしたのー?」

「訓練場の予約をしようと思いまして」


 そのまま四人で学院に向かいつつロロベリアが答えるも二人はキョトン。


「……こんな時間にか?」

「まだ訓練場は開放されてないよー」

「ですが訓練場にも限りがありますし、早めに予約しないと――」


 反応が気になりつつロロベリアは事情説明をすれば二人の表情が徐々に曇っていく。


「……残念だがその配慮は必要ない」

「え?」

「なんせ二人のように訓練場を使う者などほとんどいないからな」

「入れ替え戦の前だとそれなりに増えるけど、それ以外だと一割くらいだからねー」

「で、ですが小父さまからは利用者が多くて中々予約が出来ないから気をつけるようにと聞いていて――」

「サーヴェルさまの時代なら……な。当時に比べて精霊力持ちは減っている。故に競争相手が居ないからか、今は競って訓練をする風潮ではないのだろう」

「だからといって無理矢理訓練をさせて怪我しちゃったら問題になるからね」

「もちろん全員ではないが、二人のような向上心を自主的に抱くのが一番良いんだが……まあ、そういうことだ」

「そうですか……」


 サーヴェルから聞いていた学院とは違う現状を知りロロベリアの表情も曇ってしまう。

 強くなるには周囲との競い合いが大切と教えられて、だからこそ血気盛んなマイレーヌ学院での三年間は良い刺激になると楽しみにしていたのに当てが外れてしまった。


「逆に騎士クラスの学院生は一生懸命強くなろうとしてるんだけどね……」

「こう言っては何だが精霊力持ちが懸命に訓練をせずとも自分たちより圧倒的に強いと学院で痛感して、徐々にやる気をなくす者が増えている」

「だから学院生の能力が年々低下してるのも問題視されてるんだけど……難しいんだよー」

「学院生の低迷はそのまま未来の国力、更には治安に繋がるからな。霊獣被害だけでなく盗賊などの――」

「グリードくん!」


 落胆するロロベリアを他所に学院生会として学院の現状を嘆く中、突然ミラーが声を張り上げる。

 恐らくロロベリアの暮らしていた教会が夜盗に襲われ家族を失ったと聞いているのだろう。またミラーは知らないがクロから両親を奪ったのも盗賊だ。 


「……すまない」

「いえ……お気になさらず」


 故に配慮が足りなかったと謝罪するグリードに首を振るのみ。

 もちろん過去のことと割り切れるはずはない。しかし学院の現状が自分やクロのような被害者を生む結果に繋がると知ってロロベリアはやるせない気持ちに。


「? 霊獣被害は知らないけど盗賊被害は減ってるってお母さまから聞いた」


 なっていたのだが、眠そうに話を聞いていたリースが疑問を口にする。


「そうなのか?」

「小母さまの商会以外の商会でもそういった被害が減少していると喜んでいました」


 学院生会と言えどさすがにグリードも国内の詳しい治安までは把握していないようで、ロロベリアもクローネから聞いた話を伝えれば、ミラーが思い出したように両手をパンと合わせた。


「わたしも聞いたけど……そういえば不思議なお話があるんだよねー」

「不思議な話……?」

「前にルビラちゃんが教えてくれたんだー」

「フレンディか……あいつなら何か掴んでいそうだな」


 グリードが妙な納得をするよう同じ学院生会でも仕官クラスの代表、ルビラ=フィン=フレンディなら国内の情報を個人で集めていても不思議ではないとロロベリアも理解した。


「それで、フレンディから何を聞いたんだ」

「それがねー」


 それはさておき、改めてミラーからルビラの知る情報を教えてくれた。

 クローネから聞いたように盗賊被害が激減したのは一昨年の暮れ辺りからラタニの小隊が自主的に討伐を始めた成果らしい。

 なぜ自主的に始めたのかは不明だが、ラタニ小隊が国内の盗賊討伐に乗り出せば被害も激減するだろう。

 ここまでなら特に不思議ではない。ただその少し前にルビラの実家がある地方で不可解な出来事があったという。


「ルビラちゃんが言うには盗賊団のアジトが壊滅したんだけどね、誰が討伐したかわからないんだって」


「「は?」」

「……?」


「明け方くらいに町の自警団詰め所に『この場所に盗賊を無力化してるから早く捕まえに行くんだよ』みたいな手紙があったらしくて。最初はイタズラかなって思ってたんだけど、盗賊被害に悩まされてたから念のために手紙が指示する場所を確認したんだって。そうしたら本当にアジトがあったんだよ」


 更に全員拘束されて動けない状態。中には精霊術士や精霊士も居たらしいが関係なく、特に精霊術士は念のための処置か精霊術が使えないよう両手足の骨が折れていて、口も塞がれていたらしい。

 その状態なら水の精霊術士がいても治療は難しく、そもそも両手足の骨が折れていれば精霊力の開放も容易ではないが。


「自警団が質問しても悪魔にやられたー……みたいな話しかしてくれなくて。よほど怖い目にあったみたいで錯乱してたかもだけど……」

「……悪魔とやらは妄言だとしても、その盗賊団を無力化した者はなぜ手紙で伝えたんだ?」

「分からないから不思議なんだよー」


 ミラーの言葉にロロベリアやリースもコクコクと頷く。

 なぜ盗賊団を無力化した人物はなぜ名乗りもせず手紙で伝えたのか。

 なにより精霊術士や精霊士の居る盗賊団なら一人や二人ではなくそれなりの人数で討伐したのだろうが、なぜ盗賊は悪魔との妄言を口にしたのか。

 まあ不思議ではあるが、少なくとも盗賊を討伐するような者は悪魔ではない。


「でも人知れず平和を守ってくれるのって格好いいよねー」

「名乗り出れば多額の報償ももらえたのに自ら辞退するのもだ。簡単にできることではない」


 ミラーやグリードが称賛するように盗賊被害に悩まされていたであろう人々にとっては英雄そのも世界を守る強さを求めるロロベリアにとって謎の人物は尊敬するべき存在だ。


「と……ハイネ、急がないと遅れるぞ」

「ほんとだ! ロロベリアちゃん、リースちゃん、わたしたち先に行くねー」

「お仕事頑張って下さい」

「がんばってください」


 などと時間も忘れて話し込んでしまい駆け出すミラーとグリードを見送り、ロロベリアとリースはゆっくりと正門に向かう。


「アーメリさまなら何か知ってるかな?」

「かもしれないからロロが行きたいなら付き合う」

「そうね。まだまだ時間もあるし」


 なんせ訓練場の開放まで後三〇分もあると二人は講師舎に足を運んだ。


 ちなみにその日はラタニが王都に戻っていたので聞けず終いに。

 後日会えた際に質問すればその出来事は知れど、詳しい事情までは知らないと首を振られたのだが――


「どこの誰かは知らないけど、そいつは相当な捻くれ者かもしれんねー」


 なぜ人知れず盗賊団を壊滅した謎の英雄が捻くれ者なのか。

 ロロベリアはラタニの感覚が理解できなかった。



 

ユースが情報通になった理由や学院の深刻な問題についてのお話でした。

それと後半ですが……はい、不思議でも何でもないお話なので、ここで盗賊団が壊滅した直後、ラタニが神気のブローチでマヤに定期連絡をした際のやり取りを少し。


 ――マヤチンさー。アヤトが盗賊をのした時だけでいいから速攻で連絡してくれんかね。あたしが速攻で回収に行くからさー。


 何か問題でも?


 大ありさね。毎回お手紙で報告するって悪目立ちでしょうに。それかアヤチンに自分で詰め所に突き出すよう言ってやって。


 目立つのは好まない。それとアヤチンは止めろ、だそうです。


 だから悪目立ちしてんだって。お前どこの義賊だよ。


 ケンカを売られたから買っただけだ。そんな大層な志はない、だそうです。


 ケンカ売られてアジトごと壊滅するなよ……とにかくアヤチンじゃ話にならんから頼むよマヤチンー。


 仕方ありませんね。ラタニさまにはお世話になっておりますし、兄様の手柄をお礼として差し上げるのもいいかもしれません。では今後兄様が盗賊と遊んだ時にのみ、こちらから連絡します。


 弟の手柄を横取りとかお礼じゃなくて罰ゲームじゃまいか……。こうなったら小隊の訓練兼ねて国中の盗賊のしてやるけんのう!


……王国内の盗賊被害が激減して当然ですね。

ちなみに旅の間、帝国や教国でもアヤトくんは盗賊に襲われていますが……まあ、被害が減って良かったと言うことで。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ