序章 期待の始まり
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精霊暦九八一年。
水精霊の周季三月最終日、王立マイレーヌ学院に今年も才能溢れる一学生が入学した。
その入学式で新入生代表として挨拶を任されるのは貴族も平民も平等に学ぶという学院の理念に則り、身分関係なく入学試験で最も優秀な成績を収めた者。
学院関係者や学院生会、序列保持者というまさに学院の代表が集う場で一学生代表としての挨拶を任されるのは名誉なもの。
そして今年度の代表として名誉ある挨拶を任されたのは――
『騎士クラス一学生、シルヴィ=モンドメル』
「はい!」
誇らしげに立ち上がるシルヴィに同じ騎士クラスの学院生からは称賛の眼差しが向けられる。
対しそれ以外のクラス、特に精霊術クラスや精霊騎士クラスの学院生からは嫉妬の眼差しが向けられるのは仕方のないこと。
入学試験で最も優秀な成績とは各クラスでの基準から選ばれる。つまり身分と同じく精霊力の有無も関係なく、今年度は騎士クラスの学院生が最も優秀な成績と認められただけのこと。
ただ精霊力持ちからすれば持たぬ者に代表を取られるのはプライドが傷つき、持たぬ者が集う騎士クラスからすれば普段の劣等感が少しだけ晴れるのだが。
「……どうしてロロじゃない」
身分や精霊力関係なく私情でリースは不服を漏らしていたりする。
リースとしては大好きなロロベリアが代表挨拶に選ばれると信じていたのだろう。まあ身内贔屓でもなく座学や精霊術を含めた実技もロロベリアは優秀。
特にニコレスカ家に養子として引き取られるまで剣を握ったこともなければ精霊術士に開花したばかりにも関わらず、僅か五年で幼少期から訓練をしていた自分たちよりも強くなった努力を間近で見てきただけにリースが不満を抱くのは仕方のないこと。
しかしその努力はほとんど強さに振られたもの。
「試験で優秀な成績つっても総合的な判断だからだろ。姫ちゃんは座学も出来るけど特別優秀ってほどでもないしな」
実技だけなら間違いなく主席だろうが座学は群を抜いて秀でているわけでもない。総合の評価となれば選ばれないとユースは指摘。
「愚弟が言うな」
「ごもっとも」
まあ座学、実技のどちらも平均程度のユースが指摘すればリースの怒りが向けられるのも無理はない。
ちなみにリースの座学は微妙だが、精霊力の保有量と近接戦闘の技術を高く評価されて合格しているもそこは言わぬが花。
加えて学院の方針も足を引っ張った可能性もあるが、こちらにも言わぬが花とユースは苦笑。もしリースが知れば入学式関係なく騒ぐ可能性がある。
なにより代表挨拶など誰が選ばれようと関係ない。
「二人とも、式典中なんだから静かにね」
私語を続ける姉弟を窘めるよう、当の本人が全く気にしていないのだ。
ロロベリアは代表挨拶という名誉など求めていない。
求めているのは大切な人との約束を叶えること。
そしていつか再会を果たすこと。
例えその大切な人が生きている可能性が低くとも希望を捨てずこの五年間、死に物狂いで努力を重ねてきたのだ。
「わかった」
「りょーかい」
故に彼女の努力が少しでも報われて欲しいとニコレスカ姉弟も願うばかりだった。
◇
「……予想通りの反応だな」
一方、学院生会の席で入学式に参列していたカイルは一学生の反応に呆れたようなため息を吐いていた。
カイルは学院生会であり序列保持者でもあるが、新入生にはまず学院生会の紹介に続いて序列保持者の紹介をされるので学院生会の席で待機していたのだがそれはさておき。
「身分だけでなく精霊力の有無による差別も今後の課題だね」
同じく生会長として入学式に参加していたレイドはカイルの嘆きに小さく頷いた。
持たぬ者が精霊力を持つ者に敵わないのは世界の理。しかし精霊力を持つ者、持たぬ者関係なく必要な人材に変わりはない。
国としては両者が尊重し合い、それぞれの役割を担うことが理想。故に精霊力の有無による差別は国の発展に障害でしかない。
そういった意識改革から今回の代表挨拶でも講師陣で同評価を得た二人の中から、学院生会は騎士クラスの新入生を推したのだが理想とはまだまだ遠い反応で。
「それにしても彼女は目立つね」
「彼女? ……ああ、確かにな」
レイドの視線を追ってカイルが目にしたのはもう一人の代表候補。神秘的な乳白色の髪をしているので多くの新入生の中でもひときわ目立つ。
今回の新入生の中でクラス問わず最も実技試験の評価を得て、既に将来有望視されているロロベリア=リーズベルト。
座学ではシルヴィが上回っていたので同評価とされていたが、実のところ彼女こそ代表にするべきとの声もあった。
なんせ過去、新入生の代表挨拶を勤める者のほとんどは後に生会長となっている。現にレイドも二年前の代表挨拶を勤め、次期生会長候補と呼ばれているエレノアも王族という立場抜きで選ばれた。
身分や精霊力の有無による差別意識がないのは面接でも確認済み。故に持たぬ者としての劣等感を抱いていたシルヴィよりも相応しいと評価されるのは当然。
つまり講師陣から見てもロロベリアは二年後の生会長になれる資質があると感じたのだろう。だが精霊術クラスからは四年連続で選ばれている上に、先の理由から意識改革を進める学院生会としては控えようと敢えてシルヴィを推した。
「リーズベルト嬢には申し訳ないことをしてしまった」
「でもあまり気にしているようではなさそうだね。さすが養子とはいえニコレスカ家の子女というべきか」
「貴族でも変わり者で有名だからな。まあ、だからこそ期待しているわけだが」
「古い習慣に囚われている貴族からは腫れ物扱いされているけどね。でも今後の王国には必要不可欠と父が評価しているだけあるよ」
なにより――と、レイドは代表挨拶を終えて学院講師陣の紹介が始まった壇上に視線を向ければ。
「最後に、本年度から特別講師として着任された――」
「ラタニさんだよん。ひよっこのガキ共、これから大いに青春しなされ!」
「……アーメリ特別講師。せめて最後まで紹介させて下さい」
「だって自己紹介は自分でしてなんぼでしょ。つーか、かたっ苦しい挨拶のなにが楽しいん? ひよっこ共もそう思わないかい? てなわけでここは一つ、あたしがガキ共の門出を祝してお歌を披露してやるぜい!」
「誰かアーメリ特別講師を止めろ!」
「なんだいなんだい。お歌よりもケンカのやり方を教える方がガキ共には相応しいってことかい? んな門出の祝し方を提案とかなに考えてんだ!」
「誰もそんな提案はしていません!」
「ラタニさんはする気満々だ! むしろお歌披露よりも楽しそうだから大賛成だ! てなわけで改めて、全員でかかってこいやー」
『…………』
厳かな式典をぶち壊すラタニの一人舞台が始まり新入生は言葉を失っていた。
王国最強の精霊術士として国内外問わず名を広めているが、ラタニと直接面識のない者からすれば面食らうのは仕方のないこと。
しかしラタニを知るレイドやカイルは期待している。
「先生は相変わらずだ」
「だが俺たちの代で着任してくれたのは願ってもない巡り合わせか」
「そうだね。先生が起爆剤を担ってくれるのを期待しよう」
後の学院を担う新入生やラタニという存在が今後の学院を良き方向に導いてくれると。
卒業や進級と学院生活も一区切りついたところで十二章から一年前を振り返るお話です。
つまりロロたちが入学してアヤトくんがやってくるまでのあれやこれやをお楽しみに!
ちなみにですがいついかなる時だろうとラタニさんの絶好調は変わりません(笑)。
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