表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
465/782

初日の模様

アクセスありがとうございます!



 長期休暇中に行われた選考戦で決定した新序列保持者の発表も終わり、今期の学院も開始。


 一学生は二学生に、二学生は三学生になってはいるが学友としての顔ぶれは同じ。

 変化があるとすれば講習の難易度と教室くらいなのだが――


「…………」

「お疲れさん」


 二学生になって最初の講習を前にして疲労困憊で席に就くロロベリアを早速ユースが労っていた。

 敗北したとはいえレイドとの下克上戦の激闘に続けて学院史上三人目の快挙で序列一位となればロロベリアの株が急上昇。エレノアとの継続戦からそれなりに評価を改めた学友ならまだしも、他クラスや上級生の見事な手のひら返しで講堂から教室までの距離がとても遠かった。

 しかし元よりロロベリアは神秘的な乳白色の髪に劣らずな見目に一学生にして異例の序列入りを果たした実力者。加えて養子といえどニコレスカ家の子女と家柄も申し分ないとなれば本来は人気もあって当然のこと。

 ただ入学時はクロとの約束を果たす為に周囲に関心を持たず、異例の序列入りが一部貴族の妬みを買い、更にアヤトとの模擬戦に敗北したことや後に広まった噂もあって敬遠されていただけ。これまでの悪評を覆して余りある功績を残せば周囲の手のひら返しも仕方ないだろう。


 もちろん慕われるのはくすぐったくも嬉しいが、手のひら返しだからこそロロベリアも微妙な気分。しかもお茶会に参加して欲しい、家に招待したいと(主に貴族家子息から)誘われても困るわけで。

 それでも根がお人好しなロロベリアは律義に対応、誘いもやんわり断ったりと心労が絶えず、むしろ選考戦の戦績を持ち出して未だ認めようとしない学院生らがいっそ清々しいと感心するほどだった。

 ちなみに入学時は微妙な評価だった中で序列四位となったユースもそれなりに手のひら返しは受けているが、広く浅くの人付き合いで培った対応力で悠々回避していたりする。


 とにかく二学生になって早々に起きた変化はロロベリアにとって心労しかないのだが、ユースも含め二人にとって一番の変化もあるわけで。


「……リースは大丈夫かな」


 一学生の頃は常に一緒だったリースが精霊騎士クラスに所属したことで当然教室に姿はなく、ロロベリアは心労とは別の理由で憂いの表情を浮かべる。

 寂しさはもちろんあるが、それ以上に気がかりなこともあるわけで。


「いくら姉貴でも初日から問題起こさないだろ……多分」


 自信なさげにユースが肩を落とすように、リースは素直すぎて無意識に周囲の反感を買ってしまう。加えて考えるよりも先に行動の猪突猛進タイプ。

 序列九位になった上に精霊術士が精霊騎士クラスに所属という、いかにも反感を買ってしまう状況下で果たして平穏な学院生活を送れるのか。


「……大丈夫かな」

「大丈夫だと信じるしかないな……」


 クラスに溶け込むよりもまず、何事もなく初日を終えて欲しいと二人は願うばかりだった。



 ◇



 二人の心配とは裏腹にリースの周辺は静かなもの。

 といっても教室最後尾の席で講習開始を待つリースに向けられる視線は好意的ではなく、むしろ腫れ物扱いされているだけだったりする。

 所属クラスが違えば校舎も違う、同じ学院に通おうと接点などほとんどない。せいぜい家同士の繋がりから昔なじみがいるくらいだ。

 精霊騎士団長の父の繋がりからミラーのような学友も居るには居るが、元より貴族同士の繋がりなど皆無。ロロベリア以上に周囲に関心が無いリースにそのような学友が多く居るはずもなく。

 予想通り精霊術士にも関わらず精霊騎士クラスに所属したことで序列入りの称賛は陰口に変わり、周囲に無関心なリースの態度が更に煙たがれる悪循環。

 故に平穏な学院生活になるはずもなく。


「キミは何を考えている」


 やはりと言うべきかリースに直接不満をぶつける者が現れる。


「精霊の寵愛を受けた精霊術士が精霊騎士の真似事をするとは、寵愛を授けた精霊や私たち精霊士に対する侮辱ではないだろうか」


 侮蔑を隠そうともせずリースを批判するのはゼムド=フィン=ラディッシュ。

 精霊騎士クラスの同学生では指折りの実力者であり、当然選考戦にも出場していたのでリースも辛うじて面識はあった。 

 伯爵家長男という身分から子爵家のリースにも不躾な物言いが出来るわけで。

 取り巻きも多く、今もリースの席を囲むようにゼムドの批判に賛同し圧力をかけているが――


「バカらしい」


 リースが怯むはずもなく、懸念した通り素直な返答をしてしまい。


「そもそもわたしは真似事なんてするつもりはないし、侮辱した覚えもない」

「な……っ! なんだその態度は! 私は伯爵家の――」

「学院に通う学院生に身分は関係ない。だからあなたが伯爵家だろうと知らない」

「~~~~っ」


 リースが学院の理念を推奨するエレノアと懇意にしているのを知るだけに、正論を返されてはゼムドも恥辱から顔を赤くするも反論できず、忌々しげに睨み付ける展開に。


「講習始まる。早く席に就いたら」

「……チッ」


 しかし運良く講習開始の鐘が鳴り、講師がやってきたことで難を逃れた。


 ただこの一件でよりリースの立場が悪くなってしまう。

 エレノアと懇意にしていようと家柄実力共に二学生でも最上位に位置するゼムドに目を付けられれば関わろうとする者もいなくなり。

 講習時も休憩時もリースは常に一人で過ごすことになったが、当の本人はロロ成分の枯渇を心配していたりと平穏とはほど遠い時間を過ごし。


「ではこれより実技講習を始める」


 相変わらずの腫れ物扱いを受けながらも、精霊騎士クラスで初の実技にリースは内心ワクワクしていた。


「念のため注意しておくが、これは精霊騎士になる為の訓練なので精霊術は禁止。もし詩を紡ぐ素振りでも見せれば即処分となるので忘れないように」

「わかった……りました」


 そんなリースの心情を察してか講師から念押しが。

 精霊騎士クラスは当然精霊士の集まり。誰も精霊術が使えず訓練中に精霊結界を張る必要が無いので精霊術を使えば悲惨な結果が待っている。

 変更時の条件にも実技で精霊術を使うことを禁じ、破れば停学処分を受けることになっていた。

 ちなみに暴解放や精霊力を武器に纏わせる禁止事項も選考戦後に付け加えられたがリースは受け入れている。

 近接戦の経験を積む為に精霊騎士クラスに所属したのなら禁止されなくても使用つもりは無く、暴解放はともかく精霊力を武器に纏わせられないので関係ない。

 故に近接主体の訓練を無駄にしないよう熱心に講師の説明を聞く。

 二学生最初の実技と言えどリース以外は繰り上がり。しかし長期休暇も訓練を行っていたのかを確認する為にまずは一対一で模擬戦をするらしく。

 騎士クラスと違い精霊騎士クラスの模擬戦はそれぞれ愛用している武器か、事前に刃を潰した鉄製の武器を使用する。

 この配慮は精霊力を解放した膂力では打ち合った際に木剣が砕けてしまうからだ。精霊術クラスは精霊術が主体なので基本愛用している武器での模擬戦をするだけに、初参戦のリースにとっては新鮮な配慮。

 ただ刀と同じ形状の武器は学院も所持していないので、とりあえず紅暁に近い長さの細剣を手に取り感触を確かめていたのだが。


「ニコレスカの相手は私がやろう」


 真っ先にリースを指名したのはゼムドだった。

 ゼムドも選考戦に選ばれた一人。精霊術士とはいえ序列持ちを相手にするなら自分が適任との名乗りか。それとも今朝の一件からこの機会を窺っていたのか。


「わかった」


 どちらにせよ断る理由もないのでリースも了承。

 講師や学院生から離れた二人は十メルの距離を空けて向き合い。


「模擬戦始め!」


 講師の宣言で両者は精霊力を解放。

 長剣を青眼に構えるゼムドに油断せず、リースも細剣の切っ先を左斜め下に向ける構えを見せて深呼吸を一つ。


「自惚れるのも今の内だ」


「……?」


 飛び出す寸前、嘲笑を浮かべるゼムドにリースは小首を傾げる。


「お前が私に勝てたのは武器の差に過ぎん。それに不慣れな剣となれば負けるはずがない」

「…………」


 だが続く主張にさすがのリースも理解した。

 ゼムドと選考戦で対峙したのはまだ炎覇を使用していた序盤。更に国内でも噂されているツクヨの打つ武器の性能を知るだけに勝敗を決めたのは武器の性能差だと言いたいようで。


「そういえばお前の父親も同じ鍛冶師が造り上げた武器に持ち替えたらしいじゃないか」

「……だからなに?」

「ニコレスカ商会が裏で囲っているのは明白。もし私が勝利したら都合を付けるというのはどうだろうか」

「…………」

「優れた武器は優れた使い手にこそ相応しい。精霊騎士団長ならまだしも、精霊士の真似事をするような精霊術士には不相応だろう?」

「…………」

「それとも私が同じ性能の武器を手にするのが怖いか。私から逃げた持たぬ者に敗北した序列九位」


 これまで出所が不明だった武器をサーヴェルが手に入れたことでニコレスカ商会が一枚噛んでいると確信しようで、挑発して自分も手に入れようとしている。

 まあツクヨがクローネと契約を結んでいるので間違ってはいないし、優れた武器を求める気持ちも分かる。

 そして安い挑発だろうと短絡的なリースは乗ると高をくくっているようだが、残念ながらゼムドは甘く見過ぎだ。


「師匠に無駄なケンカはそれこそ無駄だから買うなと言われてる」

「なに?」

「それと紅暁を持ち出してバカみたいな言い訳をするバカの相手も無駄とも言われてる」


 なんせこの手の誹謗中傷や挑発を事前に予想していたアヤトから忠告されている。

 頭に血が上りやすいのはリースの悪い癖。選考戦でも興奮の余り冷静さを欠いたことから、どんな時でも冷静に戦況を見定める訓練にもなると。

 故にゼムドの挑発に乗るつもりはない。

 しかし当然ながらある条件ではこの忠告は意味をなくすわけで。


「ただ訓練なら遠慮なくボコボコにしろと言われてる」


 やられっぱなしが趣味ではないアヤトらしい、返せる時には遠慮なく返せとの言葉通り。


「未熟なわたしに出来るものならとも言われたけど――っ」


 つまり訓練中なら無駄なケンカではないとリースは改めて地を蹴った。


 そして結果は言うまでも無く――


「ぉ……ごふっ」


「そこまで! 誰かラディッシュを医療室まで運んでやれ」


 鉄剣の一撃に脇腹を押さえて蹲るゼムドに取り巻きが慌てて駆け寄るように、模擬戦はリースの圧勝に終わった。

 ただ遠慮なくやり返そうとこれは訓練。

 アヤトにされる忠告ではないが。


「ありがとでした」


 運ばれていくゼムドに素直なリースは忠告通り、訓練に付き合ってくれた感謝を込めて頭を下げた。



 ◇



 ゼムドに圧勝したことで選考戦を観覧していない学院生もリースの実力を知ることになった。

 元より学院内でも近接戦の評価が高かったので今さらではあるが、やはり自ら実感しなければ認められないもの。大口を叩いておきながらあっさり敗北したことでゼムドの影響力も弱まるが、実力を知られてもリースの環境は変わることなく。

 実技講習後も声をかけられず、着替えを済ませて一人学食に向かうリースもロロベリアに会えると全く気にしていなかったりする。


 しかし全ての学院生がリースの所属に不快感を抱いているわけではない。


 僅かながらでも下克上戦でロロベリアの勝利を期待した者が居たように、リースの覚悟を理解してくれる者も少なからず居る。

 なにより実技訓練でリースの実力を知り、半端な気持ちで精霊騎士クラスに所属していないと感じ取れれば少数派だからこそ避けていた者も勇気を出せるわけで――


「あの……リースさま」


 無表情ながらも上機嫌で学食に向かうリースの背後から遠慮がちな声、振り返れば声をかけたであろう少女に寄り添う少年が立っていて。

 二人の顔から同じ講習を受けていた学友とまでは分かるが、面識は無いだけにリースは呼び止められた理由が分からず小首を傾げる。


「なに?」

「あ……私はアレナ=トレーダと申します。同じ精霊騎士クラスに二学生です」

「俺……じゃなくて私はスコール=テイルス。リースさまと同じ精霊騎士クラスの二学生です」


 その反応から覚えられていないと解釈した二人は慌てて自己紹介を。

 お陰で二人の緊張を察したリースはとりあえず意見することに。


「わたしのことはリースでいい。学院に通う学院生は平等だし同い年」


 平民が故に貴族のリースに対して畏まるのは仕方ないが、リースからすれば変に畏まられる方が話しにくい。


「で、ですが……」

「そもそも貴族とか面倒だから変に気遣わなくてもいい」

「なら……リースさんで」

「俺もそう呼んでいいですか?」

「二人がそう呼びたいならそれでいい」


 もちろん強制をするつもりもないのでアレナとスコールの意思も尊重したところで改めて。


「それでわたしに何か用?」


 呼び止められた理由を尋ねれば二人はおずおずと口を開く。


「実は私とスコールは幼なじみで……サーヴェルさまに憧れて精霊騎士を目指してるんです……」

「だからリースさんから色々聞きたかったんですけど……その……」


 要件からして二人が憧れるサーヴェルについて娘のリースから話を聞きたいらしい。

 精霊士の二人が王国最強の精霊騎士に憧れるのも当然の感情。

 これまで接点のなかったリースが同じクラスになったことで娘だからこそ知る人柄や武勇伝、どのような訓練をしているのか聞きたくなる気持ちもまた当然。

 ただ身分の違いから声をかけ辛く、ゼムドとの一件で擁護しなかった後ろめたいさもあるわけで。

 周囲の目を気にして教室外でリースが一人になったタイミングを狙ったことも含めて、今さら図々しいと拒絶されないかが心配で二人も上手く言葉が続かなかった。


「? お父さまのことを聞きたいなら構わない」


「「……え?」」


 しかしあっさり了承されてしまい二人はキョトン。

 だがリースは周囲に無関心ではあるも他人を寄せ付けたくないわけでもなければ、今朝の一件で二人が擁護しなかったことに憤りもない。

 なにより気難しく見えるが根は素直だ。


「それにお父さまに憧れる気持ちも分かる。わたしもお父さまが褒められるのは嬉しい」


 自分の大切な人、憧れの人を好意的に受け入れる相手を拒む理由はないと微笑を浮かべる。

 そしてリースが初めて見せた微笑みや、これまでの対応から二人も緊張が解れて自然と笑顔になっていた。


「ならサーヴェルさまのこと教えて下さい」

「あと宜しければロロベリアさまのことも……あ、もちろんリースさんのことも知りたいですが……」

「アレナはエレノアさまとの継続戦からロロベリアさまの大ファンなんです」

「それ言っちゃダメ!」

「どうしてダメなの? アレナは見所ある。わたしもロロ大好き」

「そ、そうですか……?」

「じゃあ一緒に学食行く。ロロもいるから紹介する」

「え? え?」

「良かったな、大ファンのロロベリアさまとお近付きになれ――」

「愚弟やミューズさまも一緒だけど問題ない」

「――て……ミューズさま?」

「ダメなの?」


「「ダメじゃないですけどさすがに緊張しますから!」」


 同時にリースのずれた感覚に振り回されることにもなったが。


「ならさっさと行く。わたしも早くロロ成分を補給したい」


「「ロロ成分ってなんですか!?」」


 アレナとスコールが精霊騎士クラスに所属したリースにとって、初めの友だちになったのは言うまでもない。




おまけいつつめはリースがメインでした。

精霊騎士クラスに所属したことで早速絡まれましたが、最後は友だちも出来てロロとユースも安心したことでしょう。

ちなみに身分による意識はゼムドのようなタイプは貴族に多く、アレナとスコールのようなタイプは平民に多くいます……当然ですけど。ただ精霊力の有無による増長は身分関係なく学院内でもまだまだ多く居たりします。

ただこちらも全てではなく、アレナやスコールのように柔軟な考えを持つ子も少なからず居るので、今後もリースだけでなくロロにも友だちが出来そうですね。

アヤトくんは……アレですけど。


さて、オマケも残りふたつとなりますが、次回更新は以前の後書きでは未定でしたが、やっぱり選考戦から一試合を抜粋したいと思います。

誰と誰の試合になるかは次回をお楽しみに!



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ