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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
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王女の導き方 前編

アクセスありがとうございます!



「オレたちはお先に」

「失礼します」

「します」


 交流会を終えてロロベリアとニコレスカ姉弟が先に生会室を後に。

 三人は選考戦の間は別々に生活していたので久しぶりに家族で過ごしたいのか。まあロロベリアはアヤトとも早く気兼ねなく会いたいのもあるだろうが、序列保持者はある種同列。後輩らが先に帰っても問題はない……途中退場したアヤトに比べれば弁えも出来ているので特にだった。


 それはさておき今回の交流会は学院生会が新たな序列保持者を迎え入れるものでもある。用意したお茶や菓子の片付け、生会室の清掃などは学院生会が行うのが通例。

 故に同じ学院生会でもエレノア、ラン、ディーンは序列保持者としての立場なので続いてジュードやルイ、ミューズが退室してから三人(主にレガート)に施錠含めて後を頼んでから生会室を後にした。


「ディーン、少し良いだろうか」


 ドアを閉めるなりランと帰宅しようとしていたディーンをエレノアが呼び止めた。


「俺に?」

「あんたエレノアになにしたの」

「どうして俺がやらかした前提で呆れてんだよ……」


 流れるようにじゃれ合う二人に微笑ましく思いつつ、エレノアは表情を緩めず切り出した。


「マルケスは私に任せてくれないだろうか」


「「…………」」


「な、なんだ?」


 のだが、二人はじゃれ合いを止めて注目してくるのでエレノアは戸惑ってしまう。

 ただディーンとランはエレノアの切り出しに困惑したのではなく、理解したからこその反応で。


「エレノアさまらしいと言えばらしいけど、わざわざ俺に了承もらわなくてもいいだろ」

「精霊術クラスの代表はディーンだけど、エレノアは生会長。ならクラス関係なくお節介しても良いんだからね」


 故に若干呆れを込めて意見を述べる。

 アヤトの途中退場後、改めてジュードやルイとの話し合う場を設けた。

 親善試合から交流が出来て以降、個人的に訓練をしてもらっていたことから、学院生会や序列保持者内で広まっているアヤトの生い立ちやロロベリアとの関係も。

 その上で下克上戦の真意について。レイドたちからアヤトに持ちかけた話であり、卒業式前日にアヤトと前序列保持者五名とミラーを加えた六人で行われた真の下克上戦の結果も。

 レガートたち新学院生会の三人もその場でアヤトの実力を知り、前任から引き継ぎを受けたことも説明して、選考戦にアヤトが出場した理由についても話した。

 またミューズも長期休暇中、教国にアヤトやロロベリアを誘って以降に交流を深めてから訓練をしてもらっていることも。


 学院に広まっていないアヤトの情報や、ラタニと互角に立ち合える実力を知った二人は言葉を失っていた。

 しかし完全に受け入れきれないようで、最後まで困惑していたが仕方のないこと。卒業生六人を相手に敗北したとはいえアヤトにはお遊び程度の感覚、加えて王国最強の精霊術士と互角の持たぬ者など実際に見ていなければ信じがたいだろう。エレノアらも気持ちは分かるので無理矢理受け入れさせることもせず、後は本来の交流会としての時間を過ごした。


 だが放置するつもりはない。

 二人も序列入りしたのなら今後は嫌でもアヤトと関わりを持つ。その度に今日のような揉め事を起こしていては時間の無駄。

 なにより二人の今後を思うならこそ放置してはいけない。

 同じ王国民として、学友として自分たちが成長したように、二人にも序列入りが良い切っ掛けになって欲しい。

 故にエレノアがまず動くつもりらしいがそれは構わない。

 ただジュードが精霊術クラスだからといって精霊術クラス代表のディーンに気を遣う必要もない。むしろランの言うように生会長なら学院生を思って行動に移すのは当然のことで。


「ていうか、あたしは元々エレノアが適任だと思ってたし」

「……そうなのか?」

「そうでしょ。ディーンも同じでしょ?」

「あいつが俺の話をまともに聞くとは思えないしなぁ。まあ、それはそれで代表としてどうなんだって思われるかもだけど、適任といえばエレノアさまだろ」

「ただお堅いのはエレノアらしいけど、お堅すぎると意味なくない? なんて助言しておくとして」

「何かあっても俺たちはいくらでも協力するんで、まずはお好きにどうぞってことだ」


 やはり流れるようにエールを送る二人にエレノアは苦笑い。


「……そうだな。なら拗れたら手を貸してもらおう。二人とも感謝する」

「感謝は良いから早く行きなさいって」

「お任せしましたよ、生会長さま」


 二人の笑顔に心強さを感じつつエレノアは行動に移した。



 ◇



「マルケス!」


 ランとディーンに見送られたエレノアは校舎を出てすぐにジュードを見つけて声をかける。

 ジュードは校門ではなく闘技場の方に向かっていたようで、エレノアが追いかけてきたことに表情を強ばらせ慌てて一礼を。


「エレノアさま……なにかご用でしょうか」

「話したいことがあってな。ああ、楽にしてくれて構わない」


 交流会中の失態を咎められると思っているのか、いつも以上に固いジュードに笑顔を向けた。

 

「そうですか……では」


 まあだからと言って楽にしないのは仕方のないこと。

 最近は学院生会や序列保持者、特にアヤトのお陰でエレノアも慣れてきているが立場関係ない学院内だろうと王族の自分への対応はジュードの方が一般的だ。

 なのでエレノアも無理に指摘せず用件を切り出した。


「カルヴァシアについてお前はどう思っている」

「っ…………それは……」


 その唐突な切り出しにジュードは言葉を詰まらせるが、エレノアはレイドのような搦め手は不得手。

 直情型と言われればそれまで。しかし今はジュードと正面から向き合う時だ。


「先ほど明かしたお兄さま方の目的も含めて忌憚のない意見を聞かせてくれ」


 ならエレノア自身が偽りない姿勢で向き合うべきと見本を示すように自然体で、普段友人らと語らうように問いかける。

 自分たちとアヤトの関係や考えなどは既に伝えている。それをジュードがどう感じ、どう捉えたのかも知るべき。

 元よりジュードを批判するつもりもなく、相手の意見も聞いた上で互いの認識をすり合わせる。必要であれば共に妥協案を模索すればいい。

 価値観はそれぞれ。ただジュードはラタニやアヤトと出会う前の自分と似ている。

 故にランやディーンも向き合うのはエレノアが適任と託してくれたのだ。

 エレノアの真意が伝わったのかは定かではないが、ジュードの堅さが緩んだようで。


「……エレノアさまは変わられました」


 だが思わぬ意見にエレノアは眉根を潜める。

 アヤトやレイドのことではなくエレノアについて何か思うことがあるらしく、声音にも残念な感情が含まれていた。


「私は幼き頃から王族に敬意を払うよう教えられました。国民がいるからこそ国が成り立ち、王族は国の頂点として君臨する。しかし良き王族が君臨し、導くからこそ国民が安心して生きていける。故に我らを正しく導いてくださる王族の方々に敬意を払うようにと……にも関わらずカルヴァシアからは敬意が全く感じられない」


 それでもエレノアは咎めることなく、ジュードの言葉に耳を傾ける。


「昔のエレノアさまであればカルヴァシアの無礼を見過ごさず、正しく振る舞うよう叱責したはずです。我ら王国民を導く良き王族として……私はそんなエレノアさまに憧れておりました。王族としての誇りを胸に、常に強く正しく振る舞う凜とした姿に。レイドさまとの序列戦もです。あなたは最後まで勇敢に立ち向かいました。その強き姿勢に……まさに私が教わった通りの御方だと」

「…………」

「そんな私がリーズベルトを甘く見て、無様な敗北を繰り返したとの指摘は受け入れましょう。エレノアさまに憧れておきながら、正しく振る舞えなかった己の未熟さは猛省しています。ただいくら学院の理念があろうとカルヴァシアの態度は行き過ぎております」

「…………」

「立場関係なく平等に学ぶという理念は結構、しかし王族に対する敬意は別。良き王族が居るからこそ我ら貴族も、平民も安心して生きていると理解し、もっと敬意を払うべきです。いくら強かろうと無礼を働いていいはずがありません」

「…………」

「ですが今のエレノアさまには王族としての振る舞いを感じられない。強さに屈するようでは王国民を正しく導けるとは思えません。恐れ多くも言わせて頂きますが、強き王族としてあられたエレノアさまはどこへ行かれたのですか」


 静かに耳を傾け、悲痛の表情で訴えるジュードにエレノアは反省する。

 学院内でもジュードは地位を重んじる家柄の子息で、学院の理念は否定派だと思い込んでいた。

 しかし本心を聞いたことで理解した。ジュードは地位と言うより王族に対する敬意が強いだけだと。

 そして王族に相応しい王国貴族であるよう振る舞おうと厳格な姿勢を取り続けていたが、行き過ぎたことで意固地になっていただけだ。

 自身でも自覚したからこそアヤトの助言を受け入れ反省している。ただそれとは別でエレノアに対する態度が許せなかった。

 またアヤトの態度を許容しているのは強者が故の屈しと捉えているからこそ、自分だけは正しく振る舞おうと躍起になっていたのかもしれない。


 そしてもう一つ、ジュードの葛藤も察することが出来た。

 自分たち王族に敬意を向けないのはアヤトだけではなくラタニもだ。

 奔放な性格から名誉や格式を重んじる有力貴族や軍上層部からも煙たがれ、国王に忠誠は誓ってはいるが見合った振る舞いをしないことでも有名。

 故に学院の特別講師に就任してもラタニから学ぼうとする貴族家の子息子女はほとんどいない。もちろん講習には参加するが出来るだけ関わらないよう敬遠している。

 エレノアとしてはラタニの手腕を知るだけに、もっと真剣に学ぶべきと考えていた。特に精霊術クラスは王国最強の精霊術士から学べることは多くある。

 なのに名誉や格式を重んじて無駄にするなどもったいないとも呆れていたが、少なくともジュードはラタニの王族に対する姿勢から忌避していただけだ。


 確かにラタニも、アヤトも王国にとって重要な戦力だと認める。表裏の抑止力として不可欠な存在だからとある程度の振る舞いを許容しているのも認める。

 しかしそれだけではないからこそ国王も含めて王族は良き関係を求めているとジュードにも知ってもらいたい。

 なら自分が出来ることなど他にないと、答えを待つジュードに対し――


「親善試合で帝国に滞在していた時、私たちは女子会をしたんだ」


 変わらず正面から向き合うのみとエレノアは語り始めた。



 

おまけみっつめは新メンバー二人の今後について。

まずはジュードからですが、一話で終えるのも安易すぎるかなとおまけ初の前後編になってしまいました。なので今回はおまけみっつめ前編となりますがさておいて。

ジュードと向き合うのはやはり同じような価値観を持っていたエレノアが相応しいかと思います。

そしてジュードの本心、思い違いを知ったエレノアがどう導くのか……後編をお楽しみにです。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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