真意と要求 前編
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選考戦も全て終了した後は新序列保持者のみが残り他は解散。
そして新序列保持者は講師陣から心構えや、序列専用訓練場のルール、どの訓練場を利用するかの説明を受ける。
序列専用訓練場の作りは全て同じ。なのでどの訓練場をどの序列が使用するという決まりがなく、立地を踏まえて上位者から順に選べるようになっている。
と言っても私物を持ち込んでいる者が多いので元序列保持者はそのままだが、卒業前の下克上戦で在校生全員が序列を失ったので一から選べるもロロベリア、エレノア、ミューズ、ディーン、ランは以前と同じ場所を指定。
ユースはフロイスの利用していた訓練場を指定。ディーンやランの意思を汲み取ったのもあるが、ミラーに敗北した場所を自身の戒めとして敢えて選んだ。
続いてジュードは縁起ものとしてレイドの、ルイも同じように縁起ものとしてカイルの訓練場を指定。リースは縁起と言うよりロロベリアやユースの訓練場に近いティエッタの訓練場を指定。残るシャルツの利用していた訓練場をアヤトが利用で決定。
講師陣との話し合いが終われば続いて生会室に移動。
明日から始まる学院を牽引する学院代表の学院生会と、同じく学院代表の序列保持者で交流を深めるためだ。
ちなみに前年度の交流会は序列保持者としての義務程度で付き合うティエッタとフロイス、身分の高い面々に恐縮しっぱなしのランとディーン、場の空気を読まない堅苦しい態度のエレノアやジュードに一人ポワポワしていたミューズ、その様子を密かに楽しんでいたシャルツになんとか話を弾ませようと率先して話題を振る学院生会という微妙な時間だった。
しかし以降の交流を得てジュードとルイを除く面々は気兼ねない関係を築いていることもあり、交流会に相応しい時間になった。
『…………』
――わけもなく、生会室は開始早々前年度以上に微妙な空気に包まれていた。
といっても原因は主にジュードとルイ。二人はアヤトの実力を知らずほとんど交流もないだけに選考戦での立ち振る舞いから未だ懐疑的。他はある程度予想は出来ていても真意までは辿り着いていないので、どう切り出すべきか計りかねていた。
当のアヤトと言えば相変わらずの我関せず、それぞれが席に就く中でも一人ドア付近の壁にもたれ掛かり黙々とあやとりに興じていたりする。その態度が更にジュードとルイの反感を買う悪循環と交流の場とは思えない空気だった。
それでもこのまま放置するわけにもいかず、レガートと目配せしたエレノアはため息一つ。
「このまま黙っていても交流の場にならない。故に私からまずカルヴァシアに確認したいことがある」
「なんだ」
「お前は最初から序列十位を狙っていたな」
まだアヤトの実力を知らないジュードやルイに対する配慮から控えていた話題をエレノアが切り出すことで他にも遠慮なく取り上げろとの意思表示。
それが功を奏して場の空気が僅かに緩む中、あやとりを続けながらアヤトは苦笑。
「ま、さすがに気づくか」
「やはりな……しかし、なぜこのようなやり方を選んだ」
「どんな方法で協力するか聞くつもりは無いんだろ」
「終わったなら良いだろう……」
嫌味で返されエレノアは肩を落とすも、このやり取りに異を唱えたのはジュードだった。
「きさま……エレノアさまに向かってその口の利き方はなんだ!」
「あん?」
「そもそも狙って序列十位になっただと? 偶然の結果をよくも得意げに語れるものだな!」
「……確かに。今回は混戦だったので九勝でも序列入りは出来ましたが、狙って取れるものなら誰も苦労しません」
ジュードの批判にルイも同調して懐疑的な視線を向ける。
「お前たちは知らないだろうが、カルヴァシアなら充分可能なんだ」
「その証拠にオレは五日目の時点でこいつが十位狙ってるの聞いてるんすよね」
「「…………」」
が、エレノアとユースの援護に二人は唖然。
まあユースにはいつの間に聞いたとの視線が向けられているが構わず続ける。
「ただアヤトが予想した勝敗が間違ってりゃ序列入りできないんだけど、選考戦ってのは運もあるし自分も同じように運ありきの結果の方が公平だってわけ分からん理由も聞いたけど」
「だからマルケスやリオンダートには棄権しなかったのか……。相変わらずデタラメというか律義というか……なら序列十位を狙ったのはその拘りが理由か?」
「ああ、それはっすね――」
「下克上戦、ですね」
エレノアの確認にユースが答えるより先にレガートが口を開いた。
「恐らくですがアヤトさんは先ほどの拘りだけでなく、下克上戦を考慮して敢えて序列十位に拘った。そうでしょう?」
「……さすが仕官クラスの代表、気づいてたんすね」
「アヤトさんの動向と混戦状況から序列十位を狙っていると気づいたのは中盤からですが。アヤトさんが先代の学院生会に頼まれて選考戦に出場したのなら、他に理由がありませんから」
「先代の学院生会に頼まれた……?」
「なんの話だい?」
「それについては後ほど。とにかくアヤトさんは序列十位になることで、今後序列に相応しい成長をしていなければ下克上戦を挑んで叩き落とすつもりかと。アーメリさまの求める学院改革にはやはり序列保持者の実力向上は不可欠ですからね」
「……ちょっと待って? じゃあアヤトの判断次第であたしたち全学院生の前でぼっこぼこにされるの?」
「なんだよそれ……マジ気が抜けなくなるだろ」
困惑するジュードとルイを他所にランとディーンの表情が歪む。
レガートの推測通りならアヤトが上位全てに下克上戦を挑める権利のある序列十位に拘っていたのにも納得できる。
もちろん精進を怠るつもりはないが、どのレベルで見定めるのかが読めないだけに戦々恐々になるのも仕方がない。
しかしやはり一筋縄ではいかないアヤトを完全に読み取るのは不可能で。
「……悲観してるところ悪いっすけど、こいつ一人でもサボってたら全員叩き落とす気満々っすよ」
『…………は?』
「だよな?」
「そういうことだ」
思わぬ宣言にリース、ミューズを除く序列保持者が呆気に取られる中、アヤトは平然と肯定。
「なんせ序列さまは学院生の模範だ。一人でもふぬけるようなら連帯責任で全員ぼこるのが筋だろ」
「いやいやいや! だったらディーンがさぼったらあたしもぼこられるのっ?」
「なんで俺がサボるの限定なんだよ! だいたいそんな筋があってたまるか!」
「案ずるな。九人抜きをした後、俺も連帯責任で序列を辞退してやる」
「「そんな心配してないって!」」
「下克上戦を九人抜きした序列一位が序列を辞退……前代未聞だな」
「アヤトが序列入りした時点でもう前代未聞ですけど……」
突っこみに忙しいランとディーンに対しエレノアとロロベリアは苦笑い。
確かにアヤトのやり方で構わないと先代が置き土産を残したが、とんでもない起爆剤を残したともう笑うしかない。
だが冷静に考えれば特に拒否する理由はない。
元より精進を怠るつもりがないのなら、アヤトに強制されようとされまいとやることは変わらないのだ。
むしろアヤトが要求してくる基準をクリアすれば確実に強くなれる。やり甲斐もあると前向きに捉えればいいだけ。
故に平然と受け入れるミューズやニコレスカ姉弟はもちろん、騒ぎ立てるランとディーンも最後は受け入れるだろう。
問題があるとすればアヤトを知らない二人で――
「……いい加減にしろ!」
先に我慢の限界に達したのか、怒声と共にジュードが精霊力を解放。
「……だろうな」
「お察しします……」
やはり交流の場とはほど遠い荒れた展開に、生会長としての立場から嘆くエレノアにロロベリアは同情を寄せていた。
ユースの呆れたアヤトくんが序列十位に拘った真意でした。
簡単に言えば学院代表の序列保持者を背水の陣に追い込む監視役……ですがジュードとルイからすればまあ受け入れられないでしょうね。
そして受け入れられなくてもお構いなしなのがアヤトくん。詳しくは次回で。
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