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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
452/782

両の手を握って

アクセスありがとうございます!



 アヤトとの試合で全てを出し切ったリースが目を覚ましたのは翌日の明け方前。

 選抜戦や親善試合で暴解放を使用した際は目を覚ますまで十時間ほどだったが、今回は暴解放に加えて精霊力を放出させ分の消費量が祟ったのか。試合後のメディカルチェックでは問題ないと判断されたが、学院医療施設のスタッフは目を覚ますまで気が気ではない思いで見守っていたが――


「……お腹空いた」


 目を覚ましたリースの第一声に脱力したのは言うまでもない。

 それはさておき、食事を希望するリースを無視して行われたメディカルチェックでも異常なし。身体の節々に痛みがあるのは心身共に出し切った結果、精霊力も回復していることから後遺症もないとのお墨付きをもらった。

 しかし今日の選考戦は念のため出場不可、明日の最終日も容態次第では出場を認められないとのこと。

 リースは序列入りの可能性があるだけに、この判断を医師は沈痛な思いで伝えた。


「んぐ? んぐ……ごくん。わかった……はむ」

「……よく噛んで食べなさい」


 が、落ち込むどころか食事に夢中のリースに別の意味で心配になった。

 ただリースとしては序列よりもアヤトとの一戦に拘っていただけにこの判断に悔いはないだけ。


 それよりもアヤトが自分の価値をどう見定めたのかは気がかりで。

 メディカルチェックを受ける前に気を失っていた間の状況は聞いている。

 ロロベリアやユースだけでなく、エレノア、ラン、ディーン、ミューズは試合後だけでなく昨日の選考戦終了後までリースを心配して面会に来てくれたらしい。また保護者代理と名乗るツクヨが衣服等をわざわざ届けに来てくれたことも。


 選考戦中はライバルとして極力接触は控えていたが家族や友人として心配するのは当然。その優しさにリースは温かい気持ちになったが、試合後に医療室まで運んでくれたアヤトは一度も姿を見せていない。

 自分が暴解放だけでなく紅暁に纏わせた精霊力で闘技場の一部を両断したらしいが、実のところリースは全く記憶にない。

 あるのは意識を失う寸前に見た白銀の閃光。自分の知るアヤトの一振りでも最高の美しさだった。

 あの美しさこそ自分の目指す領域。

 その一振りをアヤトが見せてくれたのは認めてくれたのか、それとも餞別として見せてくれたのか。

 元より真意不明なアヤトだけにリースは悩んでいたが、どのような結果だろうと貫くと決めたなら貫くのみ。

 不合格ならその時に考える。それでも自分は追い求めると心に決めて。


「……おやすみなさい」

「ああ……うん。ゆっくり休みなさい」


 とりあえずアヤトに会ってからと開き直り、お腹が満たされるなり眠りに就いた。



 ◇



 次に目を覚ました時は日もすっかり昇っていて。


「…………」


 時計を確認するなりリースは闘技場のある方向を眺めていた。

 既に選考戦も開始しているならみんながどのような戦いを繰り広げているのか。

 特に初戦はロロベリアとミューズ。エレノアに敗北したとはいえ志を改めたミューズは強敵、ロロベリアは勝てただろうかと考えている中ノックの音が。


「おはよう、リース」

「……ロロ?」


 ノックの主はまさに今考えていたロロベリアで、急なお見舞いにリースの意識が一気に覚醒。


「どうして? 選考戦はどうなったの?」

「その選考戦が終わったから様子見に来た……んだけど、元気そうで安心した」


 また久しぶりに会えた嬉しさからベッドから抜け出そうとするリースを窘め、ロロベリアはベッド脇に移動した椅子に腰を下ろした。


「まずはミューズさんに無事勝利しました」

「おめでとう」


 表情をほころばせるリースに昨日の結果も含めてロロベリアは説明を。

 エレノアは二連勝で十三勝二敗。同じく二連勝のディーンも十二勝三敗、ユースは十一勝四敗と序列入りを確実なものにした。

 初戦でエレノアに、次戦でユースに敗北したランは九勝六敗と相手が悪く勝率を伸ばせなかったが今日中に決めるだろう。

 また昨日は連勝したももの、先ほどロロベリアに敗れたミューズは十三勝三敗となったが初戦を終えてそのまま来たので他の面々の結果はロロベリアも分からないまま。

 ちなみにアヤトはリース戦後、疲労から棄権を申し出て六勝九敗。今日も来ているかどうかすら分からないのだがそれよりも。


「リースと戦うの楽しみにしてたんだけどね」

「……ごめん」


 昨日は二戦とも棄権という形で終えただけにロロベリアは不完全燃焼。特にリースとの一戦を心待ちにしていたのは本心だ。


「謝らないくていいの。それよりもツクヨさんから色々聞いたわ」


 しかし謝罪するリースを攻める気持ちは微塵もない。むしろリースの雄志に感動したほどで。


「ツクヨさんも褒めてたわよ。紅暁の本当の姿をこんなに早く見せてもらえるなんてリースは最高だって」

「……? なにそれ?」

「……え?」


 興奮気味に称賛したのだが、キョトンとなるリースにロロベリアこそキョトン。


「だってリース……暴解放で紅暁に精霊力を纏わせたでしょ? その時にツクヨさんの仕掛けが……」

「聞いたけど覚えてない」

「……そうなんだ」


 それでも首を傾げるリースにロロベリアは納得。

 精霊結界を切り裂いたことで精霊器のメンテナンスや、十メル以上も深く切り裂いた地面の修繕と次の試合が大幅にずれた最後の斬撃。

 規格外のラタニは除くとして現時点で精霊力を武器に纏わせる技能を習得しているロロベリア、エニシ、ツクヨには不可能な、保有量の多いリースだからこその威力とツクヨも絶賛していた。

 しかし自分が暴解放をしたことも、紅暁の変化にも気付かないほどあの一振りに全身全霊をかけたリースの覚悟があの斬撃に繋がったのか。


「それより紅暁の本当の姿が気になる。ロロ、仕掛けってなに?」

「それは紅暁を見てからのお楽しみ」


 本当は宿題についてリースから直接話を聞きたかったが、あの斬撃が全てを物語っていたと理解してロロベリアは首を振る。

 代わりにツクヨも知らないリースの真意を知りたくなった。


「私も気になることがあるんだけど、炎覇を使い続けたのはどうして?」


 紅暁が間に合わなければ選考戦を辞退するつもりでいたほどリースは刀に拘っていた。

 しかし半端をやめると決めたのに途中まで炎覇を使っていたのはなぜか。


「……紅暁は宿題に必要でお願いしたから提出まで使うつもりはなかった。だから組み合わせが決まった時に、提出までは炎覇で行くと決めた」


 ロロベリアの質問にリースは目を伏せてポツポツと語ってくれる。

 ツクヨの予想していたようにアヤトの太刀筋に魅入られてから、自分も刀を握りたいと無自覚な憧れを抱いていた。個人訓練で見学させてもらった基礎練習を槍術に活かそうと読み取る反面で刀を持つ自分の動きをイメージしていた。

 もちろん槍術の訓練もおざなりにせず続けていたが昔のような熱意が薄れ、作業的な感覚になっていたと自問自答を繰り返す内に自覚したらしい。

 それでもリースにとって炎覇は大切な相棒。初めて自分の為に作られた武器は性能以上にリースにとって特別な相棒だった。

 その特別感はロロベリアも知るところ。毎日の手入れを欠かさず、一緒に寝るほど大切にしていた。


「わたしが半端な気持ちで使い続けたから……最後は半端な気持ちじゃなくて、本気で炎覇と一緒に戦いたかった」


 ただ刀に対する憧れを自覚したことで炎覇をただ大切な相棒として握り、半端な気持ちで振るってたとも自覚した。

 故に半端をやめて炎覇とお別れすると決めた時に、せめてもの償いとして選考戦で使用した。

 紅暁に完全に持ち替える前に、唯一頼れる相棒として。選考戦の試合中は刀のことも忘れてただ炎覇と強さを求めて炎覇と共に勝利を目指した。


「勝てなかったのは悔しかったし、炎覇にごめんなさいもしてツクヨさんに返した……けど、わたしなりに炎覇は大切な相棒だって伝えたい気持ちから?」

「どうして最後は私に聞くのよ」


 らしいが曖昧に締めくくられてロロベリアは苦笑い。

 ただリースの炎覇に対するけじめは充分伝わっている。

 大切にしていたからこそリースは炎覇に勝利の喜びを、感謝を伝えたかったのだろう。

 お別れする時にごめんなさいと、今まで一緒に戦ってくれてありがとうと笑顔で伝えたかったのだろう。

 リースなりに一生懸命考えた炎覇とお別れするために必要な儀式だったなら、これも半端な自分とお別れする意味でも必要だった。

 またミューズ戦の後に棄権したのも、リースが勝利したかったのは今まで敗北してきた相手だから。もしアヤト戦の前にロロベリアと当たっていたら変わらず炎覇で挑んできたはずで。

 別々の時間を過ごしている間、リースは強くなる為に必要な覚悟を固めるためにたくさん悩んで、色んな選択をしてきた。自分なりに考えて、行動して、決めてきた。

 ラタニがサーヴェルの助言通り、今までとは違う時間はリースにとって本当に良い機会で。


「……ロロ。今回はダメだったけど……今はまだロロよりも全然弱いし、アヤトに認めてもらえたかも分からないけど……」


 なのにリースは自分の強さを、成長を自覚してないのか自信がなさそうに。


「でもわたしは強くなる。強くなったってロロにもちゃんと知って欲しいから、いつかわたしと勝負をして欲しい」


 それでも強い決意を秘めた瞳でロロベリアに勝負を挑んだ。

 今まで模擬戦や訓練を一緒にしようと言われたことはあっても真剣勝負を挑まれたことは一度もなく。

 それぞれで悩み、見出した答えをぶつけ合うことで高めあうのも必要とサーヴェルから助言を受けていたロロベリアとしてはむしろ望むところで。


「わたしはロロよりも強くなる」

「負けないわよ」


 そのいつかを楽しみに、二人の約束は交わされた。


「――そんなリーちゃんに朗報さね!」


「「…………」」


 ……のだが、その直後にけたたましくドアを開けられ二人は唖然。


「おりょりょ? どったの二人とも」

「……ラタニさんが突撃したからでしょ」


 微妙な空気になるのも無視して入室するラタニに突っこみつつツクヨも現れたのでとりあえず。


「……どうしてお姉ちゃんやツクヨさんが居るんですか」


 ツクヨは選考戦が終わるまでラナクスに滞在すると聞いているのでまだいいが、ラタニは選考戦終了に合わせてラナクスに訪れるため軍務の仕事を消化しているはず。


「アヤトに呼び出しくらったんよ。いや~お陰で予定早めるのにうちの小隊がえらい目みたわ。主にカナちゃんだけど」

「カナリアさまが不憫です……」


 にも関わらずなぜ二日も早くここに居るのかをロロベリアが確認すればしれっと返され、今ごろ王都でえらい目をみているカナリアに同情した。

 同時に予定を早めてまでラタニを呼んだのはアヤトらしく、続けて質問するより先にリースがじろりと睨み付ける。


「それよりもラタニ、朗報ってなに」

「ああ、そうそう。リーちゃんの師匠さんから言伝さね」

「師匠?」

「アヤトのことに決まってんだろ。リースは白いのちゃんたちみたいに遊んでもらうんじゃなく、本格的に教えを受けるんだ。なら師弟ってのがしっくりくるだろ」

「……アヤトが教えてくれるって言ったの?」

「つっても条件付きだけどね」

「……そもそもどうしてお姉ちゃん伝手に?」


 ツクヨの補足も分からなくもない。

 ロロベリアを始めとする面々もアヤトから教えを受けているが遊びの一環、それぞれに助言をするも後は好きにしろのスタンス。

 しかしリースが教わるのはアヤトが独自で編み出した剣術を含めた強さ。今までの自分を捨ててまで教わる覚悟からも師弟という関係になるだろう。

 だがそれなら師匠になるアヤトがなぜ直接来ないとロロベリアだけでなくリースも訝しむがそこはラタニ。


「それはあたしの協力が必要だからさ! でもその前に、ツクちゃんよろ」

「んじゃ、リース。精霊力解放してみ」

「……うん」


 テンション高く拳を突き上げたと思えばいきなりツクヨに丸投げ。

 それでも素直なリースは言われるまま精霊力を解放。

 注意深くリースを見定めていたツクヨだったが呆れたようにため息一つ。


「……んだよ、むしろ昨日よりも流れよくなってんじゃねーか。なんでこの状態で安静なんだ?」

「……なにしてる」

「あたしも確認を……あれ? リーちゃんまたおっきくなった?」

「……うそ」


 からの、好き勝手に身体をまさぐられていたリースが冷ややかな視線を向けるも、ラタニの確信にロロベリアはショックを受けた。

 リースの一部成長やロロベリアのショックはさておき、ツクヨが確認したのは精霊力の状態のようで。


「まあツクちゃんから視ても問題なしってことで、アヤトの条件を伝えるけどとっても簡単。リーちゃんが序列入りしたら面倒だけど教えてやるってさ」

「序列入りが条件? どうして?」

「半端やめたなら選考戦も半端に終えるなって感じ? つまり序列入りよりも出場したなら最後までやれってことかにゃー」

「でも……わたしの戦績だと……明日も出場できるか分からないし……」

「そこであたしの出番だ! てなわけでリーちゃん、午後からの出場許可するから頑張ってねん」


 つまり弟子入りする条件を踏まえてラタニを呼んだらしい。

 一度ドクターストップをかけられたリースにこの条件は難しいが特別講師として発言力もあり、精霊力に関して深い造詣もあるラタニなら覆せるだろう。

 ツクヨを呼んだのもその為だ。精霊力を視認できるツクヨなら医師以上にリースの状態を判断できるわけで。

 なによりラタニだからこそリースの挑戦を推進してくれる。


「まあ気持ちは分かる。ガキを預かる側としては無理させて壊すわけにはいかんって保守的になっちゃうのもねん」


 体調は万全でも教育機関という立場から万が一のリスクを考慮して学院生に配慮するだけでなく、可能性を潰さないよう共にリスクを背負うのがラタニのやり方だ。


「でも保守的になりすぎるのはただの過保護さね。時に優しく時に厳しく、ガキが無茶するなら壊れないように大人は見守る。それも教育ってねん。診断結果も確認したし、ツクちゃんの確認も問題ない」

「少なくとも精霊力は異常なしだ」

「更に午後からはあたしが審判だ。全責任はあたしが持ってやるし、なにがあっても守ってやるから全力で無茶してきな」


 ツクヨを呼んでまで万全な状態か確認してもらい、審判としても見守る姿勢を貫くラタニだからこそ説得力のある力強い言葉に。

 アヤトの条件にいまいち納得できなくても。


「リース、どうする?」


 ロロベリアの一応程度の確認に、やはりリースの瞳はワクワクしていて。


()()の条件ならがんばって達成する」


 求める強さを手に入れるよう両拳をギュッと握り、突き進むと決めたのは言うまでもなかった。




これにてリースの挑戦も一先ず終了。後はアヤトの条件を達成するのみですがそれはさておき。

今まではロロを支えると口にしていたリースがロロよりも強くなると勝負を約束しました。この変化がリースの一番の成長なのかも知れませんね。


さて次回で選考戦も終了。つまり新序列も決定となるのでそちらもお楽しみに。



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